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VRMMOで妖精さん 作者:しぇる
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229:粉を調べよう。

「よしよし。ほら、落ち着いて」

 ぴゃっぴゃーっと怒りの鉤爪を繰り出すぴーちゃんの頭を撫で、まぁまぁと宥める。
 おふっ。
 蹴るのはやめたけど、こっちの胸に勢いよく抱き着いてきた。

「ぴぃぁー……」

「うん、よしよし」

 羽でジェイさんを指して「あいつがひどいのー」みたいな声で鳴かれても。
 気持ちは解るけどさ。


「うふふ、ごめんなさいねぇ」

「いきなりあんな事されちゃ怒りもしますよ」

「だって、ディーだけラキちゃんと仲良しでズルいんだものー」

「そう言われてもなぁ……」

 なんか趣味が合ったみたいだから仕方ないじゃないか。


「ディーさんみたいに、ジェイさんも何か出してみれば良いじゃないんですか?」

「だってねぇ。実験中の動物とか標本とか、見たがらないと思ったんだもの」

「あー、まぁそれは確かに。でもいきなり噛みついたら、普通は嫌われちゃいますよ」

「私としては抱き着いたつもりよー?」

「いや、それはそれで駄目だと思いますよ。もうちょっとこう、ゆっくり近づきましょうよ」

 仲良くなるには、既に手遅れな感じはするけどさ。
 さっきから私の後ろに隠れてるし。
 でもぴーちゃん、主人を盾にするのはどうかと思うよ?
 いや、まぁ別に良いけどね。



「とりあえず今日の所は諦めましょうか。白雪ちゃん、こっちにどうぞ」

 ヌルヌルと部屋の奥に進んで行き、机の傍で立ち止まるジェイさん。
 おや、水槽みたいなガラスケースが置いてあるな。
 中には水の入った容器と、私が扱えるサイズのバケツが一つ。

 とりあえずぴーちゃんと一緒に机の端にとまり、ジェイさんを見上げる。


「それじゃ、まずはこの中に入ってもらえる?」

 蓋を開けて触手を一本差し込み、小さな分身を作りながらこちらに言ってくる。

「はーい。ぴーちゃん、そこで待っててねー」

「ぴぃ……?」

 不安そうな顔で「大丈夫なの?」と鳴いてくるので、頭を撫でておく。
 大丈夫大丈夫。最悪の場合でも【自爆】っていう最終手段があるし。
 いや、最悪って言うのはそれすらも封じられた状況だろうけど。
 まぁ流石にそこは大丈夫だろう。



 ぱたんと蓋を閉じられる。
 お、これ気密容器かー。いや、そりゃそうか。
 そうじゃなきゃ意味ないし。

「うーん、なんか複雑な気分になるなぁ」

 飛び散ったりしたらいけないから仕方ないのは解るんだけど、水槽の外からおっきなジェイさんにじっと観察されてると、なんだかペットとして飼育されてるみたいな感じだよ。

「うふふ、ごめんなさいね。飛散防止のためで、他意は無いのよ?」

「はい、解ってます。もし毒が効いて、家の方が汚染されたら大変ですしね」

「本で読んだり話を聞いたりする感じだと、多分効いちゃうと思うのよねぇ」

 うん、どうせ普通に効くんだろうな。
 もし死に戻ったジェイさんが普通の姿だったら家が無くなっちゃうし、さっきみたいな実験動物が逃げ出しちゃうかもしれない。


「それじゃ、まずは効果を見せてもらえるかしら?」

「あ、はい。これをどうぞ」

 【白の誘惑】と特殊効果一覧のパネルを、水槽に一緒に入っている小さなジェイさんに渡す。


「ありがとう。じゃあここに、【石化】の粉をふりかけてみて?」

「はい」

 差し出された触手に翅を近づけ、パラパラと落としてみる。
 かかった瞬間、粉が触れた所がパキッと石化した。

「あー、やっぱり効いちゃうか」

「あら、白雪ちゃんにとっては良い事じゃない? もし私が悪戯しようとしても、ってあらあらあらー?」

「うわぁ……」

 ジェイさんが喋ってる最中に石化がパキパキと広がっていき、すぐに全身に回ってしまった。
 でも広がっていくのが目で見えるくらいのスピードだったし、吸った瞬間に完全に固まる人間よりはかなり抵抗力が高いのかな?


