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未来の人形師事情

作者:木全伸治(キマタシンジ)
2017年5月17日一部修正
俺は、アニメや映画に出てくような人間と区別がつかないロボットを造るという夢を持っていた。幼い頃、初めて見た特別展示の人間そっくりというふれ込みの展示ロボットのあまりのチープな動きに失望して、いずれ俺がもっとすごいのを自分で作ってやるという夢を抱いたのがきっかけだった。
だが、そのための知識や技術を身につけていくにつれ、子供の頃にワクワクしたアニメや漫画で描かれているロボットやサイボーグの設定の荒唐無稽さに溜め息が出るようになった。
例えば有名なサイボーグの加速装置は、目に見えないほどの音速で大気の奥底である地上を移動したら空気との摩擦で物体は燃え尽きるだろうにとか、音速を超えたらちょっと腕を動かすだけでも周囲のものを衝撃波で吹き飛ばすだろうにとか、音速で動くものがそんなに簡単にピタッと立ち止まったりできるはずがないという不自然さに苦笑が出るようになった。目に見えない高速で移動した場合、ピタッと制止するためには、物理法則を無視した特別な力が必要になる。他にもサイボーグの怪力描写だが、常識外れの無理な駆動の反動は必ず自身の駆動部に跳ね返る。だいたい人間並みの腕の太さで、何トンもの物体を支えたり振り回せるはずがない。重いものを壊したり運んだりする重機の駆動部分を見てみればいい、人間サイズの腕の太さで何トンもの物体を破壊したり、支えたり動かせるはずがないのは比較してみれば明らかだ。SFは基本、荒唐無稽な嘘である、現実的に考えたらそういう矛盾や荒唐無稽さが目に付くのは当然のことだ。
他に人間そっくりのロボットを造る上で最も重要なのはその自重である。古い映画に出てくるような人型の金属の塊では重すぎて歩くたびにその自重に振り回されて重心がぶれて倒れやすくなる。だから、最近の実用的なロボットはタイヤやキャタピラ移動が主流である。アニメ等では容易にロボットが二足歩行で歩くが、二足歩行の難しさ、なめらかに人間の動きをトレースする至難さ、人間の平均体重を超えた時点でふらつくのは当然で、人間は無意識に三半規管で自身のバランスを取っているが、二足歩行のバランスの取りにくさは、かなりのものである。人間より重いというだけでドカドカと人間らしくない足音が響き、転倒しやすくなる。二足歩行は,一瞬だが、どうしても片足で立ち、もう片方の足を前に出さなくてはならない。一瞬でも片足で立つと言うことは、それを考慮してバランス維持ができる機能が必要ということだ。例えば人間は、その場でジャンプなどしたとき無意識に空中でバランスを取る。
だいたい、自然界において四つ足歩行の動物が多いのは、四つ足の方が安定してバランスが取りやすく素早く動き回れるからである。二足歩行がバランスが取りずらいのはそんな風に自然界を見れば一目瞭然である。サルや、ゴリラやオラウータンでさえ、移動時に腕を前足のように使うのをみれば、二足歩行が自然界においても、いかに不完全で異端かが分かるだろう。日本のロボット技術が進歩しにくいのも、その自然界では異質な二足歩行の開発にこだわりすぎているからだということは明らかだ。だが、技術的に難しいからこそ、逆に挑戦したくなるのが技術屋というものである。そうした難題の上に今の日本のロボット工学が存在し、その難しさを克服して、誰もが外見的に人間と見間違うロボット製造の基本技術が確立したのは、ほんの十数年ほど前のことだ。超小型の人工知能と強靱で軽量な新素材の開発など、幾重もの技術向上が人間そっくりのロボットの製造を可能にした。その研究開発に俺は大学に学生として在籍していた頃から関わっていて、ロボットの駆動部分において二つほど国際的な特許を持つ程度のロボット専門の技術バカになっていた。
大学を卒業後、研究室に残らないかという教授の誘いを断って、その特許を利用して人間そっくりに動くロボットを作る会社を設立し、遊園地などへの売り込みを開始した。ヒーローショーやパレードなどで活躍する着ぐるみの中身としてのパペットロボットの製造販売である。着ぐるみの中身ならば顔の造形にこだわる必要はなく人間の皮膚や表情といった余計なものを考慮する必要がなくなり量産が容易で、とにかく、人間らしく四肢を動かすことだけに特化したパペットの製造販売を開始した。また簡単なカメラと集音マイクとスピーカーと人工知能を標準装備して、障害物があれば自動で回避し、キャラ名を呼ばれれば振り返って応え、握手を求められたら握手し返し、道を聞かれたら、その場所までナビできる程度の知能を持たせた。また各関節部分の隙間に耐震用素材だった衝撃吸収材を詰めた。これにより、軽いジャンプや駆け回るなど、他社のロボット製品より、激しいアクションに応じられるようにして販売した。それがなかなか好評で国内だけでなく、海外のテーマパークからのオファーも受け付けていた。月産でだいたい十数台ほどの製造をしていた。大衆車みたいに大量生産できない精密機械で、外の着ぐるみに合わせて身長などの調整が必要な特注が多く、ほとんどオーダーメイドだった。そこで優秀な人材を求めて就職先を探していた大学の後輩を引き入れて、倒産した町工場を銀行からの借り入れ金で買い取り、何とか自前の工場を手にし、手作業でコツコツと製造して出荷していた。
