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第三十話 智天その十一
「あまり考えることはない」
「いや、それはそれでな」
「ああ、考えるよな」
「どうしてもな」
 それはそれで、であった。
「異常な長生きだよな」
「しかも健康でな」
「やっぱり人間じゃないよな」
「亀か?」
 長寿で知られる生き物も話に出て来た。
「それか鶴かな」
「鶴は千年、亀は万年でな」
「もうそんな感じだよな」
「全くだ」
「若しかするとだ」
 牧村はふと言った。その博士のことをだ。
「付き合いの関係かも知れあいな」
「付き合い?」
「付き合いって何だ?」
「付き合っている相手が長生きならばだ」
 妖怪達のことは伏せていた。これも言うわけにはいかなかった。
「それの影響を受けてだ」
「長生きになるっていうのか」
「それでか」
「そうかも知れない」
 こう考えたのである。確かに博士はかなりの部分で妖怪と同化していると言ってもいいものがある。少なくとも妖怪達と完全に絵として一つになっている。
「それはだ」
「何かそれ言ったらな」
「やっぱり人間じゃねえな」
「妖怪か?」
 一人が牧村が頭の中で思っていた存在を話に出してきた。
「それだとな」
「だよなあ」
「そうとしかな」
「思えない外見だしな」
「白くて長い髭だらけで小柄だしな」
 歳のせいかもう一五〇程度しかないのである。もっとも昔の人間は今に比べてかなり小柄であるが。かつての日本軍でも今の自衛官達と比べればかなり小柄である。実際の戦闘力についてはおそらく比べること自体が間違いであるまでに離れてしまっているが。
「そんな人だしな」
「本当に人間なのかね」
「とりあえず人間だ」
 また答える牧村であった。
「それは確かだ」
「そうか?」
「それも疑わしくないか?」
「少なくとも今はだ」
 とりあえずこう前置きはした。そうして。
 不意にこんな言葉が自然に出てしまったのだった。
「俺も」
「御前も?」
「御前もかよ」
「いや」
 言ってしまってから気付いてしまった。その言葉にである。
 そうしてであった。彼は言うのであった。
「何でもない」
「ああ、そうか」
「別に何でもないか」
「気にしないでくれ。それではだ」
 ここで左手の時計を見るとであった。いい時間であった。
 チャイムが鳴った。皆それで身構えた。
「じゃあそろそろだな」
「そうだな」
「来るな、博士が」
 前を向こうとする。すると暫くして博士が講堂に入って来た。そのまま講義に入る。
 彼の大学での日常は今日も終わった。それからトレーニングをして家に帰った。家に帰るその途中でふとプールに足を運んだ。最近では水泳にも興味を持ったのである。
 そこは屋内のスイミングスクールであった。中に入ると早速ガラス越しに五十メートルプールが見える。水色の底でありそれぞれのコースに分けられている。プールの周りの床は緑であった。
 そこに入っても今は誰もいなかった。そのかわりに。
「やあ」
 目玉が彼の前に出て来たのであった。
「来ると思っていたよ」
「貴様がいるということはだ」
「ああ、もうわかるんだ」
「それで充分だ」
 こう目玉に対して告げた。
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