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我らが太古の星シリーズ

軍事行動

作者:尚文産商堂
量子コンピューターとして生まれてきたからには、世界中でどこで狙われても不思議ではないと覚悟していた。
だから、そのための改造も受けた。
つい昨年のことだがかなり昔のような気がする。
頭の中に、予備の量子コンピューターを導入することによって、私が私でなくなるのを防ぐのだ。
本体が危急の時には、一時的に接続を断つこともできる。
量子移動は、すべて私以外の人たちに任せているし、私ひとりがいなくなったとしてもネットワーク自体に被害はない。

そのようなことをしてから起こったということは、すべては仕組まれていたのかもしれない。
刑務所惑星として知られている9ZOL惑星から脱獄された時、私はその陣容の説明を見聞きして覚悟を決めた。

彼らは、終身刑として強制労働をしていた。
私がつかんだ情報によれば、最初の記録は午前4時、リーダーが自殺未遂をしている。
それを見た見回りの刑務官が鉄格子を開けると、素早く首筋へ手刀を入れ、気を失わさせた上で鍵と銃を奪取。
刑務官を牢の中に放り出し、施錠して外に出れないようにしたうえで、他の仲間を助けに向かった。
その仲間とは、プログラム技師、コンピューターの関連、軍事部門の出身者、それに爆発物のプロもいた。
量子移動用の装置を使い、別の星に向かったのまでは分かっている。
だが、それ以上のことは、誰にも把握できなかった。

死傷者0人だが、史上初めて、刑務所惑星から脱獄した人たちであると、記録されることになった。
公安はこれを非常事態と認定し、議会へ"非常事態措置法に基づく緊急事態宣言布告に関する議案書"を提出。
この法律に従って、全域に戒厳令など必要な措置を講じ、脱獄犯を捕まえるという作戦らしい。
だが、私が計算した結果は、逮捕どころか混乱の極地へたたきこむというものだった。
議会は私が提出した結果に従って審議を開始。
結論は、否決だった。