顧客の要望により、身長や動作など細かいオーダーが多いので効率は悪いのだが丁寧に一台一台手作業での生産を続けていた。映画でエキストラ的に使う異星人やゾンビ百体とか恐竜ロボットの中身みたいな特注も引き受けたりしながら、経営者の社長である俺はそんな会社の経営をする傍ら、さらなる精巧な人型ロボットの開発研究を個人で続けていた。制約が多く確実な成果を求められる大学の研究室ではできない自由な研究を日々満喫していた。人間の皮膚の質感そっくりな素材の開発に内蔵バッテリーの超軽量化など、様々な外部の方々に協力を仰ぎながらコツコツと地道に研究を進めていた。正直、人間そっくりすぎるロボットの需要が、どの程度あるか最初は分からなかった。この研究成果が採算に見合うか不明だった。だいたい俺のロボット製造販売会社はパペットロボットの販売だけで十分に採算が取れていたから、その研究開発は蛇足に近いかもしれなかった。
だが、それでも俺は人間そっくりのロボットの研究を続けた。ある程度の人間そっくりロボットの製造には基礎的に成功していたとはいえ、まだまだ動きはぎこちなく外見的に人間に似てると言うだけで長く動くとすぐにボロが出るのが、今の一般的な人型ロボットに対する人々の認識だった。けれど、俺が目指すのは、町中の雑踏を歩いていても誰も機械と気づかないアンドロイドの創造だった。
そこで、電気刺激で収縮する筋肉に似た新素材の開発を知り合いの研究所に依頼し、それを顔面の表情筋に見立て、人間そっくりの表情を作り出せる頭部を造型し、人間の目と同じく二つのカメラで距離を立体的に把握し、相手の顔を瞬時に個別に識別できるようにし、指が物に触れるとその硬度を正確に把握する高感度センサーを内蔵したロボットを開発した。人間の視覚、触覚などをできるだけ再現したというわけだ。そんな風に人間そっくりに仕上げようと俺は日々努力を重ねていた。
また、仕事としてパペット生産に専念している部下の社員には、この俺の道楽に近い研究に表立って不満を持つ従業員はいなかった。だいたいが俺と同じようにロボット制作に憧れて、大学にいた連中であり、社長の俺がロボットバカであることも充分了承で、うちに就職している。それに彼らスタッフからもアイデアを求めたりしていて、社員を軽んじたりしてはいない。むしろ、大企業のロボット開発部門で働いている俺の同期や後輩たちからうらやましがられる職場で、つまり、俺の道楽は従業員も共感でき、またスタッフたちも単純なパペットロボットばかりではなく、ハリウッドで使うハリウッドスターに似せた特注のスタントロボなど、うちの仕事には単調で飽きるような請負は少ない。クライアントの要望に応えてクリエイター的な独自の発想を求められたりもしていた。だから、俺の経営方針に不満を持つような暇のあるスタッフはうちには誰もいなかった。
むしろ、経営とか営業などの面倒なことは俺に押しつけて,好きなロボット造りに没頭しているようなロボットバカばかりだった。ゾンビロボの大量注文を受けたときもスタッフの中からホラーマニアを選び,そいつをプロジェクトリーダーにしたときなんか、ゾンビの動きの研究のためという口実で会社の会議室で社員なら誰でも観れるゾンビ映画の上映会をやったくらいで、そんな自由な社風を変えたがる野郎は、そもそもうちには入社しない。
俺が,スタッフの仕事に口を出さないのも、社長の俺への不満がない理由の一つだろう。クライアントとスタッフが激突して問題を起こさない限り、俺はスタッフを信用して仕事を任せている。というより、自分が好きな研究に没頭してるのに部下の仕事に口出しするというのはフェアじゃないと言うのが俺の信条だ。
そんな風に、不満を持つほど退屈している暇がないくらいうちの会社の仕事は多種多彩で多忙で面白い。テーマパーク関係の依頼が多いが、映画のエキストラ用に大量のパペットを早急に作ったり、水族館のショウ用の人魚姫を造ったりと、ミュージカルで一糸乱れぬ動きをさせるため、多数の出演者の体型に似せたパペットなど、うちの評判を聞きつけて世界中から様々なエンタメ業界からの注文が来ていた。
俺も、単純に人間そっくりロボットを開発するだけでなく、その技術を応用して本人の体格にあった義手、義足の開発なども手伝っていた。義手義足の開発は,万能細胞を基礎とした再生医療の発達が著しく、機械よりも本人の細胞から再生した方がいいという医者もいるが、高齢者には機械の方が何かと都合のいい場合が多くて、俺は患者の要望に合う義手義足の製造も引き受けていた。
