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すらいむで!ご~

作者:きつねねこ
昔々ある所に~ではなくて、現代の地球に、ある一人の女性がいました。

その女性は、医療が行き届いていない途上国を巡る看護師でした。

来る日も来る日も、自分の事を省みず、現地の人々の為に働く彼女。

そんなある日、現地で流行してた病に、彼女自身がかかってしまいます。

それでもなお、彼女は人々の為に働き―――とうとう病に倒れてしまいました。

これは、自分が倒れるまで人々の為に尽くした、一人の優しい女性のお話。




病に倒れた彼女は、真っ白な世界で一人の女の子と向き合っています。
その小さな女の子は、長い金髪で白いワンピースを着た、光り輝く女の子でした。

「人の子よ、自身の命すら顧みず、他者へ尽くす生き方、天晴れじゃ」

――ありがとうございます――

女の子に褒められて、素直な彼女はお礼を言います。

「前々々々々世から変わらぬその在り方に感動し、次なる生では何か特典をつけようと思うのじゃ」

――特典?――

「うむ。我は神じゃからな! お主の次の人生では、自身が幸せになれるような願いを叶えよう」

目の前の神様と名乗る女の子に、特典をつけると言われ困ってしまう彼女。
人の為に尽くす事が好きなのに、自分の為の特典と言われても思いつきません。

「お勧めがあるのじゃが、どうじゃ?」

――お勧め?――

「うむ! 剣と魔法の世界へ、魔王と戦える力を持って転生とかどうじゃ!」

その言葉を聴いて、彼女は吃驚してしまいます。
料理や掃除洗濯が大好きなのに、魔王と戦える力なんて怖いだけです。

笑顔で薦めてくる神様に、このままではまずいと思い考えます。
特別な力なんて要らない、次の人生もただ平凡にすごせたらいいなと。

そこで、ぱっと思いつきました。

――何にでも成れるようにしてください――

特別な何かは要らないけど、将来好きな職業とか選べるといいなと、彼女は思ったのです。

「何にでも成れる…か。なかなか難しい事を願うのぅ」

代々お金持ちの名家や、偉い皇族とかの家で将来を選ぶ事もできないのより、極々一般家庭に生まれ、自分の将来を自分で選びたいという思いから出た彼女の願いは、何故か神様は難しいと悩んでしまいます。

「難しいが…うむ! お主の願い叶えよう」

――ありがとうございます――

暫く悩んだ後に、胸を張って了承してくれた神様に、お礼を言います。

「では、次なる生でお主が幸福である事を願う」

神様が言葉を告げると、彼女は眠くなり、ゆっくり瞼を閉じていきます。
瞼を閉じながら、次の人生を想像します。

――きっと、今の自分と同じ、日本の一般家庭に生まれるはずだ――と。



次に彼女が目覚めると、そこは森の中でした。

――どうして森の中に居るんだろう――

確か自分は、神様に会ってお願いをして、次の人生に向かったはずなのに。と疑問に思います。
彼女自身の記憶があることが、さらに疑問を生みます。

小一時間ほど悩んだ後、彼女は結論しました。

――まぁいっかぁ。神様もミスくらいするよね――

神様がミスをして、生まれ変わりに失敗して、自分をそのまま生き返らせたと思ったのです。

結論が出たなら、ずっと森の中に居るわけにも行かず、人を求めて移動しようと決めました。

――とりあえず、水音のする方に行ってみよう――

彼女は、少し離れた所から聞こえる、水のせせらぎが聞こえる方へと向かいました。

ぽよん ぽよん

彼女が動くたびに、ぽよんぽよんと変わった音がします。
その事が気になりつつも、目的の場所へたどり着きました。

森が開けて、そこは浅い川が流れていました。
そして、そこにはなんと、サッカーボールくらいの丸い水玉の塊が、たくさん動いていたのです。

――あれって、すらいむ?――

それは、RPGではお約束の、すらいむと言われる魔物だったのです。

――あわわ、逃げなきゃ逃げなきゃ――

彼女も大好きなドラゴンの冠を掲げたゲームでも、お馴染みの魔物です。
しかし、ゲームでは戦えても、自分が戦うとなると話は別。
彼女は、すぐに逃げようとしますが……。