「こんなにSPは必要ではないと思うのですが」
私が廊下を見渡すと、30mごとに私服警備員が立っている。
ここまでしなくてもいいと思うほどだ。
研究室の前には、常に3人の警備兵が訪問者を威嚇している。
警備兵の手には、マシンガンが握られており、常に安全装置は外されていた。
「私が狙われているという確証はないでしょう。なぜ、ここまで重々しい警備が必要なのですか」
「今回脱獄した、マッカリー・ウィルコップは、殺人46件、強盗32件、放火又は放火未遂47件の凶悪犯です。そのものをリーダーとして、犯罪グループを構成した模様です」
「それと私とは……」
手をあげて静止される。
「そのグループは、軍事・情報系に突出した能力を持っています。脱獄したものたちが全員一つのグループに属していると仮定した場合ですが」
「情報系といえば私ということですね」
「そうです。Teroさんは、この世界のすべての情報をつかさどっています。情報省大臣の任へ就かれるという打診も、歴代の内閣からされているでしょう。なぜならないのですか」
私は、そのことについて何回か答えたことがあったので、どのように答えたらいいのか、すでに把握していた。
「ひとことでいえば、私自身が機密だからですよ。これ以上機密情報を持ったら、逆に狙われやすくなる。それに、私は内閣で色々しているよりも、このようにさまざまな研究をした方が楽しいのでね」
にこっと私が笑いかけると、一瞬微妙な笑みを浮かべたが、普通の表情に戻ってそのまま部屋から出て行った。
部屋の中には、私ひとりだけになった。
「ふぅー……」
おもむろに、ため息が出る。
それからしばらくの間、何もせずに空を見ていた。
「青いな……」
何も考えず、ただ、ボーッとみていた。
雲がゆっくりと流れていくのがはっきりと見える。
「こーやって、のんびり過ごすのもいいかも、ね」
気づけば、30分ほどしていたらしい。
いつの間にかマスターが私のすぐ横に座っていた。
「いつ来たんですか」
「んー、結構前だよ」
同じように、空を眺めて時間を潰していたようだ。
ふと、マスターの横顔を眺めると、あの人によく似ていた。
「……4つ目の奇跡…」
「ん?どうしたの?」
私は、いつの間にかあの時のことを思い出していた。
「4つ目の奇跡、今起こっていること……」
「なにそれ。どんな奇跡なの?」
マスターは、色々と聞いてくる。
「昔、私を作ってくださった博士が言っていたことです。人間の人生には4つの奇跡があるって。1つ目は生まれたこと、2つ目は出会えたこと、3つ目は死ぬこと」
指折り数えて、4つ目を言おうとした時、なぜか自然にほほを伝うしずくがあった。
「4つ目、その人とまた会うこと」
マスターが私が言いたかったことを代わりに言った。
「どうして、分かったんですか」
涙をぬぐいながら、聞いてみる。
「ずいぶん昔、おばあちゃんが話してくれたことを思い出してね。多分同じものだと思う。私も、結構昔のことだから、忘れちゃったけどね」
「そうだったの……」
その時、偶然机の上に置いていあった、クリアファイルを見ていた。
「この人……」
マスターはファイルを手にとって、中の人たちの写真を見た。
「特A級管理対象団体の反政府団体よ。Phonemeっていう団体なんだけどね」
瞬時に検索をかけて、その団体を記憶させておく。
「音素っていう意味ね。その言語における音声の最小単位らしい……」
「この団体は、数十年前に組織されて、最初は普通のデモとかだったんだけど、次第に暴動のような体裁をして来て、今では全銀河のうち過半数の惑星の裏社会を仕切っているとも言われているわ。それほどの人たちが、なんで捕まるようなへまを……」
マスターは、何か考えているようだが、結局途中でやめたみたいだ。
「それにね、この人たちはアンドロイド化の手術を受けてるの。正確には実験ね」
「成功したの…?」
「マッカリーだけね。他の人たちは、何かしらの不具合を起こして死んでしまった」
椅子をどこからともなく持ってきて、テーブルのすぐ横に置いて座る。
「詳しいことは、私もよく知らない。でもわかっていることは、彼らは目標のためにはどんな犠牲を払おうともかまわない。それが殺人だとしてもね」
私を狙っている相手の正体がわかっただけでも、十分だ。
それを基にして、対策を立てることができる。
「ありがとう。後でそのことについて考えるよ」
私はそういうと、コーヒーを入れるために立ち上がった。

とたん、銃声が外から聞こえてくる。
私は、反射的に研究室の扉に鍵をして、椅子をその前に置いた。
「こっち」
秘密の通路を通って、外へ逃げようとした。
その時、扉に向かって、ものすごい爆音が発射された。
それがロケットランチャーだと気づく前に、マスターによって、私は秘密の通路を突き落とされていた。
「こいつか」
閉ざされた扉の向こうから、どすの利いた声が聞こえてくる。
「ああ、間違いない、Teroのマスターだ」
鎖を巻きつける音が聞こえてくる。
扉を無理やり開けようとするが、開かない。
向こう側から押さえられているようだ。
「マスターーーー!!」
乱暴にされる音が聞こえてきて、扉を開けようとする。
だが、急に動き過ぎた影響もあり私の力も尽きてきて、その場でへたり込むことしかできなかった。

気づいた時には、医務室のベッドの上だった。
真っ白い病室の光が、私の眼の中に飛び込んでくる。
「おはよう」
マスターの夫だ。
一目でわかった。
「マスターは……」
飛び起きようとする私を、やさしく制止する。
「まだ、本調子ではない君を起こすことは忍びないと思ってね、そろそろお暇しようと考えていたころだよ」
「マスターはどうしたんですか」
彼は、新聞を見せた。
1面から5面まで、ずっと今回の誘拐事件の話をしている。
「マスター……」
自然に涙があふれてくる。
「大丈夫、君のマスターは必ず帰ってくるさ」
「どうして…どうしてそんなことがいえるんですか……」
その時の私の姿を見たら、きっと睨みつけていることだろう。
「分かるんだよ、直感っていうやつだな。人間本来の本能みたいなものだよ」
「………」
何も言い返すことができない、そんな私が嫌になった。

