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  逢魔が時 作者:由卯
出会い 【2】
「シャーン」

 どこからともなく、鈴の音が聞こえてくる。
かすかだが、しかしはっきりと、依子の耳には聞こえる。
耳を澄ませば、薄暗い闇からささやき声さえ聞こえてきそうだ。
不思議と怖いという気持ちはなかった。
音のする方に目をやると、鬱蒼と茂った林の奥に、おぼろげながら明かりが見える。
ざわざわと風が木々を揺らすと、その明かりも一緒になって揺らめき、今にも消え入りそうだ。

「シャーン」

 かすかに聞こえた鈴の音も、次第に力強いものへと変わっていく。
恐る恐るその明りの方へ向かって歩いていくと、木々の間に古い社が建っているのが見えた。
まるで、何者かが手招きをしているようにゆらゆらと、そんな気配すら醸し出している。

  こんな所に神社なんてあったかしら

 木々の葉が幾重にも覆いかぶさり、月明かりさえ届かない参道を依子の足は、まっすぐ神社の境内に向かった。
そこには、夜の闇に溶け込んだ入母屋造りの古めかしい神殿が鎮座していた。
その神殿の古びた壁の木目を見ると、様々な表情の顔が蠢いているような、かすかな息づかいさえ感じた。
その木目に触れながら、音のする方へ回廊に沿って回ると、舞殿がせり出していた。

 何かの祭祀の時に奉納する舞なのだろう、一人の巫女が、神官とおぼしき人々の奏でる笙や龍笛、篳篥に合わせ舞っていた。
太鼓の調子も深い地の底から湧き出るように、ゆるりと流れてくる。
その奏でる音は、風の音にも、地上にこだまする人々の声にも聞こえ、まるで大勢の人々の大きなうねりを感じる。

 巫女は、二十歳前後の少女とも少年とも言えぬ顔立ちをしている。
緋色の袴に、千草模様の薄絹の衣が舞うたびに、ひらひらと揺れる。
頭には花かんざし。
銀細工で施された飾りが、松明の怪しげな灯りにチラチラと音をたて、小刻みに揺れている。
手には、先ほどから聞こえる幾重にも連なる鈴が、何色ともいえぬ、様々な音を発していた。
一心に踊るその姿を、依子は美しいと思った。
しかし、その舞姿は儚げで、この世のものではないように薄らぎ、上気した頬からは、妖気さえ放たれているように見える。

 松明の明かりがパチリと音を立て、白い煙が細長い蛇のように揺らいでは昇っている。
呪文のような祝詞の調べに、依子の体は縛られるようだった。
出会い【3】へ 続く


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