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私、伊緒のノンフィクション作品です。
ケツメイシの「さくら」の歌の様なお話です。
前世の約束
作:iofiria


人は人を愛するために生まれる。現代多数の恋愛小説などが映画になったりドラマになったりして人々はそれを過大評価する。それはどういう意味なのであろう?それは現代社会から愛がなくなり愛を忘れかけそれに焦ってるように僕には見える。
2005年10月16日、26歳の誕生日を迎えた。いつもの様にPCに向かう、見慣れた部屋に見慣れた机、仕事は病気治療のため失業中。今は失業保険で生活の生計を立てている。仕事をしていないとしていないなりに大変だ。何もしてないと何かと彼女の事を思い出してしまう。最近のやる事といえば今流行りだしたブログというモノ、テレビなどは見る気もしない。ブログとはウェブログの略らしい。詳しいことは分からないが、インターネット上の記事の読み合いみたいなものだ。例えば気の合いそうな記事にコメントを入れる。そうすると相手も自分の記事を読んでコメントがもらえるというものだ。だが必ずしもコメントしたからといって自分のブログを読んでもらえるとは限らない。そのブログの中で特に親しくしてるブログ上の友達が何人かいる。その中の一人ブログ友達のももちゃんが感傷に浸っていたのをきっかけに僕も心の扉を開けてみようと思った。
今から十年前1995年秋。高校1年の文化祭。
伊緒「とんでもねぇ高校に来ちゃったよ。文化祭って言ったって皆寝てるか部外者と喧嘩してるかじゃねーか!」
勝郎「そうだな。でも俺とお前の頭じゃここがお似合いだろ?」
伊緒「まぁね。」
僕の通っていた高校は県下一の馬鹿高校そんな高校で見つけた一輪の花が泉という少女だった。
勝郎「おい伊緒見てみろよ!」
ふとその先を見てみると頭の先から足の指先まで通ってた神経が一瞬途切れた。顔は色白で大きな猫目、華奢な体にエプロンを身につけ髪をアップにしてる彼女のうなじはとても綺麗だった。
勝郎「あんないい女がこのぼんくら学校にいるとはな。でもあの女彼氏いるぜ。」
勝郎の言葉を聞いても何も思わなかった。むしろあんないい女に彼氏がいないほうが不自然だからだ。所詮自分には高値の花、位にしか思わなかった。
当時親はとっくに離婚していて母親一つに育てられた自分、親父は嫌いだ、お袋はもっと嫌いだった。嫌いな母親に媚びるのが嫌で学費もバイトして自分でだしていた。あのころの僕は昼学校で寝ていて夕方からバイト、夜十時を廻ってから友達同士で上尾駅に意味もなく溜まっていた。そう俗に言うぐれているという奴だ。家族には見放され、学校も半分以上休んでいてバイトは適当、生きている意味なんて一つもなかった。
担任「お前はたまに来たと思えば寝てるだけ、卒業は出来ないよ。」
上等、学校なんてどうでもいい!
1996年春。テストだけは良かったので何とか二年になることが出来た。二年になっても生きる意味が見つけられないでいた。
立 「おい伊緒!部活一緒にやらねー。」
それは自分にとって意外な一言。一年の頃同じクラスだった立だ。まともに喋ったこともないのに。と不思議に思ったが、
伊緒「嫌だ、バイトあるし。」
立 「バイトならいつでも出来るだろ。それよりバトミントン部、一年生の女子いっぱい   入ったらしいぜ!お前彼女欲しくねぇのかよ!」
中学時代燃えていたバドミントン、彼女はさておき、バトミントン、今しか出来ない。そう聞こえた。
伊緒「バドミントンか悪くないね。今日、母ちゃんに相談してみるよ。」
学費を払っていたのでそう簡単にバイトは辞められなかった。
母 「あなたの好きな事をしなさい。」
意外な言葉だった。そうもあっさりしてるとは、今思えば母の事が嫌いというのは思春期誰でも思う事に過ぎなかったのだろうか。
そうして僕と立はバドミントン部に入った。バドミントン部は二年女子が4人、一年女子が20人位、男子は僕と立の二人しかいないで入りたての頃はかなり恥ずかしかった。
担任「お前らが部活に入るなんてどういう風の吹き回しだ?」
確かに。でも今更部活なんてと思う気持ちよりも、生きる意味とまた出会えるかも、という期待があった。
僕と立は一歩一歩体育館に近づき立が体育館のドアの隙間から除き込む。
立 「おいおい見てみろよ伊緒、かわいい子がうじゃうじゃいるぜ。」
伊緒「別に女何て興味がない。バドミントンがしたいだけだ。」
と少し見栄を張った。
立 「まぁそう言わずにお前も見てみろよ。」
立の言葉に期待しつつそおっと覗き見る。
確かにかわいい子がいるな。でも女なんてバイト先にもうじゃうじゃいたし・・・とその時、また神経が一瞬途切れた。泉がいる。
伊緒「立!やっぱ俺部活しねぇ!」
立 「今更何言ってるんだよ!行くぞ!」
立は僕の言葉をまるっきり無視した。
顧問「今日から男子部が出来ました。って二人しかいないので女子と混合練習になります。」意外に女子達は、はしゃいでいた。
自分で言うのも何だが立より背が高く顔の良かった僕は一年生の女子からもてていた。
一年部員「伊緒先輩彼女いないんですか?それとも誰か狙って来たとか?」
伊緒「彼女はいない。」
一年部員「なら私なんかどうです?それとも好きな人がいるとか?」
伊緒「泉。」
当時女にたいして免疫がなかった僕はとんでもない事を言ってしまった。
一年部員「なんだ。でも泉先輩、彼氏いますよ!」
「知ってるよ。」と心の中で言った。泉はさておいてバドミントンはやっぱり楽しい生きる意味が見つかりそうだ。その華麗なプレーに惹かれたのもいるだろう。なんつたって僕は中学時代の大会で何回か優勝してる。こうして僕と立の部活の日々が始まった。
1996年夏。高校二度目の夏休み、一度目はバイトバイトの毎日だったが、二度目は部活部活の毎日だ。 
顧問「今年は男子も入った事だし合宿を行いたいと思います。」
立 「おいおい合宿だってよー何かありそうじゃねー。」
何もねぇよ。僕は冷めていた。合宿前日、僕は立と練習試合を行った。結果は圧勝。女目当てで入部した素人の立と中学3年間やっていて、その内何回か優勝してる僕との試合、当たり前の結果だ。試合が終わり他の女子の試合を見ようと隣のコートに立と座り込んだ。その時、泉が僕の隣に座り、
泉 「かっこいいじゃん。」
と一言言って自分の飲んでいたアクエリアスを僕に差し伸べた。あの時の光景は今でも鮮明に覚えている。突然の出来事に僕はどうしていいか分からなくなっていた。
泉 「喉乾いてないの?」
伊緒「乾いてる。」
泉 「飲まない?」
伊緒「もらいます。」
この時、始めて泉と喋った。見た目とは裏腹にハッキリした声だった。
立 「俺にもちょうだい。」
と立が言ったが僕は無視して残りのアクエリアスを一気に飲み干した。
立 「ずりーぞ!」
伊緒「残念。」
泉が笑いながら去って行った。そうすると立がやらしく笑いながら、
立 「泉、お前に気があるんじゃねーの?」
伊緒「まさかだってあいつ彼氏いるぜ。」
立 「お前知らないの一ヶ月位前に別れたぜ。」
と立の言葉に耳を疑った。そう言われて見ればここ最近泉は元気なかった。だが内気な僕は自分にはあまり関係のない事、あまり深く考えなかった。そしてその日の帰り際、
泉 「伊緒君ってさぁTMネットワークが好きなんでしょう?」
伊緒「あー好きだよ。」
また突然泉が話しかけてきた。何故だろう好きなTMの話だからか自然と喋れる。泉に対して思っていた事、本音は自分の事をもっと知ってほしかった気持ちが自然と伝わったような気がした。
泉 「合宿楽しみだね。」
伊緒「そーだね。」
家に帰り、僕は有頂天になっていた。純粋だったあの頃、泉が僕に話しかけてくれた事がとにかく嬉しかった。もうこの時は完全に泉が好きだった。今思えば高一の秋、始めて文化祭で見かけた時から好きになっていたのかもしれない。自分では無理、彼氏がいるなどとの思いが強く好きという気持ちを無理矢理殺していたのかもしれない。
合宿当日、若かった僕はその気になってしまい泉に告白をしようとしていた。偶然にも立もこの合宿で告白をしようとしていた。同じ二年の大園直子という少女に惚れていたのだ。そもそも今となっては分からないが立は始めから直子に惚れていたので僕をバドミントン部に誘ったのかもしれない。僕と立は二人してはしゃいでいた練習の辛さなんて何一つ感じなかった。合宿のメニューは朝走って午前中は体育館で練習。午後は休みで夜は体育館で練習ってな感じだ。僕と立は午前中のメニューが終わると早くご飯を食べ夜の告白のための作戦会議をするために宿舎に行った。
立 「お前は泉、俺は大園、絶対二人して旨くいくって。」
伊緒「俺は旨くいくけどお前は無理だよ。」
などと冗談を言い合っていた。とその時女子部の部長が、
部長「お菓子買ってきたから男子もこっち来ない?」
立 「行きまーす。」
僕と立は女子の部屋に行く事になった。当然直子も泉もいる。部屋の中には、2年女子全員と2年と仲のいい1年が数人いた。若い男女が集まれば話題が途切れる事はない。たわいもない事を喋っていた。ふと正面に寝そべっている泉に目をやると、その美しさに魅入られてじっと見つめてしまった。それに気づき泉もこっちを見る、目を合わせてしまった・・・・。だが目を背けることが出来なかった。泉も目を背けることなくこっちをジィーと見ている。
立 「いつまで見つめ合ってるんだよ!」
と立の言葉で不意に我に返る。不思議なことに目を背けることが出来なかった。こんな体験は始めてだ。本当に泉に魅入られてしまっていたのだ。後で彼女にこの時の事を聞いてみるが彼女は全然覚えていなかった。
そして夜、練習を終え夜ご飯を食べ立と風呂に入る。今日は長い夜になりそうだ。
伊緒「立、お前先告れよ。」
立 「別にいいけどお前、告らないとかなしね。」
風呂をでて数時間、時間は22時位だったと思う立は宿舎の内線電話をして直子を呼び出すが誤算、直子はよりによって泉と二人で来てしまったのだ。来てしまったものはしょうがない。僕は泉を僕たちの部屋のベランダに呼び出した。8月の月夜の晩はとても綺麗だった。うっすらと月に照らされて僕の目に映る泉がもっと綺麗で、この泉を今自分が独り占めしているという現実が信じられなかった。
泉 「伊緒君は何でバドミントン部入ったの?」
伊緒「中学バドミントン部でまたしたくなったから。」
伊緒「それよりさー好きなんだよね。俺と付き合わない?」
意外とベランダにでてすぐに告白してしまった。一人で勝手に恥ずかしくなってしまった、立は旨くやっているだろうか?まだ相手の事をあまり知らないのに告白して軽い男に思われないだろうか?その一瞬でいろんな事が頭を過ぎった。月が青々しく光っていた。
泉 「どうして?私の事何も知らないでしょう?」
想像していた通りの言葉が返って来た。だが、僕はさっきまでの緊張が嘘な位、妙に落ち着いていた。
伊緒「確かにあんま知らないね。でもこれから知っていけばいい事でしょ?」
口べたで女に免疫がない僕にしてみれば上出来だ。
泉 「確かにそうね。伊緒君ってなんか女に馴れてるって感じ。」
伊緒「そんな事ないよ。」
泉 「私ね前付き合ってた人がいたの。」
泉が淡々と喋りだした。
泉 「それでね。私も悪かった事沢山あったのかもしれないけど結構、酷い事もされたの。」
泉の言う酷い事というのは、僕は一方的に聞いた話だから真相は分からないが、結構な酷い事を泉はされていた。それに彼女も母親一つで育てられていて、母親からあまり好かれていなかったらしい。自分とだぶる泉に僕はますます惹かれていた。
泉 「それにそれでもあの人をまだ好きな私は貴方と付き合うことができない。」
不思議なもんだせっぱ詰まると人間は不思議な力が使える。もう何も怖くない。ただ泉という少女をまっすぐに自分は必要としていた。生きる意味にしたがっていた。
伊緒「まだそいつの事が好きなら今はそれでいい。付き合っていく上で俺の事好きになれ   なかったら振ってもらって構わない。もう一度言う俺と付き合ってくれ。」
泉 「そんなのずるい。それに男の人怖いし、好きな人と違う人とは付き合えない。」
伊緒「はっきり言って貴方の気持ちなんか関係ない。好きなんだ。」
泉 「何で私なの?女の子沢山いるよ?伊緒君にはもっとお似合いの子沢山いるよ。」
伊緒「誰が似合うかは俺が決める。」
泉 「私汚れてんだよ。処女じゃないし。」
伊緒「そんなの関係ないよ過去なんてどうでもいい。」
泉 「私ね、いつも気持ちが大き過ぎちゃうの。だから一度好きになるとその人の事どんな酷い事されても嫌いになれないの。」
伊緒「・・・・。」
泉 「だからね次もし人を好きになる事が出来たらそれで最後。」
伊緒「おれが最後じゃ不服?」
泉 「私の言ってる意味分かってる?結婚しなきゃだめだって事だよ。」
伊緒「分かってるつもりだけど。」
泉 「・・・・。」
伊緒「もし迷惑なら君を苦しめるのは嫌だから諦めるけど。」
泉 「・・・・。」
この後泉は何も言わなかった。僕も何も言わなかった。
伊緒「もう朝だよ。寝よう。」
立はまだ直子と喋っていたが泉が帰った後直子もすぐに帰っていった。
立 「どうだった?」
伊緒「わからん。」
伊緒「お前はどうだったんだよ?」
立 「俺は振られた。」
伊緒「そっか・・・まぁ俺も似たようなもんだよ。」
後から聞いた話だが立は振られたくせに直子とキスをしたらしい。
次の日嫌でも朝は訪れる。立と僕にとって昨日とはうって違い、とっても気まずい一日になるだろう。昨日は立も僕も一睡も出来なかった。練習は淡々と行われていった。他の部員たちは何も知らないので、何もなかったように練習を行っている。いや僕らも何もなかったように練習を行っていた。
ようやく3日間の合宿が終わり、いつも通りの練習が始まった。夏休み中の練習は午前中で終わりだ、ある朝少し早めに行ってる僕はいつものように皆が来るのを待っていた。泉が一番に来た。部員の中で一番遠い所から電車で通っていた泉はいつもは一番遅いはずなので、珍しかった。
伊緒「おはよう。」
泉 「おはよう。」
泉 「あれ伊緒君しかきてないんだ?」
伊緒「そうみたい。」
ふと腕時計を見てみると泉が早いのではなく、皆が遅いのだ20人近くいる一年が一人も来てないのはどうもおかしい。
泉 「私部長に電話してくる。」
泉は学校の公衆電話に電話しに行った。僕はこのまま二人きりでいたいと思っていた。
泉 「今日先生の親戚に不孝があったらしく今日と明日急遽休みだって。」
伊緒「何で俺と泉だけその事知らないんだろう?」
泉 「昨日連絡網がきたみたいで親には言っといたみたい。」
伊緒「あのくそばばぁ何も聞いてねぇーよ!」
この時は聞いてないと母親のせいにしたけど、僕の部屋は一階でベランダから僕は出入りをしていて、食事も自分一人で食べていたので一緒に住んでいた母親と兄にほとんど会う事はなかった。だから母親は自分に言いたくても言えない環境だった。母親に嫌われていた泉も多分似たような理由で聞かされていなかったんだろうと僕は思った。この出来事でも分かる様に僕らは似ていた。泉を見ているとまるで自分のようだ。
泉 「どうしょうか?」
伊緒「・・・・。」
僕はこんな滅多にない偶然を終わらせたくなかった。何か泉といられる理由はないか?
伊緒「せっかく浦和から電車で来てこのまま帰るのももったいなくない?」
泉 「・・・・。」
伊緒「そうだ!泉、猫好き?」
泉 「うん!大好き!」
伊緒「うちの猫めっちゃかわいいんだよ!見に来ない!」
泉 「行く!」
泉は意外にもそんな事で妙に嬉しそうだった。僕は飼ってた猫「ミーちゃん」に大感謝だ。僕と泉は自転車で二人乗りをして僕の家に向かった。はたから見ればカップルに見えただろうか?僕のすぐ後ろに泉がいる。泉が僕の腰に少し恥じらいながら手を廻している。その泉に触られている部分からその泉の恥じらいが僕に伝わってくる。それは今まで生きてきて味わった事のない感覚だった。
伊緒「まぁ狭くて汚いけどあがってよ。」
こういう時に限って、うちの気まぐれ猫はいなかった。
泉 「へぇーこういう部屋に住んでるんだ。」
伊緒「うん。ごめん猫いないみたい。」
泉に麦茶をだした。不思議な光景だ、いつもと変わらない自分の汚い部屋。そのなかに泉の姿がある。まるで合成写真でも見てるような気分だ。僕は僕の一番好きな好きなTMの曲をかけた。
伊緒「この曲一番好きなんだ!」
泉 「嘘?私も一番好き!」
伊緒「本当に?」
泉 「うん!びっくり気が合うね!」
伊緒「でも何かこの歌悲しいよね。」
泉 「そうだね。どのへんが好きなの?」
伊緒「全部好きだけど、別れることは怖くない君は涙見せずに言った生きるためのルール   だからほんの少し悲しいだけって所が好きだしなんかライオン好きだしこの歌、野   生っぽくて好き。泉は?」
泉 「なるほどねー私はねー曲調は明るいのに歌詞が悲しいとこが好き!」
伊緒「あ〜分かる、本当気が合うね!」
僕らはTMの話で盛り上がった。泉はあの夜の事をまるで何もなかったかのように喋らなかった。僕はやっぱり振られたのだろうか?だがそれとは裏腹に僕は泉のことをどんどん好きになっていってしまった。
夏休みは終わり二学期が始まった。バイトをしていなくて疲れてないのか、ただ泉に会いたかっただけなのかは分からないが、学校に休まず行くようになった。泉とは部活の時間以外で会う事はあまりなかった。休み時間見かけても挨拶する位だった。いつものように、授業を受け、部活をし前と比べれば充実した毎日を送っていた。僕は立に感謝した。そしてある日の土曜日の夜、家の電話が鳴った。僕の家は兄は友達少なかったし、母は友達という友達はいなかったので家の電話は90パーセント僕の電話だ。
伊緒「もしもし。」
電話の声「伊緒君?」
伊緒「そうだけど。」
電話の声「私、泉。」
なんだろう?またいろんな事が頭をよぎった。泉が僕に用がある事と言えば部活位しかない。でも部活の連絡網は僕は部長からくるはずだ。後、用があるとすれば、あの月夜の晩の事・・・・。
泉 「明日の部活ね先生が急用出来たから休みだって。」
伊緒「そうなんだ。でも何で泉が?いつも連絡網は部長からきてたけど?」
泉 「そう私が部長に頼んだの。」
伊緒「なんで?」
泉 「明日さぁーする事なくなったでしょ?」
伊緒「うん。」
泉 「会わない?」
突然そう言われてかなり嬉しかった。棚からぼた餅とはこういう時使うのだろう。
泉 「返事は?」
伊緒「もちろんイエス。じゃー行くよ西浦和。」
泉 「じゃー西浦和駅10時で。」
電話を切った後、僕はおもいっきりはしゃいだ。でもこないだの告白の悪い返事をされるかもしれない。そうだとしても休みの日、泉とまた二人きりで会える!