また、俺は各社が自社の技術をお披露目する技術系企業展に展示用のサンプルとして,自分そっくりのロボットを作って、出展してたりしていた。ま、自分をモデルにしたら顔や指先などの細かい部分の型を取るのも楽だったし、俺とロボットを並ばせて見分けが付かない方が説明しやすいし、インパクトがある。ま、百聞は一見にしかずという言葉通り本物の人間と作り物のロボットを並べて、その目で比較してもらう方がインパクトが大きいということだ。
で、そういう展覧会での評判は良く、その後、うちの会社のコンピュータへの不正アクセスを試みようとした件数が飛躍的に上昇したりした。
残念ながら,この世の中は、楽して他人の技術を盗みたがる連中が多い。そういう連中に目をつけられるようになったわけだが、同時に、某国の要人警護用に影武者を造って欲しいという極秘の依頼も来た。ちょっと多めの希望金額を提示したのだが二つ返事でそれは了承され、俺は某国の指導者そっくりのロボットの製造を極秘に行った。影武者を造ったと公になったら意味がないので、すべて極秘に製造し、半年に一回程度メンテナンスのために俺は観光を装いながら海外出張をしていた。
政府要人だけではなく、世界的な大富豪など、その後、俺の極秘の顧客は徐々に増えていった。政治家と企業家のつながりは多く、大金目当ての誘拐や政治思想などで手段を選ばないテロなどを恐れる要人たちは世界的に多かった。
だから、たまに国際的なニュース映像を観ると、この記者会見、本人かなと俺でさえ首を傾げることが多くなった。
人間に近づけば近づくほど、製造に手間と金が掛かるし、それに比例して公にできない秘密が増えていった。また、影武者を造ったことが外部に漏れないようにするため,俺を亡き者としようと考えるヤツも出てきた。何となく危険を察知して、展示用に造った試作タイプのアンドロイドを俺の代わりにしばらく外出させていたら、案の定,それを誘拐拘束するバカが出た。で、影武者を造ったつながりで幾つかの大国の指導者に助けを求めた。すると、世界的な有力者たちが相談して、俺への不可侵協定が結ばれた。何しろ、どの国のどの指導者とか、どの大富豪の身代わりを造ったとかいう秘密は、誰もが第三者に知られるわけにはいかないので、俺の警護の重要性はすぐに世界レベルで浸透した。ま、国際的な政治指導者や世界的な大富豪たちにとって、俺が急に行方不明になって、影武者ロボが壊れたりしたときのリスクなどを考えれば、俺のご機嫌を取り、その自由を守るのは自身の保身につながると。それほど俺の技術は職人のように世界的に洗練されて他の誰にも模倣できないものになっていた。
ま、大国の大統領や首相がロボットの影武者に隠れてコソコソしてると世間にバレれば、世界中で暴動が起きかねないだろう。自分たちの国の指導者が実はロボットと入れ替わっていたという事案だけで、世界中の人々は混乱しかねないだろう。で、俺の身を守る必要性があると世界中の指導者たちは判断し、また他の国にその技術が独占されるのを恐れて、いま、俺の身辺は複数の国の諜報機関が俺にも気取られないほど慎重に厳重に警護している。他人が聞いたら随分と絵空事に聞こえるだろうが、それだけ俺の技術が世界的に必要になっていたということだ。
たとえば、要人が急死したときロボットにしばらく代役をさせて,裏で政権の交代の準備や大企業なら経営者の相続問題を円滑に進めるための時間稼ぎに利用できるなどと考えている連中もいるようで、俺の知らないところで魑魅魍魎たちが色々なやり取りをして俺の自由を保障してくれていた。俺が行方不明になれば,誰がやったと大騒ぎになるから、みんな手出しをしないで傍観しているのが一番というのが、いまの俺の状況だろう。それほど俺のロボット技術を利用して狡猾に立ち回りたい連中が世界中に多いというわけだ。だから、俺は未だに自由だし、また一国のみに仕えるようなことはしていない。
けれど、俺の仕事が増えるほどに秘密が増して俺は世間に自分の技術を公表しにくい閉塞状況が生まれていた。
正直、政治家の影武者なんて造っても面白くない。どれだけ苦労して精巧に造っても、それは誰にも口外できない類いのものだからだ。芸術家が自分の力作を公開できないようなものだ。
そんなとき、俺の研究開発に協力してくれていた新素材研究所の研究員から、死んだ妻そっくりのロボットを作ってくれという依頼があった。何でもその研究員は健康診断でがんが見つかり、余命幾ばくもないから、最期に亡き妻に会いたいということだった。
これならば政治的なしがらみもなく、世間的に公表する必要もないが命がけで秘密にする必要もないので、俺は二つ返事で引き受けた。今後の研究の役に立つからと金ももらわず仕事にかかった。ただ、生前の奥さんの画像やビデオや留守電などのデータを預かり、そこから外皮や音声等を作製,基本ボディは今まで開発のために幾つか製作した何体かの試作品ボディから流用して安価で組み上げて、それを素体にして外皮等を貼り付けた。特に、その死んだ奥さんの義理のお姉さんがとても協力的で、何に使うのか十分承知で3Dデータのもととなる生前の妹さんの写真や留守電や家族の記録として撮り溜めた家庭用ビデオなどの多くのデータを快く提供してくれた。その代わり,そのロボットが完成した際には,それを両親に会わせて欲しいという要望を添えて。
