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第四十一話 暗黒その八
「それはな」
「だったらいいけれど」
「妖怪とか本当にいるっていうのはね」
 特に未久が言うのであった。
「ナンセンスよね」
「神様はいるでしょうけれど」
 若奈は何気に己の信仰を口にしていた。
「それはね」
「神様はいるんですか」
「悪魔はいなくても神様はいるわよ」
 こう未久にも話すのだった。
「神様はね」
「いるんですか」
「いるわ、間違いなくね」
「それはいい神様なんですね」
「そうよ。いい神様よ」
 さらに話していく。
「この世の中にいるのはね」
「悪魔はいなくていい神様はいるんですか」
「だってあれじゃない。皆自分が正しいと思うことをしようとするじゃない」
「はい」
「だったらいい神様しかいないのよ」
「そうなるんですか」
「正しいことをしようとするのならね」
 つまり正義というものは幾つもあるものだと。若奈はこうしたことも同時に言っているのだ。だがまだ中学生である未久にはそこまではわからない。彼女の話をただ驚いた顔で聞いているだけだった。
 しかしだ。その若奈の言葉が続く。
「百人がそれぞれ信じている正しい神様がいるのよ」
「じゃあ私にも」
「いるわ。そういうものなのよ」
「成程、そういうことなんですか」
「これでわかったかしら」
「ちょっと」
 未久は実際にその首を傾げさせてしまった。
「わからないです」
「そう。わからないの」
「難しくて。正しいことって一つじゃないんですか」
「今はわからなくていい」
 ここで兄も言ってきた。
「特にだ」
「お兄ちゃんもそう言うの」
「絶対の正義はない。そして絶対の悪もない」
 こう妹に対して告げる。
「そういうことだ」
「ううん、正しいことは一つじゃないって」
「しかしだ。己が正しいと思うことが時として他の人間を害する」
 魔物、そして今の妖魔との戦いを思い浮かべながらの言葉だ。だがこのことはやはりどうしても表に出すわけにはいかないものだった。
 それでだ。そうしたことを隠しながら妹に話すのだった。
「それも覚えておくことだ」
「つまり正しいことでも」
 元々頭は悪くない未久だ。兄の言葉を反芻しながら述べた。
「他の人にとってはそうではない場合もあるのね」
「その通りだ。それがわかっていればいい」
「わかったわ。そういうことなのね」
「つまりは我儘や自分勝手は駄目なの」
 若奈はこのことをわかりやすく話してみせた。
「そういうことよ」
「それならわかります」
「それでいいのよ」
 やはりわかりやすく話す若奈だった。
「それだけなの」
「じゃあプールで泳ぐのも」
「そうよ、他の人の迷惑にならないようにね」
 にこりとした笑みで話した言葉であった。
「そういうことよ」
「わかりました。じゃあ今日は」
「他の人の迷惑にならないようにね」
「お行儀よく泳ぎます」
 未久はにこりと笑っていた。彼女もまた。
「そうします」
「そうしてね。それじゃあね」
「はい」
「今から泳ぎましょう」
「わかりました。じゃあお兄ちゃん」
 若奈の言葉に頷いてからまた兄に顔を向ける。
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