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UFO、異星体、分岐

作者:諸林 瓶彦
非常に拙い出来ですが、自分では楽しんで書けた作品です。少しでも面白く読んでいただければ身に余る光栄です。
 可能となるか、不可能となるか、それが問題だ。
                               ある劇作家の言葉。
_______________________________________

「おい、山崎。何だありゃあ」
 山崎とその友人である葛城は、公園のベンチに腰掛けて、お互いに下らないお喋りを続けていた。真夏、太陽が天頂に輝いている。
 その葛城が、突然会話を中断すると、大空の、ちょうど雲の合間を指さしたのだった。
「なんだありゃあって、ただの空と、入道雲じゃないか? 多分、あの雲の下では雨が降ってんだろうな」
「ちがう。何か飛んでる。飛行機じゃない」
「飛んでる? 鳥か?」
 山崎は目をこらして葛城と同じ方を見た。
 距離は分からない。だが、雲間に見え隠れするようにして、銀色の小さな玉が飛んでいた。
「風船か?」
 山崎は言った。
「馬鹿。ここからあの地点までどのぐらい距離があると思ってるんだ? 風船が見えるはずがないだろ!」
「そうだな」
 その銀色の小さな玉は、奇妙に幾何学的な動きをしていた。まるで水中を泳ぐミズスマシのようだ。 確かに、飛行機ではない。鳥でもない。
「これは、あれじゃないか!?」
 葛城は興奮して叫んだ。
「あれって?」
「UFOだよ!」

 それが、二人が中学一年生の時の、夏だった。
山崎も葛城も、この事をお互いに秘密にした。彼らがいた小さな公園には誰もいなかったし、なぜか他に目撃したという噂も流れなかった。
 だから、山崎は、それは国の研究施設が気象観測か何かのために飛ばした気球のようなものか、何かの自然現象の見間違いだろうと思った。少なくとも、あれが宇宙人の乗り物だというふうには考えなかった。
 ところが葛城はそう考えなかった。あれは、世間一般で言われている地球外生命体の乗り物たるUFOであると思ったのだ。
 そして葛城は、猛然とUFOについて調べはじめた。図書館でUFO関係の本を読みあさったり、目撃談を語る新聞記事をスクラップにしていた。
 山崎は、どうしてあの勉強のできる葛城が、UFOに熱中するのか理解ができなかった。UFOなんて、常識的な人間が調査しようとするような種類のものではない。ましてや、葛城には現実に何か不満があるというふうには見えなかったから、現実逃避の一環という訳でもなさそうだった。何しろ、それなりに運動もできて、それなりにりりしい顔をしていたのだから。

