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第六話 大天その九
 それから暫くは大学で講義や部活に専念する日が続いた。その中で彼は若奈ともよく話した。髑髏天使としての顔は完全に隠したうえでのことだが。
「ねえ牧村君」
「何だ?」
 二人はこの時サイドカーに乗っていた。牧村が運転し若奈は側車に乗っている。未久の時と同じでいつもの乗り方である。
「最近忙しいの?」
「別に忙しくはない」
 静かにこう答える牧村だった。サイドカーは今信号待ちで車と車の間にいる。
「それはな」
「そうなの」
「部活が一つ増えただけだからな」
「フェシング部とテニス部よね」
「ああ」
「どっちも西洋的ね」
 若奈は彼が今している二つのスポーツを文明というカテゴリーでくぐって述べた。
「考えてみたら」
「西洋か」
「ええ。何かあったの?急にどちらもはじめて」
「別に何もないが」
「ほら、牧村君ってさ」
 側車から牧村の方を見上げる。小柄な上に側車の中に座っているのでどうしても見上げる形になってしまう若奈であった。
「静かじゃない」
「無愛想とも言われるがな」
「自分で言ったら駄目よ」
 今の牧村の返答にはついつい苦笑いになった。
「私はそうは思わないし」
「俺は無愛想じゃないのか」
「言葉がそんな感じなだけよ」
 少なくとも若奈はこう考えているのだった。
「ただね。それだけよ」
「そうか」
「表情もあまりない方だけれど」
「それは無表情とは言わないのか」
「だから。私はそうは思ってないから」
 この辺りを特に強調する若奈だった。
「別にね」
「ならいいが。ところでだ」
「うん。ところで?」
「青だ」
 丁度ここで信号が変わった。青になったのだ。
「行くぞ」
「ええ、それじゃあ」
「飛ばすがいいか」
「相変わらずスピードは出すのね」
 このことが少し残念そうな若奈だった。苦笑いを浮かべて述べる。
「また」
「スピードは出すものだ」
 言いながらもうアクセルを踏む足に力を入れはじめている。
「しかも全力でな」
「よく今まで捕まらないわね」
「捕まるような下手なことはしない」
 早速スピードを出し車の横を通り抜けながら答える。
「それにだ」
「それに?」
「事故を起こすこともない」
 言いながらスピードをどんどんあげていく。運転もアクロバットになっている。サイドカーが時々片方が浮きそれで車の脇を通り抜けるのだ。
「ここまでやってなの。サイドカーで」
「バイクでやるのはまだ二流だ」
 今も車の脇で側車を浮かして進んでいる。若菜が牧村より上にいる。
「しかしだ。サイドカーでやることができれば」
「一流ってこと?」
「少なくとも二流ではない」
「二流は嫌いなのね。相変わらず」
「二流は中途半端な響きがある」
 だから嫌だというのである。これも牧村のポリシーであろうか。
「だからな。好きじゃない」
「三流は?」
「やるのなら最高か最低だ」
 非常に割り切っていると言える考えであった。
「三流も駄目だ」
「つまり一流か最低ってことね」
「そう思う。俺はな」
「本当にそういうところは変わらないわね」
 昔から牧村を知っているからこその言葉であった。
「極端なんだから。考えが」
「やるかやらないかだが」
「それか一流か最低なのね。さっぱりしているって言えばさっぱりしているけれど」
「サイドカーもだ」
 今度は今操っているサイドカーについて言及した。
「それも。一流か最低だ」
「運転技術のこと?」
「これでどうだ?」
 このことを若奈に対して尋ねた。
「今の俺の技術は」
「こんな凄い運転する人他に知らないわ」
 これが若奈の返答だった。
「私は他にね」
「そうか。ならいい」
「もっとも」
 しかしここで言い加えることも忘れない。
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