第十八話 新しい家族
おはようございます。五月雨葉月です。
いよいよ新しい章に突入です!
今回から時間の飛びかたが大きくなって来るのでご注意下さい。
僕が転生してこのシスタリア王国に生まれ、そろそろ三年になる、リス暦836年1月。
僕がニルムさんと共に、日曜日以外の日課になっている魔法の練習をしていると突然、息を切らしたナーガさんが駆け寄ってきた。
「ルイス様! ルイス様! 」
「な、何事ですか!? 」
僕達は一度魔法の練習を止め、ナーガさんに歩み寄った。
どうしたんだろう。何が事件でも起こったのだろうか。
「はあはあ、ふう。申し訳ありません」
流石は近衛騎士団長。一瞬で息を整えると、背筋をピンと伸ばして、近衛騎士流の敬礼――右手で拳を作り、左胸にそえ、軽く頭を下げる――をすると、事情を説明し始めた。
「何かあったのですか? 」
お父様の専属執事でもあるナーガさんが一人でここまで来るのだ。よっぽどの事が無い限りこんなことは無いだろう。
「はい。ルイス様、早急にお部屋にお戻りください」
やはり、何かがあった様だ。ちなみにお部屋とは、いつも寝起きしている、家族用の寝室の事だ。
僕が神妙な面もちをして黙って聞く姿勢を保っていると、今まで真面目な顔つきをしていたナーガさんがいきなり破顔し、僕は驚いた。
「大変喜ばしい事に、王妃様がご懐妊されました! 」
ふーん、ご懐妊、ご懐妊……………………
ん? 今、ご懐妊って言った!?
「ほ、本当ですか!? 」
「ええ、最近体調があまり優れていないご様子でしたので、医務官に見て頂いた所、ご妊娠されている事が分かりました」
やっぱりそうだ!
嬉しいなぁ……異世界に来て、やっと兄弟姉妹が出来るのか…………
日本では一人っ子だったから、初めての経験だ。
「わ、分かりました。戻れば良いのですね? 」
だったら一刻も早く戻らなくては!!
あ、ニルムさんどうしよう。
気になってチラッとニルムさんの方を向くと、ニルムさんも嬉しそうに微笑んでいた。
この世界では、妊娠・出産をすることがとても喜ばしい事とされている。僕の感覚で、そこまでしなくても……と思う様な程、家族や親戚、近所の人も共に喜ぶそうだ。
そんな事もあり、この世界ではご近所付き合いがとても良いらしい。
ナーガさんを見て、チラッとニルムさんはどうするの? とアイコンタクトをすると、伝わったかは分からないが、
「ニルム侯爵もご一緒に、との事です」
「ほ、本当に!? アーノルドがそう言っていたのか!? 」
「はい。ぜひ来てくれ、と」
その言葉に、ニルムさんはオーバーな程喜んでいた。
と、こんなことより早く行かなくては。
「い、行きましょう」
ニルムさんに若干引きぎみの僕が言うと、二人はハッと我を取り戻して頷いた。
寝室に着くと、お父様とお母様が、笑顔で待っていた。
「おかえり」
「おかえりなさい」
二人のおかえり、で迎えられた僕と、
「お邪魔します」
「お、ニルム。ようこそ」
「いらっしゃい、ニルムさん」
歓迎で迎えられたニルムさんは、ここに呼ばれた理由、お母様の妊娠について聞きたくてうずうずしていた。
「お、お母様」
「リーズさん」
僕とニルムさんの声が被る。
それにクスクスと笑うお父様とお母様。
「本当に仲が良いのね。何ですか? 」
僕達は顔を見合わせ、無言の相談をした。したと言っても、頷いたりするだけなのだが。
相談の結果、僕が聞くことになった。
「お母様、妊娠したって、本当ですか? 」
その質問にお母様は、満面の笑みで
「ええ、本当よ、ルイス。あなたはお兄さんになるの」
と言ってきてくれた。
おおおお兄さん…………今はまだ実感は沸かないが、その言葉だけは嬉しく、長く耳に残った。
「いつ、いつ頃お生まれになる予定ですか? 」
嬉しさで喋れない僕の代わりにニルムさんが引き継ぐ。
そう。重要な部分はそこだ。
いつ、僕は兄になるのだろう。
「今年の夏ごろ、と言っていたから、あと半年ほどかな」
お父様が答える。
半年……半年かぁ…………
一年のうちたった半年ほどなのに、待ちきれないほど嬉しさに満ち溢れていた。
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七月二十二日、夜。
