妙なる調和その九
「言っておくけれどな、俺は本気だぜ」
「本気でも何でも負ける時は負けるよ」
「そういうおめえは最初からやる気ねえだろうがよ」
怒った声で親戚に返す。
「とにかくだ。俺は信じてるからな」
「信じることはいいことだけれどね」
「外れた時は落ち込まないようにね」
明日夢と咲の言葉が突き刺さる。とにかく一人勝手に熱くなっている野本だった。そしてその熱さは見事に空回りしてしまうのであった。
「とにかく。カレーだよな」
「ああ」
佐々が正道の言葉に応える。
「それは任せてくれよ。カレーは大得意だからな」
「猪のカレー!?」
奈々瀬はまだこのことを言っていた。
「まさかと思うけれど」
「いや、寄せ鍋カレーだよ」
しかし佐々はこうその奈々瀬に返す。
「とにかく何でも入れてな。豪快に作るぜ」
「美味いのかな」
「どうかな」
しかし中には味について懐疑的なクラスメイトもいた。
「とりあえず鍋だったら何でもそこそこいけるけれど」
「カレーだとどうかしら」
「だから俺に任せとけって」
佐々はそうした声に対しても強気であった。
「最高のカレー作ってみせるからな」
「期待しないで待ってるぜ」
「それじゃあね」
「当然御前等も協力しろよ」
そのクラスメイト達に対してまた言う。
「肉やら野菜やら切ってな。それを鍋に入れてな」
「まあそういうことならな」
「やるわよ」
「少なくとも。いいわね」
江夏先生が彼等に言ってきた。
「その格好じゃなくて普通のジャージで料理はしなさい」
「それはわかってますって」
「ジャージも持って来ていますよ」
「宜しい。けれどそれにしても」
先生はここであらためて一同のファッションを見る。最初からうんざりとしたような目であったが見れば見る程度それが強いものになってきているのがわかる。
「貴方達もっとファッション雑誌とか読んだら?あんまりよ」
「そうですか?」
「これがいけてるんじゃないですか」
「そうですよ」
「それでいけてるって思うんならもういいわ」
随分と匙を投げた言葉であった。
「私服についてまで言う教育方針じゃないからね」
「だからなんですか」
「極端な違反の制服とか煙草以外には言わないわよ」
断言さえしてみせてきた。
「といっても制服はそもそも色々あり過ぎてわからないけれど」
「こいつのあのいかれた色彩感覚の制服はいいんですか?」
「あれはまずいでしょ」
春華と茜がここぞとばかりに野本の制服について言う。
「あんな悪趣味なのは」
「駄目ですよね」
「センスは校則には関係ないわ」
さりげなく野本のファッションセンスに駄目出ししている。
「だからね。それはいいのよ」
「そうなんですか」
「まあコンテストはいいとして」
既にそれは最初から諦めている感じの江夏先生だった。
「カレーは楽しみにしてるわ」
「それなら是非」
「期待しておいて下さいね」
話はもうカレーに向かっていた。キャンプではカレーを作って食べる。これはもうどのキャンプでもほぼ決まっていることであった。
「さて、と」
「どうしたの?」
「カレーか」
正道はここで未晴に応えて言う。
「どんなカレーになるやらな」
「カレー嫌いなの?」
「いや、好きだけれどな」
カレーが嫌いな人間もあまりいない。これは正道も同じだった。
「それでもな。このクラスだと」
「どんなのができるのか心配とか?」
「まとまり悪いからな」
自分もその中の一人だからよくわかるのだった。
「俺みたいな奴いるからな」
「別に音橋君は」
「自覚してるさ。自分勝手な人間だからな」
この言葉は自嘲ではなかった。しっかりとした自己認識に基くものだった。
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