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第二十三話 異形その二十二
 魔物が勝つのか死神が勝つのかだった。今まさに魔物の嘴が死神に迫ろうとしていた。
「俺の勝ちだな」
「どうかな」
 今嘴が迫ろうとする中でも死神は冷静なままであった。
「そう上手くいくか」
「貴様の影は間に合わん」
 影はようやくあと数歩のところだった。しかし嘴は今まさに胸を貫こうとしていたのだ。
 そして死神自身は動くことがままならなくなってしまっている。それでは勝負あった、魔物はだからこそこう告げることができたのである。
「貴様にとって無念だろうがな」
「もう一度言っておく」
 しかし死神はまだこう言うのであった。
「私の影は一つではない」
「それは先程聞いた」
「そしてだ」
 魔物の返答をよそにさらに言ってみせていた。
「こうしたこともできるのだ」
「こうしたこと?」
「見るのだ」
 今の言葉と共にであった。突如として魔物の前にまた一つ影が現われたのであった。そうして。
 その嘴を防いでしまった。影がそのまま楯となった。魔物にとっては思いも寄らぬことであった。
「何だとっ!?」
 驚いた魔物を今向かっていた影がその両手に持っている大鎌で切り裂いた。丁度首の後ろのところを切られそこから赤黒い血を噴き出したのであった。
 明らかに致命傷であった。勝負は一瞬のうちに逆転しそのうえで決着がついた。魔物にとっては驚愕すると共に納得のできないものであった。
 それで彼は。もう赤い炎にその身体を包まれながら己の目の前に浮かぶ死神に対して問うた。
「どういうことだ」
「言った筈だ。影は一つではない」
 彼の返答はここでも変わらなかった。
「だからだ」
「別の影を楯に使えるのか」
「影は攻めるだけではない」
 死神は言葉を続けていく。
「守ることにも使えるのだ」
「そうか。物理的にもか」
「これでわかったな。どうして私が貴様に勝てたのか」
「うむ」
 赤い炎に徐々に包まれながら頷いた魔物だった。
「よくな」
「では。心置きなく逝くがいい」
 その魔物を見据えての言葉である。
「あの世にな」
「影が幾つもあるのはわかっていたが」
 魔物はその顔も赤い炎に包まれてきていた。全身もだ。しかしそれでも最後に言うのであった。
「それでも。今の使い方は俺も想像できなかった」
「相手の考え付かないことをする」
 死神はまた言った。
「それが勝利への最短の道だ」
「そして貴様はそれをわかっていた」
「そういうことだ」
 簡単に言ってしまえばそういうことだった。まさにそれだけである。
「わかったな」
「わかった。ではもう思い残すことはない」
 悔いはないということだった。潔いまでの言葉であった。
「敗れた理由がわかったのだからな」
「だからだというのか」
「理由がわからず敗れるのは無念だ」
 魔物はそれは認められないというのだった。彼自身の中で。
「しかしわかればそれでいい。そして貴様は俺よりも技が上だった」
「私は神だ」
 このことも告げる死神であった。
「神は敗れることはない。そういうことだ」
「そうだな。ではな」
 遂に全身が赤い炎となった。嘴の先までがその中に消えてしまった。
「さらばだ」
 最後にこう告げて消え去ったのであった。死神もまた今回の戦いにも何とか勝利を収めることができたのであった。
 地面に降り立つとだった。まずは痺れて碌に動けない左手を己の胸にやった。そうしてその手を開いて何かを呟いたのであった。その言葉は。
 少なくとも地上に残っている言葉ではなかった。非常に不可思議な発音でその言葉を出していた。暫くするとその左手の平から淡い緑の光が発せられた。その光が死神の全身を包み込みそれが消えるとそれで彼の身体は普通に動けるように戻ったのであった。
「魔術か」
「神の力だ」
 丁度彼の前に来た牧村に対して述べる死神だった。
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