第七話 九階その三
「だからさ。天使といっても」
「正しいわけではないか」
「っていうかあれじゃない?」
また眼鏡が彼に言ってきた。しかしここで少し言葉の間を空けてきた。
「あっ、ちょっと悪い」
「どうした?」
「僕も何か頼むよ」
「俺もな」
金髪もにこりと笑って牧村に言った。
「そうだな。ココアなんかいいかな」
「俺はロシアンティーにしようかな」
「ここで休むのか」
「講義もないしね」
「それに何か話をしたくなってきたんだよ」
二人は笑ってまた牧村に話す。
「だからさ。いいよね」
「席はここでな」
「ああ」
牧村は小さく頷いて二人への返事にした。
「それで。いい」
「よし、じゃあ」
「ちょっと待っててくれよな」
こうして二人はカウンターに行ってそれぞれ注文した。すぐにそのココアとロシアンティーを持って来て牧村の前に座る。そのうえで話を再開してきた。
「それでね」
「そのゲームの天使か」
「まあ天使だけじゃないけれどね」
眼鏡は目線を少し右斜め上にやって述べた。
「その辺りは。神様とも戦うしね」
「凄いゲームみたいだな」
「だから絶対の正義のないゲームなんだ」
こう牧村に説明するのだった。
「そのゲームはね」
「絶対の正義がないのか」
「これ、わかるよね」
ココアのカップを手に取りそれを口に含みながら彼に問うた。
「絶対の正義がないっていうのは」
「俺はアメリカ人でも中国人でもない」
牧村はこう眼鏡に返した。
「正義は一つだとは思わない」
「よく言うよね。百人いれば百人の正義がある」
「そうだ」
これが牧村の考えであった。彼は絶対の正義があるとは全く思わないのだ。この辺りの考えもまた己の中にしっかりと持っているのである。
「そう考えている。俺はな」
「じゃあ神様が敵なのもわかるね」
「絶対の正義がないからだな」
「そういうこと。だから天使もね」
「敵か」
「仲間にもできるよ」
眼鏡はこうも彼に話した。
「ちゃんとね」
「敵にも味方にもなるのか」
「悪魔も同じことができるし」
「随分変わったゲームだな」
少なくとも牧村にとってははじめて聞くタイプのゲームだった。
「それはまた」
「何ならやってみる?」
「いや」
しかしこの誘いには首を横に振る牧村だった。
「それはいい」
「いいの?」
「また機会があれば自分で買ってやってみる」
こう答えるのだった。
「今はな」
「そうなんだ」
「それよりだ。今はこの本を読んでおきたい」
「また随分と難しそうな本だな」
金髪が向かい側から覗き込みながら言った。
「何だ?小難しい漢字が一杯だな」
「そうだな。確かに」
「それにカバラとか何とか」
「ああ、それユダヤ教のあれだね」
金髪に対して眼鏡が横から言ってきた。
「ユダヤ教の奥義だよ」
「ユダヤ教っていうとあれか?」
金髪もユダヤ教については知っているようだった。怪訝な、幾分いぶかしむような声で眼鏡に対して言葉を返していた。しかしあまり深くないようである。
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