俺に断る理由もなく、その夫である研究員も義理の両親に妻そっくりのロボットを見せるのに賛成した。両親に死んだ娘そっくりのロボットを会わせたら、どんな反応をするか技術屋でしかない俺には予測できなかった。少なくとも百戦錬磨の食わせ者の多い政治家連中や大富豪どもを相手にするよりも有意義な仕事に思えた。
また、その研究員が奥さんを亡くしたときの憔悴した姿をその奥さんの姉や両親は観ていたので、彼がどれほど妻を愛していたの充分知っていたから、とても協力的だった。で、聞いてもいない、娘さんについての思い出話なども聞かされたこともある。だから、俺はくせやしぐさなど細部に渡って完璧に近いそっくりなロボットを作ることができた。
そんな機械仕掛けの奥さんと再会したときのあの研究員の泣きそうなほどの至福の表情が忘れられず、俺は死んだ人間のそっくりさんを製造してレンタルするという商売を思いついた。事故や病気で亡くなった人間のそっくりさんロボを遺族の依頼でレンタルするなら、人道的な問題は少なく、遺族の協力があれば外観についての資料集めも容易だった。
それに、死んだ人間に再び会いたいという人は多い。
また外観と、合成音声の作成だけならそれほど費用はかからずに制作できる。つまり、内部の素体を何度も使い回せば商売的にも成り立つ。だが、それでも、人間ひとり分の外皮の造形にはそれなりの手間と時間がかかるので一ヶ月に一体ぐらいしか引き受けられなかった。繊細で手間はかかるが、とりあえず仕事として成り立つ体裁を整えることができた。
で、そうして始めた新規事業だが、俺の噂を聞きつけたある芸能プロダクションから、若くして死んだ有名歌手のライブを命日にファンをライブ会場に入れて再現したいという理由でそっくりさんロボを造ってくれという注文があって、しかもそれをテレビ局が密着取材したいと言い出してドキュメンタリー番組として放映されるということがあった。それ依頼、俺のところへの依頼は飛躍的に急増した。死んだ人に会いたいというものが多いが、某大企業の社長は死が間近に迫ったとき,自分の遺産や後継者に関する遺言をお通夜で発表するために生前に自分のそっくりロボを造り、そのロボットがお通夜の席で本人の遺言を口にするという演出を引き受けたこともあった。死んだはずの人間がひょっこり自分のお通夜に登場するのだから、現場はかなりのパニックになった。だが、その効果か、親族同士の遺産争いも後継者争いもなかったそうだ。ま、判子の押された遺言書を堅苦しい弁護士が陰気に読むよりもインパクトはあったろう。
早くに両親を亡くし,親戚中をたらい回しにされた新婦が結婚式に両親をと言う理由で両親ロボをレンタルしたこともある。
そんなこんなで、俺の研究開発は、そういう風に商売につながっていった。だが、あまりにも人気がですぎて,今は俺ひとりでは裁ききれない状況にあった。社員も自分の仕事で手一杯で、仕方なく社長である俺ひとりでボチボチこなしている状態だった。
順次依頼をこなすことによりデータが蓄積されて、俺の人形はさらに人間くささが増して軽量化が進んで外観はほぼ完璧な人間となり、だから、レンタル期間が過ぎても返却を拒否して買い取りたいという顧客も少なくはない。
だが、俺にしかできない面倒なメンテと維持費で月数十万以上はかかる精密機械なので、買い取りはお断りしていた。だいたい、レンタル品の場合、外部からのバッテリー充電のためのコネクターを設置してないので、電池切れしたら一度外皮をめくらないといけないので、返却を拒んでも、電池切れで止まってしまうから今のところレンタル品の返却率は100パーセントだった。
現在、基礎となる素体は、60代ぐらいの男女、十歳ぐらいの男の子女の子、十代の少年少女などニーズに合わせて対応できるよう性別年齢に応じた複数の素体を揃えていた。それを依頼に合わせてチョイスして、背丈等の細かい調節をして本人そっくりの外皮を被らせてレンタルしていた。最近は、生後間もない乳児ロボットの開発も始めていた。流産した妊婦の精神的ケアのために某大学病院の教授が乳児そっくりのロボットを造って与えたら、精神的立ち直りが早いのではないかという研究課題に協力するためだった。ま、俺としてはかなりまっとうな仕事だったので二つ返事で引き受けて、いま何体か試作中だ。ただ、乳児の行動や外観は容易に再現できるものではなく、産婦人科の新生児室にカメラを置かせてもらって24時間撮影してその行動パターンをデータ化して作成するという他の依頼と平行しながら結構面倒な作業をしているところだった。なにしろ赤ちゃんの肌の質感や体温、目の動き、鳴き声、ハイハイのパターンなど、恐ろしく面倒で難解だった。最初はおもちゃの赤ん坊のリアルなものを造ればいいんだろと、甘く見ていたところがあった。そう、赤ん坊そっくりな動かない人形ならすぐにできるのだが、本物そっくりの動きのパターンとなると赤ん坊ほど傍若無人な存在はいないだろう。だが、完成して、死産したばかりの女性に貸し与えたらどんな表情を見せるか、それを想像するだけで俺の開発意欲は沸いた。今までの経験から、いくら人間そっくりに造っても、だいたいの遺族はその違和感に気づいてしまう。ゆえに家族の死を率直に受け止めて俺に感謝しながらロボットを素直に返却してくれていた。
