第三話 日々その三
「何もかもいつも通りに頼む」
「わかったよ。しかしあんたも」
「何だ」
「ロシアンティー好きだね」
気さくに笑って彼に言うのであった。
「いつもそれだからね」
「美味いからな」
気さくなマスターに対して彼の言葉は素っ気無いままだった。
「だからだ。いつもそれにしている」
「そうなのか」
「ああ。それで」
ここまで話してまたマスターに声をかけた。
「今日はマスター一人か?」
「ああ、そうだよ」
にこりと笑って彼に答えてきた。
「今日はね。三人共出払ってるんだ」
「そうか」
「若奈はね。大学だよ」
「大学?」
「図書館に行ってるんだよ」
こう彼に説明する。
「ちょっとね」
「レポートの課題だな」
「よくわかったね」
「図書館に行くとすれば大抵そうだからな」
ここでそのロシアンティーが来た。紅茶の横に苺ジャムを入れた小さなカップが置かれている。紅茶の赤とジャムの赤がそれぞれの赤を見せていた。
「だからだ。わかった」
「そうかい。相変わらず鋭いね」
「別にそうは思わないがな」
紅茶にジャムを入れながら答える。入れるとすぐに銀色のスプーンでかき混ぜる。砂糖は入れずジャムだけで甘さを求めていた。
「俺自身はな」
「そうかい。それはそうと」
「今度は何だ?」
「前に比べてさらにクールになったね」
「クールにか」
右手にカップを手に取る。そのうえで紅茶を口に含む。苺ジャムでの濃厚な甘さと紅茶でのほのかな渋さが混ざり合って口の中で絶妙なハーモニーを奏でている。
「なったよ。それだとうちの若奈も放っておかないよ」
「そうか」
「そうかってねえ。そういうところもさらに強くなってるね」
「別に強くしているつもりは自分ではないがな」
「まあそれだとそれでいいがね」
マスターの方で話を打ち切ってきた。そのうえで話を変える。
「それでだよ」
「ああ。今度は」
「どうだい、今度の紅茶」
今度尋ねてきたのは紅茶についてであった。
「美味いかい?どうだい?」
「まずければ飲まない」
一旦カップを口から放して述べたのだった。カップは白い陶器で青い模様が欧州、それもオーストリアの趣きを見せていた。
「それだけだ」
「じゃあ美味いんだな」
「ああ。ジャムを変えたのか?」
「いや、頼んだのは同じ店でだよ」
にこにこと笑いながら牧村に述べる。ダンディなその顔が一気に人懐っこいものになっていた。
「造ってる人もね。同じなんだよ」
「ではどうして味がこんなに」
「こっちの紅茶の淹れ方を変えたんだよ」
「紅茶をか」
「そう、紅茶をね」
そこをまた言うのであった。
「変えたんだよ。そうしたらこうなったんだ」
「紅茶の葉は」
「同じさ」
答えるその顔はやはり笑っていた。
「では水か」
「いや、水も同じだよ」
それもまた同じだというのであった。笑顔はそのままに。
「それもね」
「では一体どうやって」
「工夫だよ」
にこりとしたままの言葉が続いていた。
「淹れ方全体を変えてみたんだよ」
「茶も水もそのままでか」
「勿論容器もね」
それまで同じだという。
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