挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。

雪みーこ

作者:風梨凛
 日曜日。それまでふりつづいていた雨が、とつぜん、雪にかわりました。今年、はじめてつもった雪に、小学1年生のゆうとは小おどりしながら、あちこちの雪をかきあつめ、いっぴきの雪ねこを作りました。
「おまえの名前は雪みーこだぞ」
 頭につんとつきでた小さな耳。まるいしっぽ。鼻は少し大きく作りすぎましたが、どことなくかわいい感じがしたので、ゆうとは作りなおさずに、そのままにしておくことにしました。
 しばらくすると、
「ゆうと、お昼ごはんよ。お家に入りなさい」
 家の中からお母さんの声がしてきました。
「雪みーこ、ぼくがもどってくるまで、おとなしく待ってるんだぞ」
 ゆうとは、大いそぎで家の中にかけこみました。ところが、ほんの少しのあいだに、雪空の灰色はいっそうふかくなり、さすように冷たい風がびゅうびゅうとふいてきたのです。
「ちぇっ、これじゃあ外であそべないよ」
 ゆうとは、ベッドにごろんと横になりました。
 その時です。みーみーという、高い声が、ゆうとの耳にとどいてきました。
「何だろう?」
 ゆうとは、へやのまどから、庭をのぞいてみました。すると……
 ゆうとが作った雪ねこが、まどの下にちょこんとすわっているではありませんか。
「ゆうとくん、あなたは、あんなに寒いところに、いつまで、わたしをまたせておくつもりなんですか!」
 雪みーこは、つんっとふくれて、口をとんがらせました。
「だ、だって、雪みーこは雪ねこだろ? 寒くたって、いいじゃないか。それとも、お家の中で、こたつにでもはいりたいっていうの?」
「そ、そんなことをしたら、わたしは、とけてしまいますっ!」
 みーみーと、声をいちだんと高くしておこる雪みーこに、ゆうとは、あきれかえってしまいました。
「ゆうとくん、外であそびませんか」
「えっ、こんなに寒いのに?」
 ゆうとは、とまどいました。でも、雪ねことあそぶなんて、めったにできることではありません。ぼうしにマフラーに手ぶくろ。ありとあらゆる、寒さよけをみにつけると、ゆうとは、いそいで、外にとびだしてゆきました。

「ゆうとくん、むこうの木まで、きょうそうしませんか」
 雪道をなでるように歩きながら、雪みーこがいいました。
「き、きょうそう? だめだめ。ぼくはできないよ」
「どうして?」
「ぼく……、のろいんだ。なにをやっても……」
「アァハハハ!」
 それを聞いて、雪みーこは、手も足もしっぽも、体をぜんぶ、つかってわらいころげました。
(あんなにわらわなくたって、いいのに……)
 ゆうとは、雪みーこなんかつくるんじゃなかったと、ほっぺをふくらませました。
「ゆうとくん、やってみもしないで、あきらめちゃ、だめですよ」
「だって、ぼく、ほんとうに、のろいんだよ」
 雪みーこは、ゆうとのいうことなんて、ちっとも聞いてはくれません。
「いいですか。よーい、どんっ!」
 雪みーこの足のはやいこと! 雪の上をスキーでもすべるように、すいすいとかけぬけてゆくのです。
「まってよー。雪の上は歩くのだって、たいへんなんだからっ」
 ゆうとが、一歩、すすもうとするごとに、足がズボッと雪の中にめりこんでしまいます。
「がんばれ、ゆうとくん、あきらめたら、また、わらわれますよ」
 ゆうとはひっしに走りました。そして、なんとか木の下にたどついた時には、いきがきれて、しにそうな気分になりました。
「ゆうとくん、やればできるじゃないですか。すこしくらいおそくたって、へいき、へいき」
 雪みーこのことばに、ゆうとの心は、ぽかぽかとあたたまりました。けれども、それとははんたいに、体のほうはひえきって、ぶるぶるとふるえてくるのです。それもそのはず、ゆうとのズボンは上のほうまで、ぐっしょりとぬれていたのですから。
 そんな時です。通りのむこうから、やきいも屋さんの笛の音がひびいてきました。
「あ、やきいもだ!」
 ピョーとなる笛の音に、ゆうとのおなかがぐるるとなりました。すると、やきいも屋のおじさんが、ゆうとに声をかけてきました。
「ぼうや、さむいだろ。ほれ、食いな。一本、サービスだ」
「えっ、いいの?」
「ああ、雪もこんなに、ふっちゃあな、わざわざ、やきいもを買いにくる、おきゃくもいないよ。ほいっ、一番、大きいのをいれておいたよ」
 やきいもは、ゆうとの大こうぶつです。やきいもをうけとった、ゆうとは、さっそく、いもの皮をむきはじめました。寒い雪空に、ほっほと、やきいもの白いゆげがまいあがり、ゆうとのいぶくろは、みるみるうちに、ほかほかにあたたまりました。
 まんぞくした、ゆうとが、ふと、となりを見てみると、雪みーこが、目をまんまるくして、せめるように、ゆうとと、やきいもを見つめているではありませんか。
「雪みーこも食べたいの? やきいも?」
 ゆうとは、雪ねこがやきいもを食べるなんて、とても信じられませんでした。ところが、雪みーこは、ゆうとに、ちぎってもらった、やきいもを、ほくほくと平らげてしまったのです。
「世界じゅうさがしたって、やきいもを食べる雪ねこなんかいないぞ」
 ゆうとは、ゆかいでゆかいで、たまらなくなってしまいました。

