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アゲハの開拓街 作者:天界

小さな弟子編

20/25

020 強制治療費回避作戦



 村ぐるみでの強制治療費回避作戦はまず、実験から開始された。

 村の人達全員に村長さんと黎明の雷のメンバーが口止めをしている間の時間はそれなりにある。
 これを有効活用しないわけにはいかない。
 出来れば確証を得てから行いたかったのだけれど、チギット君の涙の前ではそんなもの全力で投げ捨てるしかない。

 ……おかしいなぁ。ボクはショタコンじゃなかったはずなんだけどねぇ。
 まぁ可愛いは正義という格言もあることだし、よしとしよう。ボクとしては見ているだけならば男の娘もやぶさかではないし。

「――というわけでアッドさん、ご協力感謝します」
「いいってことよ。命の恩人の頼みとあらば例え火の中水の中ってやつさ」

 ボクは黎明の雷のメンバーにも意見を貰ってリトリス王国法の裏をかく手段として、『『魔法:領域』の設定した領域の外で治療を行う』という方法を取ろうとしている。
 ステータスカードが出せなくなる位置が領域外という話ではあるが、一応その確認も必要だ。

 ちなみに『治療費を支払えない、支払わない』という判定は意外とアバウトだ。
 治療者が治療費として金銭を請求し、『その場(・・・)』で支払えない場合でも治療者が望めばルール違反になるし、望まなければルール違反にはならない。
 最大で支払い期日は10日まで延長できるらしい。ちなみに支払わないで領域外へ出ると問答無用でルール違反となる。

 今回はこのその場で、という方法を使っての実験だ。
 アッドなら村の牢に飛ばされても保釈金と治療費を払うくらいは出来るので最悪の事態は避けられる。
 ついでに先ほどのアッドの治療費はナルさんがお金を持ってきてくれたので受け取り済みだ。

 ちなみに誰彼構わず治療をして治療費を請求するようなことは出来ない。
 本人の許可、もしくは口約束でも契約を交わした状態で無い場合、ルール違反となるのは治療者(・・・)の方となるのだ。
 黎明の雷がアッドの治療の前にいきなりお金の話をし出したのはそういう理由があってのことだ。つまりはボクのためだったわけだ。

 ……まぁつまりは街中での辻ヒールは犯罪ですよっと。

 ちなみに村の外へ行かなくても治療する方法はいくつか思いついている。
 例えば治療費を村人に予め渡しておくのはどうだろうか?
 金銭の授受に関してまで厳しいルールを作ってしまうと、相当な人数がルール違反となってしまうと思われる。
 金銭の授受とは少し違う方法だけれど、単純にボクがお金を落としてそれを村人が拾い、治療費に充てたとする。
 これがルール違反だとしたら落ちているお金を拾うこと自体がルール違反に抵触してしまう可能性が出てくる。
 そこまでガチガチにしてしまったらかなり大変だろう。

 もしくは何かしらの報酬としてお金を渡すとか。やり方はいくらでもありそうだ。

 でもまぁ今回はそういう方法は取らない。
 最初に思いついた領域の外での治療で十分だろうと思う。何より迂遠な方法を取らないでいいので楽だしね。

「――よっと、これくらいでいいかい?」
「うわ……もうちょっと小さな傷でもいいと思うんだけどなぁ……」
「このくらいなら大してかわんねぇよ。これでも冒険者だからな!」
「は、はぁ」

 アッドに治療用に傷を作ってもらったのだけど、ナイフで軽く切るだけでいいといったのに3センチくらいの大きな切り傷を作っていたのはちょっと引いた。
 血もそれなりに出ているのに、全然痛そうにしていない上にドヤ顔って……アッドって結構馬鹿なんだろうか……。

 『耐性:精神』は当然痛みには効き目がない。
 ましてやそれが他人の傷を見ての痛みとなると耐性関連のスキルではどうしようもないだろう。
 わかりやすい大きな切り傷なので痛みも想像しやすい分あんまり見たくない。

 ……お腹に空いた大きな穴なら痛みを想像できなかったので、全然平気だったんだけどなぁ。

「……はい、終わり」
「はぁ~……すげぇな……傷跡1つ残ってねぇ……たいしたもんだ」

 見ていて気分がいいものでもなかったのでパパッと治すとアッドが感嘆の声をあげる。
 まぁ彼は意識が朦朧としていただろうから、自分の傷が治ったのは見ていないのでボクの『魔法:光』での治療ははじめてみるわけだ。

 色んな角度から3センチほどもあった切り傷があった場所を見ている。
 もう傷跡1つ残っていないそこは良く見るとほんの少しだけ産毛がなくなっていたりするのがわかるかもしれない。
 腕毛とかもし生えていたらそこだけ毛がなくなっていたりするだろうからわかりやすいかもね。アッドにはそういうのは生えていなかったけど。

「アッドさん」
「おおっと、すまねぇ。『治療費の請求を拒否する』」

 いつまでも傷のあった場所を眺めているアッドを促すと、やっと気づいたのかしっかりとした口調で治療費の拒否を言葉にする。
 その場での治療費拒否はこのようにしっかりと言葉にする(・・・・・・・・・)とすぐさまルール違反となるらしい。