――はわわ、回り込まれちゃった――

すっかりすらいむ達に囲まれた彼女は、逃げる事もできずに大人しくします。
すると、周りのすらいむ達が、彼女に向かってジャンプしました。

遊ぼー遊ぼーと、言いながらです。

彼女に向かってジャンプしたすらいむ達は、お互いに体をぶつけては吹き飛びます。
その中心に居た彼女も巻き込まれたのですが、ぶつかり吹き飛んでも痛くありません。

わーいわーい、とジャンプして、楽しくぶつかり合ってるすらいむ達の声を聞いてると、小さな子供達を思い出して、思わずにっこりしてしまいます。

気づけば、自分もすらいむ達と一緒にジャンプして遊んでいました。
その時に、川にうつる自分の姿を見て吃驚です。

なんと彼女もすらいむだったのです。

それに驚いた彼女ですが、遊ぼうとすらいむ達にせがまれて、追いかけっこをしたり、かくれんぼを提案します。

すらいむ達と遊んでいるうちに、驚きもどこかへ行ってしまいました。

――この子達は、私がお世話しないと――

小さな子供の様に遊ぶすらいむ達のお世話を誓い、彼女は平和に暮らしましたとさ。 

めでたし、めでた…え?終わりじゃない?
あ、もうちょっと続くらしいです。



すらいむ生活も慣れた頃、彼女はすらいむ達をつれて遠足に出てました。

住処にしていた川の浅瀬を、川上に向かっていたのです。
競争だー、と皆がはしゃいで駆けていると、急に景色が一変しました。

そこには、真っ白い柱がいっぱい建っていて、まるで神殿のようです。
その神殿の中央には、自分達と同じ水玉のすらいむが鎮座しています。
しかし、その大きさは自分達とは比べるまでもなく。

――でっかい。二階建ての一軒屋くらいかな?――

その大きさに、つい声に出して驚くと、目の前の大きなすらいむから返事がありました。

『おや、初めて見る子ですね。こんにちは』

――こ、こんにちは!――

その大きなすらいむは、他の子達と違い、まるで人間の大人のように話しかけてきました。

――あなたは、普通におしゃべり出来るんですね――

『ほっほっほ。これでも、すらいむきんぐだからね』

なんと、その大きなすらいむは、すらいむの王様だったのです。

お世話していた小すらいむ達は、しゃべれはするけど、王様の様に会話は出来ませんでした。
その為、すらいむに成ってから初めて、自分と同じ様に会話が出来る相手に出会い、彼女はいっぱいおしゃべりをします。

――私って元々は人間で ~中略~ で、神様に ~省略~ ですよ――

『ほっほっほ。それは大変でしたねぇ』

久しぶりに会話らしい会話をした彼女は、嬉しい気持ちになりました。
しかし同時に、彼女はとても寂しくなってしまいます。

人恋しくなり、ホームシックになってしまったのです。

人だった頃を思い出し、人に会いたいと強く強く思いました。

ぽんっ

するとどうでしょう。彼女の姿が、小さな人間の女の子に成ったのです。

――あれれれ、私女の子に成ってる。どうして!?――

彼女は、いきなりの事で大慌てです。

『ふむ。神様に、何にもでも成れるように、とお願いしたからではないですか?』

王様の言葉を聞いて、彼女は考えます。
職業選択の自由と言う願いが、どうしてすらいむから女の子に変身するんでしょう。

『何にでも成れると言う事は、どんな種族にも変身出来ると言う意味ではないのですか?』

悩み顔の彼女に、王様はさらに詳しく説明してくれます。
彼女は左手の掌を右手でとんっと叩いてから、なるほど、と納得します。

――これなら人里へ行っても大丈夫かな? でも小さすぎる気がするなぁ――

変身出来るという、すごい事態もどこ吹く風か、彼女はこれ幸いと人里へ行く事を考えます。
しかし、彼女の背は30センチくらいで、あまりにも小さすぎます。
人に会いたいけれど、こんなに小さいと吃驚されちゃうと、悩みます。

