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俺、未来で戦闘機の燃料(エサ)になります! 作者:phantomplus
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【21】おまえもか


 絶妙に気まずい空気の中、なんとか俺はダリアをなだめ、セレナを泣きやませることに成功した。
 とは言え、行き交う人々の視線が痛い。たとえそこに俺を非難する意思がなくとも、女の子が目の前で泣いたってことだけで、パトカーが真後ろを走っているような居心地の悪さがある。何も悪いことをしていないのに謝りたくなるような。
 ええ、ええ、みなさんお察しの通り、俺は都合よくいい人になりたがるヘタレですよ。
 でも、みんなそんなもんだろう。
 正直に言ってみろよ。
 俺は見えない誰かに向かって、そう心の中で悪態をついた。
 そして、気を取り直して目の前の少女に向かう。


「あの。俺はあれこれよく知らないからさ、ちゃんと説明してくれる?」


 セレナと名乗った少女は、かわいらしくこくりと頭を動かしてから、思いがけない乱暴さで目元をぬぐった。案の定目元は擦れて赤くなる。
 やはり人間っぽい。


「私はセレナ。現在はウィルシュラスト港所属のバハムートクラススターシップ、テラに配備されている戦闘機です」

「俺と、コックピットで会話をしたセレナ?」


 少女はまたも頷いた。


「え、えと。戦闘機は、こうやって人型で動くことができるの?」


 きっとダリアもこれが聞きたいだろう。何せ彼女こそ本物のパイロットなのだ。しかも才女らしい。
 そう言えばパイロットって座っているだけの簡単職業だとムクさんは言っていたが、そんな簡単職に才女が就くものなのだろうか。もしかして仕事の簡単さから人気職なのだろうか。


「……出来ますが、こうして外へ出てくるほどに活動をすることは、近年はありません」

「近年?」


 セレナはちょっと気まずそうにダリアを見てから、さらに言葉を紡いだ。


「戦闘機はパイロットと一心同体です」


 セレナとは神経を繋いだこともある。
 俺は頷いた。


「パイロットは戦闘機との会話を通して意思疎通を図り、信頼関係を構築し、任務に当たるのが……普通でした。ダリアのように、一方的に名前を付けて、まるで所有物のように扱われるようになるまでは」

「ちょ、っと。まるで私が悪いみたいにっ」

「まあまあ、まずは聞いてみようぜ」


 ダリアは、ぐむっとおかしな声をあげてから口を引き結んだ。彼女も説明がほしいのだ。


「……私は最初のバージョンが2.03という……いわばロートル機です。機体ではなく、セレナとしてのシステムができたのは、そうですねざっと四千年くらい前になります」

「四千年!?」


 俺もダリアも思わず声を上げてしまった。
 これは結構長い歴史物語だぞ。俺はセレナの話を本腰を入れて聞く覚悟を決めた。
 そのためには。


「ちょっと待って。ちゃんと理解したいからさ、場所を変えないか」







「で、俺の部屋に来たのね」


 スーツではなく、長袖のシャツにゆるいパンツ姿のリオンはそう言って頭を掻いた。
 数分前、彼の部屋になだれ込んだのだが、彼はまさに明日の早番に備えて寝ようとしていたその時だったらしく、じとっとした瞳で俺を睨みつけていた。
 だが、セレナを紹介し、彼女が言わんとしていることを説明した途端に、いつものリオンに早変わりだ。これはあれだ、歴史マニアだ。


「ダリアもか。まあ、知った顔ばかりだから良いけどさ」


 言いながらも、全員に水を出してくれるあたり、やっぱり面倒見と言うかノリと言うか、そう言うものが良い男なのだろう。
 リオンは自分はベッドに腰掛けて、隣に座るセレナの頭をおもむろに撫でた。
 セレナは嫌そうに首を振る。


