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箱 -HAKO-

作者:丸尾累児
 あれは、高2のことだったと思います。
 ちょうどゴールデンウィークを過ぎた後で、休み気分が抜けきっていなかったんですよね。
 ボクとAは、中学時代からの親友でしょっちゅう馬鹿なことばかりやってました。高校に入ってからも、いろんなことやりましたよ。そんな中で、あるときふざけ半分でジャージの上着をぶん回しながら、廊下を駆け回っていたんです。


 当然、そんなことをすれば、誰かに当たってしまう。
 そのときは気にもとめなかったのですが、すぐに1階から上がってきた先生にぶつけてしまって、事の重大さに気付かされたんです。



 もちろん、先生は火を噴いたように怒ってました。
 Aもしょんぼりとした様子で、僕らは反省と称して社会科資料室の掃除をさせられることになったんです。


 そりゃあイヤでしたよ。


 こんなことで大量の段ボール箱が並べられた部屋の掃除なんてしたくもありません。でも、ぶつけてしまった先生は学校でも特に厳しい先生だったし。ここでバックれたら、次はなにをされるかわかったもんじゃない。
 だから、ボクたちは嫌々ながら資料室の掃除をすることにしました。

 ところが、掃除を始めて早々。

 休み気分が抜け切れていない僕たちが真面目に掃除をするはずがなく、Aが見つけた古い時代のオモチャらしきモノで遊び始めました。まあ、こんな姿を先生に見つかったら、怒られていたでしょうね。
 だけど、学生ってそういうもんじゃないですか。
 それだけに、ボクとAは人1人分ぐらいしか通れない棚の隙間でまるで小学生のように夢中で遊びました。




 そんなときです。




 ボクが後ろの壁に身体をぶつけた途端、上からポロッとなにかが落ちてきました。「なにかな」って思って拾ってみると、それは小さな木箱だったんです。

 こう……なんて言えばいいんですかね?

 ファンタジーゲームなんかにありそうな宝箱みたいな感じのヤツですよ。ただ、サイズは箱ティッシュよりちっちゃいぐらいの大きさでしたね。
 もちろん、それをパカッと開けました。
 でも、中身は入ってませんでした。当然、興味津々に開いたボクたちは、残念そうにそれを元に戻すことにしたんです。
 ところが、元に戻そうと落ちてきた方を見てビックリ。なにがあったって、そこは神棚だったんですよ。


 それで「おかしいな」と思ったんです。


 だって、フツーは神棚に木箱なんて置かないじゃないですか? しかも、ボクの背後は壁でしかありませんし。だから、誰かがイタズラで置いたのかなと思って話し合ったんです。


「なんだろうね、この木箱」

「誰かが勝手に置いたんじゃね?」


 なんて、会話を2人でしました。
 それから、木箱を整理棚に置くと、ボクたちは適当に掃除を済ませて帰ることにしました。



 ところが、掃除が終わって帰ろうとしたとき。いつのまにか棚の上に置いてあった木箱がなくなってたんです。
 とっさにAに問い合せてみると、


「えっ? 知らねえよ、オマエが動かしたんじゃないの」


 っていう答えが返ってきました。
 そのときは何の疑問も感じなかったのですが、扉を閉めて出ようとした瞬間。


「A君、どこー?」


 フッと背後からそんな声が聞こえてきたんです……。
 それで、ボクもAも中に誰かいるのかなぁ~?と思って振り返ったんですよ。遊んでいたとはいえ、ずっと中にいたボクたち以外に誰かいるはずがないんです。
 だから、ボクたちはそのまま空耳かと思って出てったんです。



 ――で、これは職員室で先生から聞いた話なんですけど。



 あの落ちてきた木箱は、何年も前から神棚のところにずっと置きっ放しになってたらしいんです。
 当然、神事に関わるような道具ってワケでもない。
 先生も捨てるつもりだったみたいで、思いついたようにその場で「捨てておいて」と言ってきたぐらいです。まあ、それに対しては帰りたい気持ちで一杯だったんで、Aとじゃんけんして捨てに行くことにしましたけど。
 でも、そのじゃんけんにも負けちゃって、ボクは再び社会科資料室へ行くことになりました。


 それから、ボクは社会科資料室へと赴きました。
 さっきの木箱を探して室内を見回すと、いつのまにか神棚の上に戻っていました。もちろん、戻した記憶がいっさいことに疑問を抱きましたよ。
 でも、そのときはあまり深くは考えていなかったんです。


 近くにあった脚立に乗り、神棚の上の木箱を手に取る。そうやって、木箱を手にしたボクは脚立を元に戻して、中庭の焼却炉を目指すことにしました。




 ――でね、何事もなくカギを閉めた途端、また聞こえたんです。


「A君、どこにいるの~?」


 こんなこと、異常じゃないですか。
 さすがに空耳じゃないと思って、扉を開けて恐る恐る中に向かって話しかけてみたんです。


「誰かいるの~?」


 でも、いっさい返事はありませんでした。
 ここまで来ると、「不気味だなぁ」とか「怖いなぁ」って感情がわき上がるのも当然でしょ? だから、ボクは急いで焼却炉に木箱を捨てて家に帰ることにしたんです。



 次の日。
 Aがしばらく学校を休むことをホームルームで告げられました。「どうしたんだろ」と心配していると、終了後に先生に話しかけられたんです。


「おい、S野。昨日の木箱、捨てて帰らなかったな?」


 まさかの発言。
 ボクは驚いて、とっさに反論しました。


「ええぇ~っ、捨てましたよぉ-!」


 間違いなく捨てた。
 その確証があったからこそ発した言葉でしたが、先生はまったく信用してくれませんでした。納得がいきませんでしたが、ボクはもう一度社会科資料室へと行くことにしました。





 すると、あったんです。





 あのゲームに出てきそうな宝箱のような外見をした箱が、戻した覚えのない木箱が、平然と神棚の上に置かれていたんです。
 それを見て、ボクは鳥肌が立つ思いがしました。

 だって、間違いなく捨てたんですよ?

