挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
笑顔が愛おしくて ~ベトナム恋愛奮闘記~ 作者:KON
69/73

ベトナムのさいごん

僕は、工場を半日で済ませサイゴン川の僅かな距離を行き来する
渡し船に乗船している。

なんたって、今日は工場にいるってことだけで、
いやにみんながよそよそしい。

僕もみんなの顔を見ていると・・
とても辛いし普段のように接することができない。

だから今は、ここ(工場)を出て真っ赤な瞳を乾かしたかった。

本当に時間ときが流れるのが早い。

このサイゴン川の流れに逆らうように早いよ。

真っ赤な僕の瞳から見渡すサイゴン川は、いつ日か・・・
赤く染まったサイゴン川の風景に変わった。

少しの間、忘れられていた笑顔・・・面影が・・
遠い過去のように、このサイゴン川の静かな流れから
蘇ってくる。

僕は、船が航行時にできる引き波を眺めては、
工場のみんなの笑顔が浮かび上がってくるような錯覚を感じた。

この船にはトゥイと一度乗り込んだときがある。
僕が一時帰国する際に、バイクごと乗り込み向こうの岸まで渡って往復した。
あの時、僕たちはバイクを置き2階の甲板へと上った。

ほんの10分弱・・遊覧。

ディズニーランドのアトラクションのように待っている時間の方が長いのだけれど・
僕にとって心地よい時間だった。

......ア~ダウ?(どこへ行く?)
僕は、トゥイに聞いた。

「ムコウノ・・キシ・・」
トゥイが答えた。

.....うん、わかってるけど、そこから、、


「オウフク・・マタ・・モドルネ。」

......えっ?、、もどる?


「ムコウノ・・キシ・・ニホンデスネ。」

.....日本?


「ソウデス・・ソシテ、(指さして)ワタシタチ、ノッタキシ、、ベトナム、サイゴンネ。」

.....これに乗り込んだ場所がベトナムなんだね。


「ソウ・・デモスグ・・モドルネ。」

.....tai sao?.....なんで?


「トゥイ・・イルカラ・・トゥイ・・マッテイルカラ・・」

.....でも、トゥイ、、一緒に乗り込んでるじゃないか?


「ソ、ソウデスネ、、、」

.....そうだよ。


「イッショ、、ノッタラ、、ダメデスカ?」




.....トゥイ。



船内の手すりに・・その時トゥイが落書きした文字が
今でも消えずに残っていた。
そこに、日本の文字で・・こう書かれている。

日本⇔ベトナムのさいごん


僕はトゥイにこう言った
.....トゥイ、日本を漢字、書いたすごいけど、サイゴンは、カタカナで書いたほうがいいんじゃない?


「ニホンノモジ・・タクサン・・カキカタアルネ。」
「カタカナ・・ヒラガナ・・カンジ・・ツカイワケル、ムズカシイ・・・」

......そうだよね。


「マチガイ・・カタカナデスカ・・」

.....うん、い、いや、間違いなんかじゃないんだ。
僕のベトナム語の発音に比べりゃたいしたことじゃないし、、。


「モット、モット、イッパイ、イッパイニホン・・コト・・ベンキョウガンバル。」

......トゥイは、十分頑張っているよ!


「デモ、モット・・ニホン・・シリタイデス・・ニホン、スキデスカラ。」
「ソシテ、モット、タクサン、イッパイ、ミスターゴドウ・・・オハナシ、シタイデス。」

.....トゥイ。


「ダカラ・・イッショ・・・ツイテイク、イケナイデスカ?」
その時・・そこに少女のままのトゥイがいた。



ベトナムのさいごん


゛さいごん″をひらがなで書くと、なんて優しい感じがするんだろう。
その文字からは、トゥイのやさしい性格を感じとることができる。
船内の手すりに書いた文字を手でなでて、僕はそう思った。


それは・・・・・
あの時、そこにいたトゥイの頭をなでるように・・・・・

僕にとって、トゥイがいる「ベトナムのさいごん」から
笑顔でお別れすることができない。


ここ数日・・・


工場のみんなやお世話になった店、滞在してたホテルの人、寮のお手伝いさん・・
みんなにお別れの挨拶ができても、トゥイにだけはできなかった。


今夜でこの・・・


「ベトナムのさいごん」から離れるというのに・・・


そうだよ、このまま簡単な言葉で、
お別れのあいさつをしようだなんて考えちゃいけないんだ。


だって、僕だってもっともっとベトナムを知りたい、トゥイのこと知りたいんだよ。
トゥイの笑顔をもっと、ずっと横で見ていたい・・・


サイゴンの熱い風に乗って僕の心の叫びがトゥイに届くように、
ひとつひとつの言葉を投げかけていた。


いつからだろう
どこか恋に臆病になって・・・

自分から逃げている・・・
未来の自分に自信がないから・・・

だから、日本にいる彼女さえ・・


僕から遠ざかったんだ。


今、自分に素直に行動しよう。



トゥイに会いに行こう。



僕は今、まだ・・・

トゥイの「ベトナムのさいごん」にいるのだから・・・・・

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