 やる人はほとんどいないのは当然だけれど、しっかりと明確に言葉にするというのが大事なのだそうだ。

「……飛びませんね」
「だな……まぁよく考えてもみれば戦闘中に仲間を治療する度にいちいち金請求してたら面倒この上ないからな」

 そう、何もボクだけが『魔法:光』を使えるわけじゃない。
 稀有なスキルではあるが使える冒険者はいないわけじゃない。
 そんな人達が外で仲間を治療するのにいちいちお金を支払ってもらっているとは思えない。
 でも街の中など、ステータスカードが出せる領域内だったらどうなのか。

 答えは――黎明の雷がボクに言われるまで気づけなかったように、例え仲間内であっても街中での治療には治療費を支払う必要があるらしい。
 ちなみに自分自身への治療に関しては例外らしく、対象外なのだそうだ。

 この異世界――ミジェスギラにはPTを組むという概念が魔法的に(・・・・)存在する。
 しかしPTを組んでいても王国法というルールからは逃れられないようで、街中での治療にはPTメンバーであっても支払いが必須のようだ。

 あんまり意味がなさそうなPTだけど、PTを組むと一定範囲内という制限が付くが、PTメンバーの大体の居場所がわかり、倒した魔物から得られる経験値が均等にPTメンバー全員に振り分けられる。

 ゲームのようなPTチャットや念話などといった機能はないのが残念だけど、経験値が均等に割り振られるのはいいかもしれない。
 ちなみにPTを組む時には『PT申請』をする必要がある。
 自身の魔力を体外にほんの少し出した状態でPTを組みたい人に触れて、PT申請と念じると相手に申請の選択肢が飛ばせる。
 PTは最大で8名まで同時に組め、抜けるのは簡単だしリーダーなどの区別もない。人数内なら誰でもPT申請できる。
 だが自身の魔力を体外に出すという行為が苦手な人が多いためにPT申請は出来ない人の方が多いのだそうだ。
 なので冒険者ギルドには必ずPT申請が出来る職員が居て、代理でPTを組んでくれたりするそうだ。まぁ代理で組む場合は最大7人までになってしまうけれどね。職員さん最後に抜けるし。

 そんなわけでもしかしたらPTを組んでいれば村の中でも治療が無料で出来るのでは? という淡い期待は速攻で崩れてしまっている。

 軽く実験を済ませると、ビックスがチギット君と一緒に彼の父親と思しき足に添え木をした男性に肩を貸してこちらに向かってくるのが見えた。

 さぁ治療のお時間ですよ。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 強制治療費回避作戦は見事に大成功に終わった。
 事前の実験でも問題なかったように、チギット君のお父さん他、村人達に行った治療でも誰一人としてルール違反となる者はいなかった。

 最初はチギット君のお父さんと数名の怪我人だけのつもりだったのだが、ちょっと思いついたことがあったので実験も兼ねて村人達、ほぼ全員に対して治療を行ったのだ。

 毎日の水洗いなどで出来た(あかぎれ)や、腰痛、膝の痛み、果ては持病まで。

 ボクの現代医学の知識のおかげもあってか、『魔法:光』で治せる範囲というのはかなり広い事がわかった。
 もちろん難しい病気とかは無理だ。
 持病だって完治とまではいかないし、腰痛やら膝の痛みだってそれは同じだ。
 まぁ皸くらいなら完治するけど。

 それでも大分痛みを和らげたり、持病も喘息みたいな感じだったのでなんとかできた。
 もちろん村人達はとても喜んでくれた。
 最初は怪我人だけという話だったのが村人ほぼ全員の治療になったのだから当然だけど。

 ボクとしても『魔法:光』の実験が出来て満足している。

 ……何よりもチギット君のお父さんの怪我を治してからずっと向けられ続けるチギット君の尊敬の眼差しが心地よかった。
 もうショタコンでもいいかもしれない……いやでも……うん、チギット君可愛いからなんでもいいや。

 村人ほぼ全員の治療も終えて、尊敬の眼差しを向けてくるチギット君の頭を撫でているとボクの治療風景を真剣な表情で見つめていた黎明の雷をチラッと見てみる。

 ずっと真剣な表情で見ていた彼等だけど、今はメンバー全員で何やら相談している。
 時折風が運んでくる言葉には『ギルドマスター』とか『後ろ盾』とか、なんとも言えない言葉が混じっている。
 彼らが厄介ごとを運んでくるとはあまり考えたくないけれど、こうも不安を煽る言葉が耳に届くと……ねぇ?

 ちょっと不安に思いながらそんな彼等を見ていたら相談が終わったらしく、ビックスとアッドを先頭に黎明の雷が近づいてくる。

 チギット君を後ろから抱えるようにして構ってあげながら彼らを待ち受けていると、ボクの雰囲気が変わった事にチギット君も気づいたのか不安げな表情で上目遣いに見上げてくる。

 ……うーん、やっぱり可愛いなぁこの子……。スカートとか履かせたら超似合いそう……。
 この子本当に男の子かなぁ? まぁでも確かめたわけでもないし……もしかしたら……。

「ソラさん、治療お疲れ様」
「お疲れさん、ソラさん」

 黎明の雷たちは相談していたときの硬い表情よりは多少マシな表情で労いの言葉をそれぞれがかけてくれる。
 それにボクも簡単に応えて村に戻っていく人達と一緒に歩き始めた。

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