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第五十四話 邪炎その九
「それは絶対にだって言えるね」
「間違いか」
「そうだよ。人間は努力して何もかもができるんだよ」
「しかしそうした努力を否定する発言はか」
「間違いだよ。そんなことを言う人間こそね」
「駄目か」
「うん、駄目だよ」
 マスターは少し厳しい顔になって牧村に話す。
「娘達にもそんなことを言う教育はしていないしね」
「そうそう、お父さんそういうところには厳しいのよね」
「凄くね」 
 若奈の妹達もそうだと話す。アイスティーを飲みながら。
「努力を否定することはね」
「絶対にしないし許さないから」
「僕は実際に見てきたんだ」
 マスターの顔は今度は難しいものになっている。牧村に向けている言葉だ。
「そうしたことを言う人をね」
「それで言えるか」
「自分が一番駄目だったよ」
 そうだったというのである。確かにだ。努力を否定する人間は努力をしない。それならばだ。何かを果たせる筈がないのである。
「何もかもがどうしようもない人だったよ」
「そいつは今どうしている」
「さて。どうなったかな」
 まさにどうでもいいといった感じの返答だった。
「他人が仕事をしていても呆けているような人だったから」
「ぼうっとして何もしなかったのか」
「うん、全然ね。それで言われたら」
「逆に怒ったか」
「そういう人だったからね」
 そうした人間がどうなるかもだ。まさに自明の理であった。
「皆最後には何も言わなくなったし」
「言わなくなったか」
「そして最後はね」
 末路についての話になった。
「とんでもないことをして。終わったよ」
「終わったか」
「今はどうしているやら」
 項垂れる様な顔でだ。腕を組んでの言葉だった。
「もうわからないんだよ」
「わからないって」
「どうなったのかもなの」
 娘達も父であるマスターの言葉に唖然となる。
「それじゃあ死んでるかも知れないのね」
「その可能性もあるの」
「そうなっていてもおかしくはないなあ」
 マスターはぼやく様な声で娘達に答えた。
「冗談抜きでとんでもない人間だったからね」
「とんでもない馬鹿だな」
 牧村は話を聞いてこう解釈した。
「つまりは。そうだな」
「そうだよ。そうなるよ」 
 まさにその通りだというのであった。
「残念な話だけれどね」
「愚かさ故に滅んだか」
「人の話は全然聞かないしことの善悪もつかないし」
 そうした意味での愚かだというのである。愚かにも色々な種類がある。だがその種類の愚かさはだ。まさに最悪のものであった。
「それでだったんだよ」
「そんなのじゃあね」
「破滅するわよね」
「っていうか破滅しない方がおかしいね」
「そうよね」
 こう話す娘達だった。
「ちょっとねえ」
「何ていうか」
「そんなのじゃね」
「とてもね」
 娘達にもわかることだった。そしてだ。
 彼女達はだ。こんなことも話した。
「そんな人間にならないようにしないとね」
「なったら終わりよね」
「もうね。人間としてね」
「そうね」
 自分達への戒めとしたのである。固く誓うのだった。 
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