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番外編
番外編「プールサイドで愛を教えて(後編)」
 万里子のために、と極力照明を落としてもらった。
 有名なライトアップデザイナーによる間接照明は、ことさら、二人のキスを盛り上げてくれる。万里子を強く抱き締めすぎないように気遣い……強弱をつけて、何度も何度も唇を押し当て吸い上げる。
 そのまま頬に口づけ、左の耳までの道筋を舌でなぞった。そして、耳朶みみたぶに噛み付きたい欲求を抑え、舌先で軽く舐め上げる。

「きゃ! やぁん」
 万里子が身を竦め、腰を引いた瞬間……バスタオルが落ちたのだった。

「……まりこ……」
 卓巳の声が上ずっている。
「どうして……これを……」
「だって、卓巳さんが一番好きって言ったから」
 
 万里子が身に付けていたのは、白いビキニであった。
 卓巳のために、万里子はかつてないほど肌を露出している。官能的に見えてもおかしくない水着であるのに、万里子が着るとまるで修道服のように清楚に思えた。
 陽射しから隠すことが多いせいだろうか、万里子は象牙のように艶やかな肌をしている。折れそうなほど括れた腰が、惜しげもなく卓巳の目に晒された。しかも、独占状態だ。
 卓巳は呼吸も忘れ、瞬きもせずに見つめた。

「卓巳さん……あんまり見ないでください」
「ああ、ダメだ、動かないでくれ……まだ目に焼き付けただけなんだ。今、長期記憶に移動させてる。君の姿を死んでも忘れたくない」
「だ、だめです。こ、これは嘘ですからっ!」
「……嘘?」

 万里子は胸元を押さえながら恥ずかしそうに言った。
「わたし、こんな谷間なんて出来ません。その……卓巳さんが優秀な水着を用意してくださったので、それだけなんです。だから……」
「水着にも、優秀とそうでないのがあるのか?」
「あ、あります。以前は下着が主にそうでしたけど、最近は水着も随分優秀みたいです」
「そうなのか……万里子、触って確かめてみたい」
「え!?」 
「い、いや、妙は意味ではなくて、どういう物なのか一度触ってみたい、というか……」
   
 卓巳はしどろもどろになりつつも、更なる期待を籠めて、万里子をジッと見つめる。
 だが万里子は……、
「た、たくみ、さん……あの、いい加減泳ぎませんか?」
「およぐ?」
 
 どうやら、卓巳はここが温水プールであることも、「一緒に泳ぎたい!」と万里子を誘ったことも、完全に忘れているようだ。
 海やプールに行けなくなった万里子の為に、彼女が心置きなく楽しめる場所を提供するつもりだった。その為に、万里子が着られる水着を探したはずなのだ。それが、気付けば目的が万里子の水着姿を見たいが為になっている。
 反省した卓巳は万里子をプールに誘った。


~*~*~*~*~


 水温は三十一℃、長さ十五メートル、幅五メートルほどで、距離を泳ぐことを目的として作られたプールではない。都会の中のオアシス、まさにそんな感じだ。
 すぐ横には三十九℃に設定されたジャグジーがあり、体を温めてから上がれるようになっている。
  
 卓巳の場合、会社上の付き合いもあり、あちこちのジムやスパの会員となっていた。だが、ジムのほうは使うが、年に一度も泳ぐことはない人間だ。第一、卓巳の水着も宗が調達したものである。
「大人のデートをコンセプトに、社長の水着も決めておきました」
 と言われ……自分は何でも良かったのに、と思いつつ、用意されたモノを目にして唖然とする。
 
 色は黒! それもビキニタイプだ!
 
「私はホストでも芸能人でもないぞ」
 そんな卓巳のクレームに、
「何を言うんです! 社長ご自身が肌を隠されたら、万里子様も出し難いじゃないですか。まずはご自分が思い切るべきです!」
 本気半分、冗談半分の宗の忠告を、卓巳は真に受けたのである。  
 

(卓巳さんて……着痩せするほうなんだわ)
 
 一方、万里子のほうも卓巳の裸に近い格好を目にして、驚いていた。
 いきなり触りたいなどと言われて戸惑ったが……手を引かれ、プールの中に入った時は二人きりの空間と、微かに触れる卓巳の肌の温かさに安堵していた。
 しかも、今日の卓巳は目のやり場に困る。
 卓巳の体の様々な状況を考えた時、

(あんなに立派そうなのに……)

 思わず胸に浮かんだ言葉を、慌てて打ち消す万里子であった。

「……りこ。万里子? どうしたんだい?」
「い、いえ。なんでも」
「気分が悪いなら、上がろうか?」
 まさか卓巳に見惚れて、とんでもない部分を想像していたとも言えず、万里子は黙り込む。
 すると、卓巳は何を思ったのか、水中で万里子を横抱きにした。