『大きくなりたいなら、周りの子達に協力してもらえばいいでしょう』

王様がそう言うと、周りの小すらいむ達が彼女に向かってジャンプします。

――ひぇぇ、今すらいむじゃないから、待ってぇ――

急に飛んで来た小すらいむ達に、慌て驚きます。
そんな驚きを無視して、すらいむ達は彼女にぶつかる寸前に叫びます。

がったいーがったいー、と叫ぶと、彼女の体に吸い込まれていきます。

周りに居た7匹のすらいむ達が、全て彼女に吸い込まれた後、彼女は大きくなっていました。
背が120センチ位の、小さな子供の姿です。

『人里へ行くなら、服も必要ですね』

そう言うと、王様の体の中から、王様と同じ水色のワンピースが出てきました。

――ありがとうございます。王様。ちょっと人に会いに行ってきます――

『気をつけて行くんですよ』

王様にお礼を言って、人恋しい彼女は、人里目指し歩き始めたのです。



人里目指し、歩いて半日。
彼女は既に疲れていました。

すらいむの時には感じなかった空腹に、さらに靴がないから足が痛い。

――ぐすんっ――

今の状態に、彼女が悲しくなってきた所で、遠くに人の声がしました。
落ち込みかけてた彼女も、その声に向かい走っていきます。

その声の現場に向かうと、予想外の光景が広がっていました。

「依頼のスライムゼリーは、十分取れたか?」

「もう少し足りないわね」

剣を持った人間が、小すらいむ達を狩っていたのです。
すらいむ達のお世話をしていた彼女は、その光景に恐怖します。

――きゃぁぁぁぁあぁぁああ――

彼女は叫び声を上げて、一目散にその場から逃げました。

「な、なんであんな小さな子が、こんな場所に。すぐに保護しよう」

「そうね。依頼より、子供の保護が優先ね」

すらいむを狩っていた冒険者の声を聞くことなく、彼女は必死に必死に走りました。
必死に走ってると、大きな街道に出ました。
その街道に出た処で、彼女は力尽きて気絶してしまいます。

