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大和の守り手・筒井順慶(つついじゅんけい) 作者:101
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評定

 風が変わった。

 秋を迎え、空が高い。

 しかしその空気を順慶が感じたのは奈良ではなく、筒井城でだった。

 評定の場の空気は重苦しかった。

 足利義昭を擁立した織田信長が入京したのだった。

 順慶の読みははずれた。

 上洛の情報は興福寺を通して知っていたが、背後に武田が迫り、道中にも多くの大名領がある以上、上洛そのものは難しいと思っていたのだ。

 信長は北近江の浅井と結んだのち、立ちはだかった南近江の六角とことを構え、伊賀にった。

 そして九月の下旬には京へ至った。

 武田とは事前に同盟をし、背後に敵をなくした、堂々とした進軍だった。

 日数にして出立してわずか二週間の事だ。

 三好は奈良から引き上げ、信長に対抗しようとするも、拠点をつづけざまに落とされて大きく勢力圏を後退させられてしまう。

 筒井勢は奈良に取り残される格好になり、離れざるをえなかった。

 順慶は板の間より一段高くなった上座にあり、家臣たちの模様を眺めていた。

 重臣たちの口は、話し合いではなく、左近への非難に費やされていた。

 左近は反論することなく、頭を垂れている。

「島殿、なぜ織田の動きにもっと警戒をしなかったのだ」

「その通りだ。久秀だけに目をとられるとは」

「話によると、久秀と織田とはかなり前から通じていたというではないか」

「面目次第もござりませぬ。すべては私の力不足故……」

「謝ってすむことでは……」

「もうよい。やめよ」

 順慶はさきほどから繰り返されることにうんざりして言った。

「ですが殿っ」


「左近に動くなと言ったのは私だ」

「なぜっ」

 重臣は信じられないという顔をする。

「織田の動きがここまで早いとは思わなかったのだ。少なくとも上洛はたとえ今年出立しようと思っても、少なくとも実現するのは来年だろう。それよりも久秀をたいらげることに傾注せよ、とな」

「おたずねいたしまするが、殿はご存じだったのですか」

「今年の初夏の頃か。信長が義昭公を擁して上洛しようとしていることを耳にした」

「我らは聞いてはおりませぬ」

 蚊帳の外になったことに重臣たちは憤った。なにがなんでも理由を話してもらおうと鋭い眼差しだ。

「では聞くが信長に通じてどうするつもりだ」

「それは……い、いきなり、言われましても……」

 重臣たちは一様に面を伏せた。

 皆の気持ちは分かる。

 信貴山を落とし、久秀をかなりのところまで追い詰めたところへの信長の横やりだったのだ。

 やり場のない怒りを持ちたくなるのも分かる。しかしそれを左近一人に負わせるのはおかどちがいだ。

「助力を願うか。それとも久秀を牽制してくれるよう請うのか」

「どちらにしろ、松永が頼っているのでござりまするぞ」

「久秀にあとはない。近畿において孤立しているのだ。すでに失うものはない」

「殿はあれほど久秀のことを憎んでおられたではありませんか。まさか、信貴山を落とされて、その気持ちまでなくされたわけでは」

「誤解するな。私の久秀を憎む心は変わらん」

「ではなぜなのですか」

「我らが大和の国人だからだ」

 家臣は訝しそうな表情をみせる。

「三好に頼り、また織田にも頼るのか。三好はいざしらず、織田はこの地とはなんの関係もないものだぞ。大和に仇なす久秀は本来であれば我らの力だけでなんとかしなければならなかった。それが私の不甲斐なさゆえに、三好に助力を請うことになった。これでさえ、久秀を除いたあとどう化けるか分からない。戦後のことも勘定しなければならないのだ」

「殿が仰られることは分かりますが……」

 やはり久秀が織田と通じたことへの影響はどうやっても否定しがたい。

 久秀一人に攻めあぐねてしまっているのだ。

 これに将軍との入洛という大仕事をなし遂げ、威勢をかった織田が味方することになればな危ういことは誰の目にもあきらかだ。

「すまん。勝手に決めてしまった私の不徳のいたすところだ」

 順慶は頭をさげた。

 自分の判断が間違っていたとは思わないが、それでも家臣たちに計ることなくすべてを決めたことは順慶の驕りだったのかもしれない。

 筒井家の重臣たちの多くは重要な地位を示すだけでなく順慶の姉や妹を娶り、縁戚関係を結んでいた。

 すべて父、順昭の差配だ。松永の勢力に押されながらも順慶がこうして立っているのは父のおかげでもあった。

(俺の力のなさがまたこの国を乱すか)

 それでもこの国には順慶を信じてくれている人がいる。順慶にはその声にこたえる義務があるのだ。それは国人としての責務といっても良い。

(そうだ。蹂躙などさせてたまるものか)

 よそ者にこれ以上、掻き乱されるわけにはいかない。

「殿、顔をあげてくだされ」

「そうでございます。我々の誰も、久秀と対抗する手段を示せませんでした。殿の決定に従うばかりで」

「それに久秀の手足のごとき城は着実に落としているのです。たとえ織田がいようとも、三好の勢力があるのですから、我らにのみ傾注することは難しいはず。まだ挽回することは十分可能でござるっ」

 家臣たちがまるで自分自身に言い聞かせるように声をあげた。

「みな、すまん。そしてこれからさらに迷惑をかけることになる。しかし今がふんばりどころだ思って欲しい。久秀は織田家の力を背景に有形無形の圧力をくわえてくるはず。国人たちには決して動揺することのないよう申し伝えるのだ。今ここで足並みを乱せば、それこそ久秀の思うつぼだ」

「ははっ」

 順慶は評議の場をあとにした。
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