第二話 物語への第一歩
陽太(苦労して聞き出した赤髪和服不良の名前)の話によると、今日は東の鬼一族名家の顔合わせがあるらしい。
鬼一族という単語に驚きだが『東の』と前置きがあるように鬼一族は東西南北に存在するようだ。
更に驚いた事に、俺はその東の名家のひとつに数えられる『藤見家』出身だと告げられた。
ちなみに俺には立派な兄が3人も居るので跡取り等という身分ではなく、特に期待されていない四男坊。
そんな俺が何故名家の顔合わせに出席するのか。疑問に思い尋ねたが陽太も首を傾げただけだった。
「旦那様は恭様に対して、いつも不思議なご命令をされますね」
どうしてでしょう?と逆に俺へ質問を返されてしまった。
この『旦那様』とは恐らく俺の父、藤見家の現当主になるのだろうが、理由は俺が知りたいくらいだ。
それ以前にこの世界での家族の顔とか知らないよ。
父親とか兄3人とか。家に帰ったら困るんじゃね?
むしろ、誰か俺にこの現状を説明してくれないだろうか。自己解釈にも限界がある。
恐らくだが、俺は『藤見恭』という鬼に憑依しているのだと思う。
陽太という俺の付き人から徐々に聞き出した話から推測するに、現代日本でない事は確か。
時々彼の口から『我ら鬼が』とか『最近は人間が』という単語が出てくるので少なくとも鬼と人間は種別が違うものとしてカウントされるのだろう。
何が違うのかは、実際に『この世界の人間』を目にしなければ判断できない。
今こうして俺の前を歩いている陽太も鬼と言いながら、俺の記憶する人間と何も変わらないのだから。
「あっ、城門が見えましたよ!」
森を抜け、日が落ちた為に人が疎らだった城下町を突き抜ければ聳え立つ東条家の城。
現代日本でないパラレルワールドだと分かっているが、こんな立派な城を目の当たりにすると自分が戦国時代にでも来た気分になってしまう。
まぁ、陽太に思い付く限りの戦国武将を告げて何の反応も得られなかったのだから別世界なのだが。
「うぅぅ、緊張しますね恭様……」
「そうだな」
「藤見家のお城も大きいですけど、さすが東条家。何倍くらいあるのでしょう?」
なるほど。大きさは違うが、藤見家も城に住んでいるのか。
どうやら俺が名家の出身という事は嘘では無いらしい。
仕入れた情報を俺なりに解釈していると、陽太が俺の返答を求めるような目で見ている事に気付いた。
だが俺は返答に必要な知識を持っていないので、無難に言葉を濁しておく事しかできない。
「……さぁな」
「もー、相変わらずですね。そんなので東条家の当主様へのご挨拶は大丈夫ですか?」
……挨拶?
顔を合わせてペコリじゃダメなの?もしかして初対面ですか!?
うわ、完全に顔見知りだと思ってたよ。適当に話合わせて相槌打てば済むと思ってたのに。
この時代……というより、この世界の挨拶ってどうやれば良いのかな。
握手とかダメっぽい気がする。戦国時代っぽいから床にデコ擦り付けて声掛けられるまで待つべき?
あー全然わからん。とにかく近くの人に話しかけてみて、反応を見てみよう。
大きな間違いをしない限り普通の反応が返ってくるはずだ! と信じたい。
よし、思い立ったら行動だ。
人生はスピード感が大切って言うもんね。
早速、門番のお爺さんで練習させてもらおう。
ご高齢なのに、こんな時間までお仕事ご苦労様です!
申し訳ないけど俺に付き合ってね!!
「お初にお目に掛かります。藤見家が四男、恭と申します」
うん、我ながら無難な挨拶だと思う。
お爺さんは一瞬目を見開いたが皺だらけの顔で柔らかく微笑んでくれた。
よしよし良い感じじゃない?陽太は『何で挨拶してるの?』って顔してるけど。
それでも俺と同じように頭を下げているのは良くできた付き人魂だと思う。たぶん。
「よく来なさった。連れの人は何人じゃ?」
「はい。連れは一名のみでございます」
「ほぅ、他の連れはおらぬと申すか」
俺の返事を聞いてお爺さんは笑い皺を浮かべていた目元をスッと細めた。
その動作が、俺には計り知れない何かを見据えているように思えて背筋が冷える。
え?何それどういう意味ですか?
