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笑顔が愛おしくて ~ベトナム恋愛奮闘記~ 作者:KON
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おにごっご

.....シン・チョー・モッ・チュ。(ちょっと、待ってて・・)

僕は、バーを出て、ハイバーチュン通りから、少し外れた通りの小さな店で、
タクシーを待たせた。

前に、タムさんから教えてもらった小さなお土産屋さんだ。
一見、見過ごしてしまいそうな店。
中には手作りの小さな陶器のお人形が所狭しと飾られている。

日本に戻る彼女たちのおみやげとして、このお店に立ち寄ったのだ。

トゥイには、明日にでも会える。
しかし日本から来た彼女は、明日にはいないのだ。

僕は、小さなアオザイのお人形をいくつか手に取ると、
彼女が待つホテルへとタクシーを走らせた。

時間的に、彼女の待つホテルに立ち寄ってからでも、トゥイには会えると、
僕の心の隅のどこかに嫌らしい気持ちがあったのかもしれない。

・・・・・・だが、

ホテルに着くと、その期待は裏切られた。

僕はホテルに着くなり、すぐにタクシーを降りるとロビーの方へ駆け込んだ。

あたりを見渡しながら・・・・・彼女を、

だが、まるで一つの団体客を見送った後のように、
フロントの空気は僕に冷たかった。

僕は、腕時計に目をやった。

6時半。

・・・・・・・・・・!?!? !?

.....ん?

.....6!、、、6時半!

バー(店)を出たのも・・確か、6時半!!!??!

.....つ~ことは!

僕の腕時計は止まっていた。

それは、三日前にベンタイン市場で買った、いや、いきよいで買わされたブランド時計だ。
もち、偽物である、、このベトナムのみの使用と考えての購入だ。

ってことは、今は何時!!

僕はフロントの子に、時間を訪ねた。

.....マ、マイ・ゾー? (今、何時?)


「Bay gio la 8 gio・・・」(八時です。)

.....は、八時!
気づかないうちに・・お土産を選ぶのに時間が過ぎていたのだ。

.....!?!?!?!?
言葉が出ない。

空港・・・・間に合うか!
心の中で呟いた。
自分自身に対するやり場のない怒りを、ホテルのロビーの床にたたきつけるように外に出た。

・・・その時、

「Mr,Gotou?」

さっき、時間を訪ねたフロントの子が追いかけてきた。

「Are you Mr. Gotou?」

.....イ、、イエス?!

その子は、手に持っていた写真を見ては、、僕の顔を覗き込み、、、
僕を確認したように写真を手渡された。

.....ん?

その写真には、ミトーで、大蛇を首に巻いて苦笑いしている僕が映っていた。
そして、もう一枚の写真には、サイゴンのホテルでアオザイを着こんだ彼女の写真。
そこには、見知らぬ土地のなかで精一杯とけ込もうとしているような笑顔があった。

彼女がフロントの子に僕のことを説明して、いつの間にSDを写真にして置いていったのだ。

その写真の裏には・・

おにごっこだよ。
今度はマー君が、オニだよ。
捕まえて・・・・・

彼女の書いた言葉が、僕の背中を強く押すようだった。

僕がオニ!?
追いかけるさ!

外にはさっき、ここ(ホテル)まで乗ってきたタクシーが止まっていた。

.....サンバイ!!.....ラム・ニャイン・ニェー!(空港!!.....急いで!)

「Cung gan thoi.」 (すぐですよ。)

二度と戻れない時間を取り戻すようにタクシーの運転手をあおった。

.....参った。
タクシーの中で、写真の裏に書かれた文字をなぞりながら口にした。

おにごっこ・・
ここ数日、捕まえられる場所にいたにもかかわらず捕まえることができなかった。
僕の中で、トゥイばかりを追いかけていたのだ。

タクシーの窓からすれ違ういくつものバイクの明かりを見るたび、
ここサイゴンで見せた彼女の笑顔がちらつく。

ホテルのロビーで見せた自然な笑顔。

空芯菜の炒め物を口いっぱいに含んで満足そうな笑顔。

そして、ミトーのツアーで見せた、童心に戻ったような笑顔。

彼女がベトナムのサイゴンに来た理由・・・・・
それは、僕に会いに来たからなんだし、
僕との時間を過ごしたいからなんだ。

彼女と何年つきあってきたんだ・・・ちくしょう!

自分のなかで、腹立たしかった。

トゥイの笑顔があちこちにちりばめられたこのサイゴンに、
彼女の笑顔がおおいかぶさる。

日本に帰国しているときは、トゥイのことが気にかかり、
ここ(サイゴン)にいるときには、彼女のことが気にかかるなんて・・・・・

タクシーの窓に映る自分の顔は、まさに最低な顔だった。

タン・ソン・ニャット空港ー

空港に着くと、
出国の人たちで活気づいている中を行ったり来たりしながら、
彼女の姿を探した。

もしかすると、彼女の方も僕を捜し回っていて、
まだ、ゲート内に入っていないんじゃないかと考えていたからだ。

.....いない。

僕は、ガラスで仕切られたゲート内の向こうを覗き込んだ。
この先ゲート内には、これから出国する人以外には入れない。

.....どこに、どこにいるんだ。

.....ん?!??!!?。

.....いた!!!

そこには、団体ツアーに混ざってチェックインを済ましている彼女の姿があった。

.....まり。

心の中で、叫んだ。

どうか僕に気づいてくれ・・・・こっちを向いてくれ!!!

ゲート内を仕切る厚いガラスの壁が届かない心の壁となった。
そして彼女が、イミグレーションのある2階へ消えようとすると、

....まり!!

心の中の叫びが、声となって思わず口から出た。
生涯これほどまでに大きな声を出したことがないくらいに。

恥ずかしさも何も感じない。
周りの人たちの目も気にならない。

.....。

だが、彼女は気づかなかった。

それは手を伸ばせば届きそうな夜空の星のように、
遙か遠くにある距離を感じてしまった瞬間でもあった。

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