気絶した彼女は、一体どうなるのでしょうか。



彼女が気絶して道に倒れてから数時間後、馬に乗った一団が街道を通ります。

「グライス公爵め、飢饉や災害で大変な時期に、自領で増税をしていたとはな」

「あの人は、悪い意味で貴族ですからねぇ。姫様とは違いますよ」

金色の鎧を着た姫様と呼ばれた女性を先頭に、その集団は倒れた彼女の元にたどり着きます。
倒れた彼女を発見すると、姫様はすぐに馬を降り、彼女の元へと向かいました。

「かなり衰弱してるな。このような場所に居るとは、捨て子か…我ら王家が至らぬ故に、すまぬ」

「姫様、その子は、どういたしますか?」

「騎士団長、決まっている。保護する為、城に連れ帰る」

空腹と疲労で眠っていた彼女は、こうしてお姫様に連れられて、お城へ行く事になったのです。



お城に連れて来られて、既に三ヶ月。

彼女は、今日もせっせと姫様の仕事のお手伝いです。

「掃除だけじゃなく、書類整理までしてもらって悪いね」

――いえいえ、助けて下さった上に、お世話になってるので当然です――

街道で倒れたと思ったら、目が覚めたらお城の中。
聞けば、倒れていた自分を助けてくれたと。

助けてくれたお礼にと、彼女はお城のメイド長に頼み込み、掃除洗濯を手伝いました。
そんなお手伝いの日々で、ある時、自分を助けてくれたこの国の姫様の愚痴を聞きます。

「病気で伏している父上の代わりに、政務をしてるが、書類ばかりで辛い」と。

かつての前世は看護師さん。
病院の受付から、日々の報告書まで、書類仕事もばっちりの彼女です。

――書類の整理くらいなら出来ると思います。手伝います――

半ば無理矢理手伝い始めたのですが、半信半疑だった姫様とメイド長が驚くほどの仕事ぶり。
今では姫様もメイド長も、彼女を頼りにしています。

それは、充実した毎日の中での出来事でした。
仕事の休憩にと、お茶をしていた時の事です。

――これは何ですか?――

彼女の前には、プリンのような物に赤いソースがかかった食べ物が置かれています。

「それは特製のデザートでね。いつもお世話になってるお礼だよ」

優しい言葉と共に、姫様とメイド長が笑顔で見つめてきます。

――ありがとうございます。いただきまぁす――

彼女が食べようとすると、メイド長がデザートの説明を始めました。

「それは、蜂蜜にスライムゼリーを混ぜた――」

ばたんっ!

その言葉を聴いた瞬間、彼女は驚いて後に反り返り、椅子ごと倒れてしまいました。

「大丈夫か!」

すぐさま、心配した彼女とメイド長が倒れた彼女に近寄ります。
そして、テーブルの反対側で倒れていた彼女を見ると…そこに居たのは、8匹のすらいむでした。

スライムゼリーという言葉に驚いて、変身と合体が解けてしまったのです。

「スライム…くっ、魔物が!」

彼女達を見たメイド長が、素早く壁に飾られていた槍を取り、彼女達へと向けました。
驚きと恐怖で動けない彼女は、絶体絶命です。

しかし、そんな彼女を助ける人がおりました。

「メイド長、止めないか」

「しかし、姫様…」

「メイド長」

静かだけど、力強い言葉に、メイド長も槍を置きます。
メイド長を止めた姫様は、彼女に向き直り頭を下げます。

「知らなかったとは言え、悪い事をしてしまった。申し訳ない」

その姫様の態度に、彼女はさらに驚きます。
すらいむは魔物で、ばれたと思った瞬間、討伐されても仕方がないと思ったからです。

「メイド長、今日以降、我が城ではスライムゼリーは使用禁止だ」

「わかりました。姫様」

先程は、あんなに必死に槍を持ってたメイド長も、今はいつものメイド長でした。

「さっきはごめんなさい。貴女は何も悪い事をしてないのに…。どうか許して下さい」

さらには、メイド長まで頭を下げてきます。

彼女は、人の姿に成り、自分の思いを伝えます。

――私のほうこそ、すらいむだって言わないでごめんなさい――

謝る彼女を、姫様とメイド長は温かい笑顔で抱きしめます。

こうして、すらいむと分かった後も、彼女は二人に受け入れられたのでした。



さらにそれから、半年が過ぎました。

彼女は、お城に居るたくさんの人に、すらいむだと教えた上で受け入れられました。
いつも必死に誰かの為に、掃除、洗濯、書類仕事を頑張る彼女を、お城の人たちは知っていたのです。