「凄いわねぇ。良かったわ、ちゃんと用心しておいて」

「死んじゃう訳じゃないですけど、家全体が固まっちゃったら治すのにどれくらいかかるか解ったものじゃありませんしね」

 ドアの代わりにジェイさんが穴を開けて部屋に出入りしてるから、治った所以外出入りできなくなるし。



「それじゃ、ついでに治療できるか試してみて?」

「あ、はーい」

 そういえばそもそも【石化】が解除出来るか試してもいなかった。
 小さい方のジェイさんに【妖精吐息】を吹きかける。

 お、普通に吹いてもジワジワ治っていく。
 魔力を多めに込めると治りが早くなるな。


「うふふ、気持ち良いわぁ。こっちも凄いわねぇ。……あぁ、でも人間に使う時は、出来るだけ一気に全身を治した方が良さそうよ?」

「あー、部分的に治るとおかしなことになりそうですか?」

「そうねぇ。下手をすると死んじゃうかもしれないわ」

 まぁ心臓が止まったままだと血が巡らないしなぁ。
 逆に心臓だけ直しても、石化してる所の血管が詰まったみたいになってるかもしれないし。
 キャシーさんを治す時は、その辺に気を付けておかなきゃね。



 そこからいくつか試してみた。
 粉を炙ってみたり冷やしてみたり、水に溶いてみたりそれを熱したり冷ましたり。
 とりあえず温度変化や水に溶かしたくらいじゃ、毒性が弱まる事が無いのは良く解ったよ。

「うふふ、治療がとっても気持ち良いのは役得ねぇ」

「まぁ気持ち良い方が良いですよね」

「自分の体で実験してると、満足する結果が出るまで痛いのを我慢し続ける事も多いのよー」

「よくやるなぁ、としか言えないですよ」

「うふふ。好きでやってるからねぇ。興味の無い事だったら、絶対に出来ないわぁ」

 いやー、普通は興味が有っても無理だと思うよ。


「それにしても、こんなに強い毒で細かい粉なのにねぇ」

「どうかしたんですか?」

「いえね、【妖精】が居たって言われる時代の文献には、これが飛んできた様な災害の記述がどこにも見当たらないのよ」

 災害て。せめて被害って言ってよ。

「普通に使ってると風で色んな所に流れていきそうなのに、不思議ですねぇ」

「そうなのよ。出して時間を置くと毒性が弱まっていくのかしら?」

「そうかもしれませんねぇ。少し寝かせてみますか」

 水槽の床にさらさらと落として、小さな砂山を作る。
 ……待てよ?


「えっと、ちょっと試してみたいんですけど」

「あら、何か思い当たる事でもあるの?」

「一応やってみようかと。よいしょっ」

 体に粉が付いていたらマズいのでパンパン払って、【跳躍】で密閉された水槽から脱出する。
 ……いや、「残して行かないで! 助けてぇ!」って演技を中でやらなくて良いですから。
 あんまり暴れると置いてある粉が舞っちゃいますよ。


「ちょっとそのケースを持って、部屋の端に寄ってもらって良いですか?」

「解ったわ。これでいいかしら」

 ジェイさんが端に持っていくのを見送って、自分は反対の端へ。

「で、中の体で粉を触ってみてください」

「あら? 何も起きないわ」

「あー…… うん、やっぱり」

 これも距離制限付きかー……
 開発め、意地でも遠距離戦をさせないつもりだな?
 確かにこの毒性で広範囲にバラ撒けたら強すぎるけどさぁ……


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