☆アンケートにご協力いただきまして、ありがとうございました(礼)
1位2位に選んで頂きましたカップルで共演です。
聡&夏海も結婚丸三年を過ぎました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいですm(__)m
「自由が丘ですか?」
「ああ、大学の先輩なんだ。企業法専門の弁護士でね。今、ロンドン支社が社運を賭けたプロジェクトを仕掛けている。その件で色々相談に乗ってもらってるんだ」
再び心が通い合って、二週間遅れの新婚生活をスタートさせた二人は、久しぶりに卓巳の運転でBMWを走らせている。助手席にはもちろん万里子を乗せて。
行き先は自由が丘にある弁護士先生のお宅だという。卓巳の実務修習で世話になった方で、ハーバードのロー・スクールLLMコースを首席で卒業した人物である。
「一条先生のおかげで企業法に興味が持てた。彼はHBS……ハーバードのビジネススクールも出てる変わり者でね――」
万里子は卓巳の嬉しそうな声に驚いている。そんな風に人のことを話すのは珍しいからだ。悪意に満ちた人間に囲まれ、卓巳は孤独に生きてきた。でも、彼にも親しい先輩がいたのだと、ホッとする万里子であった。
「でも……そんなに親しい方でしたら、結婚式に出て頂きたかったですね」
「ああ、招待はしたんだが、夫人の体調がすぐれないとかでね。未就学の子供が二人いると聞いている」
「まあ、それなのにお邪魔しても構わないんでしょうか?」
「もう大丈夫だと言っていた。第一、向こうからの招待なんだ。伺わないほうが失礼だろう?」
「でも、こんな格好で?」
「なぜかドレスコードがデニムになってるんだ……僕のせいじゃない」
卓巳はブラックデニムのジーンズだった。上はハイネックの黒いセーターと白いジャケット。ネクタイのない卓巳は珍しい。
一方、万里子もデニム地のロングスカートである。さりげなくお揃いのセーターを着ているので、少し恥ずかしいくらいだ。
でも卓巳が、
「一度、着てみたかったんだ」
そう言って自ら買ってきたのである。
嬉しそうに、期待を籠めて見つめる卓巳に断わることは出来ず……。万里子はペアルックを了承してしまったのだった。
今から行くご夫妻が、このことに気付きませんように。と祈る万里子であった。
~*~*~*~*~
「おいおい。藤原……お前、えらい変わり様だな。その歳でペアルックか」
万里子の願いは虚しく、一発で気付かれてしまった。
二人を出迎えてくれたのはこの家の主、一条聡である。卓巳から聞いた限りでは、四十代前半とのことだが……万里子の目には三十代半ばと言ってもいいほど若々しく、笑顔の温かい男性だった。背は卓巳より高く、弁護士と言うよりアスリートのような体躯だ。インディゴブルーのジーンズに白いセーターがとても爽やかに映る。
「八年ほど前、僕が世話になった頃はもの凄い仕事量をこなしていたが……。三年前に今の奥さんと結婚して、あの人も変わったよ」
来る途中、車の中で卓巳はそんな風に言っていた。今の、ということは、以前は別の女性と結婚されていたのかも知れない。万里子はそんな風に考えていた。
「はじめてお目に掛かります。この度はお招き頂きありがとうございました。ちは……いえ、藤原万里子と申します。その節は、たく……主人が大変お世話になりまして」
藤原姓を名乗り、卓巳を“主人”と呼ぶことにまだ慣れてないので、かなり恥ずかしい。万里子は支えながら必死で挨拶をした。
「ようこそ、我が家へ。結婚おめでとう、式には出席出来なくて済まなかった。でも、色々聞いてるよ。熱烈なウエディングキスとか」
挙式直後、窓を全開のまま控え室でキスしていたのを大勢に見られたのだ。あの「氷のプリンス・藤原卓巳が!?」と列席者のみならず、経済界で話題になっているという。
でも、面と向かって言われると……万里子は赤面した。
「もう、あなたったら! 男同士なら冗談でも、奥様には失礼よ。……申し訳ありません、ようこそお越し下さいました。一条の家内で夏海と申します。この度はご結婚おめでとうございます」
そう言ってニッコリと微笑み、軽く会釈しながら近づいてきたのは一条の妻・夏海だ。卓巳と近い年齢だと聞いている。アイボリーの大きめのセーターを着て、下は黒のスパッツを穿いていた。白いエプロンがどうやらデニム地らしい。そして、お腹の辺りがふっくらとしている。それは……。
「あの、お子さんですか?」
