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第十一話 死神その十五
「だからだ。私は動かない」
「愚かなようだな。思ったよりはな」
 しばてんは死神のその様子を見て声を笑わせてきた。
「それではだ。死ね」
「終わりか」
 牧村はしばてんのその両腕を見つつ呟いた。
「では。次は俺か」
 死神は相変わらず動かない。その手に持っている鎌を動かすこともない。そうしてそのまましばてんの両腕を受けようとする。しかしその時だった。
「私がわかっていないとでも」
「ぬうっ!?」
「思ったか」
 その言葉と共に鎌を一閃させたのだった。下から上に。そうしてそれにより今切り裂いたのは己の右だった。右の虚空を切り裂いたのである。
「そこだな」
「虚空を切っただけではないか」
 牧村は死神の至って落ち着いた顔を見てそれを見抜いた。
「どうやらな」
「その通りだ。見るのだ」
 今両腕が死神を撃つ。ところがだった。
 両腕はそのまま通り過ぎてしまった。死神の身体をすり抜けそのまま煙のように消えてしまったのだった。それだけであった。
「幻影か」
「術だ」
 死神は鎌を正面に戻して静かに述べた。
「しばてんのな。そうだな」
「如何にも」
 ここでまたしばてんの声が聞こえてきた。
「俺は力技だけではないということだ」
「姿を消すことができ幻術も使うことができる」
「ただの猿と思うな」
 こうも言うのだった。
「それはな」
「そして今の攻撃も防いだな」
 死神は今しがた攻撃を浴びせたその右を見ることなく顔を正面にやったまま述べた。
「そうだな」
「ふふふ、如何にも」
 ようやくしばてんが姿を現わしてきた。己の胸の前であの巨大な両腕をクロスさせている。見ればその両腕から血が一条流れ出ていた。
「危ういところだったがな」
「私が動くのを待っていたな」
 死神は身体をそのしばてんに向けた。そうして正面に向き合った態勢になってまた対峙したのだった。
「そしてその瞬間にこそ」
「そうだ。動くその瞬間」
 しばてんは言った。
「その時が最も隙が出来る」
「それをわかってのうえでか」
「そのつもりだったのだがな」
「残念だったな」
 死神の声に不敵なものが宿った。
「それができずに」
「今はな」
「今は?」
「そう、今はだ」
 死神の声には不敵なものがあったが対するしばてんのそれには余裕があった。
「あくまで今はな」
「今度はあるとでもいうのか?」
「動かなくては攻撃はできん」
 しばてんは言った。
「だからだ。違うか?」
「そうだな」
 死神もそれは否定しない。今は動かなくともだ。
「私とてそれは同じだ」
「では。覚悟するのだ」
 しばてんはこう言ってまた姿を消してきた。すうっとそのまま空間の中に消えていく。
「貴様が動いた時が最後だ。動かなくとも」
 しばてんの余裕のある声は続く。
「やがて隙が出来る、その時が最後だ」
「果たしてそうかな?」
 ここでまた死神の声に不敵なものが宿った。
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