次の日、朝早くから起き風呂に入る。そして自分の一番いけた服を着る。ピアス、ブレスレットを身にまとい、いざ出陣!慣れない電車に揺られながら西浦和に向かう。
西浦和駅に着き時計の針は9時10分。
伊緒「早く着き過ぎたな。」
時間をもてあますためにキヨスクでマガジンを買った。駅の柱に座り込みマガジンを見る。
そして10時。
泉 「おまたせ!」
泉 「また、そんなとこに座り込んでぇー。」
後から泉に聞いた話では、僕が駅の柱に座り込み漫画を見てる姿がとても印象に残ったらしい。私服姿の泉は制服姿とはまた違いとてもかわいらしかった。
伊緒「どうしようか?」
泉 「今日は天気いいし秋ヶ瀬公園でも行かない?」
伊緒「いいねぇ。」
僕らは秋ヶ瀬公園に行った。とその行く途中に泉の知り合いが、さすが地元!
泉友人A「泉じゃーん!久しぶり!」
泉 「おぉー久しぶりー。」
泉友人A「彼氏とデート?いいなぁー。」
泉 「うん。そんなとこ・・・・。」
伊緒(彼氏って。そんなとこ?)
正直ちょっと嬉しかった。素直に喜んでいいのだろうか?
そして秋ヶ瀬公園に着いた。浦和の荒川の河川敷である。普段なら何とも思わない景色だが泉と見る景色はすべてが輝いて見えた。
伊緒「早速だけど今日、俺を誘った理由は?」
泉 「あの合宿の夜、伊緒君が言ってた事、信じていいの?」
伊緒「俺は本当に思ってた事を言っただけ、後は君次第。」
泉 「私ねもう一度だけ信じてみようと思ったの。」
伊緒「・・・・。」
泉 「これが本当に最後。信じていいんだよね?」
伊緒「信じていいよ。」
僕と泉は普通の高校生とはちょっと違う堅い誓いをかわした・・・・。
だが今現在僕の隣に泉はいない。僕はこの時まだこの誓いの重さに気付いてなかった。泉という一人の少女の重さを・・・・。
今思えばいろんな小さな偶然がパズルのように組み重なって僕は同じ境遇の渦の中にいた泉に出会えた。互いに似てるもの同士を引き寄せた。人との出会いはそう言うものだ。
泉が僕の事を好きになるかどうかは恋愛経験ない僕だけど正直心配していなかった。僕は泉を必要としてる。泉も僕の事を必要とするはず。勝手にそう思い込み変な自信があった。
泉は僕との交際を部員はもちろん、友達にも知られたくなかったらしく、堅く口を封じさせられた。
1996年秋。バドミントンの秋の大会の前日、泉は高熱をだしてしまった。いつも病気の時は母親は看病してくれないと言っていたので僕の家にこさせた。
伊緒「明日の大会は無理だね。」
泉 「ううん。熱が何度でようと大会にはでる。」
女子部の副部長をしていた泉は大会にはどうしても出たかったらしい。それとも皆に迷惑かけるのが嫌だったのか?僕は寝ずに泉の看病をした。深夜2時、最初は39度あった泉の熱は37度まで下がっていた。
伊緒「熱下がったよ。明日試合大丈夫かも。」
泉 「伊緒君ありがとう。」
だが熱が下がったのは一時的なものだった。明け方4時にはまた39度に戻ってしまったのだ。大会は9時から。8時には学校に行かないと間に合わない。僕はあろう事か、7時に寝てしまったのだ。泉は当然起きる訳がない。午前10時。
泉「最悪。」
僕は泉の最悪という言葉で目が覚めた。
伊緒「ごめん泉。大会俺のせいで行けなかった・・・・。」
泉 「・・・・。」
まさに最悪だ。あれだけ泉が行きたがってた大会を僕が寝てしまったばっかりに、寝過ごしてしまったのだ。当然無断欠席。しかも僕もだ。
泉 「しょうがないね。でも部員には二人一緒にいたなんて絶対思われたくない。」
伊緒「そうだね。」
泉の熱はやはり39度ある。どうしたものか。午後3時。泉の熱は下がらない。僕は泉の為にと思い部長に電話してしまった。
伊緒「伊緒だけど。」
部長「今日どうしたの?」
伊緒「ちょっと大変な事になってね。」
部長「泉も来てないんだけど、知らないよね?」
伊緒「今一緒にいるよ。」
部長「どうしたの?」
伊緒「泉、昨日から高熱だして今も全然熱下がらないんだ。」
泉が一緒にいた事絶対知られたくない。と言ってたにもかかわらず、僕は部長に言ってしまった。僕は泉の大会に出たくて皆に迷惑かけたくないという気持ちを部長に知らせたかったからだ。
部長「でもどうして伊緒君と一緒にいるの?」
伊緒「泉の家、昨日看病してくれる人誰もいなかったから、俺が看病した。」
部長「そうなんだ・・・・。」
伊緒「でも泉はどうしても最後まで大会行きたがってたけど俺が止めた。」
部長「分かった。泉は大丈夫?」
伊緒「熱が下がらないから病院連れてくよ。」
部長「よろしくね。」
部長は物わかりよくてよかった。そして僕は泉に、
伊緒「部長に言ったから。」
泉 「何で言うの?」
泉のためによかれと思ってやった事でも、泉はその行動に対して酷く怒ってしまった。
伊緒「ごめん。でも今日の大会の事、泉はどうしても出たがってた事を知らせたかった。」
泉 「余計な事しないでよ・・・・。」
泉は泣きそうになってしまった。僕は本当に余計な事をしてしまったと自分の不甲斐なさを知った。午後四時やはり泉の熱は下がらない、病院につれて行きたいけど立つことも出来ない泉をどうやって連れて行こうか。僕は父親に電話した。何年ぶりだろうか。
伊緒「伊緒だけど。」
父親「おう、どうした?」
久しぶりに聞いた父親の声は頼りがいのある声だった。
伊緒「彼女が熱出して大変なんだ。車で病院連れて行ってくれない?」
父親「分かった。」
父親はあっさり了解してくれた。今思えば父も母も僕の事を思ってくれていた。なぜあんなにも嫌いだったのだろう?離婚したから?でも父も母もいろいろな事情があったのだろう。僕はこの時、困った時だけ親に頼る自分が嫌で嫌でしょうがなかった。自分の無力さを知った。
伊緒「もうすぐ親父くるから、車に乗って病院行こう。」
泉 「うん。ありがとう。」
僕らは病院に行った。泉はただの風邪ではなくインフルエンザだった。熱が下がらない訳だ。泉は即入院した。
伊緒「まさか入院だとはね。」
泉 「そうだね。」
伊緒「それで大会でようとしてた泉は凄いよ。」
泉は久しぶりに笑った。泉はこの時すでに口に出さなかったが僕の事を好きになってくれてたらしい。部員はもちろんいろんな人がお見舞いに来てくれた。皆なぜ僕がいるのか不思議そうに思っていたみたいだが誰もその事にはふれなかった。そして、二年女子全員と立が見舞いに来た。
立 「大変だったね。」
泉 「うん。」
立 「何で伊緒がいるの?」
立は皆のいる前で確信にせまった。何て言えばいいのだろうか?
伊緒「たまたまね。」
立 「何がたまたまなの?」
部長「まぁいいじゃん立。」
立 「まぁいいけど。」
事の成り行きを知っている部長が僕と泉を助けてくれた。その後たわいもないことを喋って部員達は帰って行った。とその時中年の女性が来た。
泉 「お母さん!」
お母さん?この人が泉のお母さん?目の前にたっている女性は僕に軽く会釈をし、丁寧な言葉使いで
泉の母親「この度はお世話になりました。」
目の前にいる女性はとても綺麗で、すごく優しそうな感じだ、泉の話では、母親は凄く男嫌いで、交際はもちろん男友達も許してくれないし、泉のことが大嫌いなどと聞かされていた。見た目では僕の想像とまったく正反対だった。昨日僕の父親が泉の母親に電話したらしく、内容は息子のバドミントンの大会を見に行っていたら泉が具合悪そうだから病院に連れて行ったという内容だった。
伊緒「いいえ。たまたま僕の父がいただけです。」
泉の母親「同じ部活の子でしょ?」
泉 「そう伊緒君。」
泉の母親「バドミントン強そうね。」
泉 「滅茶苦茶強いんだから!」
伊緒「そんな事ないですよ。」
泉の母親はすぐに帰って行った。
伊緒「話と全く違うんですけど?」
泉 「そうだね。そう見えるね・・・・。」
泉はそれ以上何も言わなかった。僕は泉が入院してる間は毎日学校帰りに見舞いに行った。この出来事のおかげで泉との距離が少し縮んだ気がした。
泉が退院してまだ信じられないが泉が隣にいる日常が始まる。泉は果たして僕の事を好きになってくれるのだろうか?しかし周りに知られたくないという事だが皆がいるとき泉とどう接していいか分からなかった。皆の前では休み時間も部活中も前と何も変わらない。帰りも一緒に帰る事が出来ないので僕らはいつも学校が終わったら僕の家の前で待ち合わせをしていた。
泉 「お待たせ。待った?」
伊緒「いや。」
泉 「どうしょうか?」
伊緒「1ヶ月たったけどどう?」
泉 「何が?」
伊緒「俺の事好きになれそう?」
泉 「もう随分前から私、伊緒君の事好きだよ。」
伊緒「本当に?」
泉 「うん。」
伊緒「やったー!」
僕は飛び跳ねて喜んだ。遂に泉と恋人として付き合うことが出来る。
泉 「でも皆にはまだ言わないでほしいの。」
伊緒「何で?」
泉 「・・・・。」
伊緒「分かった。」
こうして僕は泉と付き合う事になった。泉はなぜか僕と付き合う事を人には言いたがらなかった。きっと別れて間もない内に他の奴とすぐ付き合ったと思われたくなかったのだろうと思う。だが僕にとってはそんな事はどうでもよかった。
1996年冬。僕と泉は付き合って始めてのクリスマスを迎える。
泉 「クリスマスはどうしようか?」
伊緒「人混みは嫌いだからホームパーティがいいなぁ。」
泉 「じゃーそうしようか。」
泉 「プレゼントは何が欲しい?」
伊緒「こたつ。」
訳の分からない事を言ってしまった。こうして僕達の始めてのクリスマスは僕の家で過ごす事になった。
伊緒「大輔!明日暇?」
大輔「暇だけど。」
伊緒「ちょっと付き合えよ。」
クリスマスの前の日曜日、僕は中学からの友達の大輔と泉のプレゼントを買いに行く事にした。大輔は違う高校なので、別にいいと思い僕と泉の関係を話した。 大輔もその頃二人目位の彼女がいた。
大輔「へぇーお前が彼女にプレゼントかぁ。」
伊緒「そこで経験豊富な大輔さんにお願いした訳よ。」
大輔「OK!まかせとけー。」
こうして僕達は、朝10時に待ち合わせして原宿に行った。大輔も彼女にプレゼントを買うみたいだ。大輔は中学の頃はそれほどまで親しくなかったが高校に入り、そりが合うので急激に仲良くなった。僕から見た大輔は大人だった。僕がふざけてちゃらけても大輔はいつも笑うだけで、決して一緒になってちゃらけたりはしなかった。
伊緒「今までプレゼントって何買った?」
大輔「たいしたもん買ってないよ。香水とか財布とか。」
当時は香水が大流行していた。
伊緒「いくら位?」
大輔「1万から2万位かな。」
伊緒「今回は何買うの?」
大輔「俺は香水でいいや。お前は?」
伊緒「決めてない。」
僕らは原宿に着いた。原宿に来たのは何年ぶりだろう?着くなり大輔は香水を買った。僕は1時間2時間見ても全然決まらない。
大輔「飯にしようぜ。」
伊緒「あー。」
こうして僕らは昼食を食べる事にした。
大輔「予算は?」
伊緒「2万位。」
大輔「気合い入ってるねー。まぁ始めての彼女だもんな。」
伊緒「悪いな。付き合わせて。」
大輔「ゆっくり選んでくださいよ。」
バイトしていくらか貯金があったので、僕は奮発した。僕らは昼食を食べまた原宿の街の中へ入って行った。プレゼントを買うなんて慣れてない僕は何買うかさっぱり浮かんでこなかった。また時間だけが過ぎて行く僕らはたまたま通りかかったラフォーレ原宿に入った。中に入り時計店に入った。
伊緒「これがいい。」
僕がやっとの思いで選んだ物は1万6千円のVIVAYOUというブランドの時計である。手首の型をとってある銀のバンドにオレンジの針、とてもかわいい時計だ。
大輔「始めてにしてはセンスいいじゃん!」
伊緒「だろー。」
大輔「絶対彼女喜ぶよ!」
伊緒「だといいけど。」
僕はプレゼントを早く泉に渡したかった。泉は僕に何をくれるのだろうか?冗談でこたつと言ったけどまさかね。そうして僕らは付き合って始めてのクリスマスを迎えた。
クリスマスの日、僕は委員会で少し遅れるので、泉を先に僕の部屋に行っててもらった。
そして委員会が終わり、ケンタッキーでチキンを買った。ケーキは泉が用意してくれてるらしい。
伊緒「ただいまー。」
と僕の部屋のドアを開けると、
泉 「メリークリスマス!」
と泉がクラッカーを鳴らした。僕の部屋は僕の部屋と思えない位、煌びやかな飾り付けがしてある。部屋の電気は消えていてカーテンが締めてある。そしてケーキの微かなローソクの光が、その煌びやかな飾りを照らしとても綺麗だった。そして泉はサンタクロースの服を着ていた。もの凄くかわいらしかった。
伊緒「まさかここまでしてるとはね。」
泉 「だって始めてのクリスマスじゃん。」
泉がここまでしてくれたクリスマス。僕はとっても嬉しかった。僕らはシャンパンで乾杯をして、BGMには僕らの好きだったTMネットワークの曲をかけていた。僕は押し入れの中に予め隠しておいた時計を取り出した。
伊緒「はい!クリスマスプレゼント。」
泉 「ありがとう!開けていい?」
伊緒「うん。」
泉 「うわぁ凄くかわいい時計。高かったでしょ?」
伊緒「そんな高価な物じゃないよ。」
泉 「はい!私もプレゼント!」
泉は僕がさっきから気になっていた泉の後ろにあるもの凄く大きい物を大変そうに僕に渡した。
伊緒「何これ?」
泉 「なんでしょう?」
伊緒「開けていい?」
その大きな物を包んでいる段ボールを破いてみると、なんと中身はこたつだった。いろんな事が頭をよぎる。どうやって持ってきたのか?確かに欲しかったけど、あんな冗談交じりに言ったことを・・・・。どんなしゃれけずいたプレゼントより嬉しかった。
伊緒「ありがとう・・・・。」
泉 「大変だったんだからね。」
泉は僕の地元の上尾でこたつを買ったんではなく、自分の地元の西浦和でこたつを買い郵送しないで自分で持ってきたらしい。西浦和から上尾まで電車で乗り換えも2回ある。1時間位だろうか。駅から僕の家までは歩いて30分位だ。年頃の女性が恥ずかしかっただろう。そうまでして僕のためにしてくれた。どんなプレゼントより泉の気持ちが分かった。本当に嬉しかった。
伊緒「大事に使うよ。」
こうして僕らの始めてのクリスマスは幕を閉じた。
1997年春。僕らは3年生になった。泉とは違うクラスだ。泉は僕と同じクラスがよかったらしいが僕は同じクラスになると常に泉の視線が気になってしまうので違うクラスになって内心ほっとしていた。未だに僕は泉に周りの友達や後輩に付き合っている事を言っていいと言われていない。だがいい加減、周りもだんだん気付いていた。そしていつものように僕は僕の家で泉を待つ。
泉 「おまたせー違うクラスになって残念だね!」
伊緒「そうだね。それよりさー周りも気付き始めてるしそろそろ俺らの事言っていいんじゃない?その方が一緒に帰れるし、周りに気使わないですむじゃん?」
泉 「そうだね。もう言おっか?」
泉はあっさりOKしてくれた。言ってみるもんだ。これで学校から一緒に帰れる。
泉 「もう3年生だねー。伊緒は進路決めてる?」
進路は正直かなり迷っていた。僕の親は離婚して僕は母親と住んでいるが、父親から僕には頻繁に連絡があった。その内容は父が経営してる電気の会社を次いで欲しいとの事、そのためには高校を卒業したら電気の専門学校をでて欲しいという内容だった。昔は父の事が嫌いだったので父の言葉は無視して高校を卒業したら適当に働こうと思っていた。だが泉と付き合う用になってか心が成長したせいか、僕はだんだん親のために何かしたいと思い始めたのだ。その気持ちは母に対しても同じ事だった。そこで僕は働くか進学するかをかなり迷っていた。
伊緒「進路か。泉はどうするの?」
泉 「私は短大行く。」
僕の高校は偏差値は低かったが学年で1位2位を争う泉は短大くらいなら推薦で入れる実力を持っていた。
伊緒「いいなー泉は頭いいもんな。」
泉 「まだ進路決めてないの?」
伊緒「まぁ多分、俺の頭じゃ働く事になるよ。」
泉 「働いたら今より全然会えなくなるね・・・・。」
確かにそうだ。泉と会えなくなるのは辛い。でもそんな事も言ってられない。僕らはもう3年生だ。進路も決めなくては・・・・。
泉 「部活も1学期で終わりだね。」
伊緒「そうだね。」
僕は進路よりも残りの高校生活と1学期に終わってしまう部活に力を入れる事にした。次の日いつもよりバドミントンの練習に力が入る。
立 「気合い入ってるじゃん!」
伊緒「あーもうすぐ出来なくなるからな。」
立 「俺、始めは女目当てで入ったけど、部活楽しかったな。でも俺もお前も結局この部   活では彼女できなかったな。」
伊緒「俺は泉と付き合ってるよ。」
立 「はぁー!でも何となく気付いてたよ。良かったな。」
立にしてみれば随分大人な返答だ。僕はもっと驚く事を期待してたが。
でも泉は別にしても部活に入って良かった。
伊緒「立ーお前は卒業したらどうすんだよ?」
立 「俺は働くよ。」
伊緒「そうか。」
学校のほとんどの奴は就職する。これといって目標をもたない奴が集まっている。僕もその中の一人だ。僕の通ってた高校はそれが当たり前なのだ。泉のようなタイプが珍しかった。その夜、僕は自分の実力を考え真剣に進路について考えた。僕はいずれ多分、いや絶対、泉と結婚する事になるだろう。高校でて就職した所で泉を幸せにする事が果たして出来るだろうか?今のままでは99%出来ないだろう。このまま目標を持たずに、就職出来るところに就職し、バイトと同じ用に何も考えずに与えられた仕事だけをやっていても自分自信、長続きもしないだろう。やはり電気の専門に行こうか・・・気付けば僕は夢の中にいた。進路はまだ決まらないけど、とにかく目標がほしかった。
進路の事で悩んでる時期、父親から連絡があった。
父親「進路どうするんだ?電気の学校行ってくれるのか?」
伊緒「今かなり迷ってる。」
父親「今仕事も沢山あってどうしてもお前の手を借りたいのだが・・・・でもお前の人生だ自分の好きなようにすればいい。」
