やつらに死を
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俺は車を走らせている。真っ暗な闇の中をヘッドライトだけを頼りに。横には俺に水平二連の散弾銃を向けたクソ野郎が座っている。バックミラーで後部座席を見ると同僚のくそったれ岡崎が尚美と舌を絡ませていた。
淫売女め。
「前を見てろ」
横の奴が低い声でそう言うと、銃口で脇を突いてくる。岡崎がそれを見て微笑んだ。隣にいる尚美も。俺は怒りを押し殺しながらハンドルをより一層強く握りしめた。
殺してやる。ここにいる奴ら全員殺してやる。
* * *
「ここで間違いないのか?」
俺は街灯が当たらない路地の闇に身を潜めながら隣にいる相棒、井上に聞いた。
「間違いないさ」
井上の目は充血していた。シャブを使ったに違いない。その証拠にうずうずした様子で右腰に付けたホルスターをずっと触っている。
すると雑居ビルの前にシルバーのエスティマが止まった。暗いが男四人が中に入って行く。どうやら情報はガセではなかったようだ。
「じゃあ、行くか」
井上がホルスターから支給品の回転式拳銃を抜きながら走り出す。俺も銃を抜きながら追いかけた。一気に雑居ビルの中に入る。階段を駆け上がり、目的の階に到着。ドアの前は誰もいない。それを確認した井上が動く。俺も追いかけるように動いた。
井上が躊躇なくドアを蹴破った。派手な音を立てながらドアが壊される。
「警察だ!」
いつも通り井上が決まり文句を言う。
「よう。井上」
その声に振り返ると、同僚の岡崎が袋詰めされた白い粉を持っていた。コカインだ。
すると、横にいた男が動く。俺はそういつの腹を銃を撃った。それを合図に部屋にいた五人の男たちが銃を抜いた。咄嗟に床に伏せる。銃声が部屋に響いてうるさい。そう思いながらも二人目を撃ち殺した。
銃声が止んで辺りを見ると、腹を抑えて瀕死状態の者もいれば目を開けたまま動かない死体が硝煙が立ち込める部屋に転がっている。
俺はホルスターに銃をしまう。パーティーは終わりだ。
すると、再び銃声が響いた。見ると岡崎が中国のコピー銃、五四式拳銃を握っていた。その先には井上が目を見開いて立っていた。
「テメェ!」
井上は銃を岡崎に向けるが、撃つのが遅かった。胸に撃たれた井上が倒れる。
「悪く思うなよ」
岡崎が指紋を拭き取ると、すぐ近くで死んでいる男の手に握らせた。
俺の頭はこんがらがっていた。何が起きてるんだ。
すると、井上の側に誰かが近寄った。見ると井上が付き合っていた尚美だ。「まだ生きてるわよ」
岡崎は頭を掻きながら俺を見た。俺は瞬時に銃把を握ったが、背中に固い物が押し付けられた。確認しなくても銃だと分かった。
「手伝ってもらうぜ」
低い声だったがはっきりと聞こえた。
「さて。夜のドライブと行こうぜ」
岡崎が尚美を引き寄せながら言った。
はめられた。
* * *
車を走らせていると、曲がれと指示された。指示通りに曲がるとヘッドライトが小さな小屋を映した。俺は小屋の横に車を止める。
「さっさと済ませてくれよ? 俺は中にいる」
岡崎は横の男にそう言うと車を降りた。そして尚美を連れて小屋の中に消えた。
俺は男に銃で脅されながら車を降りてトランクを開けた。中には血を流して呻く井上がいた。すると、男がシャベルを地面に放った。
「掘れ」
俺は言われた通りにシャベルを拾って、掘り始めた。掘りながら頭を回転させた。奴らを殺す方法はないかと。
土を黙々と掘っていく。前髪は汗で額にくっついている。時折振り返っては男の様子を伺うが、あいつはずっと俺に散弾銃を向けていた。その度に舌打ちした。
三十分かけてようやく一人分の穴が出来た。俺は汗を拭い、ズボンについた土埃を払う。すると、男がトランクから井上を強引に引っ張り出した。それから井上を引きずって穴に蹴り落とす。男は無表情だった。どうやらこいつにとってはゴミを出しただけとしか思っていないようだ。
クソ野郎め。
「早く埋めろ」
俺は言われた通りにシャベルで今度は土を穴に放り込む。井上の身体がみるみる土に覆われていく。すると井上が最後の力を振り絞ってもがいている。だが俺も今死ぬ訳にはいかない。黙々と土を井上にかけていく。それを見た男が鼻で笑いながら留めをさす。
銃声が鳴り響き、井上は動かなくなった。それから男は足で土をかけていった。
チャンスだ!
シャベルを両手でしっかりと握ると、男の顔面を殴った。諸に喰らった男は白目を向きそうになりながら倒れた。そこを馬乗りになって、首を絞めた。男が手を伸ばして邪魔してきたら、手を払って顔面をぶん殴った。
俺は首を更に強く絞めた。
死ぬ! 死ね! 死ね! 死ね!
男の力が徐々になくなり、ようやく完全に動かなくなった。男の目は血走り、見開いたまま死んだ。
ざまぁ見ろいかれ野郎!
俺は男が落とした散弾銃と懐に隠し持っていたコルト・ガバメントを持って小屋に向かった。ガバメントはベルトと腹の間に突っ込み、散弾銃を両手でしっかりと持った。
小屋のドアを蹴り開ける。派手な音にベッドから跳び起きた岡崎と尚美。俺は黙って散弾銃を向ける。
「ま、待て。お、俺はこの女に井上を殺してくれって頼まれただけだ」
岡崎が逃れようと必死になっている。すると尚美が岡崎を睨む。
「ちょっと! 全部あたしのせいにする訳!?」
岡崎と尚美の罪をなすり合いが始まった。だが俺にとってはどうでもいい。問題は井上を殺した事だ。あんなヤク中でも親友は親友だ。
俺は岡崎に散弾銃を放った。喧しい音とともに岡崎が後ろに吹き飛んだ。だが死んではいなかった。
「お、おま……俺は……刑事だぞ?」
頭に銃口を押し付ける。
「俺もだ」
引き金を絞る。岡崎の頭が吹き飛んだ。血と肉片が飛び散り、尚美がヒステリックを起こす。全裸のままドアに走り出した。そこを透かさずガバメントを抜いて背中に撃ち込む。撃たれた尚美がドアから外へ消えた。
弾切れになった散弾銃を捨てて、外に出る。尚美は泣きながら地面を這っていた。先回りして前に立つ。
「お願い! た、助けて! なんでもするわ!」
引き金を絞る。銃声が闇に響き渡る。その銃声が意味するのは全てが終わった合図だ。
いや、……始まりなのかもしれない。