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*中盤に性的表現があります。苦手な方は飛ばして下さい。R15でお願いします。
番外編
番外編「秘書の休日(前編)」
 そこは例の離れであった。
 卓巳と万里子の結婚式当日、新婦の控え室として使われた場所である。白い外壁、直線的なデザイン、無機質な内装は、一見するとごく普通の事務所のようだ。
 一階部分に余計なものは一切ない。仕切りもない空間で、母屋や裏庭を使ったパーティの際、来客用に解放することが多かった。中央南寄りに螺旋階段があり、そこから二階に上がることが出来る。二階は廊下を挟んで左右にゲストルームが二部屋あった。どちらもほぼ同じ間取りで、ホテルのスイート顔負けの設備が整っている。

「あれ? おかしいわね。どうして開かないの?」
 静香に引っ張られ、宗は離れの二階まで来ていた。

 宗行臣そうゆきおみ、三十四歳。卓巳の個人秘書になる前は、弁護士として個人の法律事務所に勤めていた。卓巳とは、年齢は違うが同じ年度に司法修習を受けた身である。
 宗は四国の出身で、両親共に市役所に勤める地方公務員だ。親からは堅い職業が一番だと言われ官僚を目指したが、国からは必要とされなかったらしい。
 女性とは器用に付き合うが、別れるのは苦手であった。弁護士を辞めた切欠も、女性との別れ話のもつれからである。出来れば女性側から別れを言い出して欲しい、というずるい男の見本だ。

 そして最近も、出来れば振って欲しい女性が二人いる。
 卓巳の秘書・中澤朝美と、藤原家のお嬢様、静香であった。実は、静香には卓巳の指示で水面下に縁談が進んでいる。特に藤原グループとして必要な訳ではない。だが、静香が望むなら、卓巳にとっては渡りに船の話であった。
 卓巳からは「宗は結婚しないのか?」と探りを入れられたばかりだ。
 それは暗に、結婚の意思がないなら静香との関係を清算しろ、といった口調であった。

 今日は休日である。卓巳は万里子を連れてデートに出てしまった。
 さて、自分はどうするか、と思った矢先、静香に携帯で呼び出され……。とりあえず理由をつけて、藤原邸を訪れた宗であった。

「鍵が掛かってるんですよ」
「この間は開いてたのに……もうっ!」
 腹いせに、ガンッと静香は開かないドアを足で蹴る。

 先月、二人はこの離れの二階に入り込み、ベッドやシャワーを無断で利用したばかりだ。料金も掛からなければ、履歴にも残らない。まさにお手軽スイートである。
 だが、そうそう上手くは行かないようだ。

「仕方ありませんね。今日は諦めましょう」
 宗はサラッと言うと、螺旋階段を下り、出て行こうとした。
 だが、静香は納得が行かないらしい。
「待ってよ。ねぇユキ……一ヶ月ぶりなのよ! まさか、あのインテリ秘書と本気で付き合い始めたんじゃないでしょうね?」
 
 宗は思わず苦笑した。女というものは本当に判らない。正直に、身体が目当てだと言うと、鬼の首を取ったように怒るだろう。その割に、身体さえ与えておけば男は言いなりになると思っている。もちろん、万里子のような存在は例外だ。だが、宗の知っている女性は皆そういうタイプであった。

「中澤はただの仕事仲間ですよ」
 宗が他の女との関係を認めることはない。それが彼なりのルールであった。
 一階フロアの壁際には、休憩用のベンチソファが置かれている。座り心地はお世辞にも良いとは言えない代物だ。しかし、長居するような場所でもない。この程度で充分というソファであろう。
 そこで静香は、唐突に宗の前に屈み込んだ。そして、手慣れた様子でベルトを外す。

「静香お嬢さん……こんなとこで始める気ですか?」
「イヤなの? すぐに、そんなこと言えなくしてあげる」

 確かに、女性の柔らかな手でその部分に触れられ……口に含まれては、抗える男は限られている。下半身から何かが駆け上がってくるいつもの感覚だ。
「――チッ」
 宗は短く舌打ちすると、静香の腰を掴み、背中を向かせた。ソファに手を付かせ、そのままの勢いで下着を押し下げる。宗が指で触れた場所は、確かに、一ヶ月ぶりの行為を待ち侘びているのが良く判った。
「困ったお嬢さんだ、全く」
 いつの間に取り出したのだろう。宗は四角いパッケージを口の端に咥えていた。それを、卓巳には真似出来ない素早さと器用さで装着し、すぐさま、静香の下の口を黙らせたのだった。


~*~*~*~*~


「三十分か……こんなもんよね」
 宗と静香が始めたのが、昼の二時を回った辺りだ。三十分程度と目算し、雪音が戻ってきたのが二時半であった。
 案の定、派手な色の短めのスカートについた皺を直しながら……静香は離れから出て行く。刺激的なロケーションがお気に召したのか、その顔は満足そうであった。

