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笑顔が愛おしくて ~ベトナム恋愛奮闘記~ 作者:KON
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もう一つのアオザイ

.....あれ?

ミトーのツアーが終えた次の日の工場出勤。
いつもはガラーンと閑散としている玄関前がプランターで花を敷き詰めて華やかな玄関口と変わっていた。
また、通常いない玄関前の備え付けのレセプションカウンターには、

「Good Morning! Mr,Gotou・・!!」

アオザイを着た美しい女性が二人、笑顔で待ち受けていたのである。
そう、そこには総務のタムさん、ハァさん。

.....なに?.....なに?


「今日は、社長がお見えになるんだよ。」と、課長が僕に言った。

.....今日でしたっけ?


「そうだよ。・・しかも、新規のお客さんを伴って・・・」

.....じゃ、中国の工場から、このベトナム工場へ。


「そういうこと、それで、うちの総務のキレイどころをカウンターに立たせているって訳。」

.....課長、いつもいないカウンターにいるって意味あるんですか?


「・・・・・あまり深くつっこまないでくれ。」

しかし、誰が決めたにしろ・・・初めて見るタムさん、ハァさんのアオザイ姿は、
たしかに、清楚で美しい!

.....dep........(美しい)


「Thank you 、A Japanese girl friend and which is beautiful? 」(・・日本の彼女とどちらがきれい?)

.....え?

僕が昨日会社を休んだ理由を、タムさん・・いや、みんな知っていた。
今日一日みんなが僕に話しかけるたびに、日本の彼女のことを聞いてくるのだ。

どんな人?・・・きれい?・・・結婚するの?

ある意味、社長がここに来るよりも、僕の彼女がベトナムに来ていることの方が興味あるらしい。
その社長がこの工場を見て回ったのは、2時間あまりだった。
工場長と一緒に、僕たちよりも少し遅れて・・このファクトリーへとやってきたのだ。
さすがに、みんな(ワーカー・エンジニア)の表情がいつもと違う。
いつも、こういった緊張感を持って仕事に励んでくれればと思うのだが、、、
それだけボス(社長)は、存在感が大きいのだろう。

「どうだ、後藤くん、ここでの生活は?」

入社して、初めて社長に名前で声をかけられた。

.....はい、がんばってます。

「がんばるのもいいが、こうやってワーカーやエンジニアたちに混じって仕事をしてると、いつまでも日本に帰れんぞ!」

.....はい。

そう、社長の言う通りなのだ、自分が彼らよりも仕事をしていちゃだめなのだ。
ここで与えられた仕事は、工場を立ち上げて生産を彼ら自身で稼働することなのだ。
もう一人の僕を、育成することなのだ。

ただ僕は、社長に問いかけたかった。
日本に帰ったら、僕の居場所はあるんですか・・・・と。
面と向かって言えるはずもないが・・・・・・・

「後藤君・・・」

社長が来てあわただしい時間が、過ぎ去ろうとしている中・・・
部長に声をかけられた。

「後藤君、今夜は予定あるのか?」

.....はい、彼女を見送りに。


「そうか、彼女・・今夜だったね、日本に帰るの。」

.....すみません。


「いや、いや・・実は私も、あと一ヶ月あまりでここを離れることになって。」

.....え?


「今さっき、工場長に呼び出されてな・・・・社長のまえで・・・辞令を受け取ったよ」

.....日本に戻るんですか?


「そういうことかな。」

.....良かったんじゃないですか?・・・だって、日本に帰れるんでしょ?



「そうだな、ただ日本に戻ったら、わしの居場所あるかな、、、窓際だな。」

......そんなことないですよ。


「そうか?」

.....そうですよ、それに奥さんや娘さんだって喜ぶに決まってますよ。

いつになく弱々しい部長の姿を見て、僕は、今夜部長に少しの時間つきあうことにした。


定時後・・・・・・・

社長は、今夜の便で日本に戻るため工場長と入江さんと食事に行くようだ。
なぜ、入江さんも一緒かというと中国で実績を残した社長のお気に入りだからだ。

僕はというと、いったんホテルに戻って着替えてから、部長の指定した場所のバーへと向かった。
そのバーは市内にあり、彼女が泊まっているホテルとも近かった。

夕方も6時・・・・・・・・
バーを開けるには早い時間だが、薄黒いガラス越しの・・・・
店内に、部長とあの女性が映っていた。

「後藤君、よく来てくれたね。」 

いいムードの音楽と、薄暗い照明・・・狭いカウンターの向こうには一台のビリヤード台。
まだ開店時間前とあって、部長以外のお客さんが見られなかった。

「コンニチワ。」

部長の横に座っているアオザイを着こなした女性が、僕に挨拶をしてきた。

.....チャオ、アン。

その女性は、遊園地ダムセンパークやボーリング場であった部長の彼女だ。

.....ここで働いてるんですね。


「どう思う?・・彼女、今日のタムさんたちのアオザイと引けをとらないくらいきれいだろう?」

.....そうですね。
ほんとは、そう思えなかった。
僕には、ここで働くための作業着でしか移らなかった。

タムさんのアオザイや、トゥイの制服のアオザイと、同じでも、、、違う。

「何飲む?」

.....タイガービア。


「何か食うか?」

.....飲み物以外あるんですか?


