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笑顔が愛おしくて ~ベトナム恋愛奮闘記~ 作者:KON
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僕のガイドツアー ~トンネルの先には~

クチ・・

サイゴンからここ(クチ)まで、約2時間ぐらい車内に揺らされ続けただろうか・・
窓の外の風景は市内の街並みとはうって変わり、延々と続く田園風景。

そして、クチへの到着だ。

バン(車)から降りると、
肌を焼け焦がすほどの暑さと熱帯の空気が僕たちを出迎えてくれた。

この場所がベトナム戦争当時、南ベトナム民族解放戦線の本拠地があった場所だ。
「鉄の三角地帯」と呼ばれた難攻不落の町。

僕たちが降りた駐車場の前には大きな平屋の小屋がある。

「ねぇ~後藤さん、これ(ペットボトル)持っていてくれない?」

・・・・・・!?

「ト、トイレ!」

「私も、行く!」

途中、休憩もなかったからなぁ~
僕は、ポツリとつぶやく。
そういえば、ミトーでの彼女を思い出した。

ミトーへ着いたときにも、一番最初に彼女が言った言葉が、
トイレ!・・・・・だったからだ。

「ミスター、ゴトウ!」

平屋の向こうから運転手のハァさんが僕を呼んで、手で導いている。

.....ん?

どうやら、あそこでクチ専属のガイドを頼むらしい。

ハァさんがクチのトンネルのしおりを3人分持って僕に渡しながら、
後はよろしくと言わんばかりに車の方へ戻っていった。

ハァさんに、紹介されたクチのガイドさんが、

「コンニチワ。」

.....こんにちわ、日本語わかる?


「スコシデスネ。」

ありがたかった。

「ソレデハ~・・コチラヘ・・」

ガイドさんに平屋の奥の部屋へと案内させられた。

.....ちょっ、ちょっと待ってください!!

「・・・・・?」

.....シン・チョー・モッ・チュ。(ちょっと、待ってて・・)

まだ、彼女たちがトイレから帰ってこないのだ。

.....あっ!

様子を見に行こうとすると、ちょうど彼女たちの姿が見えた。

.....こっち!こっち!

道を挟んだ向こうの方へ行こうとしたから、思わず僕は声を上げて叫んだ。

.....!?

僕に気づいたらしい。

暑い中、走り寄ってきた彼女たち・・・・・・・・

「・・・・・待った?」

「ごめんね。・・なんたってトイレが・・・・・」

.....はい、しおり!


「あ、ありがとう。」

別に、ここ(クチ)のトイレの話を聞こうとは思わないのだ。

.....さて、いい?

....これから、この中でビデオを見てから、
道を挟んだ向こう側のクチのトンネルを体験してもらおうと思います。

クチのトンネルは、ベトナム戦争当時の歴史的遺跡として有名な場所です。
中は、アリの巣のように複雑に構成され、内部には会議室、食堂、戦闘参謀室などがあります。
そして、いくつかの仕掛け、罠も張り巡らせています。
クチだけに、
大きなクチを開けてただ、見学するんじゃなく、
当時の人々の革命に対する頑固な意志、知恵、誇りを感じ取ってくださいね。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

.....ん?....何か間違ってること言ったかな?


「すごい!」

「拍手です。」

.....はあ。


「なんか、ガイドらしいなぁ~と思って・・・」

.....そ?

「ワタシ、イイタイコト、ミンナハナシマシタネ。」
ここ(クチ)専属のガイドさんもつぶやいた。

さっき、ほかの日本の団体ツアーのガイドさんが言っていたことを、
そのまま真似して言っただけなのだ。

なんたって、僕自身初めてここへ来たのだから・・・・・・


ここの案内のしおりを二人に渡すと、
すぐそばにある大きく地面を掘ってできた小屋のなかに移動した。
そこには、さっきの日本のツアーの団体たちがビデオを鑑賞していた。

ビデオの上映は途中からだったが、
画面に映し出された映像は、生々しく・・ここでのゲリラ戦の様子が映し出されていた。

そして・・・・・・・

購入したチケットを渡して、道を挟んだ向こう際の森へと続く地下道を通った。
ここから先への観光は、けして若い女性が好むものではない見学となった。

空爆の跡、カムフラージュされた地下への入り口、
戦車の残骸・・・そして、大きくむき出した穴には、
当時の様子を再現した地下食堂、会議室・・・・・・

時たま近くの射撃場から聞こえる銃声の音。
その音の響きは、彼女たちに何を感じさせるのだろうか?
銃声の音がここの樹木たちに跳ね返って激しく響き渡るこのクチで・・・

