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*後半に性的表現があります。苦手な方は飛ばして下さい。R15でお願いします。
番外編
番外編「秘書の休日(後編)」
(どうしてこんなことになったんだろう……)
 雪音は恋人と思っていた男性の部屋から逃げ出した。後ろからは男の罵声が聞こえ……。

 七年前、両親は離婚し、父は二十歳の女と再婚した。母にも新しい恋人がいて、一人娘を両親は押し付けあったのだ。
 仕方なく母親は雪音を引き取り、離婚から半年経って再婚する。その時、雪音は高校に入学したばかりであった。
 再婚相手にも歳の変わらない連れ子が二人いて、母はその二人ばかり可愛がったのだ。義父への気遣いであろう。おまけに、義父の親戚が再婚家庭を訪れた時、雪音の耳に飛び込んできた言葉は……。
「可哀想だとは思うけど、あの子さえいなかったら良かったのにねぇ」

 高校に入った雪音に、初めて恋人が出来る。
 彼は雪音が必要だと言ってくれた。一番困った時には必ず雪音を頼ってくれた。利用されていると気付いた後も、雪音には手放すことなど出来なかったのである。
 別れてしばらく経って、共通の友人を通じて彼は謝ってきた。借金は自分で返した、ちゃんと仕事も見つけた、二度と馬鹿なことは言わないから戻って欲しい、と。

 ――「彼はその仕事で食えてるわけ?」

 宗は気づいている、雪音の愚かさを。そして、恐らくは卓巳の命令で雪音を見張っているのだろう。それ以外に、宗が雪音に関わる理由などない。雪音はそう思っていたのだった。


~*~*~*~*~


 宗は車から降りようとして慌てて止める。 
 なぜなら、雪音の後ろから四~五人の男が追いかけて来たからだ。一人なら楽勝、二人でも何とかなる。だが、三人以上を相手にするのは愚の骨頂だ。この場合、最も有効な手段は――三十六計逃げるにかず、であろう。
 宗はキーを掴むと、燃費の悪いロータリーエンジンをかけた。ここぞとばかりにアクセルを吹かす。コンパクトなエンジンは回転数を上げると、暴走族顔負けの派手な爆音を辺りに轟かせた。
 ギヤをローに入れ――車は弾けるように雪音に向かって突進した。雪音が公園の横を駆け抜け、道路を横切り、それと同時に宗のRX-7は雪音の横をすり抜けた。急ブレーキとハンドル操作で雪音と男たちの間に割り込む。

「乗れっ!」

 ケツを振りながら突っ込んできたRX-7に男たちはびびったようだ。暴力団とまでは言い難い、その辺に転がっているチンピラの類であろう。
 雪音が助手席に飛び込むと、ドアを閉める間もなく、宗はアクセルを踏み込んだ。そのまま一気に、車は大通りに飛び出す。
 暴走する真っ赤なRX-7はクラクションの嵐を潜り抜け、ヘッドライトの海に紛れ込んだのだった。


 宗は片手でハンドルを操作し、身を乗り出してドアを閉める。
 両手で顔を覆っていた雪音は、いきなり声を立てて笑い始めたのだ。

「ばっかみたい。借金が増えたんだってさ。風俗が嫌なら裏ビデオに出ろって。ホント、馬鹿みたいよね」
 
 撮影の段取りをして、彼らは雪音を待ち構えていたという。
 宗にすれば、雪音の身の上は大凡おおよその所承知している。彼女が一人の男に執着するわけも……。

「おしゃれとか、化粧なんかしなくても美人だとか言われてさ。真に受けて……別れてる間も、口紅ひとつ買わなかったわよ。そうやって貯めたお金も全部渡しちゃって……ホント大笑い」

 そんなことまでは、さすがの宗にも判らなかった。
 女の化粧品代まで吸い上げる男がいるのには驚きだ。だが、それでようやく雪音が身なりに構わない理由も判った。

 必死で笑う雪音を宗は横目に見る。瞳に浮かぶ大粒の涙がどうにも痛々しい。
「奴だけなんだろ?」
「何が?」
「他の男も試してみたら、ってこと」
 宗の言葉に、雪音は一気に気色ばむ。
「そんな言い方せずにはっきり言えば? 助けてやったんだから俺と寝ろって」
「ひどいなぁ。俺ってそんな男に見える?」
「他に何があるっていうの? 卓巳の命令で私を見張ってたんでしょ? 言えばいいわ。どうせクビなんでしょ」

 採用前のことは卓巳も当然承知している。だが、その後の雪音の行動は一切報告はしていない。
 それを雪音に証明して、彼女に選ばせるのが最も安全だ。責任を逃れるために、宗自身が好んで使ってきた手段である。
 少し考え、宗は思わず苦笑した。雪音の男と大差はないズルイ男の手口だ、と。
 だが……。