病室で一人になり、天井をずっと見ていた。
「……大丈夫かな」
頭の中では、マスターのことを考えていた。
その時、突然はじけ飛ぶような感覚が、頭の中を駆け巡った。
びっくりして飛び起きると、本体との接続ができなくなっている。
「まさか……」
頭の内部に設置された量子コンピューターにより、通常と同様の行動はできるが、記憶などの主体は、すべて本体の方に保存されている。
向こう側との接続がたたれたということは、それらの記憶にアクセスすることができなくなったということになる。
私は、その直後に考えた。
何をすべきなのかを。

病室の扉をゆっくりとあけ、誰も廊下にいないことを確認してから忍び足で病室を出た。
誰もいないことに、不信感など抱いていなかった。

「……いいんですか、長官」
「ああ、Teroも一人の人間に等しい。何をする気なのかは大体察しがつく」
長官と呼ばれた男は、暗い監視室から私をじっと見ているようだ。
私はその監視室に設置されている防犯カメラの映像をずっと見続けた。
それと並行しながら、病院を出て、本体が置かれている博物館へ急いだ。

本体と分離された以上、本体側に何らかの不調が発生したと考えるのが、最も妥当な線だろうと考えた。
長官と呼ばれた男は、おそらく、警察庁長官のイヴァントーフ・ブルジコフだろう。
彼は私を筆頭とする量子コンピューターへ不正アクセスする全ての人間を検挙するチームの指揮もとっている。
今回私が見張られているのも、そのことがかかわっているのだろう。
「緊急コード入力、"ぽかぽかの陽だまり"」
博物館裏手にある、通常使われない警備室の扉に向かって、私はコードを言った。
「音声認識、コード認識完了。光彩を確認します」
3重ロックは、どこでも必要なものだ。
だから、ここもその3つが設置されている。
望遠レンズみたいなものが私の眼の位置にまで伸びてきて、一回フラッシュがたかれた。
「光彩認識、正常に終了しました。どうぞお入りください」
あわてて中に入る。
扉を内側から再び鍵を閉め、警備室で本体が置かれている金庫室の状況を確認する。
「いたっ……」
画面がかなり乱れていながらも、人たちがいるのは把握できた。
特に、マスターとそれを取り巻く人たちを。
私は急いでその場所へ向かった。

金庫までたどり着くと、金庫の扉を開けなくてはならなかった。
再び、パスワードや生態認証などを行って、扉を開けると、銀色の粉が舞っていた。
「動くなよ」
本体を取り囲むようにして、男たちがいた。
「マスター!」
その中心部分、結界に守られている部分に、マスターが立っていた。
「Tero、逃げて!」
即座に言われても、逃げれるわけがない。
「こいつがどうでもいいんなら、逃げな。だがな、どうでもいいと思わないんなら、こっちにこい」
私は、金属粉末が舞う、金庫室の中へと足を踏み入れた。
彼らはにやりと笑って、私を見ながらライターを見せた。
「いい度胸だな」
「マスターを離して」
「そいつはできない相談だな。周りを見てみろ。その金属の粉末は、アルミニウムと酸化鉄の混合物だ」
それを聞いた途端、血の気が引いて行くのがはっきりとわかった。
「ちょっと待って、そんなことをすれば、あなた達も吹っ飛ぶわよ」
「そんなことは関係ない。さあ、分かったなら早くこっちに来るんだ」
ここまでくれば、もう進むしか道がなかった。