 二人は、同じ高校に入学した。葛城のUFO熱は相変わらずで、それが頻繁に目撃されるというスポットへの旅行に良く付き合わされた。高校生の持つお金で行ける場所には限りがあったが。
 葛城と付き合うのは楽しかったから、山崎もまんざら嫌ではなかった。
 しかし、気になったのは葛城が話すことがだんだんと抽象的になっていったということだ。
「もし、異星体が地球に来ていると言うことが確かだとして、彼らとの対話は本当に可能なんだろうか?」
 昼休み、二人で弁当を食べている時に、突然葛城が言った。葛城は最近、宇宙人のことをかっこつけて『異星体』と呼んでいるようだった。
「なんだ。またUFOのことを考えているのか?」
「UFOというか、異星体のことさ。お前、どう思う?」
「さあな。そんなこと、考えたこともなかったな」
「だろうな。だけど、人間の世界認識の原則は、空間と時間だ。空間的に、他の物体ではなく自分の肉体が自分自身である、そして時間的に、過去の自分でも未来の自分でもなく今の自分こそが自分自身なんだと、それが人間の基本的認識さ。だけれど、空間的に距離のある複数の場所に自分自身が存在するだとか、時系列上複数の時点に自分自身が存在するだとか、そういう基本認識を持つ異星体もいるのではないか、最近そう思うんだ」
「ああ。お前の言いたいことは何となく分かるよ。例えばコウモリやイルカは超音波で空間を把握している。あるいはある種の原始的な生き物はただ光の強弱のみによって自らの動く方向を決める。そうした生き物がもし人間の言葉を喋られるとしても、彼らの言うこと全てを理解することはできないだろう。それと同じように、全く世界認識の原則が違う宇宙人と人間がコミュニケートすることができるのかってことだろ?」
「まあそうかな。だから俺は、宇宙のどこかに存在するであろうそうした存在を『宇宙人』と呼ぶことには引っかかりがあるんだ。『人』って言ってしまった時点で、俺達と世界認識の原則が一致しているってことが前提されてしまうから。『異星体』ていうのはあるSF小説からのパクリなんだが、結構しっくり来るんでね、今使ってる」
「成る程ね……」
 これは、きわめてデリケートな問題だと山崎は思った。そして、これほど深い問題について考えることのできる葛城に尊敬の念を抱くと同時に、若干の危機感を憶えた。こいつは、頭が良すぎて、おかしくなりつつあるのではないか、と。だから、山崎は少し、話題をそらした。
「ところでお前、UFOがいるっていう証拠、また何か見つけたのか?」
「おっ。よくぞ聞いてくれた。国会図書館で見つけたんだがな……」
「国会図書館まで行ったのか」
「ああ。最近俺は、過去に、つまりUFOって言葉が生まれる前に、何かそれらしきものを見たっていう話しがないかどうか調べているんだ。で、偶然見つけたのが、ヨーロッパ中世、修道院でつくられた膨大な細密画の研究をした本さ。その抜粋をコピーしてもらったから、見せてやる」
 そういって葛城は、カバンの中からファイルを取り出した。白黒コピーで、細かい字の書かれた文献が綴られていた。
「こりゃあ、どう考えてもまじめな歴史の研究書じゃないか。これのどこに、UFOが?」
「うん。まずお前にインパクトを与えるために、一つの絵を見せよう」
 そういって葛城は、あるページを山崎に見せた。
 それは明らかに遠近法を知らないか、知っていても意図的に使おうとしていない、中世ヨーロッパの細密画だった。
 まず、印象的だったのが、人の顔が描かれた、太陽だった。トランプのキングを正面から見たらこんな顔に見えるだろうか?
 そして、緑色の牧草に覆われた地面。その地面の右端には、人々が五人ほど集まって何か話しをしているようだ。その彼らの輪の中心で、何かが燃えている。焚火でもしているのか。
 だが、この絵を奇妙なものにしているのは、太陽と同じ空に無数に描かれた、丸い玉だ。よく見ると、玉だけではなく、葉巻型や戦闘機のような形をしたものまである。
「星か?」
 山崎は一応、そう言ってみた。
「太陽が出ている昼間に、星を描くか、普通」
 葛城は冷静に返す。何を今更とぼけているのかというふうに。
「……これがUFOだと、お前はそう言いたいんだな」
「そのとおり」
「待てよ。この絵だけでそう判断するのは……」
「そう思って、その絵についての解説を読んでみた。絵の載っている写本にはこう書かれているそうだ。『……小麦の収穫の季節、ある日、大空に無数の動く星が満ちた。それは、短時間現れて、姿を消した。その日、王国に王子が生まれた。これこそ、神の祝福であると、人々は言った……』 その本は、当時のヨーロッパ世界で起きた奇跡的な話しを集めたものだったのだな。生まれた王子は、後のルイ13世さ。現実にいる、フランスの王だ!」
「お前、よくこんなマニアックな本を見つけたな」
「調べ物をするのは得意でね!」
「僕は知ってのとおりUFO否定論者だが、確かにこの記事は不思議だな。その研究書の著者はどう解釈しているんだ?」
「いや。この記事に関しては、ただ内容を紹介するだけで特にコメントしていない。多分、歴史的な事件を描いたわけではないから、さして重要とは思わなかったんだろうな」
「確かに。歴史研究者にしてみれば、どうでもいい空想の話しとしか思えないだろうからな」
「そう。でも、俺みたいな切り方をすれば、これほど有意義な記事はなかなかないぞ!」
 そんな話しをしている間に、昼休みは過ぎていった。

