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第五話 襲来その十
「しかしわしは一人じゃ。生涯かみさんは一人じゃ」
「そういうことか」
「女はかみさん一人でいい」
 また文献を見ている。
「それでな。そういえば君はどうなのじゃ?」
「俺か」
「そう、君じゃ。見たところ顔は悪くない」
 これは確かだった。牧村の顔は精悍な感じがして実にいいものである。背も高く身体も引き締まっている。均整の取れた容姿と言っていい。
「身体もな。それでもてないとは思えないが」
「あんたと同じだな」
 今度は牧村が素っ気無く答えた。
「相手は一人でいい」
「そうなのか」
「もっとも今はその一人すらいないがな」
「あの小柄な娘は何じゃ?」
「友達だ」
 若奈のことはこう答えた。
「それだけだ。何もない」
「また随分と寂しいのう」
「何時どうなるかわからない」
 これは髑髏天使としての言葉だった。
「それで人並の生活を送れるものか」
「送れると思うがの」
「何故そう言える?」
 今の博士の言葉にはかえって顔を顰めさせてしまった牧村だった。
「何時死ぬかわからないというのに。魔物との戦いで」
「軍人も何時でもじゃよ」
 博士は特殊な職業を出してきた。
「しかしじゃ。普通に生きておる」
「軍人はか」
「陸軍にしろ海軍にしろそうじゃった」
「陸軍!?海軍!?ああ」
 言われてすぐにわかったのだった。
「かつての日本軍か」
「刹那的になることなくな。ちゃんと結婚して家庭も持っておったぞ」
「軍人でもか」
「まあ君よりは死ぬ確率はずっと少なかった」
 このことはあらかじめ言っておくのだった。
「しかしそれでも何時死ぬかわからんかった」
「当然だな。軍人は戦うことが仕事だ」 
 最早ここで言うまでもないことであった。
「それなら死ぬのも当然だ」
「そういうことじゃ。それでもだったのじゃよ」
「では俺もか」
「そう考える方がかえってよいぞ」
 そして最後に言い切った。
「君にとってもな」
「気張る必要はないということか」
「その通りじゃ」
 博士が今の彼に言いたいことはこのことであった。
「硬い心のままだとかえって負担がかかる」
「普段と変わりなくか」
「それでじゃ」
 また牧村に対して声をかける。
「彼女を作る気はないのか?」
「そうだな。今のところはな」
「これは縁もかなりあるしのう」
「縁か」
「出会いは何時あるかわからんものじゃ」
 老人らしい人生の深みを感じさせる言葉であった。どれだけ生きているのかわからないということが博士の言葉を余計に深いものにさせていた。
「前から知っておる相手とそうなるしな」
「知っている相手か」
「まあ、探すのもよいし待つのもよい」
 少し突き放した言葉になっていた。
「そこのところはな」
「わかった。それではな」
「どうも作りそうにないのう」
 博士は牧村の言葉からこう読んだのだった。
「しかしそれでもじゃ」
「相手はできるというのか」
「できる場合とできない場合があるがな」
 この辺りはどうも曖昧な言葉になっていた。
「そこの辺りはな。やはり縁じゃよ」
「何もかも縁なのだな」
「わしと君が今ここで会って話をしているのもそれじゃよ」
「それは腐れ縁という意味か?」
「また随分と言うのう」
 今の牧村の言葉にはいつもと変わらない彼を見た。
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