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第一話 刻限その一
                    髑髏天使
                  第一話  刻限
 何気ない日常だった。この日も普段と変わりがない。
 日本、いや世界でも屈指のマンモス大学である八条大学。様々な学部が内部に存在し幼稚園から高校までキャンバス内に置いている。キャンバスもまた広大であり中を車やバスが行き来している。その中に今一台のサイドカーが横行していた。
「おい、あのサイドカー」
「ああ、かなり凄いのみたいだな」
 バイクに興味のある学生達がそのサイドカーを見てひそひそと言い合っている。見ればそのサイドカーは黒地にシルバーの直線の模様を入れ曲線と直線が見事な調和で以って合わさった実に勇壮なデザインのものであった。しかもかなりの大型でもあった。
「七五〇はあるよな」
「一〇〇〇じゃないのか?」
 エンジンについても推測が為される。サイドカーは緑の木々が陰を作っている白い建物と青いアスファルトのキャンバス内を進んでいる。徐行しているがそれでもスピードは出しているように見えるのはその巨体故であろうか。
「いいのに乗ってるよ、全く」
「誰なんだ、あれは」
 今度は乗っている人間についての話になった。バイクに乗っていれば自然とそれを乗りこなしている人間についても話が及ぶのは当然の流れであった。彼等もそれに従ったのだ。
「あんなのに乗ってたら目立つんだけれどな」
「まあ広い大学だしな」
 自分達が通っている大学についても述べられる。
「そうおいそれとはわからないが」
「けれどあそこまでのサイドカーは」
「ないな」
 これははっきりと言われたのだった。断言だった。
「うちの学校でもな」
「しかしあれだけのを乗ってるなんてな」
「一体誰なんだろうな」
 彼等の話の内容なぞ知る由もなくサイドカーはキャンバスの中を進む。そうしてやがて大学の真ん中にある巨大な建物の前に来た。見ればそこは図書館であった。
 サイドカーはその前で止まった。巨体がようやくその動きを止めたといった感じであった。乗っていた者も降りる。水色と青の薄い生地のタートンチェックの上着にライトブルーのジーンズといったいでたちだ。靴は普通の白いジーンズでヘルメットは黒だ。
 そのヘルメットを外すとそこから出て来たのは長めの黒髪を持つ細面の顔の青年だった。目は細めでクールな印象を与える。唇は薄く引き締まっている。頬は痩せていて肌はよく日焼けしている。乗っているサイドカーに合っている実に精悍な感じの青年であった。
 その彼は図書館には向かわずにその横にある白い建物に向かった。そこもまた中々の大きさを持つ建物であり三階建てだった。高校の校舎を思わせるその建物に入り口に入ると一人の若い女と擦れ違った。
「あら、牧村君」
「ああ、あんたか」
 彼は女に声をかけられてすぐに応えた。
「今日もあのサイドカーで登校したの?」
「雨の日以外はな」
 また女に応えた。態度はかなり素っ気無く表情も乏しいものだ。
「いつもだと思うがな」
「そうね。じゃあ今日は誰を隣に乗せたの?」
「別に誰も」
 やはり素っ気無い返事だ。
「妹を家に送る時に乗せるだけだ」
「今日も妹さんだけなのね」
「別に誰が乗ってもいい」
 それについてはあまりこだわっていないようである。言葉にそうした感情が出ていた。
「空いている時ならな」
「じゃあ今から私が乗っていいかしら」
「悪いがそれは無理だな」
 しかし今度はこう応えたのだった。素っ気無さはそのままに。
「残念だな」
「あら、嫌いなのかしら私が」
「違う。用事がある」
 それは否定してこう述べたのだった。
「大和田教授はいるか?」
「大和田教授!?ああ」
 女はその名前を言われて己の記憶からふとある名前を思い出したのだった。そしてそのうえでその名前を口に出すのであった。
「悪魔博士ね」
「そうだ。いるか?」
「相変わらずあの研究室に篭ってるわよ」
 くすりと笑って男に答えたのだった。
「何でも今度はウィーンの図書館から面白い本を手に入れたんだって」
「またか」
「そう、また」
 言葉が返る。
「この前はロンドンで今度はウィーンだけれどね」
「英語にドイツ語か」
「そうだとは限らないのがあの博士だけれどね」
 言葉が笑っている。見れば顔もそれに同じになっている。
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