 翌週の月曜日、やはり昼休みの時間、また葛城は奇妙なことを言い出した。
 二人で、弁当の合間に飲むジュースを買いに、校舎一階の自動販売機の所に来ていたのだ。
「この、ジンジャー・ペッパーとかいうのにするか」
 山崎は販売機のボタンを押した。
「それ、新商品だろ。ちょっと飲ませてみろ!」
 山崎の手に握られた緑色の缶を指さして葛城が言った。
「まて。僕が味見してからだ」
 山崎はフタを開けると、少し口をつけた。
「……」
「どうした? 美味いのか、不味いのかどっちだ」
 山崎は無言のまま、缶を差し出した。
 葛城も口をつける。
「……」
「どうだ?」
「……不味いな。はっきり言って」
「僕は不味いとまでは思わない。だけど、おかしな味だよな」
「……」
「……」
「プッ、クククク」
「フッ、ハッハッハッハ」
 二人の口から、笑い声が漏れた。しばらく、腹を抱えて笑った。
「あー、葛城が笑うから、つられて笑っちゃったじゃないかよ」
「何を言うんだ。先に笑ったのはお前じゃないか」
「そうか? しかし、全く何がおかしいんだかな」
 山崎は若干嘲弄気味にそう言った。
「おかしいのは、この商品を発売したこのメーカーさ。ちゃんとマーケティングして、いろんな人が味を試験して、それから販売しているんだろうに、この不味さは何だ! 結構大きいメーカーでも、こういう事をやるんだからな」
「やっぱり、他にはないインパクトのある味にしたかったのかもな。それが裏目に出た」
「まあ、今の世の中口当たりのいいものばかり満ちあふれてるから、それに慣れちゃって、ちょっと変な味でも、不味いと感じるのかも知れないな」
「でも、おかしな味だよ」
 もう一度山崎が言った。
「おかしいと言えばさ。少し気になることがあってさ」
 そう言いながら、葛城は声のトーンを変えた。
「現代文の教師の藤沢だけどさ、髪型が七三分けのときと、三七分けのときと、二つないか?」
「は?」
 山崎にはとっさに何を言っているのか理解できなかった。
「だから。髪型が左右反転してることがあるってことだよ!」
「そ、そうか? そんな先生の髪型なんて気にしたことなかったからな」
「俺も、最初は自分の記憶違いだと思った。でも、最近あいつの授業がある度に髪型がどっちかメモしてるんだが、やっぱりときどき左右反転しているんだよな。ほとんどが七三で、たまに三七」
「う~ん。メモしてるなら確かか。地味にイメチェンしてるとかじゃないのか?」
「いや。おかしいんだよ。ああいう髪の分け方をすれば、その分け癖がついて、日によって髪型を変えるなんて、面倒なことこの上ないはずなんだ」
「それはそうか。小さな謎だな」
「俺はそう言う小さな謎が気になる質なんだ。こんど、クラスの他の奴にも聞いてみよう」 そんな会話をしながら、二人は教室に戻った。
 その後休み時間の間中、葛城はUFOの話しをしていた。それにちゃんと受け答えする山崎も、傍から見れば変わり者だったが。