この時この父親の言葉が僕が進路を決める決定打になったのだ。父親のために何かしたい。
泉を幸せにしたい。なにより僕自身のためにも。
伊緒「分かった。電気の学校行くよ!」
僕の進路は高校卒業したら、電気の学校に行く予定になった。予定というのは、もちろん僕自身、私立の学校に行けるお金などなかったし、いくら親のためでも親にだしてもらうのも嫌だったし、勉強して県立の学校に合格したかったからだ。当然勉強もしてない僕が今の段階で県立の学校に行ける可能性はゼロだ。勉強して県立の電気の学校へ行くという目標ができた。僕はすぐに泉に電話した。
伊緒「ようやく進路決まったよ。」
泉 「うそー何するの?」
伊緒「親父が手伝ってほしいって言ってるから電気の専門行く。」
泉 「そっかー良かったじゃん!」
伊緒「でも金ないから県立の学校行く。そのためには勉強しなきゃ。」
泉 「そっか大変だね。」
泉は僕の進路が決まって安心そうだった。翌日、早速僕はその事を担任に相談した。
担任「まさか伊緒が進学とはね。でも貴方も二年上がってから学校来るようになったし今から頑張って勉強すれば無理じゃないわよ。」
伊緒「そう。」
担任「専門のテストは国語、数学、一般常識。倍率は4倍くらいかなー。」
伊緒「えっ!4人に一人は落ちるって事?」
担任「そう。もしよかったら一学期で部活終わりでしょ?二学期から放課後、各先生に私から頼んであげるから専門用の勉強してみる?」
伊緒「ありがとうございます。」
僕は二学期から放課後残って勉強することにした。
1997年夏僕は進路の方向性も決まり、部活も終わり、夏休みは専門のためにと慣れない机に向かい勉強をしていた。人は目標というものを持つと、こうも変われるものなんだと思える位、人が変わったように机に向かう。だがやはり泉のためにという思う気持ちが強かった。
コンコンと僕の部屋のベランダの窓をたたく音がする。
泉 「頑張ってますねー。」
伊緒「人生一度位頑張らなきゃね。」
泉 「差し入れ持って来たよ。」
夏休みに入り泉は毎日来てくれた。僕はそれが生き甲斐だった。僕は泉を泉は僕を必要としている。僕は泉を彼女としては見ていなかった。お互いに親にはろくに愛情をそそがれれて生きていなかったせいか、僕らはその分の愛情を互いにぶつけあっていた。そう僕にとって泉は家族以上の存在。僕にとって泉は世界でただ一人の血のつながってない家族だ。泉もそう思ってる。聞かなくても僕には分かる。今ならちょうど一年前、合宿で泉が言ってた「気持ちが大きすぎる」の意味が分かる。
泉 「今日は天気もいいし、気晴らしに外でもちょっと歩かない?」
泉は勉強に飽きかけていた僕を誘ってくれた。僕の住んでる上尾という町は駅前にはデパート位あるが、数キロ離れると畑だらけで牛もいるような町だ。当然僕の家の周りもそんな感じだ。家をでて泉とその見慣れた町を歩くと普段気付かない景色が目に飛び込んでくる。勉強してる時は気付かなかったが蝉の声がそこらじゅうで聞こえていた。泉と数分歩くと偶然僕の通っていた小学校の前に来た。
伊緒「ここの小学校通ってたんだ。」
泉 「へぇー入ってみようよ。」
泉に誘われ小学校に入った。ここに来るのは何年ぶりだろうか?古美れた校舎。学校の中心にあるユズリハ。校庭の周りにある桜の木。ペンキのはがれかけた鉄棒にジャングルジム。僕が6年前卒業した時のままだ。僕はあの時から時間が止まってるような錯覚に捕らわれた。僕は隣にそっと目をやる。泉がいる。また奇妙な錯覚に捕らわれた。それはデジャブと似たような錯覚だった。
泉 「どうしたの?」
泉の言葉で我に返る。
伊緒「嫌、何でもない。」
伊緒「それよりどう?」
泉 「何が?」
伊緒「俺が6年間通っていた学校だよ。感想ないの?」
泉 「感想?うーん。伊緒がここで育ったんだなっーてなんだかわかる感じ。」
伊緒「そっか。」
僕は笑った。
泉「なんかへーん。」
泉も笑った。泉が僕を連れ出してくれて、僕は今まで見えていなかったものが見えたような何とも言えない収穫があった。これからの泉と歩む人生。頑張ろう。僕は思った。
二学期に入り部活は終わり放課後、僕は週二回程度の個人授業を受けるようになった。泉は僕が授業を受ける日はいつも僕の部屋で待っててくれた。
伊緒「ただいまー。」
泉 「大変だね。」
伊緒「今までやってなっかったつけが回ってきただけだよ。」
泉 「伊緒は何のためにそこまで頑張るの?お父さんのため?」
伊緒「自分のためかな。」
泉 「具体的にどういう意味?」
伊緒「今まで生きてきて自分なんかどうでもいいと思ってた。でも高校入って泉に出会えた。自分がこのままじゃいけない。人のために頑張ろうと始めて思えた。それが泉だったり親だったり。泉が切っ掛けになったんだ。自分でも自分が変わっていくのが手に取るように分かった。」
泉 「じゃー具体的にはお父さんと私のために頑張っているの?」
伊緒「泉は具体的にしたがるね。あくまで俺は今自分のために頑張っている。」
泉 「・・・・。」
伊緒「ようするに泉に出会って自分そのものが変わったんだ。水を得た魚のように。」
泉 「私ねなんか最近不安になるの。伊緒は今頑張っている。何か私だけおいてかれたような不安が・・・・。」
伊緒「泉は泉だろ?俺は泉のおかげで変われた。俺は魚、泉は水。水がなければ魚は生きられない。」
泉 「でも魚は自由に動き回れるわ!」
伊緒「魚は水のない所には行けないよ。安心してくれ泉!」
泉 「なんだか少しだけ安心した。」
伊緒「少しだけ?」
泉 「もうすぐ体育祭だね。」
泉は話題を変えた。この時僕は泉は内心は安心してると勝手にそう思った。
伊緒「そーだね。競技何でるの?」
泉 「私は障害物競走。」
伊緒「泉っぽいね。」
泉 「何それーどういう意味?伊緒は何でるの?」
伊緒「俺はパン食い競争。」
泉 「えー似合わない!伊緒がパン食い!?」
伊緒「そう?自分では一番自分らしい競技選んだつもりだけど。」
泉は笑った。よっぽど可笑しかったのか?泉は僕に対してどういうイメージを抱いているのか?それにしても、もう体育祭の季節だ。泉が隣にいる人生はなんだか全力で走っているように早く感じた。このまま全力で走って行ったらこの先に何が見えるのだろうか?この時の僕と泉が知る訳もない。
体育祭前日、
泉 「明日お弁当作ってきてあげる!」
明日泉は僕に弁当を作って来てくれるらしい。手作り弁当なんて食べるのは何年ぶりだろうか?親の料理すらここ何年か食べていない。そういう家庭愛みたいな事に免疫のない僕はそういう愛情にめいいっぱい弱かった。翌日の朝いつもと同じように泉が僕の家に来た。
泉 「おはよう!」
普段いつも明るく元気な泉だが今日は一段と元気が良かった。
伊緒「おはよう。今日は一段と元気がいいね?」
泉 「何たって今日は伊緒との高校生活、最後の体育祭ですから。」
伊緒「泉は運動も大好きだもんね。」
泉 「うん。」
僕から見た泉は勉強、運動、音楽、絵画、何でもできる。本人は中学生の頃までは本気で漫画家になろうとしてたらしい。今でもその夢は捨てきれないらしいが、それに泉は見た目も文句なしといった所だ。何で泉はこんな学校に来たのか僕にとっては謎だ。僕は泉に劣等感みたいなものを当然感じてたが、泉にそれを決して悟られないようにしていた。僕と泉は只でさえ差があるのに劣等感を抱いてる小さい男なんて泉にも周りにも決して思われたくなかったからだ。
泉 「伊緒、絶対パン食い一位になってね!」
伊緒「OK!泉は自信あんでしょ?」
泉 「もちろん!」
僕の出番は午前中で泉は午後だ。後、僕と泉が出る種目は3年男子全員でやる棒倒しと、3年女子全員でやる、棒引きだ。棒倒しという種目は3年男子が2チームに分かれれ1チームが3メートル位の棒を10人位で支え、残りの男子が壁を作りその棒を倒されないように守り、もう1チームは笛の合図で全員でその棒を倒しに行く。そして次は攻めと守りを替えどちらのチームが早く倒せたかを競う競技だ。僕の学校は血の気の多い連中が多いので、毎年恒例の危険な競技だ。だがこの危険な競技で目立てばかっこいい競技だ。僕は泉にこの競技でいい所を見せようと気合いを入れていた。泉のでる棒引きという競技はやはり2チームに分かれ30メートル位離して2本の線を引き真ん中に棒を20本位置き、2本の線の外側に各チーム分かれ、笛の合図で一斉に棒を取りに行きどちらのチームが棒を多く取れるかという綱引きと似た様な競技だ。体育祭が始まりまずは僕のパン食い競争が始まった。
泉 「伊緒〜頑張ってね!」
伊緒「まかせとけー。」
立 「伊緒もパン食いなんだ。」
伊緒「立も?」
立 「あー。絶対負けないからな!」
伊緒「あっそ。」
まさか立もパン食いだったとは。でも当然負ける気はしなかった。
「位置について」
「用意・・・ドン!」
ピストルの合図で僕は走った。皆一斉位にパンの置いてある位置に着いた。立が一番最初にパンをくわえた。
立 「もらい!」
僕も慌てて立を追う。ゴールまでの距離50メートル。立との距離5メートルと言った所か。泉が見てる。僕は渾身の力を振り絞って走った。立との距離が縮まって行くのが分かった。テープを切る感触がリアルに感じた。
立 「ちくしょう!」
伊緒「残念でした。」
泉が僕達の所に走って来た。
泉 「二人とも早かったじゃん!」
立 「でしょー!」
伊緒「なんの自慢にもならないけどね。」
立は誇らしげに言った。僕は少しクールに言った。そうすると泉が立には聞こえない位な小さな声で、
泉 「かっこよかったよ。」
僕は泉と付き合って1年2ヶ月もたってるけど、泉のそんな言葉で顔が赤くなった。もうすぐ3年女子全員でやる、棒引きだ。僕は立とは部活以来だったので、一緒に見る事を誘った。
「続いての種目は3年女子の棒引きです。」
伊緒「泉の出番だ。直子もいるな。」
立 「最近泉とはどう?」
伊緒「前と同じだよ。それより直子の事は忘れられたのか?」
「ピー」っと笛が鳴った。泉は笛と同時に飛び出した。泉は他の女子より全然速かった。棒を一本取りまた次の棒へ走り出す。その姿はとても生き生きとし、とてもいい顔をしていた。
立 「凄いな泉。」
伊緒「凄いね。」
立 「何本取る気だよ。」
伊緒「でどうなんだよ?」
立 「忘れられたかな。」
伊緒「よかったじゃん。好きな人でも出来たか?」
立 「正確には忘れざる事を得なかった。」
伊緒「どういう意味だよ?」
立 「3ヶ月位前に告られていま付き合っている奴がいる。」
伊緒「誰と?」
立 「同じ中学の奴だよ。」
伊緒「物好きもいるもんだな。」
立 「言ってくれるじゃん。」
伊緒「冗談だよ。良かったな。」
立 「直子の事は正直まだ好きだ。」
伊緒「もう直子の事は忘れろ。」
立 「だよな。」
「ピー」っと笛がなった。競技が終わり泉が僕らの所に来た。
泉 「見た?」
立 「すごかったね!」
伊緒「何本取ったの?」
泉 「ちょっとーちゃんと見てたの?」
伊緒「いや見てたんだけどさぁ。」
泉 「4本だよ!」
伊緒「20本ある内の4本取ったんだ。やるじゃん!」
泉 「楽勝だよ。もうお昼だよ。りっ君も一緒にお昼どう?」
立 「いやおじゃま虫は消えます。」
伊緒「悪いな。」
泉 「じゃー2人で食べようか?」
僕らは2人で中庭に行きお昼を食べる事にした。泉の作ってきた弁当はちゃんと僕の好きな唐揚げやベーコンなどが入っていた。こういう愛のこもった手料理を食べるのは今までなかった。僕は一口一口味をかみしめながら食べた。午後からの競技はまず泉の障害物競走、そして体育祭の最後の競技に棒倒しがある。午後の始業チャイムが鳴った。
伊緒「泉頑張れよ!」
泉 「はーい!絶対一位になるから!」
伊緒「おう。」
泉の障害物競走が始まった。障害物競走は3年女子各クラスから代表が一人ずつでて、8クラスつまり8人で競う競技だ。障害物は網の下に潜り平均台を渡って跳び箱を跳び、最後にジュースを一気に飲み干しゴールだ。泉は網を潜り平均台を渡り跳び箱を跳ぶ、さすがだ、ダントツで一位だ。僕はゴール地点で泉を見ていた。泉はジュースを一気に飲み干し、ゴール!と思ったらゴールまで5メートル位の所で崩れる様に転んだ。「大丈夫!」と思うより僕はその泉の姿がやたらとおもしろく声を出して笑った。次々に追い越され泉は起きあがりゴールするがビリだった。ゴールすると泉はすぐに僕の所に来た。
泉 「ちょっと!」
伊緒「何?」
僕はまだ笑っている。
泉 「何がそんなに可笑しいの?」
伊緒「いや、泉のそのギャップがおもしろくて。」
泉 「心配じゃないの?」
伊緒「全然。それよりどうしたの?」
泉 「もう!ジュース一気に飲み過ぎたの!」
泉は一位になれずビリになったのと、僕の態度でご立腹のようだ。
伊緒「いや珍しいものが見れたよ。」
泉 「はいはい。次は伊緒の棒倒しだけだね。」
伊緒「おう、よーく見といてね。誰かさん見たいな恥ずかしい真似はしないから。」
泉 「怪我だけはしないでよ!」
ようやく泉の競技が終わり残るは僕の棒倒しだけだ。僕は張り切っていた。僕は泉と一緒に体育祭の種目を見ていた。
「次は最後の種目3年男子、棒倒しです」
伊緒「行ってくるわ!」
泉 「頑張ってね!」
3年生男子がまず2チームに分かれた。僕のチームは最初攻めで後に守りだ。「ピー」っと笛が鳴った。相手の陣地の棒までもうダッシュッ!観客席の泉の姿が見えた。相手の人の壁を突き破り棒に手がかかった。一気にその棒を倒そうとするがそんなに甘くない!2,3人につかまれ僕は投げ倒された。他にも倒された奴が数人いる。「こうでなきゃな!」すぐに起きあがり、人の山を登り棒を掴んだ。すでに見方が2,3人棒を掴んでいる。「倒せー!」という声と共に棒が倒れた。「ピー」と終わりの笛が鳴る。次は僕達が守る番だ。誰が棒を支えるか、壁になるか決めた。
勝郎「伊緒!棒支えようぜ!」
伊緒「お前が見方で良かったよ。」
勝郎とは同じ学校だが、あんま喋る機会がなかった。あの高一の文化祭以来だ。「ピー」始まりの笛がなった。向こうの陣地から敵が凄い勢いで走ってくる。見方の壁があっという間に破れた。「一気に行くぞ!」敵の声が聞こえる。敵がどんどん攻めてきた!殴る!蹴る!僕はいったい今何が起きてるいるのいか分からなかったが、ひたすら棒を支えた。勝郎が棒を支えながら、敵を殴っている姿が見えた。それにしても凄い圧力だ。僕は倒れた。「ピー」笛がなった。
勝郎「結構殴られたな。」
伊緒「あー。でもあんたはやっぱり凄いよ。」
「ただいまの3年男子棒倒しは、1234組みチームの勝ちです!」
勝郎「やったな。」
僕たちのチームは何とか勝つ事が出来た。僕は泉の所に行った。
泉 「大丈夫?傷だらけじゃない!」
伊緒「この位、大丈夫だよ。」
泉 「かっこいいじゃん!」
泉のその言葉は始めて僕に声をかけてくれた時の一言だった。あの頃が懐かしい。体育祭が終わってまた勉強と泉のいる日常に戻る。なんか妙な切なさが残った。
1997年冬。専門の試験を目前にしていた。普段の勉強が身に付き自信と落ち着きがあった。不思議な事だ、人は支えてくれる人がいればこうも前向きになれるとは。泉は僕を励ましながら空いてる時間を利用して自分の好きな漫画を書いたり絵を描いたりなど、上手く生活していた。
泉 「もうすぐ試験だね!どう自信の程は?」
泉が僕に問いかけた。
伊緒「やるだけの事はやったよ。これでも受からなかったら自分の力が足りなかっただけ   の事だよ。」
泉 「つまり自信はある訳ね?」
伊緒「どうかな?」
泉 「もし受からなかったらどうするの?」
伊緒「その時はその時考えればいい。」
泉 「そっか。何か伊緒変わったね。」
伊緒「どんな風に?」
泉 「なんか頼れるっていうか、しっかりしたというか。」
伊緒「泉のおかげだよ。」
泉の顔が赤くなった。
泉 「試験ってさぁークリスマスの日だよね?」
泉 「つまりークリスマスは勉強しなくてもいいから自由にできるね。」
伊緒「何しようか?」
泉 「お祝いでさぁーパァーっとディズニーランドでも行かない?」
僕ら2度目のクリスマスはこうしてディズニーランドに行くことになった。ディズニーランドは幼い頃何回か父親に連れて行ってもらった事がある。もちろん母の姿はなかった。ディズニーランドは凄い人の渦だが、昔みたピーターパンの世界の中の様な雰囲気が好きだ。僕はクリスマスを楽しみにし、試験のための最後の調整をした。試験当日のクリスマスの日。僕は朝5時には起きていた。試験は10時からだ。僕の心境は別に受からなくてもいいとも思えていた。それはただの諦めではなく自分は自分の力を100パーセントだした。その結果、受からなくても得た物は大きいと思えたからだ。僕はここ二年で大夫成長した。もちろん泉のおかげだ。朝8時頃泉からの応援の電話があった。やるだけの事はやった。頑張ろうと僕はそう思った。僕が受けようとしてる専門学校は埼玉県の上尾のはずれにある。僕の家から自転車で同じ市内だが40分位かかる。僕は専門学校に着き試験会場に行った。試験会場にはすでに50人位の人がいた。机の右上に書いてある試験番号と受験票を照らし合わせ僕は僕の席に座った。テストが配られ問題に目をやる。何とかなりそうだ。僕は国語、数学、一般常識と次々に問題を問いていった。ようやく試験が終わり僕は勉強から解き放された。泉とは一時に僕の家で待ち合わせをしていた。
泉 「どうだった?」
伊緒「まぁまぁかな。」
泉 「伊緒のまぁまぁは自信ありってとこね!」
伊緒「流石よくご存じで。」
泉 「それでは行きますか。」
僕らは電車でディズニーランドへ向かった。上尾からディズニーランドのある舞浜までは電車で乗り換えが2回程だが2時間位かかる。泉と始めての長旅だ。僕はディズニーランドは久しぶりだが泉はどうなのであろう?やはり前の彼氏と来たのか?そういえば今まで言われなかったから気付かなかったが、前の彼氏の事を聞いたのは、あの月夜の晩だけだ。果たして泉は前の彼氏とどんな付き合い方をしてたのだろう?僕は電車に揺られながら前の彼氏の事ばかり気になっていた。