* *
 たのしかった雪あそびでしたが、その夜、ゆうとは、高いねつを出して、ねこんでしまいました。ぬれたままで、あそんでいたのが、わるかったようです。
「ゆうとくん、いっしょに、あそべないんですか」
 雪みーこは、ベッドの中のゆうとを、かなしそうに見つめていましたが、いきなり、小さな頭を、ゆうとのねつのある、おでこに、くっつけてきました。
「あ……いい気持ち」
 雪みーこは、とてもつめたくて、ねつのある、ゆうとには、ちょうどぐあいがよかったのです。
「やきいものおれいですよ」
 ゆうとと、雪みーこは、しばらく、おでことおでこをくっつけて、じっとしていました。おたがいのあたたかさと、つめたさが、体にしみこんでくるようで、とても幸せな気分だったのです。やがて、ゆうとは、ねむくなり、いつの間にか、ぐっすりとねこんでしまいました。

* *

 次の日は、きのうの雪がうそのように、きれいに晴れあがりました。けれども、ゆうとは、さっぱり元気がありません。
 雪みーこのすがたが、かげもかたちも、なくなってしまったのです。
「きっと、夜のうちに、とけてしまったんだ」
 ゆうとは、きのうのうちに、雪みーこをれいぞうこに、入れてやるんだったと、こうかいしました。かなしくて、くやしくて、涙がかってにながれてとまりません。
 雪みーこは、さよならもいわずに、いってしまいました。ゆうとにとって、雪みーことあそんだことが、今では、ゆめのように、思われてなりませんでした。

* *

 それから何日かしての寒い日のことです。
 ゆうとは、町で、あの雪の日の、やきいも屋さんを見かけました。その時のゆうとのおどろいたことといったら!
「雪みーこじゃないか!」
 雪みーこが、やきいも屋のおじさんのよこで、いそいそと、はたらいていたのです。雪みーこは、ゆうとのすがたを見つけると、てれて、ひげをこすりました。
「へへ……、じつはわたし、ゆうとくんにもらった、やきいもがすっかり気に入ってしまいまして、やきいも屋さんに、しゅうしょくすることにしたんです」
 ゆうとは、ぽかんと口をあけたままでしたが、やきいも屋さんのおじさんも、
「雪みーこなら、雪の上でも、すいすいと歩けるし、何よりも、こどものおきゃくさんが、ふえてねぇ、わしもしごとが楽しいよ」
と、まんざらでもないようすです。
「ゆうとくん、春になったら、わたしはいったん、ほかの所へたびだちますけど、また、冬がきて、雪がつもったら、私をつくってくださいね。やきいも屋さんとは、冬の間だけ、お手伝いするっていう、けいやくなんです」

 こんなわけで、まいとし、雪がつもると、雪みーこを作るのが、ゆうとのしごとになりました。また、ゆうとは、雪みーこのほかにも、雪ねこを作りましたので、やきいも屋さんは、働きもので、ゆかいな雪ねこの店員でいっぱいになりました。

 ゆうとは、もう、じぶんのことをだめだなんて、かんがえなくなりました。それどころか、しょうらいは、おじさんと雪ねこたちと、ゆうととで、日本で一番大きなやきいも屋さんを、けいえいしようと、おもっているくらいです。

                     挿絵(By みてみん)

* *
ランキングに登録しています。
この小説を気に入ってくださいましたら、ランキングタグをクリック

    →*小説家になろう 勝手にランキング*

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