 あと一ヶ月もすれば夏休みだった。今年も葛城からUFO探訪の誘いが来るだろう。
 そんなことを考えながら、山崎は自宅で、葛城のつくったUFO研究のホームページを見ていた。
 世の中には変わった人がいるもので、一日に60人もの人が、このページを訪れていることが、カウンターから分かった。個人のページとしては、かなりの数である。
 ページの内容は、あの中学生の頃のUFO体験談から始まって、UFOの正体に関する様々な説、世界の最新UFO目撃情報、どこから集めたのかUFOの写真やら動画やら、で満ちあふれていた。
 あの、中世ヨーロッパのUFO細密画(?)の記事も載せられていた。高校生がつくったにしては相当な内容らしく、その掲示板は、日本全国のUFOマニアのコメントで一杯だった。 
 その掲示板の最新の投稿に、葛城のコメントがあった。
「このページのメールフォームから何度もおかしな記号の羅列を送っている方、止めていただけませんか。別にたいした嫌がらせではありませんが、若干不快ですので」
 やはり、世の中には色々な人がいる。葛城のページのような純粋に趣味でつくったページにも、嫌がらせをする奴はいるのだ。山崎は、なんだか自分が嫌がらせをされているかのように腹を立てた。

 その記事があってから一週間、葛城は学校を無断で欠席した。
 さすがに三日も休んだ時、心配になって山崎は葛城の携帯に何度か電話した。
 だが、その度に、
「うるさいなー、今重要な事実が分かるかも知れないんだ、静かにしてくれ」
 だとか、
「だめだ、だめだ。お前と話しているヒマはないんだよ」
 などと一言あったあと、電話を切られてしまうのが常だった。
 4度目に電話した時、葛城は電話に出ようともしなかった。
 それで山崎も頭にきて、電話するのをやめにした。

