17 水着選び
今更だが、この世界の一年は三六五日で、一日は二十四時間だという。
地球と全く同じだ。
「そんなに驚くことですか? というか知らなかったんですか?」
教えてくれたアリアが、俺の反応を見て首を傾げる。
「ああ、いや。もちろん知ってたよ。ただ、東方とこっちだと、違うカレンダーが使われているかもしれないと思って。けど同じカレンダーだった」
「なるほど、そういうことでしたか。そういえば、昔は違うカレンダーを使っていたと聞いたことがあります。不正確なので、だんだん四季とカレンダーが合わなくなっていくとか」
「へえ……アリアは物知りなんだなぁ」
「ふふん。見直しましたか!」
アリアはベッドの上に座ったまま胸に手を添え、ドヤ顔を決める。
ところで、なぜ急にカレンダーの話になったかといえば、これからクエストで、南の方に行くからだ。
今は五月半ばだが、その地方はもう泳げるらしい。
そう。『今は五月半ば』という話を聞き、俺はこの世界のカレンダーがどうなっているのか興味を覚えたのだ。
地球と同じというのは分かりやすくていい。
しかし俺にとって都合がよすぎるなぁ。
やっぱり、これは夢?
ま、どっちでもいいか。
「さて、テツヤさん、ミミリィさん。南の、それも海がある村に行くのですから、出発前に水着を選びましょう! 私、海に行くのは初めてなので、ワクワクが止まりません!」
「私も川で泳いだことはあるけど、海は初めて」
二人の少女は、とても嬉しそうだ。
遊びに行くのではなく、海に現われた巨大イカを退治しに行くという立派な仕事なのだが……しかし、俺も二人の水着が楽しみだ!
「よし、出発は明日にして、今日中に水着を買ってしまおう。アリア、水着が売っている店まで案内してくれ」
「分かりました!」
いつもどおり、ベランダからベッドを発進させる。
すると隣の部屋の人が「こんにちわ」と挨拶してくれた。
近隣住民もすっかり慣れたものである。
さて。アリアの案内で衣服店までやってきたのはいいのだが……あまり広い店ではないので、ベッドごと入るわけにはいかない。
仕方がないので、店の前にベッドを止めて歩いて入る。
歩くと視界の端にピコピコ表示されて、ちょっと鬱陶しいんだよなぁ。
【レベル436になりました】
【レベル437になりました】
【レベル438になりました】
【地平の彼方まで絶対零度を習得しました】
ほらな。何か凄そうなスキルをまた覚えたし。
名前からして迷惑そうなスキルだ。
「テツヤさん、テツヤさん。こっちとこっち、どちらが似合うと思いますか?」
アリアは二つの水着を持って俺の前に立つ。
一つは紫色で、ほとんど紐みたいなマイクロビキニ。
もう一つはフリルが付いた可愛らしい、白色のツーピース水着だ。
「うーん、こっちの白い方がいいと思うよ」
「そうですか! テツヤさんは変態なのでマイクロビキニを選ぶと思っていました!」
「アリア。露出が高ければそれでいいってものじゃないんだよ」
「奥が深いです!」
アリアは何やら感心し、試着室に入っていく。
そして数分後、白い水着を着たアリアがカーテンを開けて現われた。
彼女の金色の髪と白い水着の対比が眩しく、まるで天使のようだった。
「どうですか、テツヤさん!」
「すっげー似合ってる!」
俺は親指を立て、グッジョブと叫ぶ。
褒められたアリアはぴょんぴょん飛び跳ねた。
「ところで、ミミリィはどこにいったんだろう?」
と、俺が呟いた瞬間、アリアの隣の試着室のカーテンが開いた。
そこには、紺色の旧型スクール水着を着た狐耳少女が立っていた。
って、スク水!?
「この世界はスク水もあるのか!」
「スク水って何のこと? 私は一番、地味で露出の少ない水着を選んだだけ」
ミミリィの台詞から察するに、どうやらこれは普通のワンピース型の水着として認知されているようだ。
俺の世界のスク水とそっくりなのは偶然ということか。
いやぁ、それにしても同じ形だ。
そしてミミリィの幼児体型によく似合っている。
「ミミリィもグッジョブだ!」
「褒められた。ばんざい」
ミミリィは無表情で万歳する。
しかし顔がちょっと赤くなっているので、俺に褒められたのが嬉しいのだろう。
可愛い!
「よし、二人とも水着は決まったな。会計を済ませて、明日に備えて休むか」
「あれ? テツヤさんの水着は?」
「あ、そうだった」
俺の水着なんて、正直どうでもいいんだけど。
全裸ってわけにもいかないしなぁ。
適当に無難なのを買っておこう。