 本人がこうも断言しているモノが、独りでに戻ってくるはずがないじゃないですか。それで、ホントに怖くなったんです。


(とにかく、もう一度捨ててこよう……)


 そう思ったボクは、神棚の木箱を再び焼却炉へ捨てに行くことにしました。
 それから、しばらくは資料室には行かないようにしたんですが、たまたま授業で使う資料を取りに行かなきゃならなくなったんですよ。


 しかも、そのときの日直はボク。


 こんな最悪なことはないと思いました。
 あそこには、捨てたはずの戻ってくる木箱があるし、誰もいないのに奇妙な声も聞こえてくる。
 もうこれだけで不気味じゃないですか。クラスの友人にワケを言って、取りに行って貰おうとしましたが、みんな嫌がって代わってはくれません。

 仕方なく、ボクは渋々資料室へ行きました。
 カギを開けてガラガラと入室した直後――ボクの目の前には、整理棚に押しつぶされたような狭っ苦しい空間が広がっていました。
 その光景を見ただけでも、怖くて仕方がありません。
 もはや、ボクにとってこの部屋に来ることは、幽霊屋敷に1人で入るのと同意義だったのです。



 ボクは、恐る恐る中へと踏み込みました。
 頼まれた資料は、比較的わかりやすい場所に保管されていたので、すぐに見つけることができました。


「よかった。あった……」


 そう安堵の言葉を漏らしたぐらいです。
 ボクの心は、あの木箱のせいで震え上がっていました。だから、すぐにでも退出しようと資料を持って部屋を出ることにしたのです。


 ところが、部屋の前に来たところで、足元で「パタッ」というなにかが落ちた音がしました。その正体にはうすうす気付いてはいましたが、違うかもしれないという期待から確かめざるえなかったのです。



 ボクは、顔をゆっくりと足元の方に向けました。



 すると、そこには捨てたはずのあの木箱があったのです。
 何事もなかったかのように、あたかもそこにあったかのように、木箱はボクに拾ってくれと言わんばかりに落ちていました。


「うわあああぁ~っ!!」


 ボクは恐怖のあまり、その場で大声を上げてしまいました。
 そして、木箱を拾い上げると奥の方へ投げつけようとしました――が、とっさに感じた指先の痛みに投げることができませんでした。
 すぐさま原因を確かめると、驚いたことに箱が口を開けてボクの人差し指に噛み付いていたのです。


「うわぁぁあああっ、離せぇ~!」


 完全に狼狽しきったボクは必死の思いで、腕を振って落とそうとしました。
 その甲斐あって、食らいついていた箱は地面にポトリとふるい落ちたのです。そのとき、ボクの指はすでに血まみれでした。


 あまつさえ、恐怖に震え上がっているというのに……。


 ボクは、箱を一瞥すると脱兎の如く逃げだそうとしました。けれども、あの「A君どこ~?」という声に足を止めざるえなかったのです。
 すぐさま振り返って、声の主を確かめました。
 言うまでもありません――。
 そう。いままであの声を発していたのは、『箱そのもの』だったのです。



 ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ――ッ!



 大きく口を開けて、奇声にも似た笑い声を発するソレは畏怖の対象以外何者でもありませんでした。
 ボクは、怖ろしさのあまり腰を抜かして勢いよく倒れ込みました。


「ねえ、A君どこ行っちゃったのぉー? A君、どこー?」


 そんなボクを尻目に、モザイクがかったような声は楽しそうにAを探しているようでした。しかも、その様はかくれんぼをしているかのよう。


「ねえ、どこー? A君、どこに行っちゃったのー?」


 箱は、そうやってAの名前を何度も呼んで、目の前のボクを嘲笑い続けたのです。しかし、いまのボクに応答する余裕などありません。
 とにかく、逃げなくちゃ。
 その思いでいっぱいでしたし、木箱が笑うなどという非現実的なことから目を背けたかったからです。
 すぐさま気を張って、どうにか起き上がって逃げようとしました。



 その後、自分でどうしたのかはわかりません。
 気が付いたときには、教室に戻っていて全員の衆目を集めていたのです。もちろん、「どうしたの?」と聞かれても、怯えて答えることができませんでした。
 ボクは、身体が落ち着いてから、友達にこの話を話しました。けれども、誰1人と信じてくれはしません。


 そんな中で、誰かが不意に言ったんです。


「そういや、最近Aって来てないよね……?」


 ボクはその言葉を聞いて、なぜ箱がAを探し続けていたのかに気付かされました。なぜなら、彼の言うようにAはここ最近休んでいたのです。




 それから、しばらくしてもAは学校に来ませんでした。




 後日――。
 Aは学校の焼却炉の中から白骨死体で発見されました。
 話では、Aは最初に箱を発見して捨てた日から、1ヶ月経った日に両親の無理心中に巻き込まれたそうです。でも、怖くなって死にきれなかったオジさんがこっそり学校に忍び込んで、おばさんとAを焼却していたそうな。
 当然、そのことは近所の人に目撃されて警察沙汰になりました。
 神棚にあった木箱の方はというと、いつのまにかなくなっていました。3回もボクが捨てに行っても、元の位置に勝手に戻っていた箱だったのに。



 ボクはそのことがいまでも怖くてたまりません。




 それが、ボクが体験した恐怖の出来事の全容です……。





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