どう見ても俺以外には陽太しか居ないじゃん。
俺たちの他に誰かいるの?そんな幽霊じゃあるまいし――って、幽霊!?
ももも、もしかして幽霊とか見えちゃう人?
あの森で幽霊連れて来ちゃったとか?ゲゲッ!
内心焦りながら、ギギギ……という音がたちそうな程ゆっくりと森の方を見る。
何も気にせず通って来た森なのに、完全に日の落ちた今では不気味以外の雰囲気は持ち合せていない。
俺ヤバくない?幽霊に取り憑かれちゃったりしてない?俺の存在自体が憑依だけど。
幽霊とか無理なんです。勝手に森を通って怒ってるんですか?後で土下座しに行きますから許してぇ!
ちなみに今からは無理です、怖いんで。明るい時に森の入り口付近で土下座します!!
「皆は広間に集まっておる。全員揃うか、刻限が過ぎるか……今暫し待たれよ」
「――は」
うわーん怖いよぉ!ビビって返事も小さくなっちゃったよっ。
お爺さん、幽霊さん達に俺を恨まないようお願いしてくれないかな?
とりあえず後でもう一度お爺さんに話しかけて交渉をお願いしてみよう。
うん、そうしよう!
「開門!」
お爺さんが声を上げると立派な城門が盛大に開かれた。
開いた門の先にはお迎えが何人か居て、俺と陽太を待っている。
妙に真剣な目で俺を見ているお爺さんに、深々と頭を下げたまま背中を見せないよう門をくぐった。
陽太もそんな俺に習ってか、理解していない頭を下げて門をくぐる。
いいんだ、頭を下げておけ。後で幽霊に謝るための協力をお願いするんだから。
今の内に好感度を上げておくんだ。フレンドリーになるべし!
「ほっほっほ、さすが藤見家じゃの」
門が完全に閉まる直前、お爺さんがそう呟いたのが俺の耳に届いた。
思わずガッツポーズしそうになったのを必死に抑えて、冷静な表情で頭を上げる。
こりゃぁ好感度大だ、よっしゃ協力者ゲットォォォ!
へっへーんだ、ちょろいちょろい。もう幽霊なんか怖くないぜ。
……なーんちゃって、嘘ですゴメンナサイ、やっぱ怖い!
早く人の多い所へ行こう。陽太と2人だと危険だ。
門の方へ向けていた身体を反転させ城の方へ向けると、必然的に出迎えの人達と目が合った。
「お待ちしておりました、藤見様」
俺の家名を知っているという事は知り合いだろうか。
それとも門番のお爺さんとの会話を聞いていたのだろうか。
どちらにせよ、最低限の挨拶として待ってくれている人達に軽く頭を下げる。
「丁重な出迎え、感謝致します」
「これはこれは……私共の仕事でございます故」
それでも日が暮れてから尋ねて来た俺達を迎えてくれたのは嬉しい事に変わりない。
感謝の気持ちを込めてニコリと控えめに笑えば、先頭に居た初老の女性が上品な仕草で
口元を片手で覆って『あらあらまぁまぁ』と周囲に微笑んだ。
同じ言葉を繰り返すのが口癖なのかな?
「広間へご案内致します。こちらへどうぞ」
柔らかな声に促されるようにして俺と陽太は場内までの道のりを程よい速さで歩く。
何となくだが城門から内部、城壁の造りを記憶しておく。これは現代での友人の影響だ。
城マニアだった友人は天守閣より城壁の造り等に興味があり、その良さを熱く俺に語っていた。
……右から左に聞き流していたので、俺の役に立つ情報としてはインプットされないが。
不自然でない程度に観察していた(つもりの)俺とは逆に、
俺の半歩後ろでキョロキョロしていた陽太が思い出したように質問してきた。
その内容が非常に答えにくいものなので、追求されない程度に返答しておく。
「恭様、何で門番のお爺さんに挨拶されたのですか?」
「その内わかるさ」
「では他の連れ、とはどういう意味ですか?」
「お前は知らない方が良いよ」
「……?」
全然わかりませんって顔してるな、陽太。大丈夫、お前は気づかない間に道連れだ。
たった数時間の付き合いだけど予想できる。お前絶対幽霊とか嫌いだよね。
俺と同じ空気というか匂いというか。同属的な何かを感じるんだよ陽太には。うん。
そんな噛合わない俺達を広間へ案内する人達が感心したような息を漏らした事を俺は気づかなかった。
へっぽこ拍手
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