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笑顔が愛おしくて ~ベトナム恋愛奮闘記~ 作者:KON
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夜の長いタイムトリップ

ここは、ホーチミン市内にある宮廷料理店の前・・・

トゥイの姉が経営する店。

初めて、トゥイに出会った場所でもある。

僕はタクシーを降りて、しばらく
その店の前を行ったり来たりしていた。

そこには、臆病で中に入れないでいる・・・僕自身がいた。

店の前で立っているボーイが笑顔で何か相打ちでもするかのように
僕に向かって笑いかけている。

すると・・・・・・・

「ミスター、ゴドウ・・・・」

.....ん!!

ここのオーナーのハンさんだ。

「ロン、ロンタイム、ノウスィー・・オ・ヒサシ・ブリ・デス・・ネ。」

店から出てきたオーナーは、トゥイのお姉さんである。

.....あ、どーも、チャオ.........


「サムスイング、イート?・・ナニカ・・タベルデスカ・・」

.....ノ、ノー。


「ナニカ、ノム、イイデスカ?」

....ノー ゾーイ(おなかいっぱい).....シンロイ(ごめん).....
飲みや食べに来たわけではないんだ。


「トゥイ?」

................。


「トゥイ・・・アイニキタ・・ネ。」

僕は、頭を縦に振った。

「シンロイ・・・・イナイ・・・ヤメタ・・ネ。」

.....え?、やめた?!??!


「イマ・・ベンキョウ・・ダイガク・・カヨウ・・・」

そうか・・・・大学生になったのか。
僕は、大きな落胆のため息とともに呟いた

「アッ!・・ミスター・・ゴトウ・・スコシ・・マツ・・・イイデスカ?」

.....ん?

すると、ハンさんは店の奥へと入っていた。

しばらくすると、大きなスクーターに乗ったハンさんが店の脇から現れた。

「ミスターゴトウ・・ノル・・」

.....え?.....後ろ乗るの?


「ハイ!・・ソウデスネ。」

.....でも、みせ・・だいじょうぶ?・・しごとちゅうじゃ・・・


「ダイジョウブ!・・ダイジョウブ!」

.....ディー、ダウ?....(どこいく?)


「ワタシ・・アナタニ・・ミセタイモノ・・アル・・・ネ。」

そう言うと、まるで夜の流星の中に吸い込まれるように・・・
僕を乗せたハンさんのスクーターは、まだ眠らないこのサイゴンのメインストリートを走り出した。

そこには、初めてトゥイのバイク(後席)に乗ったときのような
甘い香りが、このサイゴンの街のネオンとともに僕を心地よい夢の中と包み込む。

「ミスターゴドウ!」

行き交うクラクションが響き渡る路上のなか、ハンさんが僕に問いかけてきた。

「ワタシノ、コエ・・キコエマスカ?」

.....うん、聞こえているよ。


「トゥイノコト・・イマデモ・・スキデスカ?」

.....イエス。
迷わず僕は答えていた。


「エ?・・キコエナイデスネ。」

.....すき......好きだよ!


.....トゥイ、すき!!

この街の響き渡るクラクションに負けない声で叫んでいた。

ハンさんは何も言わなかったが、
スクーターのバックミラー越しに移るハンさんの表情は、
今まで見たことのない万遍な笑みを浮かべていた。


店から10分・・夜の市内を駆け抜けると、
通りを走るバイクの数も少なく静かな路地へと入った。

その一角の閑静な路地にスクーターを止めると・・・

「ココ・・ワタシ・・カリテル・・イエ、デスネ。」
顔を上げてハンさんが言う。

僕は、スクーターを降りた。

ハンさんの住む家・・・・・

そこはアパートといういうより5階立てのちょっとしたモダンなマンションのようだ。
ハンさんは、アパートの前に座っている男性に何か話しかけると、
スクーターを預け、僕を中へと案内しだした。

階段を2つ駆け上ると、立派なドアが飛び込んできた。
ハンさんが、キーを差し込むと・・・・・

「プリーズ、ミスターゴドウ・・」
囁くような声で、僕を部屋へと・・・入れさせてくれた。

.....いいの?

「・・・・・・(^_^)」
その笑顔が「どうぞ、」と言っているかのようにとれた。

ハンさんが部屋の明かりを点けるとともに・・・
とても甘い香りが僕を包み込む。

そして・・それは、モデルルームのような心地よい空間でもあった。

正しく配置された家具・・ソファ・・並べられた香水・・・グラス・・・
そして・・たくさんの写真が飾られていた。

そこには昔モデルをやっていたハンさんの美しい写真。
そして、家族の写真・・・もちろん、そこには、トゥイの姿も・・・

ハンさんが、奥のドアへと手招きすると、
大きな鏡が飛び込んでくる洗面所のほうへと歩き出した。

ハンさんが洗面所の鏡を指さして・・・・

「コノ・・ミラー・・ヨクミル・・イイデスカ?」

そこには・・・情けない自分の顔が映し出されていた。

そして・・
その鏡の表面には、指でなぞった痕跡のあるような文字があった。

ハンさんは、その鏡に思いっきり暖かい息を吹きかけた。

ご・・と・・う

そこにうっすら浮かんだ文字。

ひらがなで書かれた僕の名前だった。

「トゥイ・・カイタ・・・ネ。」
ハンさんが言った。

その文字の向こうに移る僕の顔は情けない表情だった。

.....ハンさん....ぼく.....日本に彼女....いるんだ....ずっと、黙っていた。

「ニホン・・カノジョ・・スキデスカ?」

.....好き、好きだった、かな?.....でも、時々分からない。

ここで、たくさんの優しさにふれあうたび・・分からなくなる。
遠く離れていると・・日本のこと・・彼女のこと・・感じなくなる。

どうしちゃったんだろうね。

そこまで言葉にはしなかったが、ハンさんは何かを感じ取ったのだろう・・・

僕の話す言葉を黙って聞いていた。

それから・・・どのくらい時間が経ったのだろう・・・
気がつくと部屋を出て、ハンさんとチョロンへ向かっていた。

チョロンとは、ホーチミン在住華橋の大半が住むというチャイナタウンだ。
街から西へ5km行ったところにある。
大きな市場という意味を持つチョロンには、ビンタイ市場という大きな大衆漂う市場がある。
そして、ビンタイ市場とは対照的な近代的建物のアンドン市場。

初めて、トゥイに連れていってもらった美容院はこの近くだった。

そこは、ハンさんの父と母・・トゥイ・・・実家がある場所でもあった。

いくつもの細い路地を何回も行ききすると・・・多くの雑居が密集している一つの家の前で、
ハンさんが、スクーターを止めた。

その二階部分の明かりの窓ごしから、飾らないトゥイの姿が見え隠れしていた。

ずっと・・会わないと決めていたトゥイが・・・そこにいた。

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