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歌に生き愛に生きその一
                 歌に生き愛に生き
 皆が巷のことやそれに対する対処の方法等を考えている間正道はそれとは離れていた。彼は病院に向かった。その前に未晴の家に行き彼女の母と会うのだった。
「貴方は」
「どうも」
 頭を下げて挨拶してからだった。
「あいつのことで来たんですけれど」
「未晴のことなのね」
「はい」
 静かに言葉を告げての言葉だった。
「色々考えたんですけれど」
「ここじゃ何だから」
 母は一旦彼にこう告げて周りを見回した。そこは未晴の家の玄関である。
「家の中に入ってくれるかしら」
「家の中ですか」
「そこでお話しましょう」
 こう言うのである。
「そこでね」
「そうですか。家の中ですか」
「音橋君だったわね」
 彼女は彼の名前を言ってきたのだった。
「家の中ははじめてだったわね」
「はい」
 正道は素直に彼の言葉に頷いた。玄関まで来たことはあっても家の中に入ったことはない。それは事実であった。
「そうです」
「そうだったわね。じゃあとにかく中に」
「それじゃあ」
 こうして正道は家の中に案内された。家の中は至って静かであった。落ち着いた和洋折衷の家の内装である。彼はその部屋の中の欧風の白い絨毯が敷かれた部屋の中に案内された。そこは柔らかい黒いソファーが向かい合って置かれ間にテーブルもあった。
「座って」
「わかりました」
 正道のその言葉を受けて素直にそのソファーに座る。母親は一旦部屋を出てまずはガラスのコップに氷が中にある紅茶を持って来たのであった。
「どうぞ」
「有り難うございます」
「それでだけれど」
 向かい合って座りながらそのうえでまた話してきたのだった。
「私の名前だけれど」
「はい」
「晴美。竹林晴美っていうの」
 名乗りからはじめたのであった。
「この名前は知らなかったわよね」
「すいません」
「謝る必要はないわ」
 微笑んで正道に述べた言葉だった。
「言ってなかったわよね」
「はい、そうです」
「なら。知らなくて当然だから」
 だからだというのであった。優しい声で。
「それでだけれど」
「それで?」
「ここに来てくれた理由はわかるわ」
 その優しい声での言葉であった。
「お見舞いのことよね」
「ええ、それですけれど」
「決めたの」
 今度はこう彼に問う晴美だった。
「貴方は」
「はい、決めました」
 正面から答えた言葉だった。彼は逃げてはいなかった。
「それで。駄目ですか」
「有難う」
 これが返答だった。今の彼女の。
「来てくれるのね。未晴も喜んでくれるわ」
「そうですか。あいつも」
「咲ちゃん達にも来て欲しいのよ」
 晴美は咲達のことも話に出したのだった。未晴と彼女達の絆の強さは彼女も非常によく知っていることだからである。だからであった。
「けれどね。未晴のあんな姿は」
「あいつ等には見せられませんね」
「ショックを受けるのわかっているから」
 だからだった。その絆の強さを知っているからこそできないのだ。それは彼女の心遣いのはっきりとした表れでもあった。
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