「マスター、大丈夫ですか」
「私なら大丈夫。それより、さっきの話って何?」
「テルミット反応という、強烈な熱を放出する反応です。これで、鉄の溶接などをする場合もあります」
実際には、この状態で火をつけたとたんに反応が進むはずだから、私たちも巻き込まれることは決定だ。
「じゃあ、私たちも……」
マスターの言葉に、一回だけうなづく。
そして、本体に触れながら、彼らに尋ねた。
「それで、私に何をしてほしいの?」
「国家転覆だな、早い話が」
それを聞いた時、再び私の頭の中で、アラームが鳴り響く。
「違法行為です。マスター、連合議会及び連合政府の許可が必要になります」
ひとりでに声が出てくる。
「お前、ここで火をつけてもかまわないのか」
「繰り返します、その行為は違法行為です。Teroのマスター、惑星国家連合議会及び連合政府の許可が必要になります」
「ええから、はよやれ」
仲間と思われる、着物を着た人がマスターに何かを突き付けて言った。
「……非常事態措置法、第519条3項に基づき、マスターが決定してください」
そんな条項は、本当は存在しない。
だが、この場合、この程度のうそなら許されると思った。
これも、マスターを助けるためだと、私自身に言い聞かせていた。
マスターに目くばせをすると、何か合点がいったようでうなづき返す。
「じゃあ、挿すわよ」
私に合図を送ってくる。
本体に、USBが挿されるが、私には一切関係ない。
本体と分離されていてるのが、その原因だ。
だが、無理やり本体とつなぎ、USBに入っていた情報をとりあえず導入し、頭で解析をかける。
どうやら、軍事部門の情報らしい。
国家転覆と大それたことを言っているが、実際に起こしかねない情報を欲している。
「武器保有個所、連合政府の弱点に、量子コンピューターの使用許可コード……」
「そうだ、そのすべての情報を、そのメモリーに保存しろ」
私は、緊急事態の時のために作られた、虚偽情報を流すことに決めた。
その情報をメモリーに移すと、犯人達に渡す。
「これがそれよ。さあ、マスターを解放して!」
「ああ、解放してやるよ」
そう言って、彼らはライターを取りだした。
「まさか…あなた達も死ぬわよ!」
「いいさ、俺らの代わりなんざ、山のようにいるからな。この情報は、うつされた瞬間に転送されることになっている。だから、一向に気にしないさ」
私の記憶は、ここでいったん途切れる。

起きた時は、また病院だった。
「おはよう」
マスターの夫が、座っていた。
「私……」
「まる8年、眠り続けていたんだ。思うように動かないこともあるだろう」
彼はそう言って、読んでいた雑誌をたたんだ。
「ちょっと、看護師を呼ばないとな」
立ち上がり、病室の扉を開けて外で待機していた警備兵に伝える。
「それで、君の調子はどうなんだい」
再び椅子に座って、彼は私に聞いた。
「まあまあ……です。本体との接続も再確立されたようですし」
「君のおかげで、どうにかPhonemeは壊滅した。だが、その残党はいまだに活動を続けている」
「マスターは……」
彼は顔を曇らせた。
「ああ、妻のことか。あの爆発の威力は、タワーの根幹を揺るがすのに十分すぎる爆発力だった。それから、大体察しはついていると思う。君の体も、8割ほど損傷を受けていたんだ」
何かを感じているような感覚が、鋭く私を突き刺す。

「では、これでいったん帰らせてもらうよ」
面会時間のぎりぎりになって、彼は持ってきたと思われるカバンを以て、病室から出た。
彼が帰った後、私は一人きりになった。
看護師もいない、空白の時間が生じたのだが、その間、ずっとマスターのことを考えていた。
「私がいなかったら、きっと笑って生きていられたんだろうな……」
そんなこと考えながら、一日を過ごしていた。

そんなとき、私は頭の中に入ってくる情報を調べていた。
ただ単に暇だからという理由だ。
その中で、軍事部門からのシミュレーションの通達が入っていた。
「……これって」
中を見てみると、それはPhoneme掃討作戦の最終計画所だった。
私が知らないうちに、こうやって侵攻作戦が進んでいたらしい。
そして、その最終作戦地は、この星だった。

外を見てみると、何も動きは見えない。
いつもと変わらない日常があった。
「でも、このどこかで戦争は起こっているんだ……」
私はそのことを強く思った。
マスターを殺した奴ら、そいつらに対して私は復讐したいという心を抱くようになった。