魔法の練習を終え、僕とお父様は二人で夕食を食べていた。お母様は最近、もうそろそろ出産の時期が近づいてきたので王立病院に入院して安静にしている。
なのでここ一週間ほど、毎日二人きりの食事が続いていた。
お母様が入院してからと言うものの、僕とお父様はずっとそわそわしっぱなしだった。
その様子を見てニルムさんが笑っていたが、そのニルムさんもずっとそわそわしていて魔法の練習中も時々上の空だった。
お父様と二人きり、と言うのは少し気まずい気もするが、まだそんなことを気にする年齢ではない、と気付いたので普段通り接していた。
「お母様、大丈夫でしょうか? 」
最近はもっぱらお母様の事を話していて、何故かお母様との馴れ初めや、僕が生まれた時の事などを聞くことになっ――――
バタバタバタ、コンコンコンコン。
「ど、どうした? 」
いきなり部屋の外が騒がしくなり、慌ただしくノックがされた。
「失礼します」
そう言いながら入ってきたのは、後で聞いた話によると、王立病院でお母様の周囲の警戒に当たっている女性の近衛騎士だった。
「陛下、至急王立病院へお願い致します。もうそろそろ生まれそう、との事です」
おおっ、と叫び、お父様がガタッと立ち上がった。
「ほ、本当か!? 」
そう聞くお父様の顔は喜びに満ちていた。心なしか慌てて入ってきた近衛騎士も口元を緩めていた。
「はい。王子様とご一緒にお越しください、と医務官が言っておりました」
若干声を弾ませながら近衛騎士が急かすような口調で言ってきた。
「そ、そうか。ならば急ぐとしよう。ルイス、大丈夫かい? 」
「はい。今すぐに行きましょう」
聞かれても答えは決まっている。
僕達は小走りに王城の隣にある王立病院へと向かった。
広い王城を僕をお父様が抱える形で走り抜け、王立病院のお母様の病室に着いた時には、新しい生命は誕生していた。
「リーズ、お疲れ様」
お父様がお母様をねぎらい、お母様はそっと微笑んだ。
「女の子ですよ」
どうやら妹らしい。
お母様の腕の中ですやすやと眠る新しい家族。その姿を見て、本当にお兄さんになったんだ、と実感が沸いてきた。
「ルイス」
お母様が読んだ。お母様を見ると、微笑みながら
「今日からあなたは、お兄さんですよ」
と言ってきた。そうか……本当にお兄さんになったんだな…………
「名前、名前は何ですか? 」
一番気になるのはそこである。
可愛い妹の名前だ。知りたいと思うのは当然だろう。
「もう私たちで決めていたんだ」
い、いつの間に……
と、お母様が僕を手招きしてきたので、お母様が休んでいるベッドに近づいた。すると、お母様が妹を持ち上げ、僕の腕のなかにそっと入れた。
僕の体だと、小さな妹の体を支えているのは大変だったが、そういうのは気にならなかった。
「この娘の名前はね――」
ごくり、と無意識に唾を飲み込む。
そして、続きの言葉を待つ。
「ロゼよ」
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二年前の七月、初めての妹が出来た時の事を思い出しながら、懐かしいなぁ……と思い出に浸っていた。
あのときあんなに小さかったロゼ。
それと全く変わらない姿で僕の腕の中で眠る、新しい家族の事を見た。
「これからよろしく。イリス」
新たな家族を迎えた我が家はさらに賑やかになりそうだ。
「ほら、ロゼも、お姉ちゃんになったんだよ。イリスに挨拶をしなさい」
僕がそう言うと、ロゼは元気にうんっ!と言うと、
「イリスちゃん、おねえちゃんの、ロゼだよ。よろしくね」
まだ小さい舌足らずのロゼがイリスに挨拶をした。その様子をにこにこしながら見ていたお父様、お母様。
四人に家族が増えた最初の日。
お母様を中心に四人で並んだ所を、ナーガさんが持つ記録石で記録した。
後々の思い出になるように。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます!
前話の○○とは、「妹」の事でした!
これからは、新たに加わった二人の妹を交えた話も増える予定なので、よろしくお願いします!
ブクマ、ご感想、ありがとうございます!
そしてそして、なんと4100PVを突破致しました!ありがとうございます!