で、今回の最新の依頼は死んだ彼女のそっくりさんを造ることだった。
さして、珍しくもない難しい依頼ではないと思っていたが、実は依頼主に問題があった。俺への依頼は死んだ彼女ともう一度だけ1日デートするというもので、最初はよくあるパターンだなと思っていたが、その死んだという彼女の資料を集めるためその女性の遺族である妹さんに俺が会ってみると、「姉に彼氏はいなかった」という返事で、どうやら依頼主の男が勝手に惚れていて、俗に言うストーカーだったらしくて、彼氏でも何でなかったと判明して、俺はその依頼を断ろうと考えたのだが、事情を知ったその妹さんがぜひ姉を造って欲しいというので、俺は、そのまま依頼を続けた。死んだ姉とその依頼主はただ同じ大学に通っていて、たまに同じ講義を受けていたという程度の接点しかなく、姉の方はほとんど相手にしてなかったそうだ。
本人に相手にされていなかったから代わりにロボットでというなんとも悪趣味な依頼だと分って、俺の制作意欲は半減したが、妹さんがぜひにというので、とりあえず、今回の依頼のロボットは完成した。最終テスト前の確認として、その妹さんが工場の俺の作業場に来て、ロボットのできを確認している。
上から下まで見てチェックしている。
「どうです、どこか違和感は?」
「いえ・・・」
妹さんから提供された遺品の白いワンピースを着て棒立ちであるが、その状態でも人間らしく呼吸し、胸が微妙に動き瞬きもしていた。機能的には瞬きも呼吸も必要ないのだが、人間らしくみせるためにそういう仕草を組み込んでいた。瞬きをするしないで随分と印象が変わるものだ。瞬きしないと顔がただの人形のように強ばって見えて気持ち悪くなる。
あまりにも似すぎていて、妹さんはしばらく信じられないといった顔でまじまじとそれを見つめていた。自分が美脚であることを自覚していたのか,そのワンピースの丈は短く、すらりとした脚線は、写真通り完璧に再現できたと自負している。長い黒髪に日焼けとは無縁そうな白い肌の質感も完璧なはずだ。また、ロボットの方も妹さんの存在を目で追うように首を微妙に動かして,視線が妹さんを追い掛けている。義眼に仕込まれたカメラの動体センサーが単純に動くものを追っているだけなのだが、その仕草さえ、人間のそれに近く、妹さんはぽかんとしていた。こういうときの遺族が驚く顔を見るのが、ロボット職人として俺は毎回好きだった。
「ただ見るだけでなく、何か呼びかけてみて下さい」
俺が声を掛けると妹さんがビクッと反応する。
「あ、は、はい、そうですね。お、お姉ちゃん、聞こえる?」
「ん、なに、聡美?」
音声を聞き分け、自然に姉らしく返事をする。
「え、ああ、ええと・・」
それがあまりにも、自然な返しだったので妹さんが困惑する。
「どうです、どこか違和感は?」
「い、いえ、姉の声そっくりです、すごい・・・、ここまで似てるなんて」
俺は、してやったりという気分でニヤッとわらった。
「皆さん、よくそう言われます。本物そっくりと」
「本当にすごいですね。で、あの男に合わせて大丈夫でしょうか?」
「そのための、本物そっくりロボットだと思いますよ。なにかあっても壊れるのはロボット一台のみですから」
俺は肩をすくめて笑った。
「機械は、壊れたら造り直せばいいだけです」
せっかく造った物だから壊されるのは、なるべく遠慮したいというのが本音だったが、妹さんを安心させるために俺は、そう言った。
「で、すぐにあの男に?」
「いえ、予定引き渡し日までまだ一週間ほどありますから、それまで細かく動作チェックをしてからです」
最後の最後まで入念にチェツクするのはいつものことだった。
完璧主義者というのは大げさかもしれないが,俺としては作品として極め尽くして貸し出したいのだ。少しでも違和感があると、依頼主の失望になりかねないからだ。今回の依頼内容からすると、多少手を抜いてもただのストーカーに文句を言われる筋合いはないのだが,職人として妥協はしたくなかった。
「じゃ、あの、その引き渡し当日、私も同行していいですか」
「同行、ですか?」
「はい、自分の目で成り行きを確認したいので。それと、うまくいくと思いますか」
「さて、どうでしょう。こういうケースは俺も初めてでして」
目の前の妹さんを安心させるために、すべてうまくいくと言いたいところだっただが、残念ながらうまくいく保証はない。俺はあくまでもロボットバカで刑事や精神分析医みたいに相手の行動を読める自信もない。とにかく、今までと明らかに違う特殊なパターンで、正確な結果は俺に予想できるはずもない。