「きゃっ!」
 俗に言う“お姫様抱っこ”である。
「無理はダメだ。プールは随分久しぶりなんだろう? 今日はもう上がろう」
「でも、まだ三十分も経ってませんよ」
「君が気に入ってくれたなら、いつでも貸切にする。なんなら、ロンドンからオーストラリアに直行してもいい。ゴールドコーストに別荘とプライベートビーチがある。来年の夏はエーゲ海に行こう。島をひとつ所有しているから、そこで泳げば誰にも見られない」
 
 卓巳は嬉しそうに語りながら、プールサイドのチェアーに万里子を座らせようとした。
 プールを出ても、卓巳は少しも重い素振りを見せない。万里子はそんな卓巳の首に思わず手を回して抱きついていた。

「卓巳さん……大好き」
「ま、りこ?」
 万里子は卓巳の頬に軽くキスしたのだ。
 それがチェアーに下ろそうとした瞬間だったので、卓巳は見事にバランスを崩した。


 万里子からキスして貰えたのは初めてであった。
 一瞬で、卓巳の脳内回線はショートし、煙が噴き出している。
「うわっ」
「きゃ」
 チェアーに下ろすつもりが引っ掛かって、チェアーを倒し、二人ともプールサイドに転がった。
 だが、卓巳はしっかり万里子を抱き締めたまま、放さない。

「万里子……今、僕にキスしたのか?」
「お嫌でした? ごめんなさい、わたし、思わず」 
「もう一度、お願い出来るかな? あの、出来れば唇に」
「あの、でも重いでしょう? すぐに下りますから」
「重くないっ! このままでいるんだ。いや、いてくれ」
 
 プールサイドに座り込んだ卓巳の上に、乗っかったような体勢である。万里子は卓巳をお尻に敷いているようで、どうも居心地が悪い。だが、卓巳はやけに嬉しそうで、万里子を放そうとしない。

「卓巳さん……」 
 今度は唇にスッと触れた瞬間――卓巳は万里子を押し倒した。
「たっ、たくみ、さん?」
 卓巳の髪から水滴が落ちてくる。万里子はそれが気になって、卓巳の髪に手を伸ばしたのだ。だがそれが、卓巳には万里子から抱きつき、キスをねだる仕草に思えて。
「万里子、愛してる!」

 プールサイドの床に寝転がり、二人は初めてとも言うべき、唾液が絡むようなキスをした。
 卓巳の本能がゴーサインを出し、万里子の薄い布切れの中に手を滑り込ませた――――


~*~*~*~*~


 パッ!! と二人の上から全開になった直接照明が降り注ぐ。
 万里子は驚いて卓巳の胸に顔を隠した。

「社長! あなたは一体何を考えているんですか!?」
 それは宗の声であった。一瞬、邪魔をするな、と叫びそうになった卓巳に、
「お忘れのようなのでお伝えしておきますが、ここは公共の場所で、安全管理のためビデオカメラが設置されています。プールサイドを人払いされても、全部筒抜けな上、防犯のため録画までされております。思い出していただけましたか?」
 宗は、スパの管理事務所から「社長がとんでもないことをしている」と聞かされ、飛んできたのだった。

「あ……」
「じゃ、じゃあ……皆さんに見られていたんですね……」
 卓巳の腕の中で万里子が呟いた。
「あ、いや、そんなつもりじゃなかったんだ」
「二人きりだって仰ったくせに」
「ご、ごめん。済まない……じゃ、続きは部屋に戻って」
 
 そう言った瞬間、万里子の平手打ちが卓巳の左頬にヒットした。小気味好い音がスパにこだまする。

「卓巳さんの無神経! バカッ! もう大嫌い!」
「ま、まりこ……。宗っ! お前もう少し遣り様があるだろう!」

 宗は両手を上げ知らん顔だ。
 
「万里子! 万里子待ってくれ、済まなかった。今度は必ず」
 そんなことを叫びながら卓巳は万里子を追いかけ、更衣室に飛び込み――。
 宗の耳に再び派手な音が聞こえた。

「やれやれ」
 深いため息をつく社長秘書であった。
  
  
御堂です。ご覧頂きありがとうございます。

正解は(1)でした!

正解者多し!というか、バレバレ?(苦笑)でも、ほとんどの方が(6)を見たいって…おいおい(^^;)

若干、羽目を外した展開ですが…オチをつけてしまうのが私の性格なもので、すみません…orz

番外編はお遊びだと思ってください、本編とは設定も少しずれてます。
だってこの頃にはもう本編では……(笑)
ということで、明日は聡と夏海も登場して番外編が続きます。今日よりは真面目だと思います…多分。

では、引き続きよろしくお願い致しますm(__)m
拍手&メッセージお待ちしております。


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