 翌週の月曜、ようやく葛城は学校に姿を現した。試験前に徹夜で勉強した奴のように、やつれて見えた。
「おい! 葛城。お前、学校を一週間も無断で休みやがって。電話にも出ずに! 一体何をやっていたんだ」
 そう山崎が強い口調で話しかけても、葛城は放心状態で、視線は中空をさまよっていた。
「おい!」
 山崎は目の前で手を振った。
「あ、ああ。山崎か」
「ああ、じゃないよ。この一週間、何をやってたんだ? 病気か?」
 葛城はため息をついて上目遣いに山崎を見た。
「お前が信じてくれるかどうか分からない。一応結論だけ言っておくと、暗号解読をやってたんだ」
「暗号解読?」
「ああ、そんなようなことをね。実は、俺のパソコンメールに、一週間に一度ぐらいおかしなメールが送られて来るようになったんだ。初めて来たのが、今年の三月ぐらいで、全部で24件来てる」
「掲示板に書いてあったな。変な記号の羅列が送られてきてるって」
「そう。こんなのだ」
 葛城はカバンの中からブルーのファイルを取り出て、山崎に見せた。
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 パソコンで印刷したと思われる用紙には、膨大な量の記号が羅列してあった。ちょうどA4の用紙が24枚分であるから、一回に用紙一枚分の量の記号が送られてきた計算になる。「本当にこんなメールが送られてきていたのか? 少なくとも日本語の文章じゃないな。外国人が葛城のホームページに共感して、その外国の言葉で書いてきたとも考えられるが、十中八九嫌がらせだろう。ただのデタラメだよ」
「お前もそう思うか? 俺も最初はそう思った。でもなあ、見てると何となく法則性があるように思えないか? 俺は思った」
「さあ?」
「何となく法則性があるだけだったら、俺は無視した。だがな、そのメールが送られてきた日付は、ちょうど藤沢の髪型が三七分けになる日だったんだよ。知る限りでは、一度も違えたことがない!」
「まさか」
「だから俺は、これが意味のある暗号だと考えた。もっと言うなら、これが異星体からの何らかのメッセージなんじゃないかって、淡い期待もした」
「それで、一週間その記号の羅列の解読に熱中してたってことなのか?」
「そうだ」
 山崎は絶句した。おかしなメールが送られてくる日と、藤沢の髪型が変わる日が一致するからと言って、それが何故宇宙人からのメッセージになるというんだ。偶然だ。そんなところにまで必然を見つけ出そうとしたら、頭がおかしくなる。
「今まで独学で勉強した数学の知識を総動員して、俺はその記号を解読した」
「なんだって?」
 確かに、葛城は大学の理学部レベルの数学を部分的にではあるがマスターしていた。UFOを研究できるような仕事は皆理系の仕事なのだからという理由で、数学やら物理学やらを日に五時間は勉強していたからだ。
 その知識と集中力を使えば、簡単な暗号なら解読できるかも知れないが。
「一応聞いておくが、その文章には何が書かれていたんだ?」
「かいつまんで言う。この世界の秘密さ。今現在、この世界は二つに分裂している」
「分裂?」
「平行世界というのかな。あまりしっくりくる言葉じゃないが」
「SFじゃないか」
「この文書を書いたのは、明らかに異星体だ。自分でそう名乗っている。そして、彼がこの地球を訪れた時、原理は不明だが、世界は二つに分裂した。すなわち、彼が地球を訪れた世界と、訪れなかった世界とにだ。多分、あまりにも俺達と違う世界から来たせいで、俺達の世界の時空がこんがらがったんだろうな。そう言う現象があり得ることは、物理学でも証明されていて……」
「おい、それを本気で言っているとしたら……」
「これで、藤沢の髪型に二種類あることにも納得のいく説明ができる。七三の時は彼はこの世界を訪れていない。だが三七の時は明らかに、俺達と同一時空上のどこかに彼は存在している」
 だめだ、これはかなり深刻な妄想だと、山崎は思った。
「お前、本当に大丈夫か!? お前と同じ様な妄想を抱いて、人生の破滅寸前まで追い込まれた人間を、僕は知っているぞ! アメリカの数学者だ。偉大な功績を残して、今も生きている人物だが。若い頃、精神病を発病してる。それで、雑誌とか、その他文字の書かれたもの全てに、東側の暗号が編み込まれているって妄想を抱いて、その解読に熱中して。結局精神病院に送り込まれた! 葛城、お前の言っていることはそれと同じだ!」
「ああ。映画にもなったな。だが、俺は精神病じゃない」
 葛城はきわめて冷静に言った。
「精神病患者はみんなそう言うんだよ! もし本当にそう信じているとしたら、お前に必要なのは宇宙人じゃない、医者だ、精神科医だ!」
「大きな声で言うな。皆に聞こえるじゃないか」
 山崎はしまったと思い、右手で口を押さえた。
「お前がどうしても信じないなら、もう一つ証拠がある。大分前に、一階の自動販売機でジンジャー・ペッパーという飲み物を買ったよな。あれが、今日見たらなくなっているんだ。そして今日、藤沢の髪型は三七分けだった。ということはだ、ジンジャー・ペッパーを売っていて藤沢の髪型が七三の世界と、その逆の世界と二つあると考えられるよな」
「馬鹿な。ただ発売中止になっただけだろう。あまりにも不味いから!」
「いや、まだあの自販機に並んでから一月も経っていないぞ。それでなくなるというのは、おかしい」
 それに対して、山崎は上手く反論できなかった。だが、葛城が狂気に片足をつっこみつつあるというのは、分かった。
「じゃあ、その自販機は今日見てみるよ」
「そうしてくれ。それで、だな」
 葛城は声をひそめた。なにか、 他のクラスメイトに聞かれたくないことを喋るつもりなのだ。今までの会話だって、大分危ないものだったが。
「暗号には、異星体が今夜、俺を迎えにくると書かれていた。彼の言葉を解読できた、希有なる地球人に興味があるってことでね」
「はっ……」
 山崎はまた絶句した。
「深夜十二時きっかりに、学校の屋上に、だ。どうだ、お前も来るか。上手くいけばお前もUFOに乗れるかも知れないぞ!」
「どうやって夜中に学校の屋上に忍び込むつもりなんだ? 校門にも屋上にも、鍵がかかっているぞ」
「なに。大分前にこっそり合い鍵をつくってあるんだ。いつでも学校には入れるように」
「なんて奴だ」
「なあ、本当にお前も付き合わないか?」
「遠慮しとくよ。今回ばかりは、お前の妄想には付き合いきれない」
 山崎はため息をつくと、葛城に背を向けて、自席に戻りはじめた。
「お前はいたって常識人だな! そう言うところを俺は尊敬してきたんだが。だけどな、中学生の頃一緒に見たUFO、あの記憶は嘘じゃないだろう! それを思い出してくれ!」 
 葛城はクラス中に聞こえる大きな声で言った。山崎は恥ずかしくなって、葛城を無視して自分の席に座った。
 それ以降、彼らが会話をすることは一度もなかった。