泉 「どうしたの?」
泉は僕が何か考えてたり、怒ったり、嬉しかったり、悲しかったりする時はいつもそんな僕に気付く。泉からしてみれば、もうこの時はすでに僕の事は手に取るように分かるらしい。それが時には嬉しかったり、時には困ってしまう事もある。今はどちらかというと困ってしまう方だ。
伊緒「何が?」
泉 「ごまかしたって分かる何か考えてるでしょ?」
伊緒「いや、泉とこうして出かけるの始めてだなーって考えてた。」
泉 「嘘つき!そんな事じゃない。」
泉からしてみれば僕の嘘もすぐ分かるらしい。
伊緒「ちょっとね。」
泉 「前の彼氏の事?」
これには僕もびっくりした。
伊緒「エスパーっすか!」
泉 「何か聞きたいことがあるなら言って!」
伊緒「いや、泉が前の彼氏とどう時を過ごしてたのかなーって思ってたけどホントもうい   いや。俺は過去気にしないし。」
泉 「ふ〜ん。今度は本当みたいね。」
僕らはしばらく無言のまま電車に揺られていた。泉の過去は気にならないと言うのは嘘になるかもしれないけど、本当自分と会う前の泉の事を気にするのはやめようと思った。そうこうしてる内にディズニーランドに着いた。
伊緒「すごい人混みだね。」
泉 「クリスマスにディズニーランドは流石に混むの覚悟で来たんじゃない。」
伊緒「それにしてもここまで混んでるとは。」
泉 「いい場所には人も大勢くるわ。そんな事よりディズニーランドにこんなかわいい女   の子とこれて幸せ感じない?」
僕は笑った。確かに泉の言う通りだ。17年間女っ気なしで始めて付き合ったのが泉だなんて僕は幸せ過ぎる。泉と付き合って1年半位になるが、改めて泉が僕の隣にいる現実が嘘のようだった。泉は子供の様にはしゃいでいた。泉を見ていると自分も吸い込まれるように泉と同じ気持ちになれる。僕がたらないものは泉が持ってる。泉がたらない物は僕が持ってる。そう、うちらは二人で一人。お互いどちらかが欠けてしまったら生きられない。泉といる時間はあっという間だ。いつもそうだ。時間はもう21時になっていた。ディズニーランドもパレードが終わりいいムードをただよらせていた。フィナーレの季節はずれの花火が上がった。
泉 「きれい。」
伊緒「泉の方が綺麗だよ。」
泉 「えっ?」
僕は泉を抱きしめた。僕が無意識に言ってしまった事と、無意識にした行動に泉は動揺を隠しきれなかった。泉はいつまで僕と一緒にいてくれるだろう?急に怖くなった。これが高校生活最後のクリスマスになった。
1998年春。3年間の高校生活も後わずかだ。僕は何とか専門学校も合格でき進路も決まった。泉も見事推薦に合格し短大に行く事に決定していた。互いに余裕ができ僕と泉は残りのわずかな高校生活を楽しく過ごしていた。3学期の始めに進路の決まってる者で卒業アルバム委員を決めた。僕と泉はクラスは別だが前からアルバム委員をやろうと泉に言われていたので僕は立候補した。
泉 「アルバム委員にはなれた?」
伊緒「なれたよ。泉は?」
泉 「私もなれた。」
伊緒「じゃー一緒に委員会活動出来るね。」
泉 「もうすぐ卒業だね。」
伊緒「うん。どう?悲しい?」
泉 「悲しいに決まってるじゃん。伊緒は悲しくないの?」
伊緒「俺は泉と別の学校に行くことは寂しいけど、半分は楽しみだな。」
泉 「どうして?」
伊緒「新しい環境で生まれ変わった自分を試すんだ。」
泉 「?」
伊緒「自分の力がどの程度の物か。生まれて始めて全力で頑張る。」
泉 「伊緒はやっぱ凄いよ。」
この泉の言葉に僕は呆気にとられた。泉は僕なんかより何でも出来るし、いったい何が凄いのだろう?でも馬鹿な僕でも分かる事はある。人は変われる。
卒業式を間近にしている僕ら3年はこの時期やる事がなく名目は研修期間だが2週間ばかりの休みに入った。その休みが明ければ卒業式だ。進路が決まってない者はもちろん就職活動、進路の決まっている者に関してはただの休みだ。僕と泉はこれといってやることがないのでアルバム委員に入ったのだ。アルバム委員はその研修期間中毎日集まった。僕は立と何かあるのか立もアルバム委員だった。アルバム委員のやることは簡単だ。3年間分の写真、体育祭だの文化祭だの写真のいい物を選ぶだけだ。その大量にある写真を別のクラスで3人1組になり手分けして選んでいく事になった。もちろん僕は泉ともう一人は立になった。
立 「おじゃまして悪いね。」
伊緒「全くだ。」
泉 「しょうがないじゃない3人一組なんだから!」
伊緒「はいはい。」
泉 「バドミントン部復活だね。」
こうして大量の写真があると当然自分の写真もある。その中にはまだ泉を知らない自分。泉を知ってるがまだ付き合ってない自分。泉と付き合っている自分と僕の中で三つに分かれた。その自分の変わっていく姿を見ていると泉がその僕の写真ばかり選んでることに気付いた。
伊緒「ちょっと!」
泉 「何?」
伊緒「俺の写真ばかり選んでない?」
泉 「いけない?」
伊緒「いけないって言うかこういうのは平等に選んでやらないと。」
泉 「いいじゃん別に!そのために休みの日わざわざ来て委員会やってんだから!」
やっと謎が解けた。やる事がないからと泉は僕に言っていたが、こういう事か。そういえば泉は写真が好きだ。
伊緒「でもさーやりすぎじゃない?なぁ立?」
僕は立に振った。
泉 「いいよねーりっくん!別に私達が選んだ物だけじゃないし!」
立 「う〜ん。」
泉 「りっくんのも沢山選んであげるから!」
立 「まぁいいんじゃない!」
伊緒「このやろー。」
立は泉の言葉であっさり寝返った。そうとなればもうやる事は一つ、泉の写ってる写真を選びまくるだけだ。泉の写真は沢山あった。その中にはもちろん僕が知らない泉がいる。僕の知らない写真の中の泉は自分を驕るわけじゃないが笑っていても何処か寂しそうな面影があった。僕の知っている写真の中の泉は生き生きしている。泉も僕に会えてよかったのだろうか?なんだか急に嬉しくなった。立は気を使ってか僕と泉の写っている写真を選んでいた。こんな感じで僕らは研修期間中の休みを過ごしていた。そして遂に僕らは卒業式を迎えた。卒業式の日は雲一つない快晴だった。僕は少し早めに家の外へでて、いつもの様に泉を待った。
泉 「おはよう!」
伊緒「おはよう。」
泉 「今日で伊緒の制服姿も身をさめだね。」
伊緒「こうして二人で登校するのも最後か。」
泉 「なんだか寂しいね。」
伊緒「行こうか!」
泉 「うん!」
いつもは元気な泉も今日は少し寂しそうだ。僕たち高校生活最後のイベント卒業式が始まった。流石の僕も卒業証書を受け取った時はなんとも言えない空しさを感じた。その後に泉が卒業証書を受け取る姿を見た僕は何故か涙が出そうになった。尾崎豊ではないが一体僕らは何から卒業するのだろう?義務教育が終わり急に社会に放り出された用で少し怖くなった。だが泉がこれから先何があろうと僕と一緒にいてくれるだろう。ふとそう思った瞬間その不安がスッーと消えた。こうして僕らの高校生活は終止符を打った。4月に入り僕と泉は別々の道を歩み出した。泉は相変わらず元気でそれが僕が元気でいられる理由だ。やはり違う学校に通っていると泉といられる時間がぐんと減った。平日はあまり泉と会えなかったが電話は毎日していた。僕の学校は上尾の外れにあり電気科の他にもインテリア科、建築科、自動車科とある。もちろん女子はいない。泉の通っている短大は川越の外れにあり、上尾から電車で30分ってとこだ。泉の学校も普通科だがやはり男子はいない。別にお互い信じていない訳ではもちろんないが、僕も泉も普通の男と女なので相手の事が気になるし、やはり相手の環境に異性がいるとなると気になりもする。そういった意味では僕も泉もうまい位にいい環境だった。僕と泉は規律を正すため電話でお互い目標を持とうと話合っていた。高校生活とは打って違い僕の学校は休むと放課後残ってその休んだ分の授業を受けるという厳しい学校だった。まぁごく一般の学校はそうかもしれない。僕の通ってた高校が例外なのだ。始めは慣れない環境に少し戸惑ったが、その厳しさが丁度僕には良かった。新生活が始まって間もない頃の日曜日、僕は泉の住んでる西浦和に行った。泉とは駅で待ち合わせをしていた。高校の頃、泉は高校があったからかもしれないけどよく上尾に来てくれていたので、二人が会う時はなるべく僕が西浦和に行くようにしていた。
泉 「ごめん!待った?」
僕はいつも泉を待った。それは少しでも早く泉に会いたいから会うときは少し早めに来ていたからだ。
伊緒「いや、全然待ってない。」
僕はいつもの様にそう言う。それは自分が勝手に早く来ているのと、早めに来て泉を待ってる時間が好きだからだ。僕らはいつもの様に泉の好きなプリクラを撮ったり、西浦和の町を目的もなく歩いたりしていた。昼になり駅近くのファミレスに入った。
伊緒「とんかつ定食!」
泉 「またトンカツ?いつも同じ物頼むのね。」
伊緒「好きな物は飽きないよ。俺にとっての泉の用にね。」
泉 「またキザな台詞言う。学校はどう?」
伊緒「いい環境だよ。周りの友達もみんな気が合うしね。」
泉 「そっか。良かったね。勉強の方はどう?」
伊緒「生まれ変わったように机に向かってるよ。電気おもしろいし。」
泉 「おじさんの血が流れてるからね。」
伊緒「泉はどうなの?」
泉 「私もそれなりに頑張ってるし友達も沢山出来た!」
伊緒「泉は人とすぐに仲良くなれるからね。」
泉 「目標は決まった?」
伊緒「学校の卒業試験に第二種電気工事士っていう資格がもらえるんだけど、その前の1月に第一種電気工事士っていう資格の試験があるのね、それに合格するつもり。でも毎年30人いるクラスで2人位しか受からないらしい。」
泉 「ずいぶん高いハードルだね。じゃー年末年始忙しいね。」
伊緒「泉の目標は?」
泉 「私は卒業後のやりたい事見つけるのと、学校を卒業する事かな〜伊緒に比べたら低い目標だけど。」
伊緒「そんな事ないよ。泉はこの二年で一生が変わっちゃうんだから、まだ時間あるし、ゆっくり考えな。」
泉 「ありがとう。」
僕はもう一つある決意をしていた。それは僕はこの専門生活一年の中でこの先の人生大きく左右してしまう事だろう、今死ぬほど頑張ればそれが僕の人生いや泉と僕の人生の第一歩になる。僕はただの目標ではなく、絶対に第一種の資格を取りたかった。そのためには本当に休みの日さえも勉強をしなくてはならない。泉とはその資格を取るまでは会わない事を決めていた。泉からしてみればわがままに思われるだろう。だが泉がいるからこそ自分だけの人生ではないという事での決意だった。
伊緒「泉、もう一つ勝手かもしれないけど決めた事があるんだ。」
泉 「何?」
伊緒「第一種の試験が終わるまで会えない。」
泉 「・・・・。」
泉 「大変なのは分かるけど私が行って会うのも駄目なの?」
伊緒「うん。」
泉 「何で?嫌だよ!寂しいよ!」
伊緒「今が俺にとって大事な時なんだ、分かってくれ。」
泉 「・・・・。」
伊緒「電話は毎日するから。」
泉 「だって試験は1月でしょ?後1年近くあるよ!」
伊緒「・・・・。」
泉 「GWは?夏休みは?クリスマスは?正月は?」
伊緒「もう決めたんだ。泉のためでもあるんだよ。」
泉 「一人で勝手に決めないでよ!」
泉は最後まで納得してくれなかった。泉はこの時どう思ったのだろうか?我ながらかわいそうな事をしたと思った。この日、泉と別れた後しばらく泉の後ろ姿を見ていたが、何処か寂しそうだった。この日を境に僕は人が変わった用に勉強に打ち込んだ。勉強の合間を見計らって泉に電話をしたが彼女が電話にでる事はなかった。泉の声すら聞けない生活は涙がでそうな位悲しい生活だった。何度も会いに行こうとしたが、それじゃ泉と僕が今辛い思いをしてることが報われないのと、会えばまた会いたくなると思い堪えた。泉もきっと苦しんでる。その苦しんでいる意味のためにも僕は必ず試験に受かろうと思った。
1998年夏。僕はいつもの用に机に向かう。たしか去年の夏もこうして机に向かってたな。ベランダの窓を見ていると泉が今にも来そうだ。勉強に一息つくと必ず泉を思い出す。思い出すのが辛いので勉強を精一杯頑張っていた。僕らは別に別れた訳じゃない。そう自分に言い聞かせた。そうするとコンコンと僕の部屋のベランダの窓を叩く音がする。まさか!僕はベランダの窓を開けた。
泉 「来ちゃった・・・・。」
そのあまりにも久しぶりに見る泉に僕は感極まって全身に鳥肌がたった。
泉 「本当にちょっと会いたかっただけなの・・・・。」
伊緒「ちょうど今、泉が来そうな感じがしたんだ。」
泉 「すぐ帰るね。」
伊緒「せっかく来たんだからあがりなよ!」
泉 「えっ?本当?怒られるかと思った。」
伊緒「泉の顔見て安心した。」
泉 「私も!勉強、捗ってそうだね。」
伊緒「おかげさまで。捗ってないと何のためにお互い辛い思いしてるのか分からない   からね。」
泉 「えっ?伊緒も辛いの?」
伊緒「当たり前じゃん!しばらく会わない内に俺の気持ち読めなくなった?」
泉 「そうかもね。」
泉は笑った。僕はTMの曲をかけた。
泉 「そろそろ行くね。」
伊緒「何で?何か用事あるの?」
泉 「ないけど勉強の邪魔しちゃ悪いなと思って。」
伊緒「今日はゆっくりしてきなよ!」
泉 「うん!」
泉は凄く嬉しそうに笑った。
泉 「あっこの曲好き。」
泉 「なんかこの曲、伊緒と出会う前みたいな感じしない?」    
伊緒「あ〜するね!何か切ない感じの歌だよね!」 
泉 「一億分の一の偶然かぁー私と伊緒が出会えたのもその位の確率かな?」
伊緒「いや世界の人口が50億だから50億分の一だよ!」
泉 「それを言うなら世界には動物や虫、植物もいるんだからもっと凄い確率じゃない?」 伊緒「う〜ん。そうだねー話変わるけど泉は前世とか信じる?」 
泉 「信じてるよ。」
伊緒「自分は何だったと思う?」
泉 「鳥!」
伊緒「おっ即答だね!何でそう思うの?」
泉 「笑われるかもしれないけど今でも翼が急にはえて空を飛べそうな気がするの。」
伊緒「・・・・。」
泉 「ずっーとずっ〜と昔、私は空を飛んでいる記憶があるの。」
伊緒「泉らしいね。でもそういう感覚的なものあるよね。デジャブと似たような感覚が。」
泉 「そう!伊緒は信じるの?」
伊緒「もちろん信じるよ。」
泉 「じゃー伊緒は何だったと思うの?」 
伊緒「俺は桜かな?」
泉 「さくらって木の桜?」
伊緒「そう!」
泉 「何で?」
伊緒「ある好きな季節、春になると見る物の心を奪う桜。沢山の人が見てるんだ。」
泉 「でも桜はすぐに散ってしまうわ。」
伊緒「そう。みなが見てくれるのは一年でたったの数週間。」
泉 「なんでそう思うの?」
伊緒「俺は一年でたった一瞬でも泉を喜ばせる事が出来るなら生きる意味があると思うから。」   
泉は少し照れていた。泉はよくこんなキザな事言えるな!などと思っているだろうか?でも僕がキザなのではなく泉の魅力が僕をキザにさせるのだ。僕は今日泉が来てくれて精神的に大夫助かった気がした。僕はこの事が僕にとっても泉にとっても癖になりそうだったので心を鬼にして泉にもうこういう事がないようにと堅く言った。また孤独な生活に戻る。だが今度は泉が電話にでてくれるようになったのでお互いどうしてるか分かる。僕はもしかして自分の都合の良いようにしているだけかもしれない。でも自分の力を試したかった。泉と会えない時間はものすごく長く感じた。会っている時の時間はすぐたつくせに、だが19年も生きていればそんな事位、百も承知だ。勉強に一息つくと僕は決まって高校の卒業アルバムを見た。もちろん泉を見るためだ。アルバムの中には僕と泉が選んだ自分たちが沢山いた。写真とは切ない物だ、写真になってしまうとそれはもう戻れない時間、過去になってしまう。だが泉がいる今があればその今は永遠だ。あれこれ自分で泉の事を考え勉強を進めていった。季節はそのえらくゆっくりな時の進みの中でも巡っていった。秋になり冬になり、3年目のクリスマスは一人で迎えることになった。クリスマスの日も僕は勉強に打ち込んだ。そして時はたち試験の1月を迎えた。試験日前の最後の日曜日、僕は一番大事な調整をしていた。そうするとまたいつかのようにコンコンとベランダを叩く音がした。まさか!僕はベランダの窓を開けた。目の前にはやはり泉が申し訳なさそうに立っていた。
泉 「・・・・。」
僕はちょっと腹を立てた。
伊緒「こんな大事な日に何しに来たの?」
僕が強い口調で泉に問いかけた。
泉 「ごめんんなさい。大事な日って誰よりも分かっているのにどうしても渡したい物があって」   
伊緒「何を?」
泉 「これ!」
泉が僕に手渡した物は一通の手紙と専門の作業着を着ている僕の手の平サイズの人形だった・・・・。僕は泉を抱き寄せた。
伊緒「ありがとう。」
と僕が言うと泉は少し震えながら、
泉 「試験頑張ってね。」
伊緒「あぁ。」
僕らはしばらく抱き合っていた。泉は抱き合った後、すぐに帰っていった。僕は泉からもらった手紙を読んだ。手紙にはこう書かれている。
伊緒へ
よくここまで頑張ったね。伊緒と会えない時間は寂しくて孤独で辛かったけど、伊緒が私のためにも頑張っているんだなぁと思うと私も頑張らなくちゃと思い日々を過ごしてきました。でも会ってない時も私達はいつも一緒だよね。電話はしてたけど声聞くと凄く会いたくなっちゃったり逆に辛い時もありました。私から見た伊緒は凄い頑張り屋さんで今の学校の勉強してた時も今の資格の勉強の時も私はいつも置いてかれた気がして私も何か頑張らなくちゃと思い私も学校と漫画等を頑張っていました。私にとっても伊緒のために頑張れることが沢山できたので感謝しています。伊緒なら大丈夫かもしれないけど、もし試験に落ちたときは私がめーいっぱい慰めてあげるから安心して試験に挑んでください。試験頑張ってね!   