 離れの一階は解放し易いように、東西に一つずつ大きな扉がある。雪音は静香が出た反対のドアから中に入った。
 そこは、セックス特有の生々しい匂いで一杯だ。雪音は思わず顔をしかめた。
 宗は雪音に気づかず、ズボンのベルトを締め、身繕いの最中だった。そして、先の縛った使用済みの避妊具をゴミ箱に放り込もうとした、その時だ。

「ソレをそこに捨てられると非常に困るんですけど」

 雪音の声にハッとして宗は振り向く。一瞬驚き、すぐに悪戯が見つかった少年のような笑顔になった。
 背は卓巳より少し高めで、細身でバランスの取れたスタイルをしている。柔和で繊細な印象を与えるルックスは、世間一般ではハンサムの部類だろう。コンタクトレンズを使用し、スーツは明るめのトーンを中心に選ぶ。若く見られるのを嫌い、地味なスーツを選ぶ卓巳とは、性格も考え方も逆であった。

「やあ、雪音くん、君がここの担当とは知らなかったな。鍵を掛けたのも君かい?」
 社長の従妹との密会が見つかった割りに、緊張感はまるでない。
「ゲストルームを無断で使ったのは、あなたたちだったのね。……まったく」
 
 離れは本来、前当主・高徳がいつでも女性を連れ込むための場所であった。
 使用人にせよ、妾にせよ、さすがに母屋は皐月の目があってまずい。遠慮すると言うわけではなかったが、充分に楽しめなくては意味がない。当時の離れは木造二階建て、別荘のような建物だった。
 いつでも使えるように、と、高徳は浮島に命じて鍵を掛けさせなかった。その名残で、離れは常に解放されていたのだったが……。
 卓巳が高徳のような使い方をするはずがなく。卓巳の命令で離れはゲスト用に改築された。
 だが、ゲストの居ない時――離れは実に、使いたい放題であった。
 特に邸内のカップルにとっては、無料のラブホテルだ。年末に一度、大掃除の時に浮島のチェックが入ることになっている。その時には、掃除や備品の補充など、メイドたちは抜かりなく整えていた。
 ところが先月、結婚式の控え室に使用するため、例年より早く浮島の監査が入った。間が悪いことに、乱れたシーツや使用済みの避妊具が見つかり……担当責任者は叱責を受け、施錠を義務付けられたのである。


「それは……悪かったね」
 事情を聞いた宗は、笑いを堪えつつ謝罪を口にする。
「あなたね、こんな場所でしなくても、ホテルのスイートに連れ込むくらいのサラリーはあるんでしょ?」

 三食付き、住居・備品・光熱費負担なしの住み込みメイドの雪音で、手取り二十万円弱だ。多いに越したことはないが、充分に満足出来る金額である。
 片や、宗は国内最大と言われるコンツェルンの社長秘書だ。彼は八桁の年俸を貰っていた。

「君も知ってるだろ? 俺に拒否権はないんだ。お嬢様しだいさ」
「もう止めたら? あなたがクッションにならなくても、卓巳……様にも充分に対抗出来ると思うわよ」

 宗に卓巳の下半身事情は知らない。
 恐ろしく禁欲的だとは思う。ただ『出来ない』にせよ『しない』にせよ、目的を持って近づいてくる女にはそれなりに対抗しなければならない。卓巳に女を軽くあしらえる才覚があればいいが……。あれでは敵を量産するばかりであろう。
 女に利用され、或いは敵にして失脚する人間は多い。卓巳にそうなられては、宗が困るのだ。

 宗は上着を手に窓辺に寄った。
 窓を開けると、厳しい冬の風が吹き込む。女を抱いた後の、火照った体を程よく冷ましてくれる。

 数ヶ月前、朝美を抱く時に万里子の身体を想像した。あれ以来、女を抱く時は必ず思い浮かべるのが癖になってしまった。最初に、いずれそうなるだろう――と思ったのが間違いだったのだ。
 今となってはあり得ない可能性である。卓巳を敵に回す訳にはいかないし、やたら敏感な万里子に悟られるのも不味い。
 恋と呼ぶほど拙くもなく、愛と呼ぶほどの執着もない。憧れと呼べばいいのか……宗にもわからなかった。

   
御堂です。ご覧いただき、ありがとうござます。
気づいた方もいらした(多かった?)んですが、宗と雪音です。
この時点ではちょっと親しげ?…なんというか、ドライでクールな2人は非常に曖昧な関係です(苦笑)
ひょっとしたら(前・中・後編)になるかも知れません(^^;)
アダルト方面を一手に引き受ける宗くんと、しばしお付き合いくださいm(__)m
拍手&メッセージお待ちしております。


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