「オッケー。じゃあそうしよう。俺の言う通りにしたら、社長には報告しないよ」
「断わったら……」
「グルッと一回りして、さっきのアパートの前に君を降ろす」
「!」
 宗は笑いながらとんでもない台詞を口にする。雪音は彼の部屋で見た撮影セットを思い出し、声が震える。
「どうせ私なんか、どうなっても構わないって言うのね」
「ビデオ一本予約しとこうかな。本物の代わりに慰めてもらうよ」
「最っ低」
「ありがとう」

 女は面倒だ。
 だが、こういうややこしさなら悪くない。宗はこの状況を楽しんでいたのだった。


~*~*~*~*~


「てっきり……ラブホテルに連れ込まれるんだと思ってた」

 雪音は呆気に取られて室内を見回している。そこは、卓巳が利用する系列企業のホテルではなく、お台場にあるライバル社のホテルであった。その中でも最も景観の良い、コーナースイートと呼ばれる部屋を宗は選んだ。
 電本一本で用意させる辺りは、やはり、藤原の名前であろう。

「それか、車の中とか……」
「あの車で? 勘弁してくれよ。罰ゲームのようなセックスはもうご免だ」

 昼間の離れでの情事を思い出し、宗は本音で答えた。
 相手には事欠かないし、毎週誰かとセックスはしている。携帯に入ったセフレのナンバーだけで二桁はいるのだ。綱渡りの関係を楽しんできたはずだが……最近の卓巳を見ていると、どうにも自分が負け組に思えてやるせない。

 すごい……その言葉を呟き続け、雪音は地上二十七階から、お台場の夜景を見下ろしている。
 後ろから歩み寄った宗が抱き締めても、雪音は抵抗しなかった。いや、させなかったと言うべきだろう。

「いいか? 男は奪うものだ。君は逆らえないまま俺に奪われるんだ」

 唇を髪に寄せ、なぞるように耳朶まで下げる。そっと舐め上げた後、宗は首筋に吸い付いた。雪音の喉から吐息が漏れる。波打つようにリズミカルに、それでいてなだらかに。唇の動きに合わせて雪音の声は高まっていく。

「そ……う、さん」
「ユキオミだ……言ってごらん」
「ユキ、オ……ミ」

 窓際に立ったまま、一枚一枚服を脱がしていく。やがて最後の薄い一枚まで足から抜き取り、雪音は生まれたままの姿で宗の腕の中にいた。
 スレンダーなボディが暗い窓ガラスに映る。

「み、られるわ」
「覗けるのはカモメくらいだ。でも、夜は飛んでない」
「……冷たい……」
 さすがに、裸でガラスにもたれたら冷たさを感じるだろう。
 宗は手の平に納まる雪音の胸を撫で擦りながら、彼女の身体を上から下に唇を這わしていく。そしてそのまま雪音の前にしゃがみ込んだ。

「雪音……覚えておいたほうがいい。男は奪う分だけ、与えるんだ」
「……くっ!」
 
 彼女は初めて唇と舌先、そして吐息で、その部分に洗礼を受けた。
 堪えきれず、宗の肩に爪を立てる。

(随分久しぶりだな……セックスでリードするのは)

 雪音の膝が崩れ落ちそうになり、太腿が戦慄わなないた。室内に、押し殺したような声が広がる。
 宗は口元を拭い立ち上がると、初めて雪音に口づけた。
 キスの合間に彼自身も手早く脱ぎ……雪音の片足を腰の位置まで抱え上げ……ゆっくりと、二人は繋がったのである。そこは充分に潤い、適度な狭さと締め付けで宗を迎え入れた。
 雪音は唇を噛み締め、宗の腕をしっかりと掴んでいる。その唇を割り、舌を差し込むのは、男ならではの悦びだろう。

 やがて、規則正しい律動が始まる。眼下に見えるレインボーブリッジが、宗の瞳の中で揺れ……雪音はそれを見ながら、与えるのではなく奪われる快感に酔い痴れたのであった。
 

 その夜以降、宗はセックスの最中に、万里子の顔が思い浮かぶことはなくなった。


~*~*~*~*~


「雪音さん、口紅なんて持ってたのね」

 万里子は驚いて声を上げた。随分失礼な聞き方かも知れない。でもそれは卓巳から、雪音は化粧はしないしファッションにも興味はないと聞いていたせいだ。
 ここ数日、雪音は口元に目立たないピンクベージュのルージュをつけていた。髪も少し短くなり、無造作に一つに束ねることもなくなり……。
 
 窓拭きを手伝いながら、万里子はからかうように質問する。
「ひょっとして、彼からの贈り物かしら?」
「ナイショです」
 雪音は屈託のない笑顔を見せた。

 そして、雪音の休日が宗の休日と重なることに万里子が気付くのも――。
 

御堂です。ご覧いただきありがとうございます。
皆様お待ちかね(?)のR15全開で宗くんに頑張って頂きました(苦笑)
機会があればまた、この二人のお話も書きたいと思います。
その前にセフレをどうにかしろよ、という突っ込みはさておき(^^;)

昨日で連載100話目を迎えました、お祝いメッセージありがとうございました。
明日から第6章です。
これからも頑張りますので、引き続きよろしくお願い致しますm(__)m
拍手&メッセージお待ちしております。


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