その日の夜、私は病室を堂々と抜け出した。
外の警備兵に対しては、トイレに行くといってごまかした。
「場所は……」
北緯48度78分、東経139度89分の地点だということは分かっている。
その近くにまで行けば、何らかの部隊が散開しているはずである。
そこまで分かっているのだから、私が行けないわけがなかった。
マスターが浮かばれるかどうかは分からない。
だが、しなければならないと、そんな無謀な使命感に燃えていた。

その場所へ行くことは簡単だった。
全ての諜報衛星や監視カメラを操作している私は、私自身が映らないように動かしたのだ。
「ここね…」
すでに、作戦は始まっている。
ここにたどり着くまでの3日で、大きく動いた形跡はない。
だから、私はそのまま司令官のところへ向かった。

「失礼します」
臨時に作られた幕屋にて、今回の作戦の司令官が頭を悩ませていた。
「誰だ……なんで、Teroがこんな所に?」
怪訝な顔をして、私を見る。
「殺されたマスターの仇討です。お願いです、私も一緒に戦わせてください。多少のことならば、私自身で対処できます」
どこかへ電話をかけている彼が色々な書類を置いているテーブルを、何度も殴りつける。
そのたびに、その書類の山は傾いていくが、彼はそれを調節しながら崩れないようにしていた。
ため息をついて、トランシーバーを使い、どこかと連絡を取る。
「一時撤収だ、もうすぐ日も暮れる」
「司令官、ここまで追い詰めたのにですか」
「ああ、それでもだ」
傍らにトランシーバーを置くと、私の方を見つめた。
「いいか、いかに高職に就いていようと、船上では一人の人間だ。生きるか死ぬかの覚悟はできているんだろうな」
「はい」
はっきりと言い切る。
司令官は、それを聞いてどうにか決めたようだ。
立ち上がると、幕屋のすぐ外にいた人に伝える。
「金山副司令官、彼女に軍服を支給してやってくれ。予備の服があっただろう。それと、武器番号4番と16番も」
「武器番号16番は、封印されているもので、大臣の許可が必要になりますが……」
「緊急の場合は、現場の独断で武器の支給および兵士の補充ができたはずだ。法に記載されていることだったはずだが?」
彼ら二人で話をしている時、私は武器番号4番と16番について調べていた。
4番は、片手に入るほどの、通常の拳銃。
鉛の玉を射出する方式の、昔ながらの護身用の武器だ。
だが、16番はそうではない。
無反動砲と呼ばれる種類に分類される、高密度レーザー銃の一種らしい。
現物を見てみないことには、よくわからなかった。

翌日、私は最前線に送られることが決まった。
「Tero、武器4番及び16番を支給……」
武器係の担当者は、女性だった。
「最前線に送られることになってるけど、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です」
自信を持っていった。

最前線では、部隊長がおり、その人の命令は、絶対であった。
「Teroか、よろしく。俺はウイング・トエト少尉だ」
「よろしくお願いします」
握手を交わし、私はこの小隊に入った。

「我々は、右翼より侵入し、建物の中枢部分へ一気に進む。道は、各自決定するように、現在分かっている地図を頭の中に叩き込んでおけ」
トエト少尉が、総勢5名の小隊全員に言った。
「よし、何か質問は?」
誰一人声をあげない。
彼は満足げにうなづくと、トランシーバーを使い、司令官と連絡を取りあっていた。
「はい、トエトです。準備できました。以上です」
言少なめに通信を切る。
傍受されていたことを恐れてのことだろう。
私は、その間に、ボディチェックを行った。
武器4番の拳銃は、右腰のところにホルスターをつるし、その中に入れておく。
反対側には、弾倉を入れるために、別のホルスターもベルトからつるす。
16番のロケットランチャーのように見える私の身長の半分ぐらいの大きさの筒は、背中に背負っておく。
ベルトで固定し自動的に充電を行うようになっている。
胸の方にあるベルトのスイッチを押すと背中から外せるようになっていた。
電源は防弾チョッキと一体化されていて、そこから取ることになる。
数分間、かなり緊張の瞬間が過ぎて行った。

