《連載小説》『俺たちゃあ夫婦で管理人』(13/54)縦書き表示RDF


《連載小説》『俺たちゃあ夫婦で管理人』
作:鉄下 学



第1話 兄と妹 (その13)


「あっ!そうや。あんた、昨夜、あの妹さん来てたらしいで。知ってた?」と美佐子が思い出したように問う。

昨夜は、町内会の防犯対策の一環としての「夜回り」が行われていて、このマンションからも1名参加するように言われていたことから、その役を源次郎に頼んであった。
午後8時から10時ぐらいまでの2時間、この地域の周辺をパトロールしていたはずだった。

「そんなこと言われても、分かるかいや!」
源次郎は、昨夜のことを思い返すように、腹立ち紛れにそう答える。
昨夜は、夜の9時から懐かしい映画が放映される予定であった。それを見たかったのだ。
朝から、楽しみにしていた。なのに、美佐子から「夜回り」を命じられたのだ。
いくら大人しい性格でも、多少は「むっ!」とするものがあった。

「そら、そうやな。このマンションを見回ってる訳やなし。」と美佐子は淡々と言う。
それっきり、源次郎は黙ってしまう。ただ、ひたすら張り紙作りを続けている。


今日は土曜日である。
今朝は、早くからあのような騒ぎがあったが、通常の土曜日は静かなものなのだ。
ようやく、そのいつもの静けさが帰ってきたような気がする美佐子であった。

「そうや、田辺さんと、井田さん、もう出て行った?」と訊く。先月末には貰うべき「今月の家賃」がまだなのだ。
「あの騒ぎの間なら分からんけど、救急車が行ってからは見てないなぁ。2人とも。」と源次郎が言う。
「ほな、集金に行ってくるわ。・・・・・え〜と、領収書は、と・・・・。」とつぶやきながら、美佐子は他の未納者を確認していく。

契約するときには、「原則として銀行引き落とし」でと言うのだが、人にはいろいろな事情がある。
さらには、紹介してきた不動産屋の説明不足もあって、応じてくれない住人が多いのだ。
救急車で運ばれた向井のように、「分かりました」とは言ってくれない。したがって、毎月分を現金で集金することになる。これがまた手間なのだ。

「え〜と、203号室の井田さん、それから208号室の吉宗さん、それから・・・。」
「ええから、はよ行ってこいよ。言うてる間に“脱走”されるで。」と源次郎が茶化すように言う。
「ほな、順にちょっと回ってくるわ。」と言って、美佐子が管理人室を出る。
階段を使って、2階へ向かっていく。

その後姿を見送ってから、源次郎は最後の「張り紙」を書き終えた。
「全部で7枚。あそこと、あそこに張って、それからと・・・・。」と頭で張り出す場所を確認する。

そのとき、源次郎の携帯電話が鳴った。着メロは「必殺仕事人」である。
相手を確認する。
「507 向井忠明携帯」とある。源次郎が設定した「居住者」のグループである。

「もしもし、管理人の吉岡ですが・・・・。」と受ける。
向井本人からでないことは薄々感じている。

「もしもし・・・・。」と女の声。
源次郎は、黙って耳を傾ける。




(つづく)












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