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笑顔が愛おしくて ~ベトナム恋愛奮闘記~ 作者:KON
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最後のあいさつ

本日、最後の・・・・・

本当に最後になる出勤の日を迎えていた。
ガイドのラムさんとの半日ツアーを終えて
工場へ戻ったあの日から・・・

もう、あっという間に数日が過ぎ去った。

ここ数日間は、何やかんやでドタバタ・・
工場長と帰国についての話と、新しい事業の説明など。


そして僕は、共に働いているワーカーのメンバー達へ
日本へ帰国することを打ち明けた。
ここ(工場)のワーカーたちへ日本へ戻ることを話したら、
ずいぶん、気が楽に晴れた。

それからというもの、仕事の引継ぎやなんやかんやで、
あっという間に時は流れたのだ。

このホーチミン市内を行きかうバイクの流れのように・・・・ 
気がついたら・・もう、この日を迎えているのだ。

昨日は、僕のためにワーカーのみんなと寮のみんなで送別会を開いた。
美味しい炭火の焼き肉をほおばりながら夜遅くまで飲んだのだ。

工場のワーカー達にはささやかなプレゼントと笑顔、素敵な思い出をもらい、
みんなとの忘られぬ日々を振り返ることができ・・感極まった。

その記憶とお酒の酔い・・・
工場のみんなの寂しい顔が、いまだにまだ僕の頭のなかに漂っている今・・・

こうして、本当に最後の出勤の朝を迎えている。


ここは、空港近くのホン・ハーにある僕たちの寮。

いつも、毎日、毎朝・・
欠かせないお手伝いさんのやさしい笑顔とあいさつ。

いつも僕のお腹を満たしてくれた朝食。

工場まで通う窓の外の見慣れた風景。

耳に馴染んだクラクションの音。

この街の強い日差しも・・・

今日で最後なのだ。

このベトナムでの当たり前になってきた日常生活が、
少し胸が痛いほどに、苦しい。



「後藤、今日は工場に着いて後片付けをしたら、そのままこの車を自由に使え・・・」
工場へ向かう車内で工場長が言った。

「運転手タンも、今日は後藤のためにフリーにしてある。」

.....え?


「最後の買い物だってあるだろうし、まだ行きたいところだって・・あるんじゃないか?」

.....もう、買い物はたいてい済みました。


「そうなのか・・」

.....それにもう、荷物も、まとめてあります。


「それじゃ、まだ気持ちの荷物だけ、まとまってないんじゃ?」
ぽつりと課長が言った。

運転手のタンが僕の方を見て、
‘どこまでも付き合いますよ’と、
言っているかのように相づちをした。


そして、僕たちを乗せたバンは
このタントアン工業地区での最後のゲートを通ると、
ゆっくりと速度を上げていった。

この前、ここを歩いていたらタムさんに声をかけられたのが昨日のようだ。


・・・・・・・!


.....工場長!


「ん?、なんだ?」

.....ウチの制服を着たワーカー達を見かけないんだけど。


「!!??、、そ、そいえば・・」

いつもなら、この道をバイクで通勤するワーカー達を車の窓越しから見かけるのだ。
今日はそれを見かけることがない。

颯爽とバイクに乗って、挨拶をしていく
いつものエンジニア達でさえ見かけない。


「そういえば、うちの部署の連中(ワーカー達)さえも見かけないな、、」
課長が言った。


「そうだな。」
工場長も不思議そうにうなづいた。

.....まさか、昨日の送別会での今日だから・・みんな遅刻ってことはないよね?


「昨日(送別会)の酒が残っているとか?」

.....いや、それはないですよ、だって誰も見かけないないなんて。


「我々よりも早く、みんな全員が出勤してたら、スコール、いや嵐が来るな。」


「確かに。」
みんなが心の中でうなずいていた。


しかし、

工場に着くと、
そこに驚く光景が目に入った。

ワーカー、エンジニア達みんなが工場の外へ出てきて、
僕らを乗せた車を迎えていたからだ。


.....工、、、工場長。


「あ、あ~・・・・・・・」

「何をやらかす気なんだ?・・・連中は?」

.....知らないんですか?、工場長!??!?


「何にも聞いてないぞ。」
工場長は、もちろん、日本人スタッフ誰も知らなかった。


「おい、おい、君たち、、何を・・・!?」

工場長が、車から降りると、エンジニアのトンが駆け寄って
工場長に、何か耳打ちをしていた。

.....何を話してるんだ?