「オオカミは、いつ吠える?」
突然、トランシーバーから声が聞こえてくる。
作戦決行の合図だ。
「月が出てきたら、自然に一鳴きするさ」
トエト少尉がそれにこたえる。
「よし、初期配置につけ」
少尉が舞台全員に向かって言う。
静かに行軍をはじめて、3分もしないうちに建物の窓枠のすぐそばにいた。
「他チームも配置につくのを待ってから、作戦を決行する」
だれも言葉を発しなかったが、理解は十分にできた。

1分後、再びトランシーバーから声が聞こえてきた。
「オオカミの遠吠えが聞こえた」
「突入!」
窓をたたき割るのは、手榴弾を使う。
防弾フィルムや窓枠ごと吹っ飛ばすのだ。
続いて、隊長以下部隊全員が入る。
私は、持っている武器の都合上、しんがりを任された。

「ここから、散開だ」
少尉が言ったのは、3つの道に分かれている道だった。
「地図には載ってないものですね」
「そうだ、この時点を以て、地図の記憶は全員消しとけ。適当に別れろ」
そこまで行った時、大きな揺れが私たちを襲った。
「なっ……」
直感的に私は地震だと思い、すぐ近くにいた隊員を抱きかかえるようにして揺れが収まるのを待った。
ズズッと言う嫌な音が聞こえてきたと思うと、私がいた床が沈んだ。
ふわっと体が浮かんだと思うと、すぐ下へと引きずられる。

気づいたら、地下室のようなところにいた。
「あてて……」
どこかに頭をぶつけたらしく、かなりずきずきと痛む。
「う……ん……」
私の上の方から、声が聞こえてきた。
「きゃっ」
あわてている声も聞こえる。
「Teroさん、すいません」
女性の声、この声紋から推定すると、一人しか求まらない。
「太古さんですね」
「そうです…とりあえず、動かないとですね」
卯月太古(きさらぎたいこ)が、私の上に座っていた。
「行きましょうか」
地下道をたどり、どうにか上へ戻ろうと考えた。

あちこちを調べながらいると、部屋がいくつもあることに気づく。
その部屋に人がいる気配はない。
だが、最後に調べた、通路の突き当たりの部屋は違っていた。
「誰かいる」
私は静かに合図した。
卯月は、軽くうなづき銃を構えながらにじり寄る。
私は右腰から4号を取り外し、扉の奥に照準を合わせる。
「3、2、1……」
緊張の一瞬、扉を思いきりあける卯月の肩越しに、構えながら突入した。

「惑星国家連合軍だ!手をあげて投降しなさい!」
如月が私の後ろから踏み込む。
10畳ほどの部屋に、丸型テーブル一つと椅子4脚があり、壁沿いに男が4人こちらに銃口を突き付けていた。
「やだね」
それをきっかけに、私に向かって銃を打ってくる。
ショットガンのようで、かなり震動が伝わってくる。
だが、私には効かなかった。
硬化金属でできた私の新しいからだは、実験室上、数トンの瞬間圧力に耐えることができるそうだ。
ショットガンが音を出すのをやめて、静かになった部屋の中を、一陣の光が通り過ぎる。
「薙ぎ払え」
煙の中で、私は武器16号を背中から取り出していた。
光の筋がなでるように、彼らを半分に切り分ける。
外れたベルトが私に触れるころには、すでに勝負は決していた。
彼らの頭を普通の拳銃で撃ちぬき楽にしてから、部屋を見回す。
「この書類……」
彼らの血で濡れていない書類を慎重に読み進めてみる。
「どうしたの?」
卯月が他にいないことを確認してから、私のところへ来た。
「新しい設計図になってるみたい。どうやら、この建物の基本設計図だよ。問題は、それ以外の書類もあるっていうことで……」
「どんな書類なの」
建物の設計図だと私が見た書類を渡しながら、残りの書類も見てみる。
「やばっ」
一目見ただけで、何か分かった。
「核燃料、爆縮理論、抽出……」
卯月が横から見てきて、目につく単語を片っ端から読み上げる。
「原子爆弾の研究……」
「隊長に連絡しないと、ここは危険すぎる」
私が判断すると、すぐにレシーバーを持ってきてくれた。
「これで。周波数は固定されてるから」
「ありがとう」
卯月からトランシーバーを借り、すぐに連絡を取る。
「隊長!」
「Teroだな、どうなった」
「とりあえず、いま、地階のある部屋の中にいるんですが、どうやら原爆を研究しているようです。危険すぎます!」
「……危険すぎるからといって、今更戻れない。すでに、奥深くにまで来てしまっている」
「どこにいるんですか」
私が聞いた途端、落ちる音がして、発砲音が聞こえてくる。
「隊長、隊長!」
叫んでみても、すでに隊長は返事をしない。
「急ぎましょう」
私たちは、さっき見つけた地図を基に、階段を探した。