さらに、あのクチのトンネル内で・・・・・
狭く息が詰まるほどのトンネルを入って、出てきたときの彼女たちの安堵感。

そして、開放感。

「入るんじゃなかった・・」

彼女たちの率直な気持ちだろう。

「あんなに狭いなんて思いもよらなかった。」

「ほんと、だって・・どこまで、この中腰の体制で移動しなければならないと思うと、辛かったし。」

「出られたのが奇跡って感じ・・・」

....でも、あの長いトンネルの壁面の一つ一つに、
平和、独立、幸福の強い意志の表れを肌で感じ取ったんじゃないの?

「それより、肌に壁面が当たるたびに、もうちょっと痩せなきゃって、感じたけど。」

「同感!」

............(;´_`;)。


「・・・・・今のは、うそよ。」

.....え??


「ここ(クチ)が、今でも私たちに戦争の記録を、こうして残して伝えようとしているには、
それだけの強い願いがここにあるからだと感じたよ。」

「さっき後藤さんが言った、平和、独立、幸福・・・・・そうなんでしょ?」

僕は何も言わなかった。

彼女たちなりに何かを感じ取れば、それだけでいいのだ・・ここにきた意味があるのだ。

帰りの駐車場に向かう僕の耳元からは、
ここのうっそうとした樹木たちが風に吹かれて泣いているように聞こえた。

それは、とても・・・もの悲しく、すすり泣いているように・・・・・・

「どうしたの?」

....ん。


「顔に似合わずセンチになっているけど・・」

.....ここは戦地(センチだったんだよ、センチにもなるさ。


「・・・・・・・・・オヤジ。」

.....なに!!


「逃げろ~!」

彼女たちが笑みを浮かべながらバンに駆け込むと、

ハァさんが僕たちに冷たいジュースと、おしぼりを持って待っていてくれた。

....ありがとう。


「ミスター・ゴトウ・・・」

ハァさんが、僕にジュースとおしぼりのほかに何かを渡そうとした。。

.....カイ、ジィ?(なに?)

それは一枚の封筒だった。
課長の名前が目に入った。

課長から?・・・なんだろう?

その手紙は、クチへの観光が終わったら後藤へ渡してほしいと、
ハァさんが課長に頼まれたのだという。

そこへ・・・・

「ねぇ~夕飯はどこで食べるの?」

「まさかあの芋で終わりってことないよね。」

あの芋とは、先ほどのクチのトンネルで当時兵士たちが食べていた
コアイミーというタロイモを試食した芋だ。

「ガイドブックにあるマンダリンとかソングーとか連れてってくれるの?」

.............。

僕は、ここに連れて来たことが彼女たちにとって・・
すこしでも戦争の悲惨さを瞳の奥に焼き付けてくれればいいかな、
と、心のなかで願った。


そして・・・また窓の外は、しばらく田園風景が延々と続いた。

少し車内が静かになったと思ったら・・・・
彼女たちが、疲れたように熟睡していた。

僕は、課長から受け取った封筒を取り出した。
課長も性に合わないことするな~と思いながら、課長の達筆な字を目で追いかける。

後藤君へ・・

後藤、クチのトンネルはどうだったかな?
トンネル内は驚くほど狭くて息苦しかっただろう・・・
そしていま、一人の女性がそのトンネルの中にいるとしよう。
迷路のような穴の中で、どこへ行けばいいか出口さえ見つからず迷っている。

誰かが、その暗闇の穴に入って案内をしてくれる人を待っている。
自分では、出口が見つからずもがいているから。
ある意味、トンネルの中で日々戦っているみたいだよ。

この間、トゥイちゃんに会った。

後藤のことは忘れて、いつもの笑顔を見せてくれると思った。
そう願ったのは事実だ。
しかし、彼女からはいつもの笑顔が消えてたよ・・・・・
このサイゴンの町にとけ込むようなあの笑顔を見せてくれなかった。

私が二人を大きな穴に落として、君だけを出口へ出してしまったようだ。
今でも会いたい気持ちがあるのなら、会ってやってくれないか?

勝手かな?

もしも心の片隅に・・瞳の奥に・・・
あの笑顔が後藤の中で、まだ存在するのなら、
会ってやってほしい。

実は、私もトゥイちゃんの笑顔をずっと見ていたくてね。

勝手な上司より


バンの外に映る田園風景は、まだどこまでも続いた。
それは、あの笑顔を振り返るには十分すぎるくらいに・・

・・・続いた。

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