僕が車から降りていくと・・・

エンジニアのトンが、
集まったみんな(工場のワーカー、エンジニア達すべて)に号令をかけはじめた。

「チョウレイ・・ハジメマ~ス!」

それは、はっきりとした日本語でみんなを引っ張るかのように叫んだ。
課長や日本人スタッフたちもその光景を見て、きょとんとしていた。


各部署ごとで毎朝、安全時の唱和・仕事の流れなどを含めた朝礼はしているが、
こうして、各部署全員が集まって工場の外でする朝礼は異例だからだ。

さらに、2シフト(夜間チーム)のメンバーまで来ていたのだ。

しばらく、リーダー的存在のトンが、
ベトナム語でみんなに仕事初めの挨拶を言い終えると、
僕の方に目を向け・・・・・・


「ミスターゴトウ、プリーズ・・・スピーキング!」
急に僕にスピーチを振った。



......え?




「ミスターゴトウ!・・・・・」

......ぼ、ぼく (((((((・・;)サササッ



「イエス、スピーキング、プリーズ!」


僕は、工場長に助けを求めるように・・

......こ、これって、


「そうだな、最後の朝礼だ・・・ここのみんな、
後藤のために作った最後のステージの場なんじゃないか。」

「応じてやらなければ失礼だよ、みんなに挨拶してやれ・・」
工場長が僕の背中を押した。


「がんばれ、後藤・・」
課長たちも同意するようにかけ声をかけた。


僕は、心の中で叫んだ。
言えないよ・・・急になんて、、何も言葉なんて出てこない・・・・
思わず拳を強く握りしめていた。
なんたって、こういう場面に一番弱いのだ。


「・・・・・ほら、後藤!」
工場長の声がさらに僕の背中を押すように聞こえた。


しばらく言葉を飲み込みながら、
ステージの前に立ち、静かに口を開いた。


......Xin cam on.....Toi sap roi Viet Nam hom nai..Toi da nho va..........
(ありがとう、今日、私はベトナムを離れます。お世話になり・・・)

小さな微かな声で、知っている限りのベトナム語と英語を織り交ぜながら、
みんなに感謝の気持ちを伝えた。
そこには、トゥイとのベトナム語レッスン、タムさんとの英語での交換日記が、
いつの間に身についていたからだ。

そして・・・言葉が詰まり・・・その後、こらえきれなく何も口から言葉が出てこなくなった。

しばらく沈黙が続く・・・
すると突然、みんなの拍手が沸き上がった。


僕は、みんなに深く頭を下げ、

.....Toi...Toi sung suong、、、
(僕は、しあわせです。)


心の中で、ありがとうって叫びながら・・・
みんなのひとりひとりの顔を目に焼き付けるように
僕は、さらに一礼をした。

いっぱい、いっぱいの感謝を込めて・・・
生まれてこんなにも胸が熱くなったこと・・・なかったかもしれない。


一礼した頭をみんなの前で上げることが出来ないほど・・・
今にも涙があふれそうだった。

工場長が僕のそばに来て静かに肩をたたきながら言った。

「おつかれさま。」
そして工場長が、僕の横でみんなの前で代弁した。

その言葉の一つ一つが重みのあるように日本においての今後の活躍と・・・
そして、ベトナム工場の成長と発展・・・
ここで働くみんなに期待しているということ・・


工場長の話が終わると、
僕は、また一礼をした。

そして、頭を上げると・・
そこに、花束を持ったタムさんが目の前に現れた。

「Chac anh met lam roi nhi.・・・オツカレサマデス・・」

.....Xin Cam on..ありがとう。


「イツマデモ、ワタシタチノコト、、ワスレナイ、、イイデスネ・・」

「ヤクソクデスネ、ワスレナイコト・・・」
僕は、なぜかタムさんの顔をまともに見れなかった。
だって、まともに見たら・・・こらえていた涙があふれそうだったからだ。

そして、工場の中へ入る途中、
課長が、僕に静かに言った。

「ホント、後藤がうらやましいよ。・・・
・・・知らない間に、大勢のワーカーやエンジニア達の心をつかんでいたんだから。」


....課長、そんなことないですよ。


「このサプライズな朝礼が証明しているじゃないか!」

.....だって、まだ、、、、たった一人の女性の心をつかむことができてない。


「それはどうかな」


「いつも、手を伸ばせば届く場所にいるのに、、それを躊躇してる後藤がいるんじゃないのか。」

.....課長。


「会いに行って来いよ、手が届くうちに・・・」

........。


「俺が、後藤に言える最後のアドバイスだぞ。」
課長が続けるように僕の耳元で言った。


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