「この子が戦闘機? 俺にはかわいらしい女の子に見えるけどな」


 リオンは嫌がるセレナをものともせずに、ぐりぐりと頭をなでた。その手がやけに手慣れているような気がする。


「だよな。無理も無いよ。それよりセレナの話を聞こうぜ。なあ、セレナ?」


 セレナは素直に頷く。
 リオンもセレナの頭から手を下して、少しだけ身体をセレナの方に向けた。


「先ほどから申し上げている通り、私はヒイラギの戦闘機、セレナです。製作は今から四千年ほど前、バージョンは最新です」

「本当にこんな自己紹介するんだな」


 リオンがそう言うと、セレナはじとっとリオンをにらんだ。
 リオンはおどけるように両手を挙げる。


「戦闘機はもともとコミュニケーションを重ねて信頼関係を作るように作られています。私が作られた当初は戦闘機とパイロットはバディとも呼ばれていました。戦闘機本体に乗っている間だけでなく、降りたときも携帯モジュールをパイロットが携行して会話を交わしたりしてきました。そのうちにモジュールは形を変え、人型バージョンが生まれたのです。私は今、人型を取っています」


 そう言ってセレナはこくりと喉を鳴らして水を飲む。


「水、飲めるの?」


 ダリアがそう言うと、セレナはツンと顔をそらす。


「当たり前でしょう。アンドロイドすら飲食できるようになってから何百年も経っているんです。私が彼らの何ゼタ倍の計算能力を持っていると思うのです?」

「あーもう、いちいちイラつく。もっと素直に話せないの?」


 ダリアは両手で頭を抱えた。


「貴女が私たちをちゃんと見ないからです。それなりの対応をするのは当然でしょう」

「何それ、私が戦闘機をぞんざいに扱ってるとでも?」


 セレナはそのまま完全にダリアから顔をそらした。


「はあ?」

「まあまあ。……ダリアだって戦闘機、大切にして……あっ!」

「何よ!」


 ダリアは苛立ったままの勢いで俺の方を振り向いた。とたん、ちょっとバツの悪そうな顔になる。


「なあ、ダリア。ダリアってさルビーと会話してないの?」

「してないよ! マニュアルにそんな事書いてないし、会話できるとも思ってなかったし! 指示入力するだけで、ルビーも「了解しました」とかシグナル読み上げとか、一定の反応しかしないよ」


 そうだ。セレナと最初に会話をした時を思い出す。
 皆勝手に名前を付けて呼ぶと言っていたじゃないか。それを快く思っていないのは明らかだった。


「それだ! ダリア、次に乗るときにルビーに呼び掛けてみろよ。戦闘機には戦闘機なりの自我があるっていうんだからさ、ルビーだってルビーの自我があるんじゃないか。それこそ名前だって」


 ダリアは胡散臭げに俺を見てから、セレナを見た。そしてもう一度俺を見る。


「何と言うか、信じられないけど、この子が戦闘機ならそうかもしれないし、でも」

「ものはためしに、話しかけてみたらどうかな」

「……うん」

 たっぷり時間をかけ、ものすごく嫌そうにダリアは頷いた。
 その間にも、リオンは熱心にセレナに話しかけていた。漏れ聞こえていた内容はどれも、昔のデータは無いのかとか、何年のなんとかっていう事件のデータがどうのとか、俺にはわからない話だ。そして、その全てをセレナはツンと顎をそらして無視している。
 本当にセレナなのか。
 俺にとって戦闘機も初めて、こんな少女との遭遇も初めてなのだから、はじめてが多すぎてもはや驚かなくなってきている。
 ドアが消えるのも初めて、まあ宇宙船も初めてなのだ。もう仕方がない。


 「んじゃ、こんなのもありかな」


 俺はふと思い立って、虚空に向かって口を開いた。


「おーい、宇宙船さーん」


 答えはもちろん期待などしていない。
 いくらなんでもと言う顔でリオンもダリアも、ちょっとかわいそうなものを見るような目で俺を見た。
 だが。


「はい。クルーさん。スターシップのシステムです。呼ばれたのは何年ぶりかしら」


 色っぽい声に驚いたのは、セレナをのぞいた全員だった。


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