「そうですか、済みません、ご迷惑をおかけして」
俺が困っているのを察したのか,妹さんが恐縮していた。
「いえ、まあなんとかなると思いますよ。今回はリアルタイムで常時モニターするつもりですから。なにかあったら、臨機応変に対応するつもりです」
「臨機応変?」
「ええ。そのロボットの見ている映像はリアルタイムで離れた場所でモニターできますし、また離れた場所からそのロボットにこちらから指示を出せますから、不測の事態にも対応できるかと」
「そ、そうですか」
「ええ、ですから、なにかあったら、すぐに対応できますから心配は不要かと」
「じゃ、当日、私も常にチェックできると?」
「ええ、できます。ただし、狭い車内からになりますが」
「車内?」
「はい、当日はロボット運搬用のメンテナンスカーを出しますので。それで追跡しますので、その中からとなります」
俺のアンドロイドは、言ってみればF1カーであり、髪の毛一本までオーダーメイドの一点もので、その運搬にもワンボックスを改良した社用車のメンテカーに乗せて移動している。衝撃吸収材に人工知能も搭載しているので切符を買わせて自分の足で目的地まで移動させることも可能で、依頼内容によってはロボット自身で実家に行かせる場合もあるが。万が一、躓いたり、誰かとぶつかったりして横転して、どこか壊れて立ち上がれなくなれば問題なので,すぐ回収できるメンテナンスカーで近くまで運搬していた。通常の運搬の際は、俺が付き添ってメンテナンスカーで依頼主の元まで運び、引き渡す直前まで不具合がないか俺自らチェックすることが多かった。神経質かもしれないが、俺の大切な作品であり、依頼主にとっても大切な家族だったりするから、段ボール箱に梱包して配送するわけにはいかないのだ。
いずれ技術革新が進み映画や小説みたいにロボットが平然と大量に町中を歩く未来が来るだろう。飛行機や自動車だって、最初に開発されたときは一点ものの試作品だったが、いまや大量生産されて珍しくなくなっている。将来的に、ロボットもそうなるだろうというのが俺の予想だ。だが、いまはその未来ではない。
「じゃ、引き渡し日まで、ここに来て下さい。一緒に彼女の最終チェックを。口癖やくせなどをインプットして完璧に仕上げましょう。で、引き渡し当日は、車の中からモニターを。そういう予定でどうですか」
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
今回の依頼は一日のみのレンタルで、しかも依頼主の正体はただのストーカーである。だから、細かいクセなどの細部にこだわる必要はないのだろうが、妹さんには,納得できるまで付き合ってもらった方がいいだろうと思いそう提案した。
妹さんはロボットについては素人である。細かい作業をみられても、俺の技術の流出の恐れはないだろう。
ロボットの外観を造る手間は一日レンタルでも数ヶ月レンタルでも変わらない。が、幼い息子さんを亡くされた若い夫婦がその息子さんの誕生日に子供を連れてお誕生日祝いに遊園地に行きたいという依頼があって、それから、一日のみの超短期レンタルも始めた。ただし、アンドロイドの外皮の製造費用は1日レンタルでも、一週間レンタルでも変らないのでレンタル料金もあまり差をつけていない。俺は、技術屋であり、商売人ではない。ロボットが作れれば楽しいので、納得できる理由があれば、一日だけのレンタルでも一ヶ月レンタルでも採算度外視で引き受けることが多かった。特に前記述の息子さんを亡くした夫婦への1日レンタルも経費を考えれば破格の値段で幼い息子さんロボをレンタルした。
今回も一日だけのレンタルだったが、それなりの料金を提示したら、もう少し安くならないかとしつこく粘られた。正直、こんなせこいやつのために造るのかと、少しうんざりした。で、そいつがストーカーと言われればなるほど、値切るのも当然かとも思った。で、依頼主は俺が詳細なデータが欲しいので遺族と会いたいと言ったとき依頼主は難色を示し、しかも、男から提供されたデータが盗撮画像のようなものばかりなので、俺は依頼主から受けとった女性の画像データの背後の背景などを手がかりに俺は妹さんの存在を掴み、俺は依頼主の意向を無視して、遺族である妹さんに独断で接触した、未だにストーカー依頼主は俺と妹さんが接触したことを知らない。たぶん、あの盗撮画像だけでは身元を割り出して遺族には辿り着けないだろうと思っているに違いない。でも実際には、俺は妹さんを探し出して、色々と聞き、依頼主がただのストーカーだと把握しているというわけだ。俺の制作意欲は激減していたが、妹さんがロボットでもいいから姉に会いたいと熱心に懇願したので、ここまで作り上げることができた。
ロボットバカの俺としては、妹さんがロボットの出来に驚いてくれただけで、もう充分だった。ここから先の面倒ごとに巻き込まれるのは本意ではない。いざとなれば頼りになるツテが俺にはある。、わざわざ自分から面倒ごとを背負う必要もなかった。
