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笑顔が愛おしくて ~ベトナム恋愛奮闘記~ 作者:KON
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ゴメンネ。

「Anh tên là gì?」(お名前は?)


あの時のように、


出会った時のように・・


サイゴンの夜風に乗って、
バイクを運転する前のほうから、
トゥイの声が僕の耳に入ってくる。

あの時、分からなかったベトナム語・・・
今は、スッと、耳に心地よく飛び込んでくる。


.....Tôi tên là Gotou! (私の名前は後藤です。)


「ゴ、  ゴ・ト・ウ・・・ワスレナイネ・・」


ホンハー通りを抜けて止まり、
トゥイはそうつぶやくと、夜の明かりの群れ
タンソンニャット空港前を一気に加速させバイクを滑らせた。


僕はトゥイの運転するカブの後ろにつかまって
サイゴンの街を振り返った。


チュオンソン通りのサイゴン・スーパーボウルで、
駆け引きしたボーリング対決。


ナムキーコイギア通りにあるヴィンギエム寺での初めてのデート。

言葉も通じなくお互いコーヒーを飲んで間を紛らせた
ハイバーチュン通り沿いのカフェ。

ハイバーチュン通りからレタイントン通りへ抜けると
毎日通勤しながら聞いていた曲「Paint My Love」・・
それが今、バイクの振動のリズムに重なるよう響いてくる。


トゥイと待ち合わせに使ったマジェスティクホテル前のドンコイ通り。


わずかな時間でも振り返る度に切なくなる・・・レロイ通り沿いの街並み。


華やかなネオン、街頭の明かりに照らされた街路樹・・・・・


僕の頭の中のメモリがいっぱいになるほど・・
一枚一枚・・サイゴンの風景を保存していった。



そして・・バイクに乗って漂う
トゥイのやさしい香りに包まれながら眺める街並みは、
初めて会った日と変わらず僕が体験する何よりも


何よりも心地よい時間ときだった。


このわずかな時間が、いつまでも続いてほしいと。


やがて・・


雨も降っていないのに
僕の腕に水滴が飛び散り、
トゥイの体が小刻みに震えていた。


.....トゥイ...どうかした?



「マダ、ハナレタクナイネ。」

.....トゥイ、泣いてる?


涙が僕の心に飛び散ってくるように、
ポタ、ポタと、トゥイにつかまっている僕の腕に降ってくる。
僕は、さらに後ろからトゥイを強く抱きしめた。

すると、ハムギー通りを抜けたサイゴン川沿いへバイクを移動して

「・・・・ゴメンネ。」
トンドゥックタン通りのサイゴン川岸でバイクを止めトゥイが言った。

「ナミダデ・・マエガ、ミエナイネ。」

僕は泣いているトゥイにハンカチをそっと渡して・・



......大丈夫?


「・・コノサキモ・・ズット・・・ズットマエガ・・ミエナイネ・・」


.....バカだな....そんなことないよ。



「・・・・・・・・・・・・・・・・」




......ほら、笑って...

......そう...


.....このサイゴンに、その笑顔があったから
僕は、このサイゴンで頑張れたんだよ。




「・・ゴメンネ・・」


......ん?、さっきからなんで謝るんだよ、




.....ほら、顔上げて。



「・・・・・。」



「ミスターゴドウ・・カスンデ、ミエナイヤ・・・」



トゥイの精一杯の笑顔からこぼれ落ちる涙・・・
エメラルド色に染まったきらめくトゥイの瞳を
僕は、両手で涙を拭うようにトゥイの顔を包み込んだ。


それは自然だった。



初めて交わす口づけ・・・


涙でにじむサイゴンの街明かりの中
本当に時間が止まったようだった。



サイゴンの時間ときがココだけ止まったようだった。

まるで僕たちのためにサイゴン川がきらめく街並みを照らしながら揺れているように
とても、穏やかで静かな時間トキだった。



ただ、そこにはやさしさあふれる笑顔があった。

愛おしい笑顔があった。


いつしかこのサイゴンの街明かりが

僕たちの愛に色彩をくわえるように・・・・・
これからの二人を描いてくれたようだった。


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