「このバーの隣の食堂から持って来てくれるんだよ。」

.....そうなんですか?


「しかし、こうして後藤君と二人で飲むのは、これが最後かな。」

.....な、なにを寂しいこと言っているんですか、部長らしくないです。
部長の彼女?が僕のグラスにビールを注いでくれていた。

.....カム・オン、ニャ。(ありがとうね。)

「Khong co gi.」(どういたしまして。)
彼女は、笑って答えた。

......部長、彼女には言ったんですか?・・・日本に戻ること。

「まだだよ。」

もちろん、彼女は日本語がすべて分かるわけもなく僕たちが何を話しているかは分からないのである。

「言わずに帰国しようかなって・・・・」

.....それは、彼女がかわいそうですよ。


「そうかぁ~」

.....そうですよ。


「そうだね、ここベトナムに来てから、仕事や工場のワーカーのみんなよりも彼女と過ごしたわずかな時間のほうが思い出深いからな。」

.....部長。


「年甲斐もなく・・・恥ずかしい。」

.....。


「後藤君の、若さが羨ましいよ。」

......部長だって、十分若いですよ。


「いいんだよ、そんなウソ、」

.....そんなこと.....日本に帰ったらこうして娘さんと酒を飲めますって!


「気を遣わないでくれ・・・娘にしてみれば、くさい汚い近寄りたくない、、だから。」

.....部長!何言ってるんですか?


「・・・・・・ん。」

.....ここの彼女といるときのようにすればいいじゃないですか?


「・・・・・・・・・・」

.....だって部長、
彼女と出会ってから髪だって染めたんでしょ!、服装だって若々しく替わったんじゃないですか!!

.....部長が、彼女によって若返ろうと努力しているのは僕には分かるから、それを奥さんや娘さんの前でも.....ね。

部長にそんなことを言える立場ではなかった。
僕だって、いつかは日本に帰るのだ。
そのとき、トゥイになんて言えばいいのだ!

.....とにかく、残り一ヶ月、がんばりましょうよ!


「そうだな。・・・まだやり残した仕事もあるしな。」

.....そうですよ。


「後藤君を見てると仕事を楽しんでやっているようでうらやましいよ。」

.....仕事が楽しいというより、エンジニアやワーカーの子たちと仕事しているのが楽しいんだよね。


「そうか・・・・・・」

......今日なんかもね、社長が来ているにもかかわらず、僕にエンジニアのTONたちがやって来て、
今度工場でフットボールのチームを作るので監督になって欲しいなんて言うんだよ。

.....仕事は教えられても、フットボールは教えられないよって断ったけど、なんかうれしくなっちゃて。


「後藤君は、工場のみんなから人気があるからな。」

......そんなことないですよ。


「そういえば昨日、総務のタムさんに後藤君のことを聞いてこられてね。」

......え?.....なんて?


「・・・・・・同じように最近、働いているのがものすごく楽しいんだってさ、なぜだと思う?」

......仕事が好きだからじゃ?


「後藤君だよ。」

.....え?


「一日が後藤君のことを考えてから始まって終わるようになるのは、恋ですか?って質問されたよ。」

.....それこそ、うそ~。


「まぁ、トゥイちゃんにしろ、タムさんにしろ後藤君に何か惹かれるものがあるんだよね。」

.....そんなのないですよ。


「その秘訣と若さを少し分けてくれないか?」

.......。

「・・・・・・・ん。」
*プルルルルン・・プルルルルン・・・・・

そのとき部長の携帯が鳴った。

「もしもし、はい、・・・・・・・・はい・・・・いますよ・・・はい・・・・・・・」

......誰からです?


「工場長からだよ」

.....なんて?


「いま、トゥイちゃんとこの店で食事が終えたところだって・・・」

.....社長も一緒?


「これから社長をお送りに飛行場まで行くんだけど、店にはトゥイちゃんが待っているから来るよう後藤君に伝えてくださいと。」

.....トゥイ!、、店に来てるんですか?


「そのようだね、元気になったんじゃないのかな?、、、後藤君に会いたいそうだよ。」

......そう。


「ここはいいから、すぐ行ってやりなよ。」

.....はい、、、で、でも、、、、、。


「そうか!日本から来ている彼女を見送りに出かけなきゃいけないんだったよね。もうそろそろ、時間では。」

時計は、6時半を回っていた
6時にチェックアウトして、7時にバスが来る予定だから、
それまでにホテルに来て一緒に空港まで行く約束をしたのだ。

「どっちへ行くんだ?」

......部、部長、、、どうしたら?


「頼むから、今のわしに答えを求めるなよ。」
そして、その光景を訳も分からず笑っている部長の彼女の笑顔が目に入った。

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