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アゲハの開拓街 作者:天界

小さな弟子編

15/25

015 門番はくまさん



「こんなのあったんだ……」

 ボクの小さな手のひらの上にはカードが載っている。
 これは『ステータスカード』と呼ばれるカードであり、名前、ベースレベル、年齢、種族、所持スキル、ルールが書かれている。
 異世界物でよくあるギルドカードみたいな感じだ。
 まぁギルドランクは書いてないけど。そもそも所属してないし。

 このカードの存在を知ったのは、やっと着いた村――ニルギル村の門番の『半獣種』の熊族のおっちゃんの一言のおかげだ。
 ちなみに半獣種というのは所謂獣が二足歩行しているタイプで、獣の特徴が大きい種族だ。
 この異世界ミジェスギラには人間と分類される種が5種類ある。
 ボクがいた地球の人間のような人を『純人種』と呼び、純人種にほんの少しの獣要素――獣耳やら尻尾やらちょっとした羽とか――を加えた種を『獣人種』と呼ぶ。
 さらに獣人種の獣度合いを大きくした種を『半獣種』と呼ぶ。
 エルフやドワーフといった種は『妖精種』と呼ばれ、リザードマンやサキュバスやミノタウロスなどは『魔精種』と呼ばれる。

 総じて知性が高く、言葉を操り文化的な生活を営んでいることがあげられる。
 魔精種の中には同じ種族でありながらも『魔物』と分類されるものもあり、その境界が知性の高さと言葉や文化的な生活などになっているみたいだ。

 ちなみにボクがファンタジー生物と呼称していたあれらは魔物だ。
 これからはミジェスギラでそう呼ばれているのだからファンタジー生物ではなく、魔物と呼ぶ事にしよう。郷に入っては郷に従えってね。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 ニルギル村を発見したボクは喜び勇んで走って村に向かった。
 もちろん全力疾走用のスキル構成ではないけれど、かなりのスピードは出せてしまう。
 土煙をあげそうになってはたと気づいて慌ててスピードを緩めたり、言語スキルを取得し忘れていたりといったハプニングはあったけれど、無事村に到着。

 村は木の柵で囲まれたあんまり大きいとはいえない程度の大きさ。
 柵が開いている場所があってそこが村の入り口なのだろう、門番としてふさふさの毛に覆われたくまさんが立っていた。

 一応検索してどんな種類の人がいるかは知っていた。
 でもやはり百聞は一見に如かず。
 立ち止まって門番くまさんを見つめ続ける事数分。門番くまさんから声がかかるまでボクの思考は停止していた。

「あー……大丈夫か、嬢ちゃん?」
「ふわっ! す、すみません……」
「いやいいんだが……旅人かい?」

 怪訝そうにしながらも――獣度合いが高いといっても結構表情はわかる――しゃがんで視線を合わせて、柔らかく聞いてくれている事になんだか温かいものを感じる。
 ボクの見た目は10歳程度の少女だ。
 ボクの倍とはいわないがソレに近いほどの身長と相応の横幅を持つくまさんなのに、威圧感は微塵も感じることは無かった。

「はい。えっと……ここはニルギル村であってますか?」
「あぁここはニルギル村だ。何もないところだがリーファグルの大森林や大草原に挑むヤツラが時折訪れる程度の小さな村だよ」
「……よかった、あってた」

 門番くまさんの声音はとても優しく、初異世界人――しかもくま――にちょっとだけ緊張していたのがあっという間にどこかに飛んでいってしまっていた。

「あの、この村には宿屋とかってありますか?」
「あー……すまんな嬢ちゃん。小さな村なもんでな宿屋もなければ店も万屋が1軒あるだけだ。
 だが村長に言えば空家を安く貸してもらえるからな、安心しな」
「そうですか、それは助かります」

 ボクの質問に少し申し訳なさそうにしながらも丁寧に教えてくれるくまさんはやはり優しい。
 優しい声音からはボクを不安にさせないように気をつけてくれていることがよくわかる。

「あ、そうだ。万屋って兎の毛皮とかの買取ってしてくれますか?」
「兎の? ミニマムラビットの毛皮か? なら買い取ってくれてるはずだ」
「あ、いえ、いっかく……えっと……リーファグルホーンラビットの毛皮です」

 一角兎の正式な名称はリーファグルホーンラビット。
 ちなみにミニマムラビットは草原にいた普通のサイズの兎のことだ。あれでミニマムなのは魔物が標準とされているからなのだ。

 しかしボクの言葉に門番くまさんは目が点になってしまった。
 どうしたんだろう、と首を傾げるとさらりと銀の髪が揺れる。

「……! じょ、嬢ちゃん、エルフだったのか……あ、いや嬢ちゃんなんて言って悪かったな、すまんこの通りだ」

 そして突然謝られる始末である。
 一瞬だが疑問が膨らんだけれど、そういえばエルフはこの世界でも長命であり年齢と見た目が一致しない種族でもあるのだった。
 純人種の成人程度に成長するまでにエルフは2、3倍の年齢が必要だったりもする。
 見た目10歳でも実際は2、30歳の可能性もあるのだ。

