突然の義男の行動に、依子は何かしら疑問を抱き始めるのだった。
疑 問
まだ夢の中に居るような憂鬱な気分で、依子はベッドの上に横たわり、薄暗い天井を眺めていた。
先ほどまでの抱擁を、思い出すだけで指の先まで熱くなるのを感じた。
先ほど義男がとった突然の行動に、依子は少しずつ、何かしら疑問を持ち始めていた。
いつも沈着冷静で、何事にも動じない義男の、あれほどまでに動揺した顔を見るのは、初めてだったからだ。
―いったい、何が起こったというのだ―
依子は一つ一つ、反芻するように記憶を辿っていた。
車の中での事、カフェでの事、そして薪能での事を思い出すごとに、所々記憶の途切れた部分があることに気付いた。
しかし、幾ら考えたところで、思い出せない断片は、容易には繋がらなかった。
深い靄の中では、どう目を凝らしても、見えるはずもない。
明日、義男は弓の稽古に行くと言っていたのを依子は思い出した。
―この疑問を解決するために、明朝、電話をしよう―
あれこれと思い悩む間に、疲れた体から次第に力が抜けていった。
依子は、何時しか深い眠りについていった。
目覚しが鳴る前に、依子は目が覚めていた。
時計を見ると、七時ちょうどを差すところだった。
アラームが鳴り始めたのを、急いで消し、携帯電話を握った。
―もう起きているだろうか―
夕べ家に帰り着いたのが、午前12時を回っていた。
ということは、義男が帰宅した時間は、何時だったのだろう。
―往復六時間も車の運転をしていたのだから、
だいぶ疲れていたのではないだろうか―
そう考えると、朝からくだらない事で、義男を叩き起こすことが心苦しかった。
―何か、差し入れでも作っていこうかしら―
依子は冷蔵庫の扉を開け、中を覗いたが、さて一体何が作れるかと考えている間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。
―急に持っていっても、迷惑だろうし、何が好きかも分からないな―
煮えきらない自分の性格に苛立ちながら、依子は気分を切り替えようと、洗面所へと向かった。
お気に入りの石けんで顔を洗い、その香りに包まれた。
鏡に映った自分の顔を眺めながら、軽く溜息をついた。
―私のどこが、好きだというのだろうか―
一人呟きながら、好きという言葉に酔いしれている自分の姿が、滑稽に思えてくるのだった。
身仕度を整え、少し明るめの口紅をひいた。
―これで、少しはいつもの私とは違った自分になれる―
呪文のように何度も唱えながら、依子は鏡の中の自分に向かって微笑んだ。
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