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宵姫
作者:小鳥遊梓
五分大祭と検索してみましょう。きっと、あなたの心を動かす物語と出会うことでしょう。
 骨が軋むような肌寒さが残る、弥生の夕方。三月の初頭とは、実に悩ましい時期である。まだ冬のような寒さがありながら、しかして、春の暖かさがほとんど眼前に迫り来ている。
 そして、世間は連続人食事件と来ている。いまさらカニバリズムなんて流行らないぞと、その犯人に言ってやりたい。
 『人喰い伯爵』なんて称されたその犯人は、昨日も三人ほど食事を堪能していた。制服姿の少年は、今朝やっていたニュースを脳内で反芻させる。ここで諸君らに言っておくことがあるのだが、彼は伯爵でない。ましてや伯爵を追う特殊捜査官なんかでも無い。
 彼が人食事件を延々と脳内再生しているのは、それはもう完全な個人的な事情である。彼曰く『そもそも伯爵なんて言われているが、見た者がいるのだろうか。もしかしたら伯爵とは程遠い暴君かもしれないし、そもそも実は女性なんてこともあるのではないだろうか。まぁ前論は、人を喰らうという点からしてほとんど暴君なのかもしれないが。丁寧に死体をフォークとナイフで切り分けて食べるなんて、頭の螺子ネジを一本、完全に子宮に置き忘れてきた証拠だ。精子辺りからやり直してほしい』だそうだ。
 よせよ、照れるじゃないか。
 少年は、校庭で肉ダルマな紳士に襲われている金髪女子生徒(美少女)を見ながら舌を打つ。そう、辛うじて距離を広げて走る美少女(重要だから二回言った)を俯瞰しながら。
  
 *

 聖書に言わせれば、人間は七つの大罪を背負って生きているという。傲慢・嫉妬・暴食・色欲・怠惰・強欲・憤怒がこれに当て嵌まるわけだ。だが人間、全ての罪が同じ程度というわけではない。性欲を持て余し毎晩のように耽る者。あれも欲しいこれも欲しい、という物欲。挙げればキリがない。その罪の一つが人間の度を超え、心内に化け物を産んでしまった者達の総称を、世間では『罪憑き』という。
 彼らは罪を露わにしたとき、醜い怪物になる。怠惰に憑かれた者を例に挙げるが、岩盤のように強固と化し、その自重は数十トンにも及ぶと言う。
 さて、ここで件の話に戻ろうか。正確には、日の落ちて間もない公園を為歩く少年に付き合うという事になるだろうが。
 人喰い伯爵は恐らく、名の通り暴食の罪憑きだ。そして伯爵は決まって、この公園を中心に食事を行っている。
 少年は諸事情で伯爵が赦せなかった。それは決して、両親や想い人が餌になったとか、そんな類の話ではなく。というより、少年の両親は既に故人である。そんな話はさて置いて、つまり少年はその伯爵を戮してやろうと目論んでいるのだ。
 そんな事を思考していた宵時に、運は少年に味方したのだった。よかったな。君の望む通り、伯爵は君(オレ同伴)を今夜のディナーに選んでくれたぞ。

 *

「少年、運がいいな。今宵は吾輩の晩餐会に招待しよう」
 なんて身勝手な言葉だと、少年は哂う。伯爵さん伯爵さん、幸運なのは貴方のほうですよと。これから餌と化すのは、少年ではなく貴様のほうだと。あぁ、オレも哂ってやったさ。まるで道化のようにケタケタと。内心で伯爵を轢殺しながら、彼は左手を突き出して、虚空を握り潰した。
「黙りなよ、耽溺者ジャンキー。やっぱり暴食の罪憑きはどうしようもなく下種だね」
 お褒めの言葉どうも。
 対して、伯爵は無言。なぜなら伯爵は言語ではなく、その体を肉塊にまみれた罪人の姿を見せる事によって賛辞の返答していた。ダークスーツで決めた矮躯の体は、象も厭きれるくらいの巨体に膨れ上がる。はち切れた衣服から覗く風船のような太鼓腹には、暴食を体現したもう一つの大口が顕現していた。
 互いに交わされる言葉などない。罪憑きとして発現した化け物にとって言語など不要。ただ己の欲求のためだけに蝕み、耽り、戮す。ただそれだけ。それが罪人だ。さぁ、悲鳴うたえ狂乱おどれ殺戮むさぼれ搾取まさぐれ! 罪人が対峙した、この公園という舞台こそが惨憺劇場(グラン=ギニョール)。
 やがて、伯爵の大口が完全に開いた頃、少年はようやく解放した。自身の内の『憤怒』という罪を。“怒り狂い全てを灰燼と帰す”ことこそが、憤怒の罪憑きの真髄。少年がそれを曝した今、眼前の伯爵を灰にするまで、逆鱗は止む事はないだろう。
 少年はかつて、暴食の罪憑きに両親を食された。それからというもの、少年は暴食の罪憑きに対して異様なまでの憎しみを抱いていた。それがやがて怒りに変わり、彼は憤怒の罪憑きになった。
 ――そんなこと言っている間に、少年が目の前の暴食を焼殺し終えたようだ。その間、僅か一分。あまりに呆気ないので、ここは割愛して晩餐としようか。

 じゃあ、頂きます。

 *

 だがその前に。
 オレの両腕が何者かによって切り落とされる。なんだよ、人が最高潮に盛り上がっているところに。メインディッシュは楽しむものだぜ。これじゃあ興醒めだ。なんて思考しながら、オレは興醒めさせた犯人の顔を拝んでやろうと振り返る。
 細く長い眉。端正な凛々しい碧眼。まるで黄石トパーズでも染みこませたような長髪。黒いドレスの裾がついと、風を纏って翻る。あぁ、生きてたんだ。金髪美少女ちゃん。
「まったく……反則ですね。ニ重人格者が、それぞれ別の罪に憑かれるとは」
 隠す風でもない、厭きれたため息を一つ吐いて、少女は聖剣の切っ先をオレの喉元に突きつける。それはまるで、神話の宝物ほうもつでも再現したかのような華美な装飾。月光ですら、それを美麗に魅せる一つの道具。
「宵時が終わるまでに済ませたいので手短にしましょう。なにせこの聖剣オリジナルシンは、宵時にしか召還出来ないものですから」
 聖女のような微笑ほほえみで、しかし悪魔のような一閃。
 食べ残しはいけないって、親に言われなかったか? 紅のペンキにまみれた肉塊が、まだそこに転がってるじゃないか。きちんと完食してやるのがオレの美食学ガストロノミーだ。だがそれは守れそうにない。美食家にとって最悪なマナー違反。
 なんて思考してると、少年(憤怒)とオレ(暴食)は断罪された。

 果たして、少女はその皇女のような姿を宵闇に溶け込ます。まるで、それがもと在る姿であったかのように、少女は闇に成り代わった。
いかがだったでしょうか。この物語は小学5年生のときに考えた話をリメイクしたものです。よくこんな気持ち悪いの考えたなー、と思います。物語としては凄く単純ですが、わざと難解な作りになっています。皆さまが罠に引っ掛かってくださると嬉しいです。酷い、気持ち悪い、は褒め言葉に値します。
それでは、こんな作品のとこに居ないで早く他の参加作品を読みに行ったほうが賢明かと思われますよ?
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