第六話 大天その十六
「まさか」
「そのまさかがあるのが闘いじゃなくて?」
のぶすまは傷を受け屈む髑髏天使に対して言う。声には笑みがこもっている。
「違うかしら」
「確かにな」
これ以上の攻撃を避ける為に後ろに下がり間合いを取る。摺り足で。
「その通りだ。ぬかった」
「油断大敵よ。そして」
「まだあるのだな」
「そうよ。闘いで深手を負う」
声に入っている笑みがさらに深いものになる。
「それはそのまま死に直結するわよ」
「くっ・・・・・・」
「さて」
ここでのぶすまも後ろに下がった。彼女もまた間合いを離してきたのだ。
「それでは。止めといくか」
「止めで何故間合いを離す?」
「あたしはのぶすまよ」
「それは何度も聞いている」
まだ傷口を押さえている。しかしそれでも闘志は失ってはいない。
「今更な」
「だからのぶすまよ。のぶすまは精気を吸うもの」
のぶすまが言うのはこのことだった。
「だからよ」
「精気を吸い取るか」
「ええ。覚悟はできて?」
言いながら跳んだ。跳びつつ髑髏天使を見下ろす。
「それで。いいわね」
「いいも何も来るのだな」
「ええ」
空を舞いながら笑っていた。髑髏天使を見下ろし。
「その通りよ。その精気貰うわ」
「来るか」
「さあ、どうするのかしら」
空を飛べるという己の有利点をはっきりとわかっていた。わかっているからこその言葉だった。
「サイドカーが空を飛べるのは聞いているけれど。その傷じゃ無理よね」
「むっ」
「その通りね」
今の彼の傷の深さをわかっていた。あまりにも傷が深くサイドカーに乗るにも無理があることも見抜いているのだ。
「だからよ。止めにね」
「俺の精気を吸うのか」
「やまちちのこと、知ってるかしら」
上から見下ろしつつ笑いながらの言葉が続く。
「本来は夜寝ている人の側に来るのよ」
「ほう。寝込みにか」
「ええ。そして息を吸う」
こう言われている。やまちちは本来山にいて山の中に宿を取っている者の枕元に来てその息を吸うのだ。息を吸うとはこの場合精気を吸うことなのだ。
「そして吸われたら」
「死ぬ」
これは髑髏天使もすぐに察しがつくことだった。
「そうだな」
「わかるのね。やっぱり」
「わからない筈がない。しかし俺は今起きている」
「実は寝ていても起きていてもいいのよ」
こう髑髏天使に返す。
「それはね。別に」
「つまり精気を吸うことに意義があるのか」
「そうよ。だから」
風に乗ってきた。ビルの上に吹いているその風に。
「覚悟しなさい。行くわよ」
「いかん・・・・・・」
やまちちがいよいよ攻撃態勢に入ったところで。髑髏天使は己の身に迫る死を意識して髑髏の下にあるその顔を歪めさせた。
「このままでは」
死ぬ。当然死ぬつもりはない。ならば取る選択肢は一つしかなかった。
闘う。それだ。確かに傷は深い。しかしその痛みやダメージに動きを止めていてはやられるだけだ。それがわかっている彼はここではその痛みを振り切って前に出ることにした。
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