               PS 人形は試験の時お守り替わりに持って行ってね!
と手紙には書かれていた。人形を見てみると本当に僕そっくりだ。僕は一粒の涙を流した。
1999年春。資格の試験も泉のおかげでなんとか合格でき、僕は割とのんびり時を過ごしていた。資格に合格出来たのは本当に泉のおかげだと僕は思っている。資格に合格したのはクラスで僕ともう一人だけだった。第一種に合格できたので学校の試験などは目をつぶっても出来る位だった。おかげでクラスでも成績は1番だ。泉は短大なので2年生になるが、僕は一年制なのでもうすぐ卒業する。この一年を振り返ってみると高校の時とは人が変わったように充実していた。もう社会に対する恐怖はもちろんないし、それどころか今度は社会で自分の力を試したかった。僕は人間的に大夫成長したと自分でも思っている。泉との関係も互いに成長したのか、自分のわがまま的な事は互いに自重するようになっていた。泉の方の学校生活も充実してるらしい。泉の友達は皆この時期単位をとるのに忙しいらしいが泉は余裕らしい。さすが泉だ。僕らは互いに余裕があったので頻繁に会っていた。ある日の日曜日、泉といつものように目的もなく西浦和の町を歩く。西浦和の町は結構来ているので僕にとっても地元の様な町だ。泉は西浦和駅から歩いて10分位の団地に母親と生まれた時から二人で生活してる。西浦和は駅前もあるのはファミリーマート位で全然、栄えていない。上尾より東京に近いが、僕は上尾より田舎だと思っている。僕らはよく駅から3分位の所にあるダイエーでプリクラを撮ったり昼食を取ったりと時間を潰していた。ダイエーの1階の表に出ている店のツナサラダのクレープが泉のおすすめなのだがこれがまた凄くおいしい。西浦和に来ると僕はいつもそのクレープを食べていた。
伊緒「ここのクレープはホントに旨いね!」
泉 「地元では西浦和名物ですから!」
伊緒「でも西浦和も田舎くさいけどいい町だね。」
泉 「それは馬鹿にしてるの?褒めてるの?って言うか上尾の方が田舎でしょ?」
伊緒「ははっ、でも駅前は確実に西浦和の方が田舎でしょ?」
泉 「駅前は認めるけど駅から離れると田んぼばっかだし牛もいるわ。始めて上尾行った時はびっくりしたんだから。」
伊緒「それもそうだね。でも泉が上尾の高校来なかったら俺らは今どうなってたかな?」
泉 「どうなってたってやっぱどうにもなっていなかったんじゃない?」
伊緒「泉は運命って信じる?」
泉 「また急にそういう事言う。でもどちらかと言うと信じるかな。」
伊緒「俺はもちろん信じてる。例え泉が上尾に来なくても、うちらは何処かで巡り会えたと思うよ。」
泉 「伊緒は本当ロマンチストだね。」
伊緒「でも泉が上尾の高校に来た時点でそれが運命だったんだよ。俺に会うために泉は上尾の高校に来たんだ。」
泉 「自分で言い出したくせに。」
伊緒「それはそうとどうして上尾のあんな馬鹿学校に泉は来たの?」
泉 「自分が入れる所あそこしかなかったから。」
伊緒「またまた〜」
泉 「実はね中学から凄く仲良くしてる友達がいてあの学校入ろうって決めてたの。」
伊緒「へぇー初耳。その友達って誰?」
泉 「伊緒は知らないわ。すぐに学校辞めちゃったから。」
伊緒「そっか。」
泉 「・・・・それだけ?」
伊緒「何が?」
泉 「友達のために進路決めんなとか、その友達はなんで辞めたのとか聞かないの?」
伊緒「う〜ん。でも泉がそうしたんだからそれなりの事情があったんでしょ?それにその友達もそれなりの事情があったんだから辞めたんでしょ?」
泉 「まぁそうだけど。」
伊緒「人が変わった事をしてもそれはそれなりの事情がある。俺はその事情を知りたがらないだけ。」
泉 「伊緒って変わってるよね。」
伊緒「今頃気付いたの?」
泉 「でもさ、そしたら何で上尾の高校来たのとか聞くの?それはそれなりの事情があったからじゃない?」
伊緒「確かに。俺は気まぐれだから。」
泉 「ずる〜い!」
伊緒「人の人生なんか矛盾だらけじゃない。違うかい?」
泉 「やっぱり伊緒は変わってるわ。」
泉は少し呆れていた。
伊緒「進路は決まった?」
泉 「うん。IT関連の会社行こうかなと思ってる。」
伊緒「ITって最近よく聞くけどなんの事?」
泉 「インフォメーションテクノロジーの略。簡単に言うとパソコン関係の会社よ。」
伊緒「へぇー流石、泉だね。」
泉 「伊緒はやっぱりお父さんの会社行くの?」
伊緒「ホントは違う会社行きたいけど親父のために親父の会社行くよ。」
泉 「そっか大変だね。」
泉とはいつもの様にたわいもない日常を過ごしていた。僕と泉は現在進行形だから気づく事はなかったが、こういうたわいもない日常が幸せに満ちていた。僕の学校生活の方は3月10日に卒業式なので4月1日から働いても休みが20日間ある。僕はその20日間に車の免許を合宿で取ろうと思っていた。合宿なら2週間で免許が取れる。教習場のお金など、もちろん持っていなかったので母親に借りる事になっていた。卒業式の日、僕は今までの努力が報われ校長賞という各科優秀な者が一人貰える賞を貰った。賞状という物はいつ貰ってもいい物だ、自分の力が認められたという気持ちになれる。この事を早く泉に知らせたかった。僕は泉のおかげでこの賞を取ったものと思っている。卒業式の日はいつも悲しくなる。専門の友達とはこの日から1、2年すると連絡が途絶えた。学校を卒業すると僕はすぐに免許を取りに新潟の教習所へいった。2週間ばっか泉に会えないのは悲しいが二人でお揃いの携帯電話を買ったのでそれで毎日電話をしていた。泉は合宿というだけで心配そうだったが、僕からして見ればただの免許を取るためだけの合宿だ。合宿生は僕より若いのもいればおじさんもいた。車は割と好きな方なので楽しく教習出来たと思っている。4月に入り僕は上尾に帰って来た。会社の方は父親が8日からでいいという電話があった。久しぶりに見る上尾の町は何処か懐かしい感じがした。新潟も田舎だったが上尾もやっぱり田舎だ。僕は泉に電話をし誘った。上尾駅で泉を待った。
泉 「おかえり!」
伊緒「ただいま・・・・。何か照れるね。」
泉 「何で?」
本当に何でだろうか?たった2週間しかたっていないのに泉は随分大人っぽくなった様に見えた。泉が大人びたのではなく僕が幼くなったのか?
泉 「どこ行く?」
伊緒「今日はとっておきの場所があるんだ。」
僕は泉を上尾と伊奈の境にあるKDDIの無線山という所に連れて行った。
泉 「すごい綺麗ー」
この無線山は時期になると目で見渡せる一面を桜の花で埋め尽くす。地元でもあんま知られていない僕のお気に入りのスポットだ。
伊緒「もうこんな時期になったんだね。」
桜を見ると心が和む。僕は本当に桜が大好きだ。
泉 「伊緒・・・・。生まれ変わってもまた出会おうね・・・・。」
泉が不意に言った言葉に僕は妙に切なくなった。一体この時泉はどういう意味で僕に言ったのか?泉に目をやると桜吹雪が泉をよける様に舞っていた。今始めて気付いたが泉という少女と桜という花は、なんて相性のいいものなんだろう。こんな桜の似合う人間に会ったのは生まれて始めてだ。近くすぎて今まで気付く事はなかった。僕は貴重な映像を目に焼けつけていた。泉はしばらく目を瞑っていた。まるで自分自身が桜になったかの様に。僕はこの目に映る美しすぎる映像を見て、このまま時が止まればいいと思っていた。
泉 「どうしたの?」
伊緒「えっ。」
また泉の言葉で我に返った。
泉 「また固まってるよ。」
伊緒「・・・・。」
泉 「でも伊緒のそういうとこも好きよ。さっきの話聞いてた?」
伊緒「うん。」
泉 「でどうなの?」
伊緒「あー来世がどうのこうのね。」
泉 「やっと戻ったよ。」
伊緒「前にさ前世の話したじゃん?」
泉 「それがどうしたの?」
伊緒「あの話、撤回するよ。」
泉 「どうして?」
伊緒「俺が桜じゃなくて、君が桜だったんだね。」
泉 「君ってなぁーに?それもまた訳わからん事言ってるよ。」
泉はいつものように呆れながら笑っている。泉と桜、今日は思いもよらぬ収穫があった。
1999年夏。仕事にも大夫慣れたが改めて夏が暑い事がわかった。僕の仕事は新築の建物、家やマンションなどの照明の配線をしたり、コンセントを付けたりなどの電気工事だ。冬はもっと辛いらしいが、夏の外仕事がここまで辛いとは思わなかった。ある暑い日の日曜日、僕は本当は泉に会いたかったが前々から大輔に上尾の水上公園に誘われていたので渋々、大輔と水上公園に行った。
大輔「最近どうよ?」
伊緒「何が?どうよじゃねーよ!何でこんな暑い中、男とプール来なきゃいけないんだよ!」
大輔「まーそういうなよ。たまにはいーべ。」
伊緒「まぁいいけどさぁ。」
大輔「まだいっちゃんっと続いてんの?」
伊緒「未だにラブラブだよ。」
大輔「結構長いねー」
伊緒「また別れたんだって?」
大輔「じゃなきゃお前なんか誘わねーって。」
伊緒「どういう理由で別れるの?」
大輔「理由なんかないよ。」
伊緒「じゃー何で別れるんだ?」
大輔「強いて言うなら時の流れに流されてかな。」
大輔はかっこつけて言ったみたいだったが、僕にはさっぱり分からなかった。
大輔「終わった恋の話なんかしてもしょうがない。それより伊緒さぁ見てみろよ。」
伊緒「?」
大輔「嫌だねー恋してる奴は!いっちゃん以外にもいい女沢山いるぞ!」
伊緒「泉以外の女なんて興味がない。」
大輔「たまにはハメはずせよ。」
伊緒「そんなくだらない事して泉失うようなまねはしないよ。」
大輔「やっぱりな。」
大輔は人を見透かす様に言った。
伊緒「何が?」
大輔「昔からお前が一途なの知ってたけどいっちゃんも一途そうだな・・・・。」
伊緒「何が言いたいの?」
大輔「俺が別れたから付き合わせてる訳じゃなくてさ、ちょっとお前達が心配でさ。」
伊緒「なぜゆえ?」
大輔「一途もいいけど思えば思うほど相手にとってプレッシャーがかかるんじゃない?」
伊緒「・・・・。」
大輔「それともし相手が自分から去って行ったらどうなる?」
伊緒「それはありえないね。」
大輔「だからもしだよ!」
伊緒「う〜ん。生きていけんかも・・・・。」
大輔「だろ。俺が言いたいのは別れろとか遊べとか言ってんじゃなくて、安全圏で付き合えよって事だよ。」
伊緒「なるほどね。でも後に言った奴はありえんし、先に言ったのも大丈夫かもな。俺も泉もそんなヤワじゃないよ。」
大輔「そういう思いこむ所がお前の欠点だ。」
この時、大輔の言った事は当たってたかもしれない。確かに思い当たる節がある。だが当時若かった僕は大輔が言った事を気にもしなかった。8月に入り本格的な暑さになってきた。僕はもちろん仕事に明け暮れる毎日だが泉はとっくに夏休みだ。今年は泉に僕の地元の花火大会や上尾祭りに一緒に行こうと誘われていた。いつもの様に僕は仕事を終え車で家に帰ってくるとたまに泉の姿があった。
泉 「仕事の方はどうですか?おじさんと上手くいってる?」
伊緒「俺は現場でてるから親父に会う機会すらないよ。」
泉 「そうなんだ。」
伊緒「そちらこそどうですか?学園最後の夏休みは?」
泉 「夏休みっていっても伊緒は仕事だしお金もないし、図書館行くぐらいかな。」
伊緒「見た目によらず結構地味なんだね。」
泉 「どういう意味よー!それよりもうすぐ上尾祭りだね!」
伊緒「そーねー。」
泉 「伊緒はお祭り嫌い?」
伊緒「大好きー。」
祭りか。昔は神輿をよく担いでいたが。祭りの雰囲気は昔から好きだった。あの日本ならではの独特の雰囲気が。祭りの日は駅前の中山道が歩行者天国になる。僕は泉と上尾の駅で待ち合わせした。泉は淡い青色の浴衣で来た。浴衣姿の泉を見て「なんて美事に浴衣を着こなすのだろう・・・」僕はその泉の妖美に魅入られてしまった。
伊緒「浴衣似合うじゃん。」
泉 「ありがと、これ今年買ったんだ!」
伊緒「そうなんだ。泉はホントに日本の風物詩が似合うね。」
泉 「私が日本の何が似合うって?」
泉ははしゃぐように祭りの人混みの中に入っていった。そして僕が泉に追いつくと僕の手を引っ張り、
泉 「早くしないと祭り終わっちゃうよ!」
伊緒「まだ時間いっぱいあるよ。」
泉 「伊緒とこんな楽しい時を過ごしてる時間は、いくらあったってもたんないのー!」
泉のその言葉に僕は同感し感動した。僕と泉の心は幼少時代に戻り、チョコバナナを食べたり、金魚すくいをしたり一緒にたこ焼きを食べたり、ラムネを飲んだりしていた。泉と過ごす祭りは泉の言った通り時計の針がいつもより何倍も早く回った。
伊緒「もう祭りも終わりだね。」
僕は自分のすくった金魚をその様子を見て欲しそうにしていた幼い子供に手渡した。
泉 「そうだね。何か楽しい出来事が終わると妙に切なくなる。」
伊緒「確かにね。でもその切なさを知ってるから楽しむ事が出来るんだよ。」
泉 「そうだけどさぁ。次は花火大会だね!」
伊緒「うん。そろそろ今日は帰ろっか。今日は家まで送るよ。」
泉 「嘘?ラッキー!」
泉を送ったのは泉のためではない。僕は泉の言ってた妙な切なさのやり場がなかったから泉と少しでも一緒にいたかった。泉を家に送り夏の夜の西浦和の町を一人で歩く。夜の町は学生は夏休みなので塾帰りの少年少女、目的もなく駅に溜まっている少年少女を目に見て昔の自分と見比べていた。あの合宿の夜のように生暖かいような逆に少し冷たいような風を受けながらあの時の情景を一人思い出していた。今は泉がいる生活が当たり前になっているけど未だにまだ泉と付き合っているという現実が信じられない自分がいた。花火大会までは後10日位あるが僕は仕事をしていたので10日なんていうのはあっという間に過ぎていった。花火大会の日やはり僕は泉を駅で待った。そうすると泉は祭りの時と同じ浴衣を着て来た。
泉 「おまたせー!」
伊緒「よう。」
泉 「どうやって行く?」
伊緒「あしは用意してるよ!」
僕は泉を自転車の後ろに座らせ荒川に向かった。駅からだと早くても自転車で30分かかる。行く途中何回か警察に注意されたが、かまわず二人乗りで行った。
泉 「ちょっとー警察大丈夫?」
伊緒「大丈夫だよ!奴らも今日は大忙しでそれどころじゃないから。」
泉 「こうしてられると幸せ感じるのは私だけですか?」
幸せなど何をしてる時でも、とうの昔から感じている。そんな話をしていると花火が上がりだした。
泉 「あ〜始まちゃったー大きい!凄く綺麗!」
伊緒「泉と花火を見るのは二回目だね。」
泉 「そうだね!でも花火は夏だと何倍も綺麗。」
伊緒「泉の方が綺麗だよ。」
僕はふざけてディズニーランドに行った時と同じ言葉を言った。
泉 「今度は抱きしめてくれないの?」
泉もそれに乗ってふざけて言った。荒川につき人の渦の中に入り泉と夏の花火を見た。僕は泉を見ると花火が打ち上がった光でよく見える泉の横顔を見て、
伊緒「昔は正面から見るのが精一杯で横顔なんて見れなかった。」
泉 「?」
伊緒「そういえばさ「打ち上げ花火下から見るか?横から見るか?」っていう岩井俊二の   映画知ってる?」
泉 「あー昔見たかも!どういう話の映画だっけ?」
伊緒「花火を横から見ると平べったいのか丸いのかと友達でもめるの。それで物語が二つあって主人公の少年が友達と学校のプールで泳ぎでどっちが早いか賭けをするんだ。」
泉 「?」
伊緒「自分達の賭け事態に意味はないんだけど、それをたまたま見てる主人公が惚れてる   少女が泳ぎの勝った方を花火大会に誘うと決めていたんだ。」
泉 「それで?」
伊緒「ホントに見たの?まぁいいや。それでその泳ぎの勝負で自分が勝った物語と自分が負けた物語とで二つに分かれるの。」
泉 「うんうん!」
伊緒「勝負に勝った物語の方はもちろんその少女と花火大会に行く。で負けた物語は友達同士で行くことになるんだ。」
泉 「おもしろそうね。」
伊緒「負けた方つまり友達と行く方は花火を横からみると平べったいのか丸いのかを確かめるため花火が打ち上げられる海岸の真横の灯台に行くんだ。でも負けた方の物語は灯台に行く前に話が終わる。」
