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第六話 大天その十一
「やっぱり。そうなの?」
「誰に対しても言うつもりはない」
 こう問われても返事は変わらなかった。
「別にな」
「そう、やっぱり」
「だが」
 若奈は今の牧村の言葉で少し暗い顔になりかけた。しかしそれよりも前にその牧村がまた彼女に対して言ってきたのであった。素早いタイミングで。
「俺は嫌いな人間とは話をしない」
「そうよね。牧村君はそうね」
「お互い不愉快になるだけだ。それに」
「それに?」
「このサイドカーにも乗せない」
 このことも告げるのだった。
「横には。特にな」
「そうなの」
「そうだ」
 微笑む若奈だが牧村は運転の為正面を向いているうえにヘルメットを被っているので彼女の顔が見えることはなかった。若奈は頭だけを覆うヘルメットで牧村のそれは顔全体を覆うものであった。
「未久も君もな」
「じゃあこのままずっと横に乗せてもらいたいわ」
 微笑んだままでの言葉だった。
「それは駄目かしら」
「別に構わない」
 ここでも素っ気無い言葉だがそれでも言うのだった。
「いたければいればいい」
「じゃあそうさせてもらうわ」
「ただ」
 しかしここで。牧村の言葉が少し暗いものになった。
「俺が急に何処かに行っても何も思わないことだ」
「旅行にでも行くの?」
 若奈は今の彼の言葉をこう受け取った。勿論彼が髑髏天使であることなぞ知らない。知っているのは博士とその周りの妖怪達、そして魔物達だけだ。それで知ることができる筈もないのだ。
「牧村君って旅行したの?」
「それは」
「それとも旅行に興味があるの?」
 彼が何時死んでも、魔物との戦いの中で倒れても不思議ではない立場にいるのを知っているならば出ない言葉だった。牧村はこのことに心の中で寂しいものも感じたがやはりそれも表には出さないのだった。何もかも言うことはない、それが今の彼であった。
「それなら本貸すけれど」
「旅行の本か」
「私もそれなりに興味があることだし」
 こう述べてきた。
「よかったら。どうかしら」
「その時に頼む」
 髑髏天使としての顔は隠した。
「その時にな」
「わかったわ。それじゃあ」
「さて、そろそろだ」
 話を変えてきた牧村だった。
「そろそろ店に着く」
「そうね。お父さんどうしているかしら」
「カウンターにいるのは間違いない」
 牧村は言った。
「そしてそこでコーヒーを淹れている」
「コーヒーかしら」
「それとも紅茶か」
 もう一つ飲み物を話に出した。
「それかココアか」
「ココアだと嬉しいけれど」
 若奈はココアを話に出してそれを欲しがる顔を見せた。
「今はね」
「何故ココアだ?」
「寒いからよ」
 それが理由であった。
「最近少し寒いじゃない。それに」
「それに。何だ」
「バイクに乗ってるとね。どうしても」
 言葉に苦笑いがこもった。
「身体が冷えるから」
「それか」
「牧村君もそうじゃないの?」
 また牧村に顔を向けて尋ねた。
「やっぱり。バイクに乗っていると」
「馴れている」
 バイク乗りとしての言葉であった。
「もうな」
「だから平気なの」
「平気ではないが寒いことよりこれに乗る方がいい」
「そうなの。そんなにこのサイドカーが好きなの」
「落ち着く」
 そのサイドカーを操りつつ言った。
「乗っているだけでな」
「それって凄いことだと思うけれど」
 若奈はまた牧村に突っ込みを入れた。
「それだけで落ち着くって」
「好きだからな」
「だからなの?」
「そうだ。やはりいい」
 感情こそ乏しいがここでも感慨がある言葉だった。
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