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俺、未来で戦闘機の燃料(エサ)になります! 作者:phantomplus
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【1】目覚めれば宇宙船




「だから、俺の出身は新潟だってば。新潟。ときメッセって知らない? ああ、もしかしたら、もう無いのかもしれないけどさ」


 俺は何とかして自分の境遇を説明しようとしていた。


「ニイガタ? エリアはどこだ?」


 マッチョな兄さんは「ムク」と言う名らしい。どんな字を書くのかは分からないが、どことなく輪郭にはあっているような気がした。
 目算で190センチを超えるだろう大型マッチョだ。横もでかい分縦もでかく感じる。


「エリア? ああ……下越? それとも北陸?」

「カエツ、ホクリク」


 ムクさんはぶつぶつと言いながら持っていた透明の板にぶっとい指を置いて何かを調べているようだった。タブレットのようだが、いかんせん透明の下敷きにしか見えない。透明だと裏側が透けて使いにくいんじゃないだろうか。


「……ないな。他に呼び方はないか?」

「他って? 北陸よりもでかいってなると、なに、日本? ああ、ここ宇宙っぽいもんな、アジアの方がいいか」


 次々に口に出しては見るが、ムクさんの反応は薄い。
 日本で万が一反応しなくても、アジアはさすがに通じるだろう。
 そう思った直後、血の気が引いた。
 そうだ、ここは宇宙。トリップ先の宇宙。先人たちのどの本だって言ってたじゃないか、現代世界での常識はとりあえず捨てろって。ここには個々の常識があるはず。


「地球」


 ものはためしとそう言ってみたとたん、ムクさんは動きを止めた。


「チキュウ……チキュウって、あの太陽系第3惑星の「大地」のことか」

「大地?」


 太陽系第3惑星って言い方はなんとなく聞いたことがある。きっとアニメか映画で耳にしたんだろうが、考えてみれば地球はええと……三番目に太陽に近い、はずだ。水金地火木なんとかっていって覚えた順序がそのままならば、だが。

 俺が指折りそんなことを思い出しているうちに、ムクさんはタブレットを両手で持ったままぶつぶつと何かを言いながら部屋を歩き回り始めた。

 狭い部屋の中を、ばかでかい男が器用に動き回る。冬眠前のクマっていうのを見たことは無いが、多分こんな感じだろう。若しくはウ○コをする前の家の犬の動きにも良く似てる。


「確か、そうだ。どこかの地域では太陽系第3惑星を「チキュウ」と呼んでいたはずだ。丸い、大地とか、なんとかって意味で」

「ああ、丸い大地なら、まあそんな感じだよな。地は地面だし、球はまるっこい玉を意味してるし」


 俺はそんなことを言いながら空中に指先で地球と書いた。
 ムクさんはそんな俺をみて、急に近寄ってくると、肉厚の両手で俺の右手を包み込む。


「今のは、もしかして文字か。その地域の文字か」

「え? ああ、そうだけど。とりあえず放してくんない? 痛くは無いけどソフトタッチが妙に気持ち悪いと言うか、アウトな感じがするというか」

「もう一度書いてくれ」

「わかったから、わかったから手を離せって」


 ムクさんは俺の微妙な心など知ったこっちゃないという表情で、いつの間にか小脇に抱えていたタブレットを俺の方へと差し出した。
 思わず受け取ったが、軽さと言いこの透明具合といい、まさに下敷きだ。


「……どうやって使うの?」


 スイッチらしきものは無い。ひっくり返してみてもただの透明の板だ。


「どうやってって……手を出せば反応するだろ」


 ムクさんはそう言って自分の手をタブレットの上にかざした。するとブルーの光が集まってやがて画面が浮かび上がる。見たところアイコンの並んだ感じは、21世紀の地球に存在するタブレットとあまり変わらない。
 俺はムクさんと同じようにタブレットに手をかざした。


「……電源落ちた?」

「デンゲン……ああ、エネルギーのオンオフ機能は特についていない。自然放出されている生体エネルギーで動いているから」


 なんだか小難しいことを言っているが、あれか、体温に反応みたいなやつか。
 俺がめっちゃ低体温って言いたいのか。少なくとも冷え症ではないんだが。


「おかしいな、反応しない? じゃあ登録番号を教えてくれ、手動で使えるようにするから」


 ムクさんは俺の手からタブレットを抜き取ると、そう言った。


「登録番号? なにそれ。保険証の番号みたいなやつ? マイナンバーは覚えてないんだけど」

「……出生登録番号だ」

「……」


 出生登録番号。言っていることはわかる。わかるが。


「なにそれ。それってみんな覚えてるもん?」


 そんなものついてたっけ。
 なんとなくはわかっている。この世界にはその出生登録番号ってやつがあって、みんな覚えてるんだろう。そしてこの世界の人はそれと生体エネルギーとやらでタブレットが使える。
 そう言うことなのだろう。
 俺は一人で納得しながらも、念のため聞いてみたのだ。
 ムクさんは困った様子で首をかしげた。


「どんな時も出生登録番号が必要だ。それが無いとヴラドシステムが反応しない」

「ヴラドシステム?」


 ムクさんはとうとうタブレットを諦めて俺に向き直った。

「ほとんどの……こういった情報端末や生活機器類に使用されているシステムだ。いちばん身近なところだと、ドアの開閉も基本的にはヴラドシステムで本人認証をして行っている」

「ああ! だからドア、開かなかったのか!」


 監禁されていたわけではないと知ってちょっと安心した。


「開かなかったのか」

「開かなかったね」

「それは……トイレとか、行きたくならなくて良かったな。トイレのドアもヴラドシステムだ」


 確かにそれは大変だ。トイレのドアが開かないとか、ホント困る。と言うか、マジでこの世界ではそんなシステムが使われているのか。チートどころか、俺は一人でトイレにも行けないのか。


「……仕方ない。チップを埋め込むか」

「チップ!?」


 がっくりと肩を落としていると、ムクさんは恐ろしい一言を口にし始めた。
 簡単にチップ埋め込もうとしてらっしゃる。
 なんかその表現にはいいものを感じない。感じないぞ。
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