 ……そのくらいの歳だったら嬢ちゃんはないよねぇ。

 頭を下げている門番くまさんに気にしないでください、と伝えて頭を上げてもらう。

 ついでにリーファグルホーンラビットの事を聞くとこの辺には居らず、それなりに手強い魔物のため驚いたそうな。
 いるのは大草原の中域以降で、そこまで行くにはそれなりの実力を持っていないといけないので普通の人ではまず獲って来る事はできない。

 ……なるほど、そりゃ驚くね。子供だと思ってたわけだし。

 ボクがエルフだとわかってからは扱いも相応の物になった。
 でも優しい感じなのは元々のようで豹変するようなことはなかった。一安心。

 村の事を世間話程度に聞きだし、村長の家や万屋の場所なんかも聞いた。
 まぁ小さな村なのですぐわかるって話だけど。

 そして最後に――

「あぁそうそう、一応ステータスカードでルールの確認だけはしておいてくれな。とはいっても王国内は王国法だから変わらないがな」

 門番くまさんに笑顔でお礼を言って別れた後、村を散策する前にさっそく気になったワードを検索したというわけだ。

 ステータスカードには名前などの他にもルールが記載されており、このルールを破ると強制的に牢屋に『転移』させられる。
 なんとも驚きの犯罪即逮捕である。
 だからこそルールの確認は重要な事で、常識であっても確認のために言うのが門番のお仕事なのだ。

 ちなみにこのステータスカードとルール、どこでも適用されるわけではないらしい。
 検索して得られた情報では『領域内』のみで有効だと書かれていた。

 『領域内』でも検索してみたところ『魔法:領域』というスキルがあり、その『魔法:領域』で定めた場所でのみステータスカードを出現させることが出来、ルールが有効化されるそうだ。
 この村の外に出るとステータスカードも消滅し、犯罪即逮捕も無効、ということだ。
 それでも犯罪即逮捕は治安の面から見てもかなりのものだろう。

 しかしやはり落とし穴というものは存在する。
 犯罪即逮捕は現行犯でなければ機能しないそうで、過去の犯罪などには一切反応しない。
 犯罪歴なんていう便利な機能もステータスカードにはついていないし、犯罪歴を調べる魔道具なんかもないっぽい。
 さらには犯罪即逮捕なので対象を厳しくしすぎると逮捕者が続出してしまって大変だ。
 そのため犯罪即逮捕の対象はそれなりにはっきりしたもの限定となっているようだ。強盗とか殺人とか。

 なのでルールに引っかからない程度の軽犯罪は日常茶飯事らしい。
 そういう理由で治安維持にはやはり人力が求められる。先の門番くまさん然りだ。

 とにかくこのステータスカード、便利である。
 でもどうにもおかしいことが。

 ボクの種族はハイエルフ。
 しかしステータスカードにはエルフとしか記載されていなかったのだ。

 ……どういうことだろう?

 気になったら即検索。
 ボクのスマホはとても便利だ。権限不足以外は。

 どうやら記載されていた種族の項目は選択できる項目だったらしい。
 ボクの種族はエルフとハイエルフのどちらかを選択できるみたいだ。ステータスカードの種族をタッチしたらリストが出てきた。
 ちなみに種族を選択できるのはボクのように上位の種族である場合のみらしい。

 ……ハイエルフは上位の種族だったんだね。さすがハイだ。(ハイ)灰敗(ハイハイ)

 ついでにステータスカードがタッチ制だったので色々触ってみたところ、スキルは個別に表示非表示が設定できるみたいだった。

 ……初期状態では全部非表示だったけど。

 あ、そうそうボクの年齢だけど27歳だった。
 ちゃんとボクが男だった時の歳のままだったよ、うん。

 言葉も『大陸共通語』で問題なかったみたいだ。
 一応Lv3にしておいたけれど何の問題もなく会話は成立していたし、一先ずはこのままにしておこう。

 疑問も解けたし、さっそく村の散策に移る。
 まずは毛皮を売ってお金を手に入れないとね。

 ミジェスギラのお金は魔石コインと呼ばれるもので、所謂銅貨銀貨金貨ではない。
 魔石コイン変換機(ラルコンバータ)と呼ばれる魔道具があり、魔石をコインに変換できるのだ。
 この魔石コイン変換機(ラルコンバータ)神話(ミソロジー)級魔道具と呼ばれるもので、この異世界ミジェスギラで両手で数えられる数しかない貴重品だ。
 だが魔石コイン変換機(ラルコンバータ)は劣化複製機能がついており、変換できる魔石コインの種類が減る代わりに大量に本体を複製できる。
 とはいっても複製するにも無料でできるわけではないらしく、専用の組織――ギルドなど――のみにしか設置されていないそうな。

 魔石コインの単位は『ラル』。1ラルコインから始まり10進法で1億ラルコインまである。
 劣化複製の場合は100万ラルコインまでしか変換できない。
 偽造防止技術として魔石コインに魔力を極々微量でも注ぐと七色に光るのだそうだ。この発光現象は一切再現できないらしく、偽造通貨はまったく出回らないらしい。

 ……誰でも魔力を持っているから確認も簡単と言うことだね。

 お金のことは検索してここまでわかったのだが、物価については悉くわからなかった。権限不足以外でわからないのは単純に情報がないのだろうか。

 ……検索エンジンのくせに。

 そんなわけでニルギル村唯一のお店で相場を調べる事にした。

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4/4 ステータスカードの説明に追加
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