 それでも山崎は、放課後、自販機の前に立っていた。確かにジンジャー・ペッパーはなくなっていた。

 翌日の朝、山崎が学校へ行く準備をしていると、家の電話が鳴った。空が不吉に朝焼けしていた。
 その電話は、緊急の連絡網で、学校で誰かが転落死しているのが発見されたというものだったが、詳細は不明だった。詳しいことが分かるまで、自宅待機とのことだった。
 山崎は青ざめた。まさか、葛城が? 何しろ夜中に学校に忍び込むと言っていたのだから、朝まで気がつかれないのだとしたら。
 一時間ほどして、また電話があった。事態は、最悪だった。
 山崎は混乱した。葛城は屋上から落ちたのだった。事故、自殺? 馬鹿な、あいつは死ぬべき人間じゃない、これからもっと人生を楽しんで。自分が夜中忍び込むのを止めなかったから。警察は自分の所にくるだろうか、ああ、死んだ。死んだ、葛城は死んだようなのだ、なぜ?
 その日は休校になった。

 翌日の朝、山崎はいつもどおりに学校に登校した。学校のロータリーには立ち入り禁止のテープが貼られていた。
 葛城の死体は、当然のことながら、そこにはなかった。ただ、彼の死んだ時の姿を写したチョークの線があった。そして、完全にクリーニングしきれなかった血の痕が……。
 本当に、葛城は転落死したらしい。

 なぜだ。自殺か? ずっと待っていてもUFOが現れないことに絶望して、飛び降りたのか?
 それとも事故なのか。夜中、暗くてよく分からない屋上を歩いているうちに、足を滑らせて落ちたのか?

 山崎は、教室には向かわずに、例の自動販売機を目指した。
 自動販売機には、ジンジャー・ペッパーが置いてあった。百二十円入れれば買えることになっている。確かに昨日はなかったはずなのだが。

 そうだ、確かに世界は二つに分裂していたのだ! 葛城が言うように、異星体のいる世界と、いない世界とに。
 そして多分、異星体のいる世界にいた葛城は、みごとUFOとコンタクトをとることに成功し、今頃はそれに乗って宇宙を旅しているに違いない。もしかしたら、その世界ではこの自分も、葛城と一緒になって異星体に迎えられているのかも知れない。そう信じるしかなかった。

 だが、少なくともこちらの世界の葛城は死んでしまった。なぜかは分からないが。
 親友だったのに。もう二度と、馬鹿な話しも、一緒に旅行もできない。もう二度と、会えない。
 山崎は、自動販売機の前で激しく嗚咽した。

 その後、山崎は藤沢の髪型を毎日チェックすることにした。だが、その分け目に変化があることはなかった。だから、半年で止めてしまった。
 ジンジャーペッパーは、その後一年ほど販売されていたが、やがて自販機から永遠に姿を消した。


  
ご存じの方も多いと思いますが、この小説に出てくる「異星体」という言葉は、神林長平先生の作品『戦闘妖精雪風』から借用したものです。他に何かいい言葉をと、頭をひねったのですが、結局出てきませんでした。異星体、素晴しい響きだと思います。エイリアンを日本語で表すとしたら、これほどしっくりとくる言葉は、あまりないように思えます。
さて、作品に登場する記号の羅列ですが、どうも「なろう」では表示できない記号があるらしく、「?」マークが連続してしまいました。自分のパソコンの一太郎で書いているときは、もっと暗号文めいていたのですが……。

それでは、ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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