泉 「どういう事?」
伊緒「それで勝った方の物語は少女と花火大会ではなく駆け落ちをしようとするんだ。」泉 「ちょっと待って少年達は何歳なの?」
伊緒「小学生だと思ったよ。」
泉 「小学生で駆け落ち?」
伊緒「まぁ聞いてよ。で結局少女が駆け落ちを諦めるんだ。」
泉 「だよね。」
伊緒「そして花火大会に結局行くけど花火は終わってしまった。ちょうどその頃賭けで負   けた友達と花火の事でもめた仲間が灯台に着くんだ。」
泉 「じゃあ両チームとも花火が見れなかったのね?」
伊緒「でも主人公が先生にたまたま会ってその先生の友達が花火師なんだ。それでその先生が友達の花火師に頼んで横から見ても下から見ても同じだろって事で海岸で一発花火をあげるんだ。」
泉 「でどうなの?丸いの?平べったいの?」
伊緒「花火は結局丸いんだけど丁度灯台にいた友達もその一発の花火を横から見る事が出来たんだ。」
泉 「伊緒は何が言いたいの?」
伊緒「この映画のタイトル「打ち上げ花火。下から見るか?横から見るか?」の意味は好きな人と見るか?友達と見るか?だと思うんだ。」
泉 「つまり?」
伊緒「勝手な思いこみだけどこの映画には恋人をとるか友達をとるかという意味が隠されてると思うんだ。」
泉 「伊緒はどっちを取る?」
伊緒「俺は惚れてるだけなら友達のために身を引くよ。」
泉 「・・・・。」
伊緒「でも恋人なら迷わず恋人を取る!泉は?」
泉 「右に同じく!」
僕らの相思相愛はいつまで続くのだろうか。
1999年秋。社会人の秋は大型の休みもなく行事もないので仕事は忙しかったがプライベートでは少し退屈だった。僕はこの退屈な秋に泉にも内緒である計画を立てていた。それはある程度貯まったお金でアパートを借り一人暮らしをするという計画だ。そろそろその計画を泉に言おうと日曜日、車で西浦和に向かった。団地の中のバスの停留場の裏に車を止められるので、そこが僕と泉の待ち合わせ場所になった。僕が着くとすでに泉の姿があった。僕は泉を車に乗せドライブをすることにした。首都高速を乗り東京に向かった。
泉 「今日はどこ行くの?」
伊緒「決めてない。」
泉 「東京ドライブだね!」
目的もなく車を走らせ湾岸線に乗り、お台場方面に向かった。そうすると葛西の看板が出てきたのでなんとなく高速を降りた。
伊緒「行く場所決まったよ!」
泉 「どこ?」
伊緒「葛西臨海公園。」
葛西臨海公園に着き車を降りた。葛西臨海公園は広い公園の中に水族館があり公園を南に行くとディズニーランドが見える海岸がある。とても気持ちが落ち着く場所だ。僕らは最初に海岸に行った。
泉 「伊緒と海来るの始めてだね!海なんて見るの何年ぶりだろう?」
泉の父親は泉が生まれる前からいなかった。だから泉は家族と海に来たことなどなかったのだろう。僕も家族と海に来た事はない。僕もここ何十年海を見ていなかった。
伊緒「泉さー俺一人暮らししようと思ってるんだ。」
泉 「えっ?いつ?」
伊緒「金が貯まったからすぐにでもしようと思ってる。」
泉は割と驚かなかった。
泉 「私も今年卒業だから私が卒業したら一緒に住もうよ!」
泉を驚かすつもりが僕が驚かされてしまった。
伊緒「俺も泉と一緒に住みたいけど親は大丈夫?」
泉 「大丈夫!何とかするよ!」
伊緒「そしたら俺、挨拶しに行くよ!」
泉 「それこそ理解されないから、私に任せといて!」
この後、水族館に行き僕らは帰った。しかし泉には驚かされた。まさか一人暮らしが来年の4月から同棲になるなんて。しかし僕にとってはこの上ない喜ばしい事だった。僕はすぐに不動産を転々としアパート探しを始めた。泉が私も住むのだからと一緒に付いてくる日もあった。僕と泉が決めたアパートは築10年経っているけど外見も綺麗にしてあって中も綺麗にリフォームされたすべて和室の3DKの2階建てのアパートだ。二人で住むには少し広いかもしれないが価格が月6万円と広さの割には手頃だった。4世帯のアパートで2階の奥の部屋が僕らが住む部屋になった。まずは僕の一人暮らしの生活が始まった。ご飯は今まで通りコンビニ弁当で済ましていたが泉が学校の休みの日などは作ってくれた。掃除洗濯には少し手間取ったが、やはり泉が手伝ってくれたので何とかなっていた。
1999年冬。世紀末の風が吹いても僕と泉の関係は変わらなかった。そんな初冬に僕は運命的な出会いが会った。それは雪との出会いだ。大輔と仲良くしている則晃という友達がいた。則晃と僕は小中学と同じだったがクラスが一緒になった事がなかったので口も聞いたことのない関係だったが、大輔つながりでスノーボードに無理矢理誘われ3人で則晃の車で新潟にボードに行ったのだ。
伊緒「俺ボード始めてなんだけど滑れるかな?」
則晃「始めてで滑れるほどボードは甘くないよ。」
大輔「まぁ俺もまだ二回しかした事ないから伊緒一緒に練習しようぜ!」
伊緒「則はどの位やってるの?」
則晃「俺は高一からやってるからもう5年位になるかな。」
伊緒「すげーな。」
則晃「ボード上手くなりたいなら気合いと根性と回数行く事だね。」
スキーもやった事のない僕からしてみればまるっきりの未知の世界だった。この時はそんな真剣にやろうとは思ってなかった。僕らは車の中で昔話や女の話で盛り上がってるうちに新潟のゲレンデに着いた。時間は朝の7時位だろう、あたりはうっすら明るくてきめ細かな雪が降っていた。僕が住んでる埼玉は滅多に雪は降らないので雪という物に親しみがなかった。僕は車から降りタバコを吸いながら空を見上げ右手を差し伸べ手に落ちた一片の雪の結晶をしばらく見つめていた。雪の結晶は僕の手の平ですぐに溶けてしまう。この世には永遠などない、だけどもあまりにも早くそれは消えてってしまった。美しければ美しい物ほど早く消えてしまう僕はそう思った。
則晃「黄昏れてないで早く行こ!」
僕は儚さを感じつつウェアと板を借りにレンタル屋に行った。そして僕は始めてなのにリフトでゲレンデの頂上駅まで則晃と大輔に連れて行かれた。
伊緒「いきなりこんな所連れて来られても滑れんよ!」
則晃「始めは皆そうなんだよ!」
大輔「則、先行っていいよ。俺は伊緒とゆっくり降りて行くから。」
則晃「悪いな。大輔も伊緒も早く上手くなれよ。」
則晃はすでにスノボ中毒だった。山の頂上まで来るとうっすらと架かっていた雲の様な物が晴れていた。僕は辺りを見渡すと一面の雪景色だった。僕は滑るどころか立つこともままならない状態だった。大輔はそんな僕に手取り足取り教えてくれた。ようやく下まで着くと則晃が首を長くして待っていた。ボードか。悪くないと僕は思った。
2000年春。泉もK企業という一流会社に見事就職が決まり、僕らは一緒に住む事になった。泉は社会人になって大人びたというか一層綺麗になった。そんな大人びた泉の姿を見て僕はまた泉と僕との距離を引き離された感じがした。こういう考えは子供かもしれないけど自分と泉を自分の中で比較してしまう。僕は自分に自信持てる物が見つからないでいた。だが今更そんな事を気にしてもしょうがない僕と泉は一緒に住んでいるのだ。泉といる時間は早い、それは同棲をしてても変わらなかった。平日仕事から帰るとすぐに眠る時間になる。そして朝。そんな日々の生活だった。地球が早く回る時間の中でも僕は幸せを感じていた。ある日曜日、泉はTMのアルバムをかけ掃除に洗濯と家事をしていた。僕はそれをひやかすように手伝っていた。
伊緒「この曲俺に当てはまる。」
泉 「どこら辺が?」
伊緒「全部だね!」
泉 「ずるい!特にどこら辺が?」
伊緒「じゃあさ何処が好きに質問変えない?」
泉 「いいよー。何処が好きなの?」
伊緒「愛せなかった自分以外の誰か愛したいのさ自分のためじゃなしにってとこかな?」泉 「伊緒らしいね!でも私もこの曲好きよ。」
伊緒「泉は何処が好きなの?」
泉 「ぜーんぶ!」
泉は大人びたけど性格は社会人になっても変わらなかった。
伊緒「仕事はどう?」
泉 「忙しいけど楽しいよ!自分の居場所があるし!」
伊緒「そっか。泉は何やっても出来るからね!」
泉 「伊緒は私の事、買いかぶりすぎよ!私にだって出来ないこと沢山あるわ!」
伊緒「例えば?」
泉 「・・・・あるの!」
僕は笑った。
伊緒「同棲の方はどうですか?」
泉 「・・・・おしえなーい!」
そんな泉が僕との同棲生活の中で、時折見せる泉の無邪気な顔が僕の生き甲斐になっていた。よく同棲をするとその人の嫌な所まで見えてしまう、などという言葉を聞いたことがあるが僕と泉の相思相愛は変わらなかった。
2000年夏。また仕事が辛い季節になった。社会人の一年は学生と違いあっという間に過ぎてゆく。仕事の方は僕も泉も順調だった。夏の祭りと花火大会は二人の恒例行事となっていた。上尾の水上公園も近くにあるので、することのない日曜日はは決まって水上公園に行った。泉の水着姿はビキニではないけれど何回見ても見飽きない。それより僕は他の男の視線が気になっていた。別に実際は見てる訳ではないが、皆が泉を見てるような感じがした。その事にすら嫉妬してしまう自分、いや自分をそうさせる泉の魅力がいけないのだ。水上公園の中心にある噴水が風に流されて水の細かいしぶきを浴びながら泉が僕に言った。
泉 「今年お盆休みある?」
伊緒「あるよ!」
泉 「どっか行こうよ!」
伊緒「いいよ!何処行きたい?」
泉 「明日、仕事帰りになんか本買ってくる!」
翌日仕事が終わり、泉は沢山のるるぶという旅行の本を買ってきた。泉が買ってきた物は伊豆、日光、箱根、長野と沢山あった。
伊緒「一体何年分買ってきたの?」
泉 「いいじゃない、始めての大きい旅行なんだから!」
伊緒「まずさぁ何泊するか決めようよ!」
泉 「私は多ければ多いほどいいなぁー。」
伊緒「多いほどいいなって大体多くて何泊位考えてるの?」
泉 「う〜ん3,4泊?」
伊緒「3,4泊もして見る所あるかな?」
泉 「伊緒と一緒なら見る所なくてもいいよ!」
泉はたまに僕をドキッとさせる。
伊緒「それは嬉しい限りだけど、始めての旅行だし、2泊位にしようよ。」
泉 「それもそうだね!そうしよう!」
伊緒「じゃあさ、一番何処行きたい?」
泉 「ざっと見たところでは箱根かな?伊緒は?」
伊緒「じゃあ二番目は?」
泉 「長野!ねぇ伊緒は?」
伊緒「三番目は?」
泉 「・・・・日光。伊緒私の話聞いてる?」
伊緒「あっごめんごめん。泉の行きたい所が俺の行きたい所だよ!」
泉 「じゃあー箱根行くって事?」
伊緒「いや今年は長野へ行こう!」
泉 「えっ?箱根は?」
伊緒「で来年は日光!」
泉 「もう!箱根は?ちゃんと人の話聞いてる?私が一番行きたいのは箱根なんだよ!」
伊緒「知ってるよ!だから箱根は長い長い泉との時間の中の最後の方にとっておこうよ!」
泉 「・・・・うん!」
こうして僕らの初旅行は長野へ行くことになった。僕のお盆休みは13日の日曜から16日の水曜日までだ。泉の休みは僕よりも一日多く17日の木曜までだ。僕は現場仕事なので他の一般の会社よりいつも休みが少なかった。旅行出発の日曜の日は僕らは朝6時に起き長野へと車で向かった。流石にお盆初の日なので関越道は混んでいた。長野へ着いたのは昼の11時位だった。僕らは長野自動車道の松本ICを降り松本城に行った。そして松本市内の観光をし宿に泊まった。次の日はビーナスラインに乗った。その日の長野はよく晴れていて車の窓から見えるビーナスラインに広がる高原は僕ら埼玉に住んでるものにとっては別世界だった。ビーナスラインの頂上の美術館の駐車場に車を止め山の頂上の王ヶ頭というところまで僕らは歩いていった。そこには美しの塔があった。
伊緒「へぇーこれが美しの塔かぁ。」
僕が黄昏れていると泉が横やりを入れるように、
泉 「旅行の本で始めて知った癖に。でもまるで天国にでも来たような景色ね。綺麗・・・・。」
美しの塔の石盤に目をやるとこう書かれていた。
登りついて不意に開けた眼前の風景に
しばらくは世界の天井が抜けたかと思う
やがて一歩を踏みこんで岩にまたがりながら
此の高さにおける此の広がりの把握に尚もくるしむ
無制限な おおどかな
荒っぽくて 新鮮な
此の風景の情緒はただ身にしみるように本源的で
尋常の尺度にはまるで桁がはずれている
秋が雲の砲煙をどんどん上げて
空は青と白との目も覚めるだんだら
物見石の準平原から和田峠の方へ
一羽の鷲が流れ矢のように落ちていった
泉 「どういう意味だろう?」
伊緒「泉は分からない?」
泉 「始めの方は分かるけど後は分からない。伊緒は分かるの?」
伊緒「分かるよ!」
泉 「どういう意味?」
伊緒「ようはこのすばらしい景色と・・・・。」
泉 「うんうん。」
伊緒「泉がいるということは凄く幸せだって!」
泉 「なぁにそれー」
僕は美ヶ原高原美術館へと走った。泉も僕に着いてくるように走った。幸せだった・・・・。僕らは美ヶ原高原美術館が気に入ったので次の日もここに来ることにした。そして次の日、その日も天気に恵まれた。今日で旅行も終わりだ。
泉 「何かあっという間だね・・・・。」
伊緒「また来ればいいじゃん!いつでも来れるよ。」
泉 「ううん。ここにはもう来ない・・・・。」
伊緒「何で?お気に召さなかった?」
泉 「ううん。ここは凄く素敵な所。」
伊緒「じゃー何で?」
泉 「伊緒とはいろんなところ行きたい!それでもここに来たいと思う日が来ればまた来ましょ!」
伊緒「分かった。」
泉 「伊緒!あれ!」
泉が見つけた物は駐車場のエントランスの建物のはじにあるプリクラを撮る機械だ。
伊緒「泉はプリクラに目がないからね。」
泉 「撮ろうよ!」
伊緒「嫌だって言っても撮るんでしょ?」
泉 「もちろん!こういう旅先のプリクラは一段といい!」
僕は泉に誘われプリクラを撮った。
泉 「わぁー台の横、沢山プリクラ貼ってある」
伊緒「結構な数だね。」
泉 「記念に私達のも貼ろうよ!」
伊緒「思い出になるね。」
泉 「そしてまた来たときにここのプリクラ見に来よう!」
泉はプリクラを一枚剥がし台の横に貼った。何年か先にまた二人でここに来てこのプリクラを見るのが楽しみに残った。こうして僕らの初旅行は幕を閉じた。帰りの高速は渋滞で帰るのに20時間かかった。その間、僕が運転をしてる時は泉は一睡もしないで僕の話相手になってくれた。こういう泉の思いやりが僕が泉の事をどんどん好きにさせる。
2000年秋。電気の職人の仕事も大夫、手に着く様になった。僕はこの秋ある仕事の日、珍しく父親に会社に来るように告げられた。社長の話はそろそろ現場も馴れてきたので次の川通り公園野球場の現場で職人から現場代理人、電気の現場監督になってほしいという話だった。父親の会社は女性の事務員、僕を含めて従業員が6人しかいない。その5人は皆職人で、代理人は父親一人でやっていた。父親は代理人の社員が前から欲しくて社員を育てたり、代理人を募集したりなど手を尽くしたらしいが、今の会社では代理人は社長一人という厳しい現実だ。代理人は誰でも出来る様な仕事ではないらしい。現場代理人という仕事はまず建築現場で工事分けすると、建築工事、電気工事、設備工事と大きく分けるとこの3つだ。この3つが協力して建物が出来る。例えば5階建ての30世帯のマンションを例えると、建築の監督が所長が一人、主任が一人、主任補佐が一人と建築の監督は3人位だ。そして電気、設備が各一人。建築の仕事は簡単に言うと壁や天井、床など建物自体を作る仕事。電気は照明やコンセントなどを付け電気を生かす仕事。設備は水道の給水や排水など水回り、それと空調エアコン工事だ。その中で僕は電気工事の代理人という事だ。代理人の仕事は施主や設計事務所、建築、設備と毎週打ち合わせをする。図面を書いたり工程管理、職人の管理などが主な仕事だ。代理人にとって一番必要な物は、この仕事内容でも分かる通り技術面はもちろんコミュニケーション能力が必要となる。職人、施主などの打ち合わせ、人をいかに動かせるかが代理人の腕の見せ所だ。始めはいきなり代理人をやれと言われても出来るものではないので今まで通り父親が代理人で僕は代理人補佐をやってほしいとの事だった。それから僕がこれから代理人としてやっていけるかどうかはこの現場での仕事を見て父親が判断するとの事だった。僕にとっては始めての大きい仕事だった。僕はこの現場はチャンスを掴むための第一歩だと思った。これで自分の力用が分かると思った。コミュニケーションに無縁だった僕は始めはかなり戸惑ったが気合いと若さでなんとか乗り切ることが出来た。乗り切る事が出来たと言っても相当な努力だった。年が若いと言うだけで職人も施主も始めは全然、相手にしてくれなかったのだ。だが僕の仕事の頑張りを認めてくれてか次第に職人も施主も信用してくれるようになったのだ。川通り公園野球場の工期は来年の秋までとかなり長い工期だった。この野球場で僕は人間的に大夫成長したものと思っている。代理人とは相手は人間なのでどの仕事もそうかもしれないが、やっぱり人を相手にしてると仕事以外のいろんな事が見えてくる様な感覚だった。
