「マッチ、マッチは要りませんか?」
雪がちらつく寒い夜空。
幼い少女はマッチを売っていた。
一本、銅貨一枚のマッチを。
そのマッチを買うと。
炎が燃え尽きる間。
少女のスカートの中に入り込んで。
下腹部を見ることが出来る。
それ以上もそれ以下も無いから銅貨一枚。
コイン一枚。
安いか安くないかはあなたのお心のままに。
孤児の少女は貧乏で。
馬小屋を借りて、家畜と共に寝起きをしている。
たいした仕事が出来る技量は無いし。
顔もそれほど綺麗じゃないから。
暗闇で体の一部を見せることしか出来ない。
恥じらいはある。
だけれど。
お腹は空く。
「見せてるだけだから、いいよね」
自分をいつも納得させていた。
処女だけは守り通したかった。
それを自分のプライドにしていた。
クリスマスは嫌い。
その日だけは、どんな人でも。
「クリスマスだから」
「聖夜だから」
「キリストの誕生日だから」
とイイ人になろうとする。
イイ人になると誰も少女に見向きはしないし。
不浄だといって石を投げつける。
クリスマスが近くなるといつもお腹をすかせていた。
だから。
神様は嫌いだった。
大きな石を見つめては。
それをパンだと思って、噛んだりなめたり。
味は無い。
町の権力者であるヘロデは。
『町のイメージの清浄化』とスローガンを立て。
浮浪者狩りを始めた。
議会も承認したし。
町のイイ人たちも喜んでそれを手伝った。
集められた浮浪者たちはいったい何処へいくのだろう。
ヘロデの手は少女にまで及んだ。
クリスマス・イブ。
室内と室外の過酷な温度差の最中。
少女は走った。
転んでは走り、走っては転び。
靴も脱げ、はだしになって。
ヘロデの魔の手から逃れようとした。
町の灯火も届かない路地裏。
吐く息の白さも解らない暗闇。
迷い込んだ少女はマッチに手をかけた。
かじかむ手で何度も何度も擦り。ようやく一本。
温かい。
その光の中ふと横を見ると。
彼女と同世代ぐらいの少年が倒れていた。
起き上がることは無いだろう。
もうすぐ私もこうなるんだ。
誰のせい? 町の人のせい? ヘロデのせい? 神様のせい?
ううん。
ちがう。
何時だって死にそうな目に遭って来た。
何処だって死ねた。
だからそれが。
早いか遅いか、それだけ。
私の生きた数年は、どれだけ長いんだろう?
知りたい。
少女は歩き始めた。
マッチを擦ってはかがり火に。
はだしの足は皮がめくれ、血が出ている。
でももう、寒さも痛みも感じない。
体は何かに貼り付けられたように動かないけれど。
それでも歩き続けた。
マッチが残り二本となった所で。
丘の上の教会へたどり着いた。
神様は嫌いだけど。
もう、疲れちゃった。
かじかむ手で教会の扉を叩く。
若い修行僧が出てきた。
少女は右手でマッチを一本差し出し。
左手で自分の股間を指差した。
それがいつものお客さんへの挨拶。
朦朧とした意識の中。
不意に出た行動だった。
若い修行僧は何も言わず。
マッチを持った少女の手を掴んだ。
ヒラリ。
火もつけられなかったマッチは雪の中へ。
少女にはそれが自分のように思えた。
修行僧は少女を教会に招きいれ。
毛布で体を覆い、パンとワインを差し出した。
優しくされた事が無かった少女は。
自分が持っている全財産を修行僧へ。
十三枚のニッケル硬貨。
それを修行僧は銀貨のように丁重に預かった。
修行僧は少女を講堂へと誘った。
薄闇の中、司祭の説教に耳を傾ける信者。
でも。
信者の全てが少女と顔見知りだった。
誰もが少女のスカートの中に入ったことがある人ばかり。
あの司祭でさえ!
司祭の説教が聞える。
「キリストは不浄な性行為からでは無く。処女降誕から生まれた」
本当?
私でも生むことが出来るの?
こんな私でも?
「栄光の星に導かれた学者たちが、着いた所にイエスが誕生していた。学者たちは拝みひれ伏し、宝をささげた。そして名もない無学な羊飼いたちも拝して喜びに満たされた」
私の股間はいろんな人たちに見られてる。
学者だけじゃない。
司祭も議員も弁護士も金持ちも。
偉そうにしている人たちはみんな見ている。
なんなら大統領だって見てるわ!
街の名も無き人々は全員見てるわよ!
名も無い……名も無い……名も無い……。
あたしには名前が無い!
「イエスの降誕がすべての人々に与えられる喜びでの訪れであった」
少女は歩き出した。
まっすぐ、教会に掲げられたキリスト像に向って。
薄汚い少女の進行を誰も止めようとはしない。
下を向き必死に祈っている。
もし見てしまったら、自分の罪を認めることとなる。
そんな事でも思っているのだろう。
司祭も説教をやめ、うつむき逃げ出した。
一見して。
教会の中、全ての人々が少女のために祈っているように見えた。
キリスト像の前に立った少女。
自分のスカートを捲くり上げ。
イエス・キリストの前で股間をさらけ出した。
「私はあなたの子を生みます。その子は、奇跡なんて二度と起こらないぐらいの平和な世界を、きっと……」
最後の一本を擦り。
その明かりをそのまま、自分の下腹部へ持っていった。
ちゃんと、見てね。
マッチの明かりが消えると同時に。
あの若い修行僧によって少女は取り押さえられた。
若い修行僧と暮らすこととなった少女。
少女は妊娠をしていた。
それは処女の子供なのか、それとも非処女の子なのか誰にもわからない。
教会は少女が妊娠していることを知り、修行僧を破門した。
町を出た少女と男。
辛い旅だけれど、今までより寒くは無かった。
そして一年後のクリスマス。
少女は子供を出産した。
その後、彼らがどうなったか。
それは解らない。
でも考えてみてください。
奇跡なんて、起こった事は無いでしょう?
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