忙しくも充実した日々を過す彼女でしたが、あるとき転機を迎えます。

「グライス公爵が反乱を起した」

それを聞いた彼女は、疑問に思います。

――こんなに平和な国なのに、何で反乱を起すんですか?――

「うん? うーん、飢饉や災害で民が困ってたので、貴族連中に私財の投入や、節約を強制したからかなぁ?」

たぶん重要な事なのに、大雑把な姫様は、思い当たる理由も大雑把でした。

「加えて、公爵は元々、王位を狙っておいででしたので、災害の起きた地方へ兵を派兵した今を狙っていたのでしょう」

姫様の言葉を、しっかり者のメイド長が補足します。

反乱という言葉に、危機を感じる彼女でしたが、落ち着いた二人を見て安心します。

――姫様が居れば、反乱も大丈夫なんですね――

「公爵は3万の軍で攻めて来る。対して、王都に居る兵は2千。さすがに無理かな」

彼女の言葉に対する姫様の返事は、絶望的な内容でした。
姫様は、彼女を笑顔で見つめた後に、メイド長へと命令します。

「メイド長、彼女を、王都から離れた安全な場所へ連れて行ってくれ」

「はっ、了解しました」

姫様の命令に、彼女は焦ります。
お世話になった姫様やお城の皆の為に、こういう時こそ力になりたかったからです。
その彼女の視線を受けて、姫様は言葉を紡ぎます。

「これは人間同士の争いだ。君のような優しい子を、巻き込みたくない」

――でも、姫様!――

彼女が声を上げても、姫様は目を伏せるばかりです。
さらに声を上げようとすると、メイド長に止められます。
そして、このまま彼女が居ても、役に立たないと突き放されます。

翌日、彼女はメイド長に連れられて、王都を出ることになりました。



王都を出ることになった彼女ですが、姫様の力になる事を諦めてはいませんでした。

諦めたような姫様やお城の人達を助ける為に、メイド長にお願いして、ある場所へと向かっていたのです。

「近くにある川はここだけですので、川の中にある神殿とやらに、もうすぐ着くと思います」

――ありがとうございます。メイド長――

戦争なんて、彼女はどうすれば良いか分かりません。
なので、相談できそうな相手に会いに行く事にしたのです。

――早く王様に会って、相談しなきゃ――

彼女が会いに行こうとしているのは、自分を人里へ送り出してくれた、すらいむの王様です。

メイド長と共に、川を上流へ遡っていると、見覚えのある真っ白い柱が目に入りました。
そして、前と同じ様に、大きな水玉の王様が鎮座しています。

「こ、これが伝説のスライムキング…。実在したのですね」

王様を見たメイド長は驚きます。

彼女は、王様に事情を話し、どうすればいいか相談しました。

『ふ~む。何か強い魔物でも現れたら、対立した人間同士が協力するかもしれない』

なるほど、なるほどと、彼女は納得します。

――でも、強い魔物は、どうやって連れて来ればいいでしょうか?――

争ってる人間同士が協力する程の強い魔物なんて、彼女には連れてくる自信がありません。
そんな彼女に、王様は言いました。

『あなたが変身して行けば良いのでは?』

天啓の如き王様の言葉に、彼女はハッとします。
そう言えば変身出来たっけ、と。

彼女の中で、強い魔物といえば決まっています。
早速、その魔物に変身しましたが、その姿は――。

――うっ、こんなに小さいと、迫力ないかも――

姿形は想像通り、しかしそのサイズが、大型犬くらいしかありません。
落ち込む彼女に、王様が優しく言いました。

『うちの子であるあなたを助け、優しくしてくれた姫様の為ですし、皆で行きますか』

ぼよぉ~ん どすんっ

王様がジャンプして地面につくと、凄い音が木霊しました。
それから暫くすると、辺り一面見渡す限り、水玉の絨毯が出来たのです。

それを見て彼女は叫びます。

――皆、私に優しくしてくれた人達の為に、協力して!――





「皆、今からでも、剣を収めて良いんだよ」

「ここに居るのは、姫様と共に戦いたい者だけです。そんな事言われても、引きませんぜ」

「騎士団長…。皆、ありがとう」

姫様と騎士団長以下、王国軍1万と、公爵軍3万は広大な草原で睨みあっていました。

当初、姫様は自分が公爵に下り、戦を納めるつもりでした。
しかし、騎士団長を初め、大臣達はそれを反対したのです。
そして国民に事情を話し、義勇兵を募り、戦の支度をしたのです。

それは姫様の本意ではありませんでした。
今の王都には、篭城しようにも武器も蓄えも少なく、勝ち目がなかったのです。
戦おうとする民を説得しても、言う事を聞いてくれません。