2000年冬。仕事も充実し、泉との関係も上手くいっていた。僕は去年からスノーボードを始めて去年は友達が掴まる時は友達と掴まらない時は一人でもと10回位行った。滑るどころか立つことも出来なかった僕だが、それが悔しくて悔しくて何度も練習をし一シーズンで僕はターンで上から滑って来ることが出来ていた。僕は今年、板とブーツとウェアを買った。ゲレンデに行く前夜に愛機のサロモンの板にワックスがけをするのが楽しみになっていた。そんな姿を泉はいつも不思議そうに見ていた。
泉 「またボード?」
伊緒「うん。」
泉 「何がそこまでさせるの?」
伊緒「う〜ん理屈じゃないんだよね。」
泉 「でも何がいいとかある訳でしょ?」
伊緒「そうだなーこうしてワックス塗るのも好きだし、雪の降っているゲレンデの雰囲気が大好きだし、なんと言ってもまだ初級コースだけどやっと滑れるようになって、滑っているときの横切る雪の音や風切り音がたまらない。」
泉 「ふーん。私といるより楽しいの?」
泉はちょっと不機嫌そうに僕に言った。
伊緒「それは決められないよ。でもこの季節しか行けないから冬はなるべく行くようにしてるんだ。何か気に入らない?」
泉 「ううん。そういう伊緒の何かに頑張ってる姿好きだよ!今度私も連れてってよ!」
伊緒「いいけど泉と一緒に行く時はもっと上手くなってから。」
泉 「何で?」
伊緒「単純にかっこいいとこ見せたいから。」
泉 「ふ〜ん。」
よかった。泉の機嫌は直ったみたいだった。僕が泉を連れて行かない理由は他にもあった。それは僕が泉にボードを教えたかったからだ。泉はそんなわがままな僕に愚痴一つこぼす事なくボードを気の向くままやらせてくれた。泉も僕が趣味に打ち込む影響を受けてか、会社の同僚と今年の冬、桜の綺麗な無線山で乗馬を始めた。泉は馬が凄く好きで競馬などテレビでやっていると、ルールも知らない癖によく見ていた。僕らは仕事に恋人、趣味とかなり充実した毎日を送っていた。まるで一生このままなにもかもが上手く行くような感じがしていた。クリスマスに年越しと僕らはいつも一緒だ。泉が隣にいるのが当たり前で、泉にとっても僕がいるのが当たり前でお互いがお互いがいるために何もかもが120パーセントの力で頑張れていた。それは一つの事をまるで泉がそばにいなくても二人でやっている気がしていた。そう、うちらは二人で一人・・・・。たまに泉が交通事故かなんかで失った時を時々考える。しかし答えはいつも出なかった。
2001年春。いつの間にか季節は白銀の世界から桜の花が咲く季節になった。泉との日々の生活の中、このまま何もなければどんなに幸せだっただろうか・・・・。
泉 「伊緒ー!久しぶりに無線山に行かない?」
ある日の日曜日、泉が僕に言った。無線山か・・・・泉は習い始めた乗馬で毎月行っているが、僕は泉と2年前に行った以来だった。僕は桜が大好きなのに去年、桜を見に行かなかったのにはちゃんと理由がある。それは2年前に見た泉と桜・・・・あの眩しすぎて幻かの様な光景を毎年見るには僕には重すぎるし、毎年の様に見るとそれに慣れてしまうのではないかという不安があったのでとっておくという意味で見に行かなかったのだ。出来ればもう少し、とっておきたかったが泉が誘ってくれるなら、僕には断る理由がなかった。
伊緒「それじゃー行こうか・・・・。」
僕らは車で行けば5分で着くものの、わざわざ自転車で二人乗りで行った。15分位だろうか、車では見落としてしまう春の景色も自転車ではよく見えた。
泉 「わぁー綺麗に咲いてる〜。」
久しぶりに見る無線山の桜景色は2年前と何も変わっていなかった。無線山に着くと泉はいつかの様にそっと目を瞑った。2年前と同じく桜吹雪が泉をよけて舞う・・・・。
泉 「ねぇー伊緒。2年前に私がこの場所で言った言葉覚えてる?」
伊緒「・・・・覚えてるよ・・・・。」
泉 「・・・・。」
伊緒「生まれ変わってもまた出会おうって言った言葉でしょ?」
泉がそっと目を開けた。
泉 「なんだー!ちゃんと覚えてるじゃん!」
伊緒「?」
泉 「私の気持ちは2年前と何も変わってないの。きっとこのままずっ〜と変わらないわ。例え死で二人離れても。だから来世でもまた出会おうね!私この命が尽きても貴方を忘れることは出来ない。」
伊緒「・・・・。」
泉 「2年前に言った言葉の返事まだもらってないんだけど・・・・。」
泉は2年前言った言葉の返事を2年も待っていた。桜が舞う季節・・・・僕は2年前にタイムスリップした。
伊緒「俺が例え、ここでノーと言っても俺らはまた巡り会えるよ。」
泉 「そうだね!」
泉は笑った。桜の木々の隙間からかいま見る太陽はとても眩しかった。僕らは何回生まれ変わっても必ずまた巡り会える。そんな感じがした。
2001年夏。もう時期川通り公園の現場も終わる。何もかもが順調だった。泉も仕事は順調でだんだん任される仕事内容になり帰りが9時10時と遅くなっていった。二人の時間が少なくなるのは寂しいが、それが逆にお互いがお互いを思う時間が増えた。もうすぐ盆休みだ。今年は去年の話の流れで日光に行く事になっていた。泉も最近はそれを楽しみに仕事に励んでいた。いつものようにアパートで一人テレビを見ながら泉を待つ。今日はちょっと早く9時に泉が帰って来た。
泉 「ただいま〜」
伊緒「おかえり〜」
泉 「今日も忙しかったよー。」
伊緒「お疲れ様ー。」
泉 「もうすぐ日光だね!」
泉はいつもの様に去年買った日光の本を見た。
泉 「ねぇ〜何処行く?」
伊緒「日光じゃないの?」
泉 「日光の何処行くって意味!」
伊緒「泉に任せるよ。」
泉 「もう!」
伊緒「あっ!思い出した!」
泉 「何を?」
伊緒「あのさーただ観光してもおもしろくないじゃん?」
泉 「何か案あるの?」
伊緒「中学校でやった写生会みたいに気に入った場所で絵でも描かない?」
泉 「ナイスアイディアじゃん!でも伊緒から絵の話がでるとは思わなかった。」
伊緒「なんかね今の現場の職人さんの意見!」
泉 「職人さんも絵なんて描くんだ。何か意外。」
伊緒「俺もそう思う。」
こうして僕らは絵を描くことにした。今年は去年二泊したので今年はお互い疲れてるしと言う事で1泊2日にした。僕と泉はその週の日曜日、ホームセンターでスケッチブックと色彩絵の具を買いに行った。そして盆休みになった。僕らはいつも休みの初日に旅行に行き後はアパートでゆっくりすることにしていた。旅行当日、車で僕らは日光に向かった。高速を降り時間は10時位だった。僕らが最初に行った場所は中善寺湖だった。日光はとても自然がある場所だ。
泉 「ねぇここで絵、書こうよ!」
伊緒「早速だね。いいよ。」
僕らは早速、絵を描こうとした。僕らが選んだ中禅寺湖の景色は左手にウッドデッキの様な物があり、右手には遠くに微かに道路が木々の隙間から見える。正面は中禅寺湖が広がりその湖の先には遠くの山が見える。泉はいつになく真剣になり、湖の先の山の方に右手を伸ばし持っている鉛筆を立てていた。画家なんかがよくやっている光景だ。僕は絵の具と一緒にホームセンターで買った1000円のアウトドア用のパイプ椅子に腰を掛けた。
伊緒「いつになく真剣だね。」
泉 「えっ。そう?」
と言いながら泉も椅子に腰を掛けた。僕は実際に書き出すのに随分と時間がかかった。そっと隣に目をやると泉は・・・・なんと例えればいいのだろう。それはまっ暗闇の中に見つけた小さな星の光のように泉が輝いて見えた。僕の手は止まってしまった。泉と付き合って6年にもなるのに僕はこの少女に時折、魅せられてしまう。そういえば泉と出会う前の16年間、僕は魅せられるなんて事は一度もなかった。きっと泉と出会えなかったら僕は一生この感覚を味あう事はなかっただろう。泉という少女は何故そんな力を持っているのだろうか?やはり天性のものか?いや少女は何をしている時も、歩く時も、走る時も、呼吸をする事ですら全力でやっていた。少女は生きるという事をいつも全力でやっているから時折、人を魅了する力を持っているのだろう。果たしてこの世界に今目の前にいる少女の様な人間は一体何人いるのだろうか?泉が僕の視線にようやく気付いた。
泉 「?」
伊緒「さっすがー泉!絵、上手いね!」
僕はごまかす様に言った。泉の書いた絵はまだ色という魂もいれられていない作品なのに、まるで本物の景色の様に僕には見えた。僕は1、2時間して絵を完成させた。泉の絵はまだ色も入ってなかった。
僕が完成して間もない時
泉 「絵も終わったしご飯でも食べに行こうか?」
伊緒「だって色は?」
泉 「うん。色はいれない。」
伊緒「なんで?」
泉 「この絵は色を入れない方が綺麗だと思うから。」
泉はそう僕に言った。確かに今のままでも充分すばらしいが何故だろう?泉は色塗りも得意のはずなのに。僕には絵心があまりないのでこれ以上、探索はしなかった。僕らは絵を描き終えて湖の道路沿いにある一見喫茶店のような店でハンバーグを食べ、午後は中善寺に行き4時位にホテルへ行った。ホテルは外見は洋風のホテルだが中は和風という変わったホテルだった。僕らは夕食を食べゆっくり露天風呂に入りベッドの中で話をして気付いた頃には寝ていた。次の日、僕らは始めに華厳の滝に行った。華厳の滝は日本の三大名瀑と言うだけあって僕にも分かる位いい滝だった。日光の観光名所はほとんど行ったので僕と泉は次行く場所を悩んでいた。日光をしばらくドライブして偶然、中善寺の先の半月山に入ってしまった。泉に上ってみようと言われ車でその半月山を上った。しばらく車を走らせてると展望台の様な所に着いた。僕らは車を止め外にでた。
泉 「すごく綺麗ー。」
その展望台から見えた景色に僕も心奪われた。まるで雲の上にいるかの様に中禅寺湖の全体が見渡された。
泉 「ここでまた絵、書こうよ!」
伊緒「いいねぇ!」
泉 「でもここだと椅子置けないね。」
伊緒「俺は車に乗って車からの眺めで書くよ。」
泉 「私はこの展望台で立って書く!」
僕は車に乗った。車から見える景色でも充分綺麗だ。僕は泉の様に絵がさほど上手くないので、わざわざ立って書くこともないと思っていた。その車から見える景色の中に真剣に立ちながら絵を描いてる泉の後ろ姿が見えた。僕は絵を描き、ちょっと手を休める時は必ず泉を見ていた。しばらく泉の姿を見ていると老人の団体が来て泉に興味を持ったらしく泉に近付き、どうやら泉の描いた絵の事を話してる様だった。泉は老人達と話しながら老人達と一緒になって楽しそうに笑っていた。そんな泉の姿を見て僕はまた泉との距離を感じた。人を魅せる力のある少女は老人達の心を簡単に魅了させてしまった。こうして僕らの夏休みは終わった。この時が泉といく最後の旅行になるとはこの時の僕らは気付く訳もなかった。
2001年秋。川通り公園の仕事もようやく終わった。僕は自分でも分かる位、技術的にはもちろん人間的にもこの一年で随分成長した。頑張った甲斐があり父親にも周りの社員や職人にも認められた。僕は休むことなく次の現場が決まっていた。もちろん代理人の仕事だ。次は補佐ではなく全部一人で、しかも二現場見て欲しいとの事だった。一般的に考えれば僕にはまだ少し無理があるが、それだけ周りの人間が評価してくれてるものと考え僕は若さ故にやる気をだしていた。だが現状はかなり厳しかった。分からないことも沢山あるし、何せ図面を書くCADもまだ未熟だったため図面を書くのに一現場でも大変なのにそれが二現場分あるとなると休みの日もパソコンに向かう状態で、平日も家に帰っては図面を書き、寝るのは夜中の2時だった。それはやる気と根性で何とか乗り越える事が出来ていたが、精神的な疲れには参っていた。ただでさえ慣れない仕事をしているのに、毎週ある二現場の定例打ち合わせは技術的な事はもちろん、それ意外にもお客さんの心を掴まなくてはならない。今度はそれを自分一人でやらなくてはならないのだ。それに若いという事でお客さんの不安が僕にも伝わってきてそれが辛かった。泉はそんな僕の姿を見て頑張ってるのはいい事だけど、そこまで頑張って無理する必要があるのか?と毎日の様に僕に言っていた。ある日僕は仕事が終わり、いつもの様に11時位に家に帰った。
泉 「おかえり。」
伊緒「ただいま。」
泉 「ねぇ伊緒。聞き飽きたと思うけどそこまで頑張る必要があるの?」
伊緒「今は早く一人前になりたいから。」
泉 「自分のために頑張っているなら何も言えないけど、もし私のために頑張ってるならそんなに無理してほしくない。」
伊緒「・・・・でも仕事だから。」
泉 「ねぇ伊緒。それ以上頑張ると病気になっちゃうよ。お父さんに話そう。」
伊緒「そんなに簡単に言わないで、やっと仕事で周りに認められそうなんだ。」
泉 「私、普通の仕事してほしい・・・・。」
この時は気付かなかったが僕達の生活は明らかに前の生活とは変わってしまっていた。確かに泉に心配を掛けてたし、泉は口には決して僕には言わなかったが随分と寂しい思いを泉にさせていた。この頃の僕は泉のそういう気持ちに気付く事はなかった。周りに認められたい。泉を幸せにしてあげたい。などとこの頃は無我夢中に仕事を頑張っていたが単なる泉とつり合う男になりたいという自分勝手なエゴで泉をいろんな意味で悲しませていた。そんな悲しい日々が続いた。ここまで何もかもが完璧で何もかもが順調だった日々が、だんだんとリズムを崩し始めた・・・・。
2001年冬。寒気が肌にしみる季節になっても、あくせく仕事に追われる日々は変わらなかった。今年はボードどころか休みの日すら取れない状態だった。泉の心配も消える事はなかった。泉のためにと思って頑張っている日々が、いつの間にか泉に心配させる日々に変わっていた。この頃の僕は泉に愛をあげれないでいた。だが泉はそんな僕をいつも思ってくれていた。
泉 「今年はクリスマスどころじゃないね・・・・。」
伊緒「・・・・。」
泉 「年末年始も休めないの?」
伊緒「見てれば分かるでしょ。」
泉は決して自分のために休んでと言ってる訳じゃない。僕の体の事を思って聞いているのに僕はそれにすら気付かず、泉に冷たくしてしまった。この頃の僕は仕事のストレスと何もかもが裏目裏目で上手くいかず、泉のそういう態度にイライラを隠せなかった。どうしょうもない男だ。いつからこんな男に成り下がってしまったのか?泉のためにと頑張るつもりがいつの間にかそれが僕のエゴに変わり、その事でストレスが溜まりそのベクトルをよりによって泉に向けてしまうとは・・・・。今思えばもっと泉のためを考えいろんな泉の意見を取り組んでやればよかった。泉はどんな僕でも優しくいつも見守ってくれていた。もっと自をだして欲しかった。もっとわがまま言って欲しかった・・・・。だが今更そんな事を思っても手遅れだ・・・・。泉はもう僕の声の届くそばにいない・・・・。桜の木の下で約束したように、もしも生まれ変わってまた君に会えるのなら・・・・今度は僕がいついかなる時でも君を優しく包むよ・・・・。