地上では、散発的な発砲音が廊下を貫いていた。
「たぶん、こっち」
ほとんど勘で道を選んでいく。
「隊長!」
静かになっている部屋の入り口付近、隊長が左肩を真っ赤にしながら向こう側をうかがっていた。
「よく生きてこれたな」
「いろいろありましたが、それよりも……」
「ああ、この部屋が最後だ」
応急処置の跡が見られる。
「大丈夫ですか」
「ああ、それよりも、原爆の研究をしていたっていうのは本当か」
「机上だけかもしれませんが、そのような書類を見つけました」
その書類は、如月が持っているカバンの中に折りたたまれて入れてある。
もっとも、本部にまで生き残っていれば、もっと詳しく見ることができるだろうが、ここで生き残れるかどうか、自信がなかった。

隊員は全員生き残っているようなので、その点は安心したが、部屋の奥にいる奴らのことが気になった。
「隊長、あの部屋の中、どうなってるんですか」
「さあな。扉を挟んでにらめっこ状態だから、中に入ることができないんだ」
私が見る限り、扉に細工をされている気配はない。
だが、その奥には何かがあるような感じがした。
「……突入する。ここを落とせば、この事務所は陥落する」
「では、私が最初に行きます。何があっても生き残れるでしょうから」
最初の一撃が、生死を左右する戦争で、私は自己よりも隊の他の人の心配をしている。
「……死ぬなよ」
隊長は、それだけ言って銃の照準を扉へと合わせる。
私は、覚悟を決めて扉へ近付いた。

扉を蹴破り、中へ入る。
「クリア!」
入ったばかりの部屋には、誰もいない。
私は続けざまに左の部屋へ飛び込む。
4号を構えつつ、一気に見回す。
さっきの部屋から、入ってくる足音が聞こえてくる。
「右確認!」
隊長が誰かに指示を出している。
私は左の部屋がつきあたりだったうえ、誰もいないことを確認したから4号の引き金から手を離した。
「どうですか」
部屋へ戻ると、隊長が銃をしまっているところだった。
「誰もいない。左右の部屋は、そのまま行き止まりだ」
この部屋も、それ以外につながる部屋がない以上、犯人達はどこかへ消えたと考えるのが妥当だろう。
「……撤退しよう。この研究所は危険すぎる」
私たちは、その隊長の言葉で部屋から出ようとした。
だが、扉を開けたとたん、誰かから撃たれた。
「ちっ、最初にTeroが出てきたんか」
マスターをさらったやつらと同じ服を着ている。
ただ、部分的に焦げているようだ。
「この身体は便利でな、アンドロイド化というのは、体を硬質化させた上に飯もほとんどいらないんなら、言うことなしさ」
持っているのは、単純なショットガンのように見えたが、それだと先ほどの威力は出ないはずだ。
「改造したショットガン程度じゃ、Teroの体は砕けないか」
そう言って、やつは赤色のスイッチを取り出した。
「これが、何のスイッチかわかるか?」
そう言っている間に、16号を取り出す準備を整えた。
同時に、4号を右腰から取り出して、相手の首を狙う。
首の部分は、皮膚がたるみやすく、最も柔らかい場所の一つだった。
だが、弾はかすれどもあたりはしなかった。
「さすが、鉄の体といわれるだけはあるわね」
「何も聞かずに攻撃か……」
ぼそぼそと相談をしてから、スイッチに手をかけた。
「させるか!」
スイッチに向かって、隊長が撃つ。
1発、2発と耳の中に反響する。

