第六話 大天その十二
「こうして乗るのがな」
「まあ好きなのはわかるわ」
若奈もこれはわかった。
「サイドカーがね」
「身体が冷えるのは確かだがな」
「じゃあお店で何にするの?」
「何がいいか」
「ココア。どう?」
またココアを話に出す若奈だった。
「サービスするわよ」
「サービスか」
「私がいれてあげるわ」
にこりと笑って牧村に顔を向けて告げた。
「コーヒーも紅茶もやっぱりお父さんの方が上手いけれど」
「ああ」
「それでも。ココアには自信があるのよ」
何気にココアが好きな若奈である。
「だから。どうかしら」
「そうだな。ではココアを頼む」
「寒い時はココアよ」
牧村から言葉を受けたうえでまた言った。
「一番あったまるから」
「そうだな。あれがな」
「それじゃあ。お砂糖をたっぷりと入れてね」
「白砂糖だな」
「勿論よ」
二人はココアに対する共通のこだわりも見せた。
「ココアにはね」
「ココアはやはり白砂糖だ。しかも角砂糖ではなく」
「粉砂糖よね」
「そこもこだわってるな」
「勿論よ。喫茶店の娘よ」
若奈はこのことを子供の頃からよく自覚していた。それが自慢の種でもありいつも両親の仕事を見て育ってきているのである。だからよく自覚しているのだ。
「これ位はね」
「では楽しみにしておこう」
「任せて。じゃあね」
「ああ」
こうして牧村は若奈のココアを飲んだ。それで身体を暖めそのうえで家に帰った。その次の日。彼はまたサイドカーで街を走っていた。しかしここであるものを見た。
「むっ!?」
空の上だった。ふと見上げた時にそれを見たのだ。
「あれは」
シルエットは先に闘った烏男に似ていた。しかし何かが違っていた。
どちらにしろ魔物なのは間違いないと思った。ビル街の方に向かって行くのを見て彼もそちらに向かった。そうしてビル街に入ると目の前に一人の男がやって来た。
「来られましたなあ」
「貴様は」
外見は飄々とした白髪頭の老人だった。白髪といってももう髪の毛、頭頂部には殆どない。そして顎鬚を生やしにこやかな笑みを浮かべていた。草色のスーツを着て信号停車している牧村の前に出て来たのだ。
「魔物か」
「おわかりのようですなあ」
「俺の前に出て来た」
その老人を見据えて言った。
「それだけで充分にわかる」
「おやおや」
そう言われても飄々とした雰囲気を崩さず笑う老人であった。
「それはまた」
「何者だ?」
老人の雰囲気に飲まれることなく鋭い目で問うた。
「魔物なのはわかっているが」
「魔物ですか」
そう言われても飄々とした雰囲気を崩さない老人だった。
「確かにそうですなあ」
「確かにも何も俺を倒しに来たのだな」
「いやいや、今は違います」
だがそれは否定するのだった。
「『今は』違いますぞ」
「今はだと?」
「貴方はまだ天使ではありませんか」
牧村の今の階級も知っていた。
「それではまだ。私が出て来ても貴方がお困りでしょう」
「俺が天使なのも知っているのか」
「知らない筈がありません」
断言さえしてきた。
「これ位のことは」
「只の魔物ではないな」
「如何にも」
今度は自分でそれを認めてきた。
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