2002年春。何かがおかしい?何が?仕事が?泉との関係が?いや自分が・・・・。春だというのに冷たい風が吹く日に僕は泉にある事を言った・・・・。
伊緒「何かがおかしい・・・・。」
泉 「どうしたの?」
伊緒「まるで自分が自分でないみたいだ。」
泉 「どんな風に?」
伊緒「自分の頭への流通が出来ない。」
泉 「どういう事?」
伊緒「頭が働かないんだ。」
泉 「疲れすぎじゃない。ゆっくり休んだ方がいいよ!」
確かに最近ゆっくり休んだ記憶がなかった。休めば治るとこの時は思っていた。だがいくら寝ても、ゆっくり風呂に入っても治らなかった。仕事はもう少しで現場が終わる。もう少し・・・・。そう自分に何度も言い聞かせた。だがそんな思いも儚く終わった。仕事がようやく落ち着いても僕の体長はどんどん悪化してゆくような感じがした。ある休みの日僕は気分が乗らなかったが泉に東武動物公園に誘われた。外に遊びに泉と出るのは随分久しぶりに感じた。だがいくら動物を見てもジェットコースターに乗っても気分が晴れる事はなかった。何かがおかしい・・・・。
泉「どう?あまり楽しそうじゃないね・・・・。」
そんな僕にも泉はいつも気を使ってくれる。だがそんな泉の気遣いが逆に辛くもあった。
泉「ねぇ伊緒。病院行こ!」
病院か・・・・。確かに頭が異常に働かない。自分でも何か脳の病気かと思う位だった。今仕事が時間作れるようになったので明日にでも病院に行って見よう。次の日会社がある岩槻の新しく出来た、脳神経外科に行った。結果は異常なしとの事だ。本来は喜ぶべき事だが、自分の異常に、そんな訳ないとしか思えなかった。その旨、泉に伝えたが、一番僕の異常に気付いてる泉もやはりその結果が納得いかず、次の日も病院へ行くよう進められた。次の日、今度は評判のいい蓮田病院に行った。蓮田病院では人間ドッグを受け、体全部の異常を調べた。だがやはり結果は異常なし、どうしたものだろうか?医師には心療内科に行く事を進められた。
泉 「どうだった?」
伊緒「やっぱり異常ないって。」
泉 「そっか・・・・。また違う病院に行こ!」
伊緒「医者に心療内科に行けって言われた。」
泉 「心療内科?」
伊緒「まぁ俺が精神病になる訳ないし気にしてないけど。」
この時は自分が心療内科のお世話になるとは夢にも思わなかった。だが自分の性格がもっとも精神病になりやすい性格だったと病気になってから気付く事になった。僕は仕事が休める時は毎日の様に病院へ行った。だが結果は毎回異常なし、それと決まって言われる事は心療内科の話・・・・。僕は精神病になってるなんて思いたくなかった。心療内科から逃げるように普通の病院へ通っていた。だが症状はどんどん悪化してくる。泉以外の人間とは口も聞きたくなかったし、テレビなんかも見れなくなっていった。
泉 「伊緒・・・・。心療内科行こうよ・・・・。」
伊緒「心療内科なんて絶対行きたくない!」
泉 「でもさ。行くだけ行って見ようよ。」
伊緒「・・・・。」
泉 「じゃー次は自治医大で調べて見てそこでも同じ事、言われたら行こ。」
伊緒「分かった。」
泉は僕以上に辛かっただろう・・・・。自治医大には泉も一緒に来てくれた。結果はやはり、異常がないのと心療内科の話だった・・・・。僕はようやく諦め心療内科に行く事を決意した。
2002年夏。最近は寝るとまる2日位起きれない時がある。起きてる時は自分の体が宙に浮いているような感覚すらあり、何が夢で何が現実かさえ分からない時が多々あった。だが泉といる時間は唯一の自分が生きている証拠だった。
泉 「自律神経失調症?」
伊緒「ネットとかでいろいろ調べて見たんだけど要はうつ病だって。」
泉 「・・・・。」
うつ病・・・・。この時はまだマシだった。今の世の中じゃ小学生で8%中学生で23%全人口では3〜5%いるという現代病である。うつ病は心の風邪、主にいろんなストレスが原因である。完璧主義者や、几帳面、正義感が強ければ強いほどなりやすいらしい。初期症状はうつ気分、意欲の減退、悲観的思考、睡眠障害などだ。僕は頭が働かなかったり、車の運転が急に怖くなったり、性欲減退などだった。うつ病についていろいろ調べて見たけれど僕の症状はぴったりだった。もう少し早めに心療内科に行って薬を早く処方していれば早く治っていたのに。
伊緒「医者が言うには何もしたくなければ何もしなくていいって。」
泉 「仕事は?」
伊緒「親父に言って治るまで休むよ。」
泉 「どの位で治るの?」
伊緒「大体短くても半年位かかるらしい。でも薬をちゃんと飲み続ければ必ず治るって。」
泉 「そっか。でも何か安心した。」
この時はすぐ治ると思っていたが、うつ病という病気はそんな甘いモノではなかった。僕はうつ病になり人を思う事の重さを知った・・・・。このもう少し先に僕は泉を失う事になる。
2002年秋。僕はある事を決意した。それは泉と別れる事だ。病気の症状は薬を飲み続けていても悪化していくばっかで一向に良くならない。これ以上泉といると泉を傷つけるばっかりだ。今の僕では昔の僕のように泉を幸せに出来ない。幸せに出来ない処か泉を必ず不幸にしてしまう。そう思った。ある日の日曜日、泉を外食に誘った。
泉 「何か話があるんでしょ?」
伊緒「うん。」
泉 「何か嫌な話しようとしてる・・・・。」
伊緒「泉。別れよう・・・・。」
泉 「なんで?」
泉は割と冷静に答えた。
伊緒「今の病気の症状で今は一人でいたい・・・・。」
僕は嘘を付き病気のせいにした。正直に言っても泉を悲しめるだけだと思ったからだ。情けない男だ。最後までそんな事に断り、弱い自分を出せないでいた。最後まで僕は泉に嘘を付いた。
泉 「伊緒の病気の重大さは知ってるけど本当にそんな理由なの?」
泉はさっきまでの冷静さを失い、見透かすように僕に言った。
伊緒「あぁ。」
泉 「嘘付かないでよ!そんな理由じゃ納得出来ない!」
僕は最後位は本当の事を言おうと強く思った。
伊緒「俺は昔の俺じゃない。泉を幸せに出来ないよ!」
泉 「伊緒の言う幸せって何?伊緒に私の幸せの何が分かるの!」
伊緒「・・・・。」
泉 「いつだって自己判断で解決して私がどれだけ寂しかったか分かるの!」
確かに泉の言うとおりだ。僕はいつも自己満足の人生を送っていた。勝手に思って勝手に思いこんで。だが僕はこういう風な生き方しか出来ない不器用な男だ。
伊緒「そう俺は泉に寂しい思いしかさせられないよ。」
泉 「私の事嫌いになった?」
伊緒「大好きだよ!」
泉 「じゃーなんで!」
伊緒「好きだからこそ離れなくちゃならないんだ・・・・。」
泉 「馬鹿にしないいで!私絶対別れないから。」
そう言い残して泉は店からでた。泉は僕らのアパートに帰って来る事はなかった。これで良かったんだ。自分にそう言い聞かせる。僕はもう病気と一人の孤独に押しつぶされそうだった。そんな仕事もしないで泉のいない日々が続いて生きてるのかさえ分からなくなっていた。まるで植物の様に・・・・。泉の洋服や生活用品がいつの間にかなくなっている事に気付く・・・・。自分で言った事だが、ようやく事の重大さに気付いた。だが生きる意味がなくなった僕は気楽だった。まるで泉と出会う前のように。だがあの時とは違う、もう生きる意味を探す元気もない、死のう・・・・そう思った。死のうと思った瞬間、電話が鳴った。
伊緒「はい」
電話の声「少しは病気よくなった?」
伊緒「何で?泉?」
泉 「辛そうだったから一人にさせたかった。」
僕はこらえきれず涙がでた。
泉 「やっぱり伊緒のいない生活は苦しいよ・・・・。」
僕は何が何だか分からなくなっていたがまだ嬉しいと思う事が出来た。だが泉を受け入れる勇気まではなかった。
伊緒「ごめんな。心配かけて・・・・。でも一人の方が楽だから。」
泉 「無理だよ・・・・。」
泉は最後までイエスとは言わなかった。その後、泉から連絡が来る事はなかった・・・・。一人でこの先、生きていくか?一人で今、死ぬか悩んでいた。もう一度この現世でこの病気を治す事が出来れば・・・・。
2002年冬。その日は風あたりが強く、寒く、降っているのか降っていないのか分からない程の雨が降っていた。僕は勝手ながら今日で区切りをつけようと泉を誘った。
伊緒「これで最後。何処に行きたい?」
泉 「最後だなんて何処も行きたくない!」
伊緒「・・・・。」
泉 「・・・・。」
泉 「本当に最後なんだね・・・・。」
伊緒「悪いな。」
泉 「・・・・東京タワーいきたい。」
僕は泉を乗せて首都高速に乗り東京タワーに向かった。僕は僕らが好きなTMネットワークのテープを取り出し車のオーディオに入れた。ちょうど車は渋滞していた。
泉 「この曲懐かしい・・・・。」
伊緒「・・・・。」
泉 「かかってる曲はあの時のままなのにお互い変わっちゃったね・・・・。」
伊緒「泉は何も悪くないよ。変わったのは俺だ。」
泉 「本当に最後なんだね・・・」
泉はいつかのように淡々としゃべり出した。
泉 「私ね伊緒に会えて幸せだったよ・・・私は伊緒と離れることは出来ないけど伊緒がそれを望むならそうするしかない。伊緒の性格私が一番知ってるんだもん。伊緒が無理っていうなら私はどうすることも出来ない。でもね伊緒のいない生活なんて考えられないよ。今ある現実が夢みたい。あの月夜の晩、伊緒が言ってくれた事、心の奥底では、まだ信じてる私がいるの。ごめんね言ってること矛盾してるね。」
泉は今ある現実を受け入れる事ができない。僕は今起こっている事の重大さも考えられなくなっていた・・・・。
東京タワーに着いた。僕は近くに車を止めた。
伊緒「下りよう。」
泉 「うん・・・・。」
僕は東京タワーを見上げた。「2002」と書いてある。とても綺麗だった。時間は23時位だろうか・・・・僕の耳は風切り音をリアルに感じていた。いつかのようにふと僕の隣に目をやる。泉がいる。泉も東京タワーを見上げていた。それは雨なのか涙なのか泉は泣いていた。7年間一緒にいたが始めて見る泉の姿だった・・・・。
伊緒「ごめんな・・・・。」
泉は何も言わなかった。僕はそんな泉の姿を見て、いつかのように頭の先から足の指先までの神経が途絶えた。泉を何も言わず抱きしめたかった。だが今の僕ではごめんと一言いうのが精一杯だった。きっとこの先の人生、生きるという選択をしたのなら、きっと今日この日を死ぬほど後悔するときが来るのだろう・・・・。
泉 「帰ろ・・・・。」
この言葉が最後になった。帰りの車、泉は泣きながら寝ていた。TMの曲が虚しく響いていた。僕は泣くことすら出来なかった。
2004年春。泉がいない生活の中でも季節は巡った。あれから一年位の時間が過ぎた。季節が変わるたびに僕は泉を思い出していた。僕はあの泉と別れた後、すぐに会社を辞めた。だが僕は今年も会社の花見に誘われていた。父親に仕事を辞める上ある程度の自分の話をしていたため父は自分の責任だと勝手に思いこみ何かと僕に気を使っていたので毎年、会社の行事は誘われる。悪いのは全部自分なのに・・・・。泉をなくした僕は桜の景色ですら霞んでみえる。泉という花の美しさを知っている今はどんな綺麗な物も霞んでしまう。桜吹雪の中で父が僕に問いかけた。
父 「俺は何も知らない。」
伊緒「・・・・。」
父 「でもこれだけは言える。どうしてもっとわがままになってあげられなかったんだ?」
そう父は僕に問う。僕は煙草に火をつけた。
伊緒「何で今更?」
父 「なんとなくな。」
伊緒「この上ないわがままを相手の気持ちを無視して踏みにじったんだ俺は・・・・。」
父はそれ以上何も言わなかった。泉のいない生活は水を失った魚のようだった。僕は泉のいない人生をどう送ればいいか分からないでいた。
2004年夏。僕は答えを探すために一人長野に行った。いつかの夏、泉と一緒に行ったあの美ヶ原高原に・・・・。泉との約束は果たせなかった。箱根も結局行けなかったし、美ヶ原高原美術館のプリクラ台に貼った僕らのプリクラも一緒に見に行く事は出来なかった。せめて一人だけど約束を果たしに行こうと思った。それとでる事のない答えを探しに・・・・。一人での長距離の運転はドッと疲れが出た。病気も少しは良くなってきている傾向だが、隣に泉がいないのであれば、それはどうでもいい事だ。昼頃僕は高速を降り美術館に向かった。行く途中のビーナスラインはあの時のままでとても綺麗だった。しばらくすると、ビーナスラインから美しの塔が見えた。なにもかもが懐かしく感じた。泉とここに来たのが昨日の事のようによみがえってくる。その余りにも鮮度ある記憶が逆に辛かった。僕は真っ先にプリクラ台に向かった。僕は訳もなく急いでプリクラを探した。あった・・・・。その僕と泉のプリクラの回りにはマジックでプリクラをハートで囲い、プリクラの下にFOREVERと書いてあった。間違いなく泉の字だ・・・・。僕は涙が出た。泣く事が出来た・・・・。それは泉があの日書いたのか、それとも別れた後、一人でここに来て書いたものなのか今になっては分からない・・・・。プリクラの中の二人はとても幸せそうで、この中の二人は本当に永遠に幸せなのであろう・・・・。
2006年春現在。あれから幾つの月日が流れたろう?僕の病気は薬すら飲み続けている物の症状はほとんどない。笑う事だって出来る。
伊緒「今日は天気いいね!どこか行こうか?」
もも「うーん。春だし桜でも見たいな!」
僕はももの言葉に呆気に囚われた。だが季節が季節だし日本人なら桜は見たいモノだ。もちろん僕も例外ではない。
もも「どうしたの?」
伊緒「とっておきの場所に連れてってあげるよ!」
僕は今まで封印していた場所に行く事を決意した。桜を見るのは前に会社の花見に行ったので、さほど昔ではないがあの場所に行くのは何年ぶりだろうか?僕はももを車に乗せその場所に向かった。
もも「何ここ!凄い綺麗〜こんな場所知ってたんだ〜。」
何年ぶりだろうここ無線山の景色は・・・・。まさかあの少女以外の女性をこの場所に連れてくるとは。どうしてだろう?ここに来たのは・・・・。花見する場所なんて他にも沢山あるのに・・・・。本当に綺麗だ。前、桜を見た時は思わなかったのに・・・・。病気がある程度治ったからだろうか?いや他に理由があるはずだ。僕はそっと目を瞑った。あの時の記憶が鮮明によみがえる・・・・。そうだここで泉と来世への約束をしたのだ。泉の声が聞こえる・・・・。
  「ぇ・・・・。ねぇ!」
もも「どうしたの?」
僕はももの言葉で我に返った。
伊緒「なんでもないよ。」
もも「なんか不思議ーまるで伊緒自信が桜になっちゃったかと思ったよ!」
僕は目を丸くした。
もも「なんかへ〜ん!」
もも「伊緒ってさー7年間も付き合った彼女がいたんでしょ?」
伊緒「何急に?」
もも「どうして別れたの?」
伊緒「なんで?」
もも「ここに来て不思議と急に聞きたくなったの。どうして別れちゃったのかなーって。   今聞かないと、この先ずっと聞けないんじゃないかなーって」
ももは自分に降りかかってくる桜吹雪を一生懸命、手で振り払いながら僕に言った。僕はそのももの姿がかわいくて笑った。。
伊緒「なぜって・・・・君に会うためだよ。」
ももも笑った。僕はいつの日か今日みたいな晴れた春の一日に泉と一緒にここに来た時の事を思い出した。そして最後に、東京タワーに行った時の事も・・・・。あの時泉を抱きしめていたら今一体どうなっていたのだろう?でも今の僕はそんな事を考える必要もない。僕の心の片隅にはいつも笑っている泉がいる。この先どうなろうと、泉はずっーと僕を心の片隅で支え続けてくれる事だろう。

泉へ
お元気ですか?
僕は病気の方も症状がよくなってきました。
この小説を読んでくれましたか?
僕の心の奥の片隅にはいつも笑っている貴方がいます。
貴方の心の奥の片隅にも僕ををいさせてください。
前世できっと僕らは約束をしていて
この現世で貴方に巡り会えた様に
また来世で会える事を楽しみにしています。














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