「ええ。六ヶ月目なの。悪阻が長引いて……今月に入ってようやく治まってくれたのよ」
「それは……おめでとうございます」
万里子の声がわざとらしく弾む。気持ちは一オクターブほど落ちているのが明らかだった。
「一条先生。結婚三年……四年目で、新婚気分なのは判りますが、今からだと還暦を過ぎてもお子さんは成人してないでしょう? 行き当たりばったりはいい加減にして、少しはきちんと家族計画をされたらいかがです?」
「た、卓巳さんっ!」
万里子は困惑した。卓巳の発言が万里子のためであろう、と見当はついたが、それを説明することは出来ない。もし、ここで決裂するようなことになったら、卓巳の仕事にも影響が出るはずである。
だが一条も、毒舌家である卓巳の扱いは慣れてるようだ。
「判った、判った。お説は最もだが、お互いに嫁さんを困らせるのは止そう。――今日は息子の六歳の誕生日なんだ。良かったら、一緒に祝ってやって欲しくてね」
卓巳を軽く往なし、一条は万里子に向かって話しかける。
「まあ、すみません。知らなかったもので、何もバースデープレゼントを持って来ませんでした」
「そう思って伝えなかったんだ。家内の教育方針でね、モノは必要以上与えない、ということにしてる。ありがたみの判らない人間にはなって欲しくないからね」
その時、奥から小学生かと思える少年と、まだまだあどけなく、ミルクの匂いがしそうな少女が姿を見せた。二人は手を繋いだまま駆けて来て、同時に一条に抱きついた。
「お父さん……お客様なの?」
「おとーたん……おかくさまなの?」
来春、小学校に入学するという長男・悠と、ちょうどその頃には三歳の誕生日を迎える長女・桜だ、と紹介される。
「いらっしゃいませ」
「いらっさいませ!」
礼儀正しくおとなしそうな兄が会釈すると、妹もぴょこんと頭を下げた。何でも兄の真似をしたい歳頃なのだろう。二人とも、万里子が驚くほど父親に似ているのだった。
~*~*~*~*~
食事の後、万里子は子供たちに、お誕生日プレゼントの代わりにと、それぞれ二冊ずつ絵本を読んで聞かせた。そして、四冊目が終ることには、二人ともウトウトし始める。
抱かかえ、二階の子供部屋に行こうとした妻に一条は、
「君はダメだ。万一のことがあったらどうするんだ。私が連れて上がるから」
「じゃあ、桜は私が……」
「ダメだと言ってる。――藤原、フォークナーの件で見せたい書類がある。二階の書斎に来てくれないか? ついでだ、子供を一人頼む」
「……はいはい」
卓巳はそう来るだろうと言わんばかりに、夏海の傍で眠る桜に近づいたが、
「待て――娘は私が連れて行く」
呆気にとられる卓巳の横から桜を抱かかえ、さっさと二階に上がってしまう。
夏海は「身内以外の男の人には、皆ああなのよ」、そう言って、苦笑いを浮かべるのであった。
「じゃあ、来年は先生にはなられないのね」
藤原社長の奥様に台所に立ってもらうなんて、と遠慮していた夏海だったが……。万里子にすれば、メイドやコックの居る生活のほうが不慣れというものだ。片付けの手伝いを申し出て、二人はキッチンにいた。
「教員免許は取ったんですが、採用試験に落ちてしまって……。卒論も書き終えてますし、卒業まですることがなくなってしまいました」
苦笑しつつ答える万里子に、
「立場上、就職は難しいでしょうね」
「はい。もう諦めています。大学まで出してくれた父には申し訳ないですけど。無駄にさせてしまって」
「人生に無駄なことなんてないわ。遠回りだって必要なことなんだろうし……。大学は四年間でしょう? 私たちの人生はあと半世紀も残ってるのよ。学んでて良かったって思う日が来るわ。……まあ、聡さんの場合、とっくに折り返し地点は過ぎてるんだけど」
夫には「あなた」と、子供たちの前では「お父さん」と呼んでいた。だが、時折お腹を気にしながら「聡さん」と呼ぶ声が一番嬉しそうだ。
万里子は一つの勘違いをしながら、それでも夏海が羨ましくて堪らないのだった。
御堂です。ご覧いただき、ありがとうございます。
クリスマスは「甘い」というより「面白い」になってしまいましたが…(^^;)
これはしっとり行きたいなぁ…オチはつけるなよ私、と自分に言っております。
では、明日もよろしくお願い致しますm(__)m
拍手&メッセージお待ちしております。
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