「やれ」
誰かが、指令を出す声が聞こえてきた。
最後の手段として、私の体を相手にぶつける。
満身創痍ながらも、生きているスイッチは宙を舞った。
そこからは、ゆっくりと動いたような気がする。
私がタックルした相手から離れたスイッチは、隊長と敵方の一人の取り合いになった。
その競争に勝ったのは、隊長だった。
「スイッチの効力の無力化!」
そう叫び、持っている手ごと銃で撃ちぬいた。
すぐに、卯月が救護へくる。
「終わった…?」
最後の一撃として、相手の目を何度も殴りつけていた私は、周りを見て気付いた。
全ては、終わっていた。
私が実戦した、最初で最後の掃討作戦は、こうして終わった。

研究室へ戻ってきた私だが、何も手につかない。
敵討ちだと信じ、彼らの組織を壊滅させても、マスターが戻ってくるわけはない。
だからこそ、私はこうやって研究室で空を眺めている。
戦いが終わってから、ずっとこうしている。

本体との接続が戻ってから、さまざまなことが自動的に行われていたことを知った。
私がいなくても、本体さえあれば、自律的な行動を伴う必要性はない。
「ちょっと入るよ」
誰かが入ってくる。
「どーぞー」
気のない返事をした、
「久しぶりね、Tero」
声に聞きおぼえがある。
扉へ振り返ると、マスターが立っていた。
思わず、ほほをつねって現実かどうかを確かめる。
「やーねー。本当に忘れちゃったの?」
「マスター……生きてたんですか」
「んー…どう言ったらいいんだろう……」
マスターがかいつまんで説明してくれるたところによると。
8年前、あの爆発に巻き込まれ体の8割が復元不可能と判断され、一時は死亡診断までされた。
だが、現在の蘇生技術は神の域にまで突入していると言わざるを得ない。
敵方は、即死で生き返ることができなかった。
今の技術では、脳さえ吹き飛ばされておらず、復元が可能であればできるらしい。
今まで私の目の前に、現れてこらなかったのは、リハビリがあったためだそうだ。
「それで、これまで来れなかったと……」
「そうなのよ、心配掛けて、ごめんね」
マスターはそう言って、私を抱きしめた。

4つ目の奇跡は、確かに訪れた。
「どうしたの?」
マスターが私の体から離れるとき、自然に涙がこぼれ落ちてきた。
「あれ……」
「4つ目の奇跡、また会えた喜び……」
私の頭を撫でてくれる。
「いつの日にか、私が死ぬ日がやってくる。その時には、本当にそれきりになっちゃうんだ」
若くなった心で、マスターは答える。
「でも、安心して」
涙が止まらない私に、マスターはやさしく声をかける。
「人は2度死ぬ。1度目は肉体的、2度目は精神的に」
「精神的……」
私が分からず繰り返すと、マスターが教えてくれた。
「精神的な死っていうのは、思い出から消えてしまうこと。Teroの記憶容量といっても、無限大じゃないから、いずれは消えてしまう。そうなると誰の記憶からも消えてしまうから、その人は永遠に忘れられる。それが2度目の死」
マスターが言うと、これまでの出会ってきた人たちのことを思い出していた。
最初から、これまで。
何万、何十万人と出会ってきた。
そのすべてを憶えていられるのも、いずれできなくなる。
その時、その人の記憶は消える。
記録が残されていたとしても、その人自身の性格や癖は、実際に会ってみないと分からない。
その記憶が消える……
そのことを考えると、確かに死ぬ時の恐怖というのが出てくる。
「さて、そんな話よりも、法務局の方へ、色々な書類を出さないといけないの」
「ついて行きましょうか」
「お願いできる?」
私は、研究室をそのまま出て、マスターの法的関連の書類の提出を手伝うことにした。

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