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殺したいオス

作者: 菜宮 雪

あくまでも、作り話としてお楽しみください。

私はあなたの死を望んでいる。

望んではいるが、殺しはしない。いつかきっと、あなたの方が先に死ぬことはわかっている。

せいぜい、後十年、いや、十五年も辛抱すれば、願いは成就する。

私は黙って待ち続ける。


朝、すがすがしく、窓を開ければ、早速お小言。うるさいなあ。

朝一番の大声に、せっかくの一日のスタートが台無しに。

でもまあ、少しぐらい我慢してやるよ。どうせあなたは私より長く生きられない。

今日はいいお天気だ。庭に出て、洗濯物を、さおの端から端まで干す。

その間もあなたの口は止まらない。ほっといてほしいなあ。

なぜ、黙っていられないのだろう。いいかげんにしてよ。

迷惑なのがわからないのかな。


買い物にでも出かけるとするか。

口やかましいあなたに気がつかれないように、静かに、玄関を開く努力をする。

――――しまったぁぁ! みつかった……

玄関扉がガチャリと開いた音で、案の定、どこへ行くんだ、と声がかかる。

どこへ行こうと、私の勝手でしょう。いちいち確かめないでよ。

あなたは、出て行く私を不快そうに見て、鼻先にしわを寄せる。

どうして、そんな顔をするわけ? 買い物ぐらい好きにしていいでしょう?

何の文句があるのよ。本当にやかましいあなた。

私は、あなたを無視して自転車を出す。いちいち、暇すぎるあなたの相手などやっていられない。

早く、死んでほしい。ひたすら願い続ける。普通なら絶対に私の方が後に死ぬはずだから。

そうでないとがまんできないわよ。こんなうるさいあなた。

どれだけ私が苦痛に思っているか、わかりもしない。

バカとしか言いようがないわね。

ふん、家を出れば私は自由だ。あなたの声のしない所で、自由に買い物を楽しもう。


買い物から帰る。スーパーの袋を自転車から下ろし、静かに……静かに……

――――来たぁぁぁ!

玄関を開ける音で、簡単にあなたに発見された。

さっそく嵐のような文句。

わかっている事とはいえ、ああ、がっかり。

何よ、その顔は。愛想笑いでもしてくれれば、許せるものを。

そんなに人のことをチェックしてどうするの。

私は静かに暮らしたいの。あなたにいちいち、うるさく言われる筋合いなどない。

私は何も悪い事はしていないよ。

ああ、うるさいあなた。嫌味のひとつも言いたくなる。

どう考えても、あなたの方が私より先に死ぬに決まっている。がまん、がまん……

楽しかったお買い物気分は、いっぺんに灰色。


あなたは、広い家で我がままいっぱいに育てられたのね。

大切に、大切に、家族から愛されて……

そりゃあ、よかった。だけど、ちょっとねえ……

叱られたことってあるかな?

ないだろうね、きっと。あなたの家族は、あなたに甘すぎるよ。

あなたに人の気持ちなんかわかるわけもない。


夕方、庭に干した洗濯物を取り入れる。

庭へ出るテラスの扉を開けると、案の定、あなたの声。

いちいち何よ。自分の家の庭に出て何が悪い。

あなたの口にフタをすれば、どんなにすっきりすることだろう。

その気になれば、毒でも盛って、あなたの寿命を縮めることだってできるよ。

じわじわと、ヒ素でも与えて、誰にもわからないように、あなたを絶命させる。

それとは別のやり方でもいい。あなたさえいなければ、私は幸せ。

頭の中で、あなたに棒を振り上げて、滅多打ちにする自分にうっとり……

今までのうらみをこめて、こらしめてやりたいよ。せいせいするだろうねえ。

でも、それはしない。


あなたを殺したい。だけど、あなたの為に、私は犯罪者になる気はないの。

こんなバカなオスの為に、犯罪者になり下がって、私の人生を丸つぶしになんかするものか。


私が殺したいオス。

私は呪詛のように、心の中でその名をつぶやく。



「ポチ……あなた、うざすぎ」

私が許せないそのオスは、お隣の広い敷地内で、放し飼いで飼われている愛らしい柴犬。

フェンス越しに私を見つけると、いつも駆け寄ってきて、大声で威嚇。

ちょっとぉ。私がいったいあなたに何をしたっていうんだよ。

飼い主さんによると、ポチは今六歳ぐらいらしい。

寿命はあと十年ぐらいか? いや、もっと長いかも。

今どきの犬の餌は優れていて、皆長生きするらしい。

ああ……ため息。


庭に出ても、玄関へ出ても、フェンスの向こうで移動しては、激しく吠え狂うポチ。

甘えの鳴き声ではない。私を脅すような、あのうなり声を聞かない日がほしい。

私が、憎きその名をやさしく呼んでやっても、あなたは私にはなつかない。

あなたにとって、私はただの不審者で、なわばり荒らしにしか見えないのだろう。


新聞屋さんや、郵便配達の人にも、発見と同時に元気よくごあいさつ。

番犬なら、少しは吠える相手をよく見ろ。

ああ、いいかげんに、私を認識してくれないだろうか。

毎日、狂ったように吠えかかってくるあなた。

平和で静かな私の日常はどこへ行った?



ポチめ! なんてやかましい犬だろう。

あなたが死ぬまで、この苦痛は終わらない。

願いはきっと成就する。いつか――



  了


読んでくださってありがとうございました。少しだけ手直ししました。(2008.5.21)


携帯で、詩の感覚で読めるように、改行の字下げはしておりません。本格的な詩にして、句点も取ろうかと思いましたが、中途半端なのでそれはやめました。小説、というにはあまりにも稚拙でおこがましい作品ですが、軽く読み流していただけたらうれしいです。

        

    菜宮 雪

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― 新着の感想 ―
[一言] 非常に好きな作風だけどねたばらしが早いかなー?殺し方を一つリアルに書いてみてからの方が良いと思った
2009/01/29 20:57 退会済み
管理
[一言] どうもこんにちは、春功です。 アイデアがおもしろいと思いました。書くに当たって人を驚かせたりするアイデアを出すのは難しいですよね。題名からもこれは何かあるなと思っていました。おもしろかったで…
[一言]  ども、近藤です。  悪くないのではないのでしょうか。勝手に読み解かせてもらえば、この手の作品は日常が生々しく感じられれば成功だと思われます。とすれば、詩的な雰囲気はあまり持ち込まなくてもよ…
2008/06/19 02:26 退会済み
管理
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