ならばせめてと、王都を巻き込まず、一転突破で公爵を討つ可能性に賭けて、草原へと赴いたのです。

「騎士団長、突撃するのは私と騎士団で、義勇兵は可能な限り後方へ」

「既にそのように、配置しております」

見た目は1万対3万となりましたが、その差は人数以上に歴然でした。
王国軍は、義勇兵に与える武具もなく、何も訓練していない民の集団なのですから。

一発逆転、或いは、私が一番に討たれ犠牲を最小にする。

姫様が決意を固め、いざ突撃しようとした時に、辺り一面を暗い影が覆います。
そして、空を見た王国軍に公爵軍の兵士双方が騒ぎ始めます。

草原の上空に、雲ではない白い巨大な塊が浮いていたからです。

その塊は、王国軍と公爵軍の間に降り立ち、公爵軍に向けて叫び声をあげました。

――戦うのは止めなさ~い――

その叫び声を聞いた公爵軍は、騒いでたのが嘘の様に、全員が硬直して動かなくなります。
その光景を見ていた姫様が、絞り出すように声をだします。

「あ、あれは、ホワイトドラゴン? なんと巨大な…。あの叫びはテラーボイスか…」

姫様の言うとおり、草原に現れたのは、野球のドーム1個分はありそうな巨大な竜でした。
その竜は、姫様達を助けようと変身した彼女と、協力した国中のすらいむ達なのです。

草原に降り立った彼女が発した声は、周りの人間達にはこう聞こえました。

グルゥゥゥァァァア!!!

それは、ドラゴンの発する、対象を恐怖と麻痺で動けなくする咆哮となりました。
その咆哮を聞いて動けない公爵軍を見て、彼女は説得が通じたと安心します。

――やっぱり、話せば分かるんだね――

思ったより簡単に戦いが止まり、嬉しくなった彼女は王国軍へと向き直ります。

それに焦ったのは王国軍の人々です。
巨大な竜が、唸り声を上げたと思ったら、自分達を睨んできたのですから。

――あ、姫様見っけ。姫様~来たよ~――

彼女は姫様を見つけて、嬉しそうに走っていきます。

「ぜ、全員抜刀!」

急に走ってくる竜に焦り、剣を抜く王国軍の人達。
それを見て、今度は彼女が焦ります。

――な、なんで剣を抜いてるの~!?――

ぽんっ

焦った拍子に、変身と合体が解けてしまいました。
変身が解けた後は、辺り一面が水玉のすらいむだらけとなりました。

「は? スライム?」

それは誰の声だったのでしょうか。
巨大な竜が居なくなったと思ったら、目の前には見た事もないほどのすらいむの群れ。
そこに居た人々は、ゆっくりと理解していきました。

「あぁ、竜の正体がスライムだったんだな」と。

驚愕の光景と事実に、誰もが動けない中、姫様に向かって走る二つの影がありました。

――姫様~、助けに来たよぉ――

「姫様~、ご無事ですか~」

その二つの影は、人の姿になった彼女と、竜の背中に乗ってついて来たメイド長です。

「さっきの竜は、君だったのか。来てくれてありがとう。メイド長も、ご苦労様」

二人を確認した姫様は、笑顔で二人を迎えます。

こうして、公爵の反乱は幕を閉じたのでした。



反乱から一ヶ月後、病に伏してた国王も回復し、王国には平和が戻ってきました。

復帰した国王は、すぐにある御触れを出します。

王国では、スライムと友誼を結び、以後スライムを狩ることを禁ずる。というものです。

反乱を収めた竜が、すらいむだったと知っている王国の人々は、これを受け入れ、その後すらいむと人の子供達が仲良く遊ぶ姿も見かけられました。

すらいむに成った彼女はと言うと―――

「よし、次は隣国の食糧支援と、ユニコーンを保護しに行こう」

――うん! 私も、皆と変身して荷物運びとか、出来る事を頑張るよ!――

姫様と一緒に、人々の為、時には魔物の為に、今日も頑張っていましたとさ。



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