とにかく、乗りかかった船というヤツだ。少なくとも俺が丹精込めたロボットを黙ってストーカー野郎に貸し出す気にはなれなかった。
で、そのレンタル日までの一週間、妹さんは毎日俺の作業場に顔を出した。最終調整は,近所のコンビニにサポートなしで独力で買い物に行かせたり、入浴しても水が内部に侵入しないかとか、料理が作れるかなど、人間らしい技能チェックである。死んだ人の手料理が食べたいと言う依頼人もいるので、俺のロボットには、それなりの料理スキルが搭載されているし、食事の真似事もできる。ただ咀嚼して、体内のタンクに貯蔵してそのまま対外に排出するだけだが、ものを食べているように見えるようにしてあった。
俺の作業場には最終テスト用にユニットバスとキッチンなどを備えたワンルーム空間が設置してある。その部屋の中で人間らしく行動させるのが俺のロボットの最終テストだった。
レンタル日までの一週間、そういうテストに妹さんは付き合って,姉はもっと料理が下手だったとか、風呂では髪から洗っていたなど、微細な調節を積み重ねていった。
後で聞いたことだが、妹さんが熱心に俺の作業場に来ていたのは、本当は俺が姉そっくりのロボットにいやらしいことをしてないか見張るためだったそうだ。それだけそっくりすぎたということだろう。生憎,俺には自分の芸術作品であるロボットにそういう破廉恥なことをする趣味は一切ない。
そんな心配をしたくなるほど、俺のロボットは現物通りの美人さんに仕上がっていたというわけだ。
そうして、万全すぎる状態でレンタル当日を迎えた。
ロボットを運搬するうちの社用車であるメンテナンスカーの内部は救急車に似ていた。ワンボックスの後部座席を取り外し、ロボットを寝かせるための簡易ベットと簡易椅子とモニター用のノートパソコンと予備部品や整備用の工具が積まれ、正直、快適に他の人間を乗せるスペースは考慮していない。
だが、助手席はあるので目的地までは妹さんにはそこに座ってもらい俺は運転に専念した。関東にあるうちの会社からは遠い目的地だったので、何度かサービスエリアに止まったりして夜通し走って約束の時間前にたどり着いた。
そこは岐阜県のローカル鉄道の長良川鉄道の始発駅になる美濃太田駅近くの路肩で、車を止めて俺は一息ついていた。依頼主の希望は長良川の美しい清流沿いを走る長良川鉄道に彼女と一緒に乗り、お城のある郡上八幡駅で降りて郡上八幡の町中を彼女と一緒に散策するというデートプランだった。
妹さんが助手席から後ろに設置したノートパソコンの前に移動し、軽くキーボードを操作する。実は妹さんには、この一週間の最終調整テストの間に基本的なロボットの起動前の機能チェックツールの操作方法を教えてあり、もう初期起動だけならひとりで出来るようになっていた。
「各部異常なし。起動させます」
「はい、どうぞ」
俺の返事と同時に起動のエンターを押す。
すると眠るように横になっていた彼女がゆっくりと上半身を起こす。
「おはよう、聡美」
すっかり、姉らしく仕上がったロボットが、妹の姿を確認して笑みを浮かべる

「おはよう、お姉ちゃん。なにか異常は?」
言われて軽く首を動かし、ロボットが自己診断してカメラ動作の確認のため車内を軽く見渡す。
「駆動系、カメラ、マイク、特に異常はないようです」
「今日のこと、分ってる?」
「はい。今日は依頼主との一日デートですね。美濃太田駅から郡上八幡まで長良川鉄道に一緒に乗り、郡上八幡で下りて、依頼主と街中を散策後、郡上八幡駅で回収時間まで待機でしたね」
「ええ、そうよ」
「車中での依頼主との会話は?」
「最初は適当に合わせておいて。時々、こっちで会話の指示を出すから」
「はい」
妹さんには遠隔でのロボットのモニター方法や指示の出し方もレクチャーしてある。
今日の俺は運転手に徹して後は妹さんに任せるつもりだった。
俺のロボットには曖昧な会話に対応できる高性能人工知能が積んである。
妹さんの言われたとおり適当に話を合わせられるだろう。
曖昧な行動、人間と機械の大きな違いは人間は適当なさじ加減ができる点である。
例えば、人間は生卵をみれば、これまでの経験値により、殻を割らないように柔らかく握ることができる。また、ちょっとした水たまりをみれば、飛び越えるか、避けて横を通るか瞬時に判断して行動できるのが人間である。それを人間らしく再現できるのが俺のロボットだ。
これができるから、俺の妥協しないこだわりと職人芸的なロボット技術は高い評価を受けていて、それは誰にでも真似できるようなものではなく、だから俺は貴重なエンジニアとして国際的に重宝される。
「じゃ、お姉ちゃん、頑張って」
ただのロボットにその言葉は不自然であるが、この一週間の最終テストの間に妹さんはそのロボットを完全に姉扱いしていた。
彼女はゆっくりと自然な仕草でベットから降りて、自分で車のドアを開けて車外に出た。
「あ、あの、お姉ちゃん」
駅の方に向かって歩いて行こうとしていた死んだ姉の遺品である衣服を身につけたロボットを、つい妹さんが呼び止めてしまう。
「なに、聡美?」
「あ、あの、とにかく、気をつけて」
死んだ姉と重なり、それが一瞬最後の別れのような不安を感じているようだった。
ま、無理もない。死んだお姉さんも本当に突然の事故だったらしくデータを受取るため妹さんに接触したとき、お姉さんの死を引きずっていて随分暗い表情だった。
「大丈夫。また後で会いましょう」
彼女は軽く笑みを浮かべて、妹さんの頭を自然に撫でた。それは家庭用ホームビデオに残っていた映像で、よくお姉さんが妹の頭を撫でていたから俺が、ロボットにインプットしておいた仕草の一つである。
ロボットであることは妹さんも、自分で起動させたから分っているが、それでも、頭を撫でられるとぶわぁっと泣きそうな顔になる。
そのすきにロボットはしっかりした足取りで、迷いなく依頼主との待ち合わせ場所の美濃太田駅の方へと向かった。
グスっと鼻水をすすり上げると,妹さんは表情を切り替えてノートパソコンのモニターと向き合う。そこにはロボットの見ている光景が写し出されていた。
「カメラモニタリング正常、各部異常なし」
そのノートパソコンは、ロボットの状況がリアルタイムで把握できるようになっている。
「じゃ、後はよろしく。俺は運転で疲れたから少し寝るよ」
「え、で、でも」
「好きにやれってことだよ。その方がいいだろ。心配無用だ。第一、彼女は本物の人間ではない。壊れることはあっても死ぬことはない」
「そうですね」
長良川鉄道は、その名の通り長良川沿いを走る岐阜のローカル線である。未開の山奥を走るわけではない。携帯の電波も届くから、ロボットからのデータも受け取れる。だから、俺は妹さんに後は任せてロボットは後からゆっくりと迎えに行けばいいと考えていた。
「じゃ,寝る」
俺は運転席に深く座り直して、軽く2時間ほど眠っていた。
そして、目が覚めたときにはすべて終わっていた。
妹さんに確認すると,ロボットは郡上八幡の駅のホームで迎えが来るのを持っているそうだ。
上り電車に乗って美濃太田まで戻らせるという手もあったが、何となく俺自身がご苦労様と迎えに行くべきだと判断して車を発進させた。途中、細かい状況をずっとモニターしていた妹さんから状況を聞いた。
妹さんはロボットに、実はあの事故で自分は死ななくて今日まで身の安全のために隠れて養生していたと嘘をつかせた。俺のロボットには人間に嘘をつくなという制限は設けてなくて、ロボットは妹さんの命令に従って事故後も生きていた姉のフリをした。すると依頼主のストーカー男は明らかに狼狽し、
「もしかして、僕がしたことも覚えてる? 僕のこと誰かに話した?」
と口走ったそうだ。
「あ、あのことは、だ、誰にも言わないでくれよ、君が生きていたなら殺人じゃないしさ、あ、あれは、つい魔がさしただけで,君を傷つける気なんてなかったんだ! 信じて」
「ま、まさか、け、警察に言うつもりはないよね!そ、そんなことしたら僕は終わりだ!」
ストーカー野郎は急に切れて、ロボットの首をぐいと締め始めた。ロボットにそんなもの効果はないが、一応苦しがるふりをさせた。
「まだ、誰にも話してないなら、このまま死んでよ。そうすれば、君は一生僕だけのものに」
「な、何を言って」
その次の瞬間、彼女はロボットとして出せる最大出力で男を突き飛ばしていた。
と同時に、乗り合わせていた乗客の男性たちが申し合わせていたかのようにストーカー男を手際よく押さえ込んで次の駅で引きずり下ろした。
一見,普通の乗客に見えたが、彼らは俺がツテで借りた荒事専門の男たちである。普段は俺の警護を影ながらしてくれている某諜報部関連の男たちだった。
今回は俺の護衛ではなく,ロボットの護衛を依頼し、何かあったらストーカー野郎をとっ捕まえて欲しいと頼んでおいたわけだが、妹さんには彼らの正体は適当に誤魔化し、たぶん、後日、警察に突き出されるだろうと要点だけ伝えた。そして,実際に数日後、某警察署の前にぐるぐる巻きにされて放置されたストーカー殺人の容疑者の身柄が確保されたというニュースが流れた。
誰が放置したのか分らず、とにかく、確保された容疑者は,恐ろしく素直に殺人を自供したという。
とりあえず、一件落着したわけだが,妹さんは,その後も俺の作業場に毎日のように顔を出して、勝手に大学卒業後の就職先をうちの会社にすると宣言し、毎日のように俺の持っている資料用の技術系雑誌を読み漁り、また、お姉さんロボと雑談をしていくようになった。本来なら役目が終わったので,そのお姉さんロボは外皮を除去し、素体に戻すところだが、俺は妹さんがいないときには秘書ロボットとして電話対応や書類整理をやらせることにした。ロボットがどこまで人間の仕事が出来るかというのも貴重なデータだと思うことにして。
社員からは社長が毎日女を仕事場に連れ込んでいると揶揄されたりもしたが、機械の姉と本物の人間の妹が、どこまで本物の姉妹に近づくかは興味深い研究素材だったし、俺も男だから、生身の女性である妹さんにも興味あった。 


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