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ケンタと雪ん子

作者:日下部良介
 冬になって雪が降り始めると、おばあちゃんが話してくれたよ。一人で遊んだらいけないって。雪ん子たちが悪さをするからって…。 

 ケンタはおじいちゃんとおばあちゃんと一緒に暮らしているよ。森のそばの小さなお家だけど、大きな柿の木があるよ。お父さんとお母さんはケンタがもっと小さい時に天国へ行っちゃったんだよ。
ケンタはまだ小さいけれど一生懸命おじいちゃんのお仕事を手伝っているんだよ。
 今日は畑で大根の収穫。
おばあちゃんはお家で冬仕度。家の前で採れた柿を干し柿にするからお家でお留守番なんだよ。ケンタはおじいちゃんと二人で畑に行ったよ。
ケンタはまだ小さいから大きな大根を上手に引き抜くことができないんだよ。
「どうれ、じいちゃんが手伝ってやろう…」
 おじいちゃんはケンタの後ろに立って一緒に大根を引き抜こうとしたよ。
「よいしょ、よいしょ」
 すると大きな大根は一気に土の中から顔を出したよ。
 あまりに大きな大根だったから、二人とも力いっぱい引っ張ったよ。だから、勢い余って二人とも尻もちをついたんだよ。
「あいたたた…」
「おじいちゃん大丈夫?」
 どうやらおじいちゃんは腰を痛めてしまったみたいだよ。
「あいたたた…」
 ケンタはおじいちゃんと収穫した大根を大八車に乗せて帰ろうとしたけれど小さなケンタには重たすぎてちっとも動かない。仕方ないのでケンタは家に帰っておばあちゃんを呼んできたよ。

 収穫した大根とおじいちゃんを乗せた大八車を引きながらおばあちゃんは言ったよ。
「じいさんや、えらいことになったもんだなあ」
「なあに、一晩寝たら良うなるさ」
「だったらいいんじゃがのう。そろそろマキがなくなるけん、明日はマキ拾いに行ってもらわなならんのに」
「なあに、この大根の煮物でも食べりゃあ、すぐに良うなるさ」
「だったら、いいんじゃがのう…」
 おばちゃんはおじいちゃんが心配でたまらないみたいだよ。小さなケンタもおばあちゃんと一緒に大八車を引きながら、おじいちゃんのことが心配になったよ。

 今夜の晩御飯はケンタとおじいちゃんが採ってきた大根の煮物。おばあちゃんは料理が上手。おばあちゃんが作った大根の煮物がケンタは大好きだったよ。
「大根おいしいね」
「そうじゃな。ばあさんの大根はうまいのう」
「これでじいさんの腰がよくなればいいんじゃがのう」
「大丈夫じゃよ。明日になれば良うなっとるよ」

 翌朝、おじいちゃんの腰の具合は良くなっていなくて、おばあちゃんはとても困った顔をして言うんだよ。
「困ったのう。マキが無くなってしまったら火を炊けんのう」
 おばあちゃんは具合の悪いおじいちゃんを置いて出かけるわけにはいかなかったんだよ。だから、ケンタは自分がマキ拾いに行こうと思ったんだよ。ケンタは納屋から手押し車を出してきたよ。ケンタが赤ん坊の頃、おじいちゃんとおばあちゃんはケンタをこれに乗せて畑まで連れて行っていたんだよ。ケンタは手押し車を押して森へ入って行ったよ。

 森にはマキに使える小枝がいっぱい落ちていたよ。ケンタは次々と小枝を手押し車に入れていったよ。気がつくと、いつの間にか雪が降り始めていたんだよ。
「早く帰らなきゃ」
 ケンタは小枝がいっぱい入った手押し車を押したけれど、重くてちっとも動かない。仕方がないので、せっかく拾った小枝をケンタは少しだけ捨てることにしたよ。どうにか押していけるようになったのでケンタは急いで家に帰ることにしたよ。けれど、今度は積もった雪でうまく押せないんだよ。
 地面が真っ白になると、ケンタはどっちが家の方になるのか分からなくなったよ。寒さと疲れでケンタは森の中で座り込んでしまったよ。
「ねえ、これなあに?」
 いつの間にか、ケンタの周りには小さな雪ん子がたくさん集まって来ていたよ。
「ねえ、これなあに?」
 どうやら、雪ん子たちはケンタが押していた手押し車に興味をひかれたみたいだよ。
「これは手押し車だよ」
「どうやって遊ぶんだ?」
雪ん子たちはケンタが手押し車で遊んでいたのだと思ったみたいだよ。
「おじいちゃんが腰を悪くして動けないから、ボクが代わりにマキ拾いに来たんだ」
「おじいちゃんの代わりにマキ拾い。偉いな」
「偉い、偉い」
「偉い、偉い」
「偉い、偉い」
「でも、雪で手押し車が動かなくなっちゃった」
「たいへんだ」
「たいへんだ」
「たいへんだ」
 雪ん子たちは一斉に囁きだしたよ。その声は森中にこだまして無気味になり響いたんだよ。ケンタはおばあちゃんの話を思い出してだんだん怖くなってきたよ。
『雪の日に一人で遊んでいると雪ん子たちが悪さをする』
 ケンタはうずくまって目を閉じて、耳を塞いだよ。すると、雪ん子の一人がケンタの顔を覗き込んだんだよ。
「家まで送ってやる」
「送ってやる」
「送ってやる」
「送ってやる」
 ケンタはそっと目を開けたよ。雪ん子はにっこり笑って、手押し車の周りをくるくる回り出したよ。すると、他の雪ん子たちも一緒になって、手押し車の周りをくるくる回り始めたよ。そしたら、手押し車がふんわり浮かび上がって、車輪がソリのように形を変えたんだよ。雪ん子はケンタの体を抱えあげて手押し車に乗せたんだよ。
「家まで送ってやる。家はどこだ?」
「家はどこだ」
「家はどこだ」
「家はどこだ」
 ケンタは辺りを見渡した。どっちを向いても真っ白で、自分がどっちから来たのか解からなくなっていたんだよ。
「わからないよ…」
 すると、さっきの雪ん子が空高く舞い上がって行ったよ。空の上で一回転すると、再びケンタのもとへ降りてきた。雪ん子は空の上からケンタのお家を探そうとしたみたいだよ。この辺りには、一件しかお家は無かったよ。そばに大きな柿の木があるお家が一件だけ見えたよ。
「大きな柿の木がある家か?」
「うん」
「家まで送ってやる」
「送ってやる」
「送ってやる」
「送ってやる」
 雪ん子たちはみんなで、ケンタを乗せた手押し車を押したよ。手押し車は雪の上をすいすい滑って進んでいったよ。森を抜けるとケンタの家の大きな柿の木が見えてきたよ。

 ケンタは家に着くと、真っ先におばあちゃんのところへ掛けて行ったよ。
「おばあちゃん、マキを拾ってきたよ」
 ケンタがおばあちゃんと一緒に出てくると雪ん子たちは一斉に空高く舞い上がったよ。おばあちゃんは手押し車いっぱいのマキを見て驚いたんだよ。手押し車の中にはケンタが重くて捨てた分もちゃんと入っていたよ。
「こんなにたくさん!これ全部ケンタ一人で運んで来たのかい?」
「うん…。でも、あれ?」
「どうしたんじゃ」
「雪ん子が手伝ってくれたんだけど、居なくなっちゃった」
「なんと!雪ん子じゃと?」
 すると、そこへ腰を痛めていたおじいちゃんが家の中から出てきたよ。
「おじいちゃん、治ったの?」
「不思議なことに、急に痛みが無うなってのう」
「ほんに、そりゃ不思議じゃのう。さっきまでちっとも動けんかったのに」
「雪ん子が治しててくれたんだよ」
 ケンタが言うと、おじいちゃんもおばあちゃんも腹を抱えて笑いだしたんだよ。
「雪ん子がそんなことはせんよ」
 でも、ケンタは知っていたよ。空の上で手を振っている雪ん子がケンタにはちゃんと見えていたんだよ。
 おじいちゃんとおばあちゃんが家の中へ入ると、ケンタは手押し車の中におもちをたくさん入れてあげたよ。雪ん子たちは嬉しそうにおもちの入った手押し車を押して森の中に帰って行ったよ。

 次の日、家の前に手押し車が戻って来ていたよ。手押